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17話〜特訓そのに!〜

う〜ん……なんか……臭い?鉄の匂い……鉄……

「ゔっ……!!」

血の匂いだ。テントの中にまで漂う、血の匂い。あの熊のだろうか。いや、私が寝るときにはそんなに気にならなかった。じゃあ……新しく……?

「セイ!だいじょう、……」

ゴロリと、光のない瞳がこちらを見据える。イノシシの首。やはり普通のイノシシとは所々違うので、魔物なのだろう。いや、それより。周りに散乱した血と離れた首と胴体。そして中心に立つ、血まみれのセイ。

……怖いと、思ってしまった。

「ゔっ、ゔぇ……」

「ホシさん……」

口の中に唾が充満し、酸っぱいなにかが喉の奥から出てくる。一回崩壊すると、もう駄目だった。

「……ホシ……」

先に外に出ていたらしいキラが、私の背中をさすってくれる。

なんで、なんで。キラも平気なのに。こんなの、平気にならないといけないのに。

「……血、洗ってきますね。……ホシさんを、お願いします。」

「……う、うん……」

全部が上手くいかない。泣きたいわけでもないのに、視界が歪んで吐いたものに涙が落ちる。

「もう……っ、ぜんぶへたくそだ……っ、なにも、やくにたててない……っ、」

キラはなにも言わずに、私の背中をさすっている。私が落ち着くまでは、そのまま静かに時間が流れた。とっくに血を洗い流すだけの時間は経っているはずなのに、セイは帰って来なかった。


「……ルシファー様が『一番合わない組み合わせ』って言ってたけどさ、やっぱり私たちは、合わないと思ったよ。」

キラはそう言うけど、それは『私と合わない』ってだけじゃないの?だって、キラとセイが一緒に戦っていても、そんなに違和感を覚えなかった。

「セイとは、最初は違和感なんて覚えなかった。でも、戦っていくにつれて、やりにくいな、って。私は全体攻撃が得意だし、仲間で集まってくれればバリアも楽。でも、セイは前で攻撃するから簡単に全体攻撃も出せないし、すぐに離れちゃうからバリアも間に合わない。」

……そんなこと、考えていたんだ。やっぱり凄い。私は、ついて行くので精一杯だったのに。

「あのね、ホシが何もできなかったの、私たちのせいでもあると思うんだ。」

「……なんで?キラたちはあんなに動いてたのに。」

「だからだよ。私はホシを守ってばかりで、前に行かせようとしなかった。セイも……一人で突っ走ってばかりで、私たちを頼ろうとしない。一人旅が長かったからなんだろうね……」

それを、乗り越えていくのが特訓。ルシファー様は、そう言いたかったのだろうか。

「……難しいね、頼ってもらうのって。」

私がポツリと呟くと、キラも小さく頷いた。しばらくやることがなくてぼーっとしていたら、測ったようにセイが戻ってきた。そろそろ行きましょうか、と言う声とともに、テントを片付ける。歩いている途中、セイは明らかに私たちと距離をとっているのがわかった。セイが怖いわけじゃない。頭ではわかっているのに、その空いた距離を埋めることができなかった。そうして、微妙な空気のまま、中心を目指すのだった。


(あ、また、怪我してる……)

相変わらずセイがバッタバッタと敵を倒して途中、長袖の間から僅かに見えた腕。そこには治りきっていない爪跡や噛み跡が痛々しく残っていた。一回休もう、と労ってあげたいけど、セイに大丈夫と言われたらもう何も言えない。実際、セイがいなければ進むことは難しいだろうから。

ギギ……ぎ……ぎギ……

………?

なんだ、この音。魔法具が壊れた音じゃない。そう、少し弾力のある硬い物を、曲げたときみたいな……

ズシン………

「……何か来ますよ。」

ズシン、ズシン。

何かの足音が近づいてくる。キラがバリアを展開して、攻撃に備えている。

パリーーンッッ!!

