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20話〜ルシーン国では〜

〜Sideユエ〜

「どうだ?ツキは、見つかったか?」

父様が心配そうに俺たちに話しかける。今回、俺たちがわざわざ地球に赴いたのは、俺たちならツキの心を変えられるだろう、と思っていたのだろう。ツキがグラマー族と一緒に行動していることはミルキーとウェイの報告でわかっているはずだし。

「……いいえ、残念ながら見つかりませんでした。」

「……そうか、……ルアはどうした?さっきから元気がないようだが。」

姉上は、ルシーン国への帰路、ずっと俯いて話もしなかった。俺もなんて声をかければいいのかわからず、ずっと黙っていた。

「……ううん、ちょっと疲れただけ。ずっとキャンプっていうのも、疲れるわね。」

姉上が『ツキは見つからなかった』という話を合わせてくれない可能性を考えなかったわけではないが、たぶんないだろうと思っていた。それを話せばツキは完全にルシーン国にとって敵と見なさなければならないから。姉上は、ツキを悪者にするのは本望じゃない。

「ルアは部屋で休んでおけ。ユエ、ジェイルとミルキー、ウェイを呼んでくれるか?」

「……わかりました。」

ミルキーとウェイは王国騎士団副団長。今回、地球に逃げ出したヨル王子を見つけ出すために地球によく赴くため、よく父様に呼び出される。ただ、問題はジェイル。ジェイルは、王国騎士団団長。基本は城の重要な箇所を守っており、滅多なことで呼び出されることはない。そんなジェイルを呼び出すとは、何を考えているのか。

「王子!お疲れ様です!」

「お疲れ様。団長と副団長たちはいるかい?」

「はい。お待ち下さい。」

騎士団たちの訓練場所に行き、たまたま近くにいた騎士たちに呼び出してもらう。あまり俺が訓練場所をウロウロしていても緊張させてしまうだろうしね。

「王子。お呼びでしょうか。」

しばらく経って、そっくりな顔をした二人と体格の良い男が現れる。体格の良い男……ジェイルは、狼の耳で漆黒の髪をしていることから、『漆黒の狼』とかいう二つ名で呼ばれたりする。漆黒の髪に映える金色の鋭い瞳は、確かに今にも食べられそうだ。

「呼び出して悪いね。父様が3人を呼んでいて。」

「「承知しました。今すぐ赴きます。」」

まるで最初から示し合わせたかのような、不気味なほど息の合った返事が紡がれる。この二人は会った時からそうだった。経歴を見るにどうやら二人は奴隷としてグラマー族から逃げて来たらしく、どういう経緯でこうなってしまったのかは想像に難くない。俺が想像もできないようなことをされてきたのだろう。

「父様、呼んできました。」

「ご苦労だったな、ユエ。もう下がって良いぞ。」

……さて。本当ならもうさっさと下がって部屋へと戻るところだが。ジェイルが呼び出されたのだ。何かが動くかもしれない。三人で一緒に行動を取られたら、戦うのはかなり難しい。そういう情報を、ツキたちに伝えなければならない。

「父様、俺もここで聞いていていいですか?ジェイルが呼び出されるなんて、ルシーン国の今後に関わるお話なんですよね?少し気になります。」

この玉座で盗み聞きはほぼ不可能だ。警備も手厚いし、建物にかけられている様々な魔法も厳重だ。だったら方法はただ一つ。直接、堂々と聞くしかない。

「……ふむ。良いだろう。次期王であるお前にも聞いてもらった方がいい。」

こうして情報を堂々と聞くことに成功。俺に話が振られることはないだろうし、思考に集中しよう。

「まずミルキー、ウェイ。お前たちから得た情報をまとめよう。」

まず、ヨル王子と一緒に行動しているものは三人。

一人目はホシ。特に何もない、ただの少女。どういうわけか属性が定まらない。

二人目はキラ。定かではないが、城で働いていたものだろう。雷のドームバリアを扱う。

三人目はセイ。ディーア族であり、『あの事件』の当事者だ。氷の剣を扱い、現時点で一番攻撃力を持った、厄介な存在。

ツキは、いないこととなっている。父様も、認めたくないのだろう。

「………セイ……」

「どうした?ジェイル。」

今まで黙って話を聞いていたジェイルが、ポツリと一つの名前を零す。セイ。確か、あの長い銀髪と金の瞳を持った、あの青年だ。

「……いえ、少し、懐かしい名前だったもので。続けて下さい。」

金の瞳が、怪しく光る。なぜだか、あの焚き火の前にいた青年の姿と重なる。あの青年も同じような金の瞳を持った、狼だった。

「うむ。続けるぞ。それでジェイル、お前にも地球へ赴いてほしい。」

やっぱり、その話か。最初はヨル王子一人を倒せばいいものだと思っていたが、どんどん仲間が増え、今ではツキを含めて合計5人。いくら子どもの集まりだとしても、地球で逃げ回られたらなかなか捕まらない。

