16話〜特訓そのいち!〜
ワープして、歩いて、水上を歩いて。一体自分が何処にいるのかもわからなくなったころ、小さな島に来た。人がいる気配はなく、無人島のようだ。
「ここには、魔物がいる。」
『魔物?』
魔物といえば、大昔にカエムルに生息していた生物。しかし魔物は人を襲うため、人々は魔物を討伐していった。その結果数が減り、今では絶滅したとされている。
「魔物……って……ここは地球だよね?」
キラが顎に手を当て、不思議そうに発言。確かに、主な食事は魔力と言われている魔物。魔力のない地球にいるのはおかしい。
「……でもここ、微かに魔力を感じる。」
「そのとおりだ、ヨル。ここには微力な魔力がある。だから、ここで魔力を吸って密かに生きているんだ。魔物の食事は魔力だ。魔力がない地球人は襲わないし、倒される可能性があるから姿も見せない。見せたとしても、妖怪やら幽霊やらで知られているだけだ。……しかし、魔力を豊富に持っている私たちが入れば、どうだ?」
「………。」
空気中の魔力しか吸えずに、腹を空かせた獣たち。そこに、魔力を豊富に持った肉がやってくる。そうなればどうなるか……火を見るより、明らかだ。
「命の保証はしない。諦めるなら、今だぞ。」
命の危機なら、今までたくさん晒されてきた。今更だ。自ら危険に飛び込むのは、恐怖も感じるけど。でも、ここで諦める、という者はいなかった。
「……いいだろう。ホシ、キラ、セイは西側から入れ。ヨル、ツキは東からだ。」
「え、別れるんですか?」
てっきり皆で進むと思っていたので、そこにびっくり。しかも、どういう分け方だろう。ヨルとツキは王族という共通点があるが、私とキラとセイには共通点が見当たらない。しかも、王族というのも特訓に関係ない気がする。
「一人ひとりの魔法や性格を見て、一番合わなさそうな分け方をした。何故合わないのかは、進んで行けばわかるだろう。」
……。意味深な発言だが、特訓してくれるのはルシファー様だし、従うしかないだろう。でも、ヨルとは別のチームか。今までずっとヨルと一緒に行動してきたから、ちょっと不安だな。
「……目的地は中心にあるあの背の高い木。さあ、西はあっち、東はこっちだ。」
「えっ、えっと、じゃあね!」
先に東側の入り口を案内されたようなので、私たちはここで待機。……待機時間って、結構ドキドキするよね……
「『一番合わなさそうな』……か。」
キラがぽつりと呟く。でもそれはつまり、ルシファー様から見て私たち3人が共闘しにくいということ。そしてこの特訓で、その弱点と向き合わなければならない。
ーードッカーンッッッ!!!ーー
「「「…………。」」」
遠くから爆発音。向こうの特訓が、始まったのだろうか。よく見たら爆発の衝撃で出た煙の近くには炎が上がっているので、ヨルの魔法で間違いないだろう。
「……え、こわっ。こんな爆発音出さなきゃならないような相手と戦うの?」
「……目的地は決まってますからね。まともに戦わずに逃げるのも手だと思いますよ。」
成る程……?戦略も大事ってこと?か?
「さあ、次はお前たちだ。」
「うわっ!!」
私の後ろから急にニョキッときたからびっくりした。ニョキッと。
「最初に言っておくが、一日では終わらないぞ。食料調達も視野に入れとけ。」
戦闘は心配だけど、食料調達なら慣れている。最近は街にいたから暫くやっていなかったけど、弓で獲物を射るくらいはできるはずだ。……解体はできないけど。
「ここからだ。頑張ってこい。」
光も届かないようなどんよりした森。これだけで、すでに足がすくみそうだ。
「ブルハ・ラール・キラ」
私たちの頭上に、優しい光が灯る。キラの雷魔法だ。一応これで、暗くて動けないという自体はなくなった。
「中央が目的地ですから……東に向かえばいいんですよね。とりあえず、進みましょうか。」
さすが、旅慣れしているセイ。特に怖がる素振りもなく冷静に方針を決めてしまった。そしてただついて行くしかない私……情けない……
「っ!ブルハ・ラール・キラ!!」
「うわっっ!!」
キィィンッッ!!
キラのバリアに何かが当たる感覚。反射的に頭を抱えてしまった。いったい何が……?
