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14話〜ヨルの秘密〜

ーーーー


……熱い。パチパチと焚き火のような音がする。しかも、煙っぽい……

「……え、」

ゆっくりと意識が浮上すると、目の前には火の海。あれ、私、どうしたっけ?確か、ヨルと喧嘩してイラついたから走って……ディーア、族、に。

「ホシ!起きたの!?」

ツキが切迫した表情で回復魔法をかけ続けている。見ると全員服は焦げているし、ところどころ火傷で痛い。一体どういう状況なんだ?

「ヨル王子が、魔法暴走して……っ、」

キラがバリアを作りながら進もうとしているが、どうやらもう魔力が足りないらしく、上手く出来ない様子だ。

「ツキ王女の水でもすぐに蒸発してしまって……近づくことも出来ないし手がない状態なんです!」

微かに、激しい炎の中から特に燃え上がっている場所に、人影が見える。ヨルにはツキもキラもついていない。バリアも回復もいない中では、すぐに体が燃えてしまう。……ということは、ヨル、死んじゃうの?

急に怖くなって、ヒュッと喉から怪しい音がなった。嫌だよ、仲間がいなくなるのは。シエルや家族のこと、悲しかったけどまだ生きてる。まだ頑張れた。でも、死んじゃったら……?

「ちょっ、ホシ!?」

気づいたら炎の中を走っていた。熱いし息苦しいし、体が燃えるように痛い。でもそんなことより、仲間を失うことが、ヨルを失うことが何より怖かった。途中で何度も引き返そうと考えた。まだ今なら、ツキのもとに戻って治療を施せば、楽になれる。それでも、足が縺れても、微かに見える人影のもとに走った。

「ヨル!!」

ヨルの顔がパッと上がって、目が合う。その顔は、見たことないほどに涙で濡れており、火傷の跡が痛々しかった。安心させるように手を握る。熱いなんて言葉じゃ言い表せない。だんだん手の感覚が無くなってくる。ここで諦めちゃダメだ。絶対、助けるんだ。ヨルだって私を、助けに来てくれた。そのまま、ギュッと抱きしめる。体中が痛い。煙を吸いすぎて痛い喉を張り上げて、私の気持ちを伝える。

「ごめんね!ありがとう!私のこと、心配してくれたんだよね!?」

お願い、お願い。ヨル。落ち着いて。私の気持ち、届いて。

「………」

ヨルの手が、ゆっくり動いた感触がして、ヨルの帽子が外された。その瞬間、なにか帽子に付与されていた魔法が解けて、長い髪が現れた。

え、なに。どういうこと?

何もわからないままヨルを眺めていると、髪に炎が集まって、だんだんと息がしやすくなってきている。暫く経つと炎は勢いを失い、消えていった。

「……俺の方こそ、ごめん……、もっと、ホシの立場、考えればよかった……」

微かにヨルの話し声が聞こえる。煙を吸いすぎたせいで聴覚は鈍っているし、ヨルも絞り出すような掠れた声だったけど、これだけは聞こえた。最後の行動が謎すぎるけど、とりあえず魔法暴走は止まったようだ。

「うわっ、」

一気にヨルの体重が私にかかる。規則正しい寝息が聞こえてくるので、疲れて眠ってしまったらしい。というか気絶に近い。しかし、いくら背丈がほとんど同じヨルとはいえ全体重をかけられたら重い。普通に動けない。

「ホシ!……え、ヨル様……髪……?」

ツキがヨルの姿に疑問を持ちながらも、私とヨルの火傷を治していく。後から来たセイも、不思議そうな顔をしながらもヨルの体重を自分の方に預けてくれた。

「あ〜……見ちゃったか〜……国家秘密レベルなんだけどなぁ……まあ、しょうがないか……」

キラがヨルの帽子を取り、ヨルの頭にそっと被せた。すると髪はいつもの通りの、肩にかかるかかからないかくらいの長さになった。

「とりあえず、戻ろっか。」

「あ、泊まれそうなところ、ありましたよ。そこに行きますか?」

「そうだね。」

セイがヨルを背負うために動かしても、ヨルは全く起きる気配がない。本当に疲れているようだ。来たときに利用したらしい魔法陣を起動させて、元の場所に戻る。私の意識がなくなった場所だった。


『カラオケ』とデカデカと書かれたところに入り、謎の四角い機械をセイが操作する。お金がその機械に吸い込まれていって、ウィーンという音とともに紙が出てきた。

「203号室ですね。」

何が起きたのかはよくわからなかったが、とりあえず泊まれそうらしい。ジャカジャカと楽しそうな音が鳴る中、静かに『203』と書かれた部屋に入った。入ってすぐに目に入る大きなソファにヨルを寝かせ、薄い掛け布団を掛けた。

「……で、髪のこと、だったよね」

それぞれソファに座り、話を聞く体制に入る。真剣な話だということは言わなくても、雰囲気でわかる。

「私も事故で……というかヨル王子が勝手に話したことで知ったんだけど……」

現在キラはヨルの専属メイドで、十分城にとって信頼できる存在だろうが、昔のことになるとわからない。キラは元々奴隷で、外から来た人間だから。となると、後から誰かから聞いたと考える方が妥当だろう。

「9年前。城が火事になった事件は知ってるよね。あ、もしかしてセイは知らない?」

コクンとセイが小さく頷く。セイに関する事件は10年前。城が火事になった頃にはセイはすでに地球にいただろう。

「そっか。その火事は原因不明の火災で、王と王妃が犠牲になった。そう世間では言われてるんだけど。」

うん。そこまでは私も普通に知ってる。今でも原因不明なんだって。なんか不思議な事件だなぁと思ったくらいだったけど。

「……ツキのこと、信じて話すからね。ルシーン国に知られたら、かなり不利になる情報だから。」

ツキがゆっくりと目を閉じたあと、一人一人の目を見て、大きく頷いた。

「大丈夫。私は、アステール国を戻すまでルシーン国には戻らない。戻せたとしても、第2王女として、アステール国との平和関係を望んでる。」

「……ありがとう。じゃあ、話すよ。」

相変わらずジャカジャカと周りの音はうるさい。真剣な話をするにはまるきり合わない空間だ。

「ヨル王子はね、『魔力の高い子ども』だった。でも、魔力が溜まる場所が人とは違って……産まれたときに、処置できなかったの。」

『魔力の高い子ども』。セイによると、それはグラマー族にしか現れない特性。私のクラスメイトにも、昔は薬を飲んで過ごしていた、という人は結構いた。