勢いよく、私の後ろでバリアが割れる音。びっくりして振り返るころには、目の前に何かの物体があり、視界が真っ暗だった。

「ブルハ・ラール・セイ!!」

瞬間、葉っぱが目の前を舞う。よく見ると葉っぱには霜のような白いモノがついていて、確かにセイが斬ったものだとわかった。

「巨大な木……!?」

目の前にいたのは、巨大な木。でも目は付いているし幹は手のように伸びている。さっきの音は、手のような木の幹を曲げている音だったのだ。

「ブルハ・ラール・キラ!!」

キラが雷魔法を放つが、巨大な木はどこ吹く風。確か、木は電気をあまり通さないんだっけ……?でも、まさかその原理は魔物にまで有効とは。

「じゃあ火なら!ブルハ・ラール・ホシ!!」

やっと役に立つ時が来たと意気込み、炎魔法を放つ。炎魔法はヨルをよく見ていたから、ちょっと得意なんだよね。

「……あり?……え?」

しかし。振り払った幹に炎はあっという間に消えてしまった。私の火力が弱かったのか、巨大な木が強すぎるのか。とりあえず、私の炎魔法も効かなかった。

キィィンッッ

「ギャッ!!」

「ホシ!ボーっとするな!!」

いつの間にか後ろから攻撃があったようで、知らないうちに肩の上に乗るネクが防いでくれた。後ろまで注意することは出来ない……後ろは任せたよ、ネク……とかかっこいいのかカッコ悪いのかわからない台詞を言ってみたり。

「ブルハ・ラール・セイ!!」

私がゴチャゴチャしているうちにセイはどんどん魔物との距離を縮めていく。氷魔法を合わせた見事な剣技で、迫りくる幹を斬ったり凍らせたり。あっという間に魔物の懐に一撃入れてしまった。これは効いているようだが、まだ足りない。すぐに体勢を整えた魔物は、幹でセイを吹っ飛ばしてしまった。

「セイ!!大丈夫!?」

「……っ、はい、大丈夫、です。」

しっかり受け身はとっていたようで、飛ばされた衝撃による怪我は見当たらない。すぐにラルフが近くに寄ってきて、戦闘で受けた傷を治療していた。

……しかし、このままではセイの負担が大きすぎる。キラはなにも出来ずにとりあえず自分の身を守っている状況だし、私は自分の身も守れずまるで役立たず。私の火力がこの数分で急に上がるわけもなく、今のところ有効なのはセイの攻撃だけ。状況が悪すぎる。

セイの攻撃が決定打になるのは変えようがないから、どうにかしてセイの負担を減らす方法を考えなければならない。

…………。

木には、電気は効かない。なら、逆もあるんじゃないか?例えば……

「ブルハ・ラール・ホシ!!」

ザァァ……

上から水をばら撒いて、敵全体を濡らす。水を与えられた木の魔物は少し元気になってしまったけど、大丈夫。

「ホシ!?何やって……」

「キラ!魔法!!セイ!ちょっと下がって!」

その言葉だけで二人は私が何をやろうとしているのかわかったらしく、セイが素早く後ろへ下がる。

「ブルハ・ラール・キラ!!」

バチバチバチッッッッ!!

魔物全体に感電していく。水の効果が出たようだ。そのまま麻痺したように動かなくなるが、しぶとく数本の幹は動いて私たちに迫ってくる。

「ブルハ・ラール・ホシ!!」

そんな幹は、私の風魔法で斬る。なるべく幹がセイの邪魔にならないように。

「ブルハ・ラール・セイ!」

セイが魔物に接近していく。そのままセイが渾身の一撃を撃てれば……と、思ったのに。一つの幹が、セイに近づく。私の微妙な精度の風魔法じゃ、間に合わない。せっかくここまで行ったのに。