「承知しました。……ですが、城の護衛はどうなさいますか。騎士団の育成も私が行っておりましたが、引き継ぎなどは。」

「ボロボロのアステール国はもう敵ではない。城に乗り込んで来ることもないだろう。騎士団も、あのヨル王子の首を斬れば後は警察だけで事足りる。その時は、王国騎士団全員に賞金を渡そう。」

……父様は、本当にアステール国を滅ぼす気だ。罪のない人も含めて。石化も、ずっとそのままにしておく気なのだろう。石化した人々を1箇所に集め、領地もルシーン国のものにする。そこまでが、父様の算段だ。

「ミルキーとウェイは続けて地球の探索だ。ジェイルは個人でも、団員を引き連れても良い。そこは任せよう。」

「「「承知しました。」」」

団長と副団長が、声を合わせて王に従う。昔はただただかっこいいとしか思っていなかったけど、今では重みが違う。

(これを、止めなければならないのか……)


☆☆☆☆☆☆


「あ、お兄様から連絡だ。」

ツキのきょうだいに見つかってしまうというハプニングもあったが、無事ユエ様とだけは和解して、宝石の気配を目指すところ数日。早速ツキのところにユエ様から連絡があったらしい。

「……ジェイルが……!?」

「ジェイル?」

誰のことだろうか。また私だけわからないオチかとも思ったが、キラとセイも知らなさそうだったので安心した。

「ジェイル……もしかして、王国騎士団の団長か……?」

「……そう。」

王国騎士団、団長。ゴクッと、息を飲む。副団長と言われていたあの双子でさえあんなに強いのに。団長だったら、どれだけ強いのだろうか。

「……ジェイル……?」

「セイ?どうしたの?」

もしかして、セイの知ってる人だったりするのだろうか。セイはディーア族だし、あり得なくもない。

「……いえ、なんか聞き覚えがあるような気がしただけです。僕はずっとアステール国に住んでいたし、きっと気のせいでしょう。」

「そっか。」

クラスの人と名前が被ったとか。なんかいた気がするし違った気もするしーとなるやつだろう。

「場所はやっぱり地球に出る場所がランダムだからわからないけど……ジェイルはイギリス、ミルキーとウェイは中国のあたりをまわる予定みたい。」

「イギリスは出たばかりだから問題ないとして……中国は少し危険ですね。僕たちが今向かってる方向も中国方向ですから……」

でも当たる確率が高いのは双子の方か。あの二人の方が戦ったこともあるし、対処が多少楽かもしれない。

ぐぅ〜……

「あ。」

私のお腹が鳴ってしまった。確かに昨日はあまり食料が採れなくて足りなかったけど。でもこんな真面目な話してるときに。

「ふふ、そうだ。桃の蜂蜜漬け皆で食べよう。私も小腹が空いちゃったし。」

ということで、デスティニさんのところでもらったインスタントの紅茶を入れ、軽いティータイムとなった。なんだかすごく贅沢な気分だ。家にいた頃は、こんなの保存食じゃんって思っていたのに。

「ふはぁ〜……糖分が美味しい……」

桃の蜂蜜漬け一つ、紅茶を一口飲んで、キラが一息呟く。本当に、染み渡る甘さだ。

「糖分って本当に大事ですよね。昔低血糖になりましたし。」

「あ、あはは……」

なんか反応に困る言葉だ。笑い飛ばしては行けない内容だし、かといって労るのも違う気がする。まあとりあえず、糖分は大事ってことで。ティータイムを終え、私たちはまた歩き出した。