「……頭に角のついた兎……これが魔物でしょうか?」
そっとセイが見ている方向に目線を向ける。サイズは普通のウサギより少し大きいくらいだが、頭に角はついているし目はギラギラ、口は肉食獣のような鋭い犬歯をしている。どう見ても普通のウサギではない。
「シャァァァァッッッ!!!」
「っ!」
すると角が光り出して、火の玉が放射された。なるほど。確かにこれは、魔力を持っているようだ。その火の玉も、キラのバリアによって遮られる。
「……ブルハ・ラール・セイ」
パキン。
兎の足元が凍る。キラがバリアを解き、セイが兎の首に剣を刺し、とどめをさす。兎はくたりと動かなくなり、絶命したようだ。少し心が痛むが、生きるため。後で美味しくいただこう。
「……げっ、」
ガサガサと周りの草が忙しなく動き、中からあの兎の仲間だろうか、大量の兎がやってきた。
「ブルハ・ラール・キラ!」
バチバチと放電のようにキラの魔力が周りに漂う。眩しくて閉じていた目を開けたときには、大量にいた兎は痺れて動かなくなっていた。
「奥に一際大きいのがいますね。ボス的な存在でしょうか……ブルハ・ラール・セイ」
セイが氷の剣を出し、新しく出てきた兎も蹴散らしていく。そうして近づいた大きな兎の首に刃を入れ、血飛沫が舞う。ちょっと、いや、かなりグロい。しかしそうすると、たくさんいた兎は四方八方に散っていった。
「早く移動しましょう!血の匂いにつられてまた魔物が来るかもしれません!」
「ええ!?」
食料確保のために何匹かセイが凍らせてマジックボックスに入れ、森の中を全力で走った。この中では私が一番足が遅かったようで、息切れしながら「待って」と言うはめになった。
「はぁ、はぁ……結構、急に、襲って、くる、ね、」
「そうですね……でもまだ日も高いですし、先に進みましょうか。」
「……あっ!セイ、右手の方!噛まれてる!」
キラの指摘で、やっと右手の方の血がセイ自身の血なのだとわかった。だいぶ返り血を浴びていたから、気づかなかった。
「ああ、このくらいなら大丈夫ですよ。ラルフ。」
ラルフがセイの傷に近づくと、噛み傷が多少治って、血が止まった。まだ噛み跡は残っているけど、本当に問題なさそうだ。
それからも、キラがバリアをし、セイが近づき、倒す。そんなことが続いた。接近するセイはやはりどうしても生傷が絶えず、その都度ラルフが回復していた。この作業にかなり慣れているようで、たぶん一人旅のときはこのようにして山賊などと戦っていたのだろう。しかし、そこであることに気づく。
……私、何もしてなくない……?
日が落ちてきたので、軽く焚き火を作ってテントを建てる。今日のご飯は、たくさん猟った兎の肉と、さらっとセイが採取していたらしい、野草。肉がある分だいぶ豪華に見える。
「肉については当分問題なさそうですね。冷凍もたくさんありますし。」
「見張りはどうする?私最初に見張っていい?」
「はい。ホシさんはどうします?最後にしますか?真ん中は2回寝ないといけない分、疲れやすいですし。」
「……いや、私キラの次にする!セイは最後にして!」
せめて、せめて見張りの疲れやすい時間くらい。役に立ちたい。このままでは、本当にただのお荷物だ。今日は食料調達も必要なかったし、本気でなんの魔法も使っていない。
「じゃあ、キラさんの次でお願いします。」
特に順番にこだわりはなかったのか、ただ私を気遣ってこの順番を提案してきたのか、あっさりと私の願いは承諾された。
「ネク!起きなかったら起こしてね!」
「……結局オレ頼みか。」
ネクはノーカンノーカン。私の使い魔だし。迷惑なんてすでに一生分かけてる。というわけで最初の見張りはキラに任せ、私とセイは寝ることに。
「……ん?セイ、なにやってんの?」
セイが今日倒した兎の魔物を解凍し、なにやら注射器に血を採っていた。
「いえ、ちょっと魔物で調べたいことがあって。」
「……調べたいことって、あの『なぜグラマー族とディーア族に分かれたのか』ってやつ?」
「はい。もしかしたら人間と魔物の間にできた子どもがディーア族の始まりだったのかもしれないと思っています。魔物は人型の種類もあるようですし、ここみたいに地球にひっそりと存在する魔物もいるようですから。ルシファー様の祖先に、魔物がいたのかもしれません。」
そういえば昔はグラマー族同士の子どもにディーア族が産まれたり、ディーア族同士の子どもにグラマー族が産まれたりしたのは結構あったらしい。でも今はほとんどなく、産まれたとしても奴隷として売り飛ばされるとか……キラが、もしかしてその通りだったのかもしれない。でも今、ほとんどでディーア族にはディーア族の子どもが、グラマー族にはグラマー族の子どもが産まれるのは、ディーア族には魔物の血が濃くなり、グラマー族には薄くなった、または元々なかったことで別の種族が産まれることはなくなった……ということだろうか。
「いや!セイも今日は寝よう!怪我もしてるし!!」
このまま研究を始めそうな雰囲気だったので、慌てて止める。正直セイがいないと攻撃に心配があるし、普通に怪我が心配だ。
「あ、すみません。今日は寝ましょうか。」
やっぱり少し血を調べるつもりだったらしく、さっと採った血をしまう。なんか研究者の『ちょっと』って当てにならないっていうからな……
☆☆☆☆☆☆
「……シ、ほし……ホシ!!」
「ん゛〜……あといっぷん……」
「みは……たい……こう…い……」
「たいやき……こうばしい……いいにおい〜……」
ああ。ホクホクで温かい。こうばしい匂いが……こうばしい……こう……ばし……?
「あ゛っづ〜〜〜!!!」
慌てて頭を振って、熱かった頭を叩く。膝の上にはネク。なんかこの起こされ方、久しぶりだ。
「ホシ……見張り、交代……大丈夫?」
「へ、へーきへーき……いつもこの起こされ方だから……」
しかし最近は緊張のせいか自然と目覚めることが多かったし、すごく疲れていたときは起こさずに寝かせてくれていた。こんな起こされ方をされるのは本当に久しぶりだった。
「じゃ、じゃあ寝ていていいよ!キラ!見張りは任せて!」
「うん。じゃあおやすみ。」
ということでキラと見張り番交代。ネクに起こされはしたが、これからちゃんとやる。うん。これから。
「あふ……でも眠いな……」
パチパチと音をたてる焚き火の前に座る。夜の肌寒さにありがたい。にしても……見張りってやることないよな……あぁ……眠い……
………。…………………。
「ホシ!!」
キィィンッッ!!
ビクッと体が跳ね起きる。この音は、ネクのバリアの音。……と、いうことは……
「……く、クマ……?」
といってもやはり普通のクマではなく、毛は黒く逆立ち目もつり上がっている。獲物を見つけた不気味な赤色の目は迫力満点だ。
「ぶっ、ブルハ・ラール・ホシ!!」
ポシュ………
とりあえずなんか出そうと思ったら、ショボショボの謎の煙が出た。……え、なにこれ。
「グァァァァッッッ!!!」
「っ!!」
思わず目を閉じて手を顔の前でクロスするという、人間の咄嗟な防衛姿勢をとってしまった。これではなにもできないのに。キラやセイは、もっと。
キィィンッッ
またネクのバリアが攻撃を塞いだ音がする。なにか攻撃しないと。ネクのバリアも万能ではない。そう思うのに、足が震えて。その場にへたり込んでしまった。どうしよう、どうしよう、
「ブルハ・ラール・セイ!!」
ザク。
刃が肉を切り裂く音。熊の悲鳴。セイだ。セイの攻撃だ。熊は腹から血を流しているのに、何でもないようにセイに爪を向ける。それをセイはひらりと避け、熊の手に鋭い一撃。それでも動き回る熊は、セイの右肩部分を爪で抉った。
「セイ!!」
「ブルハ・ラール・セイ」
再度呪文を唱えると、セイの体が跳ぶとともに熊の首が切り落とされた。その姿に、ヒッ、と小さく悲鳴をあげてしまう。セイは、私を助けてくれたのに。
「……ホシさん、疲れたでしょう?少し早いですが、見張りを変わりましょう。」
「でっ、でも、怪我……あっ、なんなら、セイの分の見張りもするよ!私!」
まだなにもできていない。見張りだって、結局セイに助けてもらって満足にできなかった。また、助けられただけだ。
「ホシさんはまだこういうの、慣れていないでしょう?今日はお休みください。」
「………、」
こう言われたら断れない。わかった、と小さく言って、キラが寝ているテントの中に戻る。情けない。ネクに助けてもらってばっかりで、攻撃もセイやキラにやってもらってばっかりで。こんなの私、足引っ張ってるだけだ。寝よう寝ようと思っても、心のもやもやが晴れなくて、どうにも寝付けなかった。