「ホシ!!私に惹きつけて!!」

「えっ!?ええっと、ブルハ・ラール・ホシ!!」

残念ながら二人みたいに瞬時に何をしようとしているのか理解することは出来なかったが、なんとか対応は遅れなかった。光の玉を敵の目の前にふよふよ出し、キラに近づける。

「グァァァ!!!」

「ブルハ・ラール・キラ!!」

そこでしっかりバリア。セイを邪魔するものがなくなり、真っすぐに敵に剣が降ろされる。

「グォォォォォ!!!」

一際大きな声を上げたあと、ドシンとその重い胴体を地面に着け、木の魔物は動かなくなってしまった。

「……やっ……た……?」

近くには、あの目印と言っていた背の高い木があるし、ボス的な魔物も倒した。終わった……のか……?

「おめでとう。だいぶ手こずったようだが、クリアだ。」

シュッとルシファー様が出てきて、後ろからヨルとツキ。どうやら、本当に終わったようだ。

「終わった〜〜!!」

やっと一息ついて、その場に尻もちをつく。本当に疲れた。

「……あ!セイ、怪我してる!こっち来て!」

「……え?ああ、このくらいならラルフで……」

「はやく!」

セイはツキの真剣な表情を見て諦めたらしく、大人しく治療を受けていた。その間に、私はヨルに向こうの状況を聞いてみる。

「ヨル、そっちはどうだった?」

「……ん……まあ、なかなか大変だった……けど……」

ヨル、目が泳いでる。かなり大変だったよう。まあ、こっちも同じようなもんだけどね。

「でもそっちは二人だし、私たちより大変そうだよね。」

「まあ……二人とか以前に、俺がかなりやらかしてたんだけど……」

「え!?ヨルが!?」

あの、魔力が強いヨルが!?やらかしてた!?今までの旅で、何度も助けられたくらい魔法もできる、ヨルが!?

「……ここは、森だからな……」

「ん?あ、あぁ〜………」

ヨルは炎属性。つまり。

……まあ、そういうことだ。


〜Sideヨル〜

「ここからだ。じゃあ私は西側の方を案内する。」

そう言ってルシファー様は消えて行った。急に放り出されたので、しばらく沈黙してしまった。

「えっ……と、行きましょうか、ヨル様。」

「ああ……」

どうやら東側には川や湖が多いようで、足場が悪い。転んだら服が大惨事になりそうだ。まあでも、水属性と炎属性が揃っているなら、水で洗って火で乾かすことは可能か。

「キシャーーッ!!」

「「!!」」

魔物が襲って来たのは急だった。水から飛び出した魚。それが、魔物だ。頭には角のようなものが生えていて、歯はキバニアのように鋭い。

「ブルハ・ラール・ヨル!!」

ジュワァァ……

「……あ、」

しまった。威力が強すぎたか。水まで蒸発させてしまった。水を失った魚たちがビチビチと陸に打ち上げられる。まあ、食料も確保できたし結果オーライ……か……?

「ヨル様!火!火!」

「……ん?……あ、」

周りの木に思いっきり火が燃え移っていた。どうりで焦げ臭いわけだ。どうしよう、と、ここで慌てたのがよくなかった。


ドッカーーンッッッ!!!


「「……………。」」

慌てたことで魔力のコントロールが鈍り、爆発させてしまった。魚もろとも燃えて塵となり、辺り一面焼け野原。チリチリと小さい炎が燃え上がっている。

「……あ!ブルハ・ラール・ツキ!」

思い出したようにツキが魔法を発動し、水で消火していく。

「ほ、本当に悪い……ツキ……ていうかこれ環境面とか大丈夫なのか……?」

「だ、大丈夫ですよ!環境面……は、わからないですけど……」

「「…………。」」

さっそく不安になってくる。主に、俺の魔法が。せっかく水場が多い場所なのにそれも蒸発させてしまうし、火事まで起こしてしまう始末。

ああ、こんな調子でやって行けるのだろうか……

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