「……ね、ねえ、なんか衰退してってない……?」

あれから数週間移動し、現在はインド。しかしなんだか様子がおかしく、建物はひび割れ、地面にはゴミがいっぱい落ちている。人々もボロボロだし、なんだか少し怖い。

「えっと……ムンバイのダラヴィスラム……つまりスラム……ですね……」

スラム。職のない人たちや親を失った子どもたちが生活している場所。決していい生活をしているとは言えず、餓死で死ぬ人たちは毎日のようにいるらしい。

「でもここが気配近いんですよね?ルシファー様。」

「ああ。このあたりにいるのは間違いないだろう。」

ルシファー様が人間の姿を取り、私たちと一緒に歩く。しかしどうやらこのなんとなくレーザー、はっきり『この人だ!』とはわからないらしく、この辺近いなーのぼんやり感覚しかわからないらしい。本当になんとなくだ。

「あっ!」

急にキラが声をあげたかと思えば、目の前を何かの影が通る。その時に肩がぶつかったようで、尻もちをついて転んでしまった。

「ちょっと!私のバッグ!!」

走り去る少年が手に持っていたのは、マジックバッグ。どうやらキラのバッグみたいだ。

「えっ、大丈夫なの!?魔法の存在バレたりとか……」

マジックバッグはその名の通り魔力が使われている。魔法の存在が地球にバレたらどうなるかなんて、もう身を持って知った。

「いや、魔力がない人には中身は見えないし中身を盗られる心配はないんだけど……バッグごと売られたりしたら面倒だからな……」

キラのバッグを盗んだ少年はすぐに私たちの視界から消え、セイが追いかけたもののすでに姿はなかったそう。なんだか、犯行に慣れていそうな感じだ。

「あの人たち、いい服着てる。」

「子どもしかいないぞ。」

「いい物持っているんじゃ……」

コソコソと、こちらを遠巻きに見ていた人たちが呟く。え、え、なんか、ヤバい?

「まずい、目立ってる。一回人目のないところに!」

確かに服は地球を散策するためデスティニさんが買ってくれた服に着替えていて、まあまあいい服ではある。髪や肌も、ツキの魔法で洗ってある程度綺麗だろう。この惨状の中で目立つのは、頷ける。


「どうする……?」

「とりあえずバッグがないと困るよ。キャンプ道具とかその他貴重品もろもろ入ってるし……」

「とりあえず服をなんとかしないといけないよね……」

かといってせっかく買ってもらった服をわざわざボロボロにするのも気がひける。そもそもどうやっていい感じに年季の入ったボロボロ具合にするのやら。

「確か光属性に『幻覚魔法』があったんだがな……」

「『幻覚魔法』?」

幻覚といえば病気のときやヤバい薬などによく聞くけど。つまりあまりいいイメージはない。

「光の見え方を調節して目には見えない何かを作り出す魔法だ。まあゼロから作るには難しすぎるから大体が元あるものに少し装飾を加える程度の魔法だが……それを使えば服をボロボロに見せる幻覚を作れるかもしれない。ただ、ここには光属性はいないからな……」

なる……ほど?わかったようなわからないような。でも結局どうしよう。光属性が居なくてはどうにも……ん……?

「私!私がやってみる!」

そういえば私全属性使えるんだった!ということを今更思い出し、手を上げる。

「……でも、それ初等部9年生くらいの魔法式と複雑な物理学が必要な魔法だよ?大丈夫?」

「ゔっ……」

正直私の頭はいいとは言えない……と思う。7年生はテストをする暇もなくカエムルから出てしまったが、6年生の成績はずっと50〜60点あたりを彷徨っていたものだ。

「が、頑張る!私しかできないことだもん!」

勉強が必要と聞いて少しうろたえるが、やっと私が役立つ時。このチャンスを逃すわけにはいかない。

「まあ、魔法式なら私習ったから教えるよ。」

「私も!魔法式はギリギリ習ってないけど……お姉様が光属性だから見たことはあるよ。」

「キラ……ツキ……」

なんていいお姉さん。まさかここにきて勉強するとは思わなかったけど、やる気が出てきた。

「でもセイとか賢そうじゃない?生物学の知識エグいし。」

「……いや、僕はほとんど学校に行っていないので、義務教育の勉強についてはさっぱりで……」

「あ、そっか、なんかごめんね」

というわけで女子組は勉強、男子組は食料調達などに収まった。勉強は嫌いだし、成績も良くはないけど皆の為に頑張ろう。拳を握って思いっきり息を吐き、意気込んでみた。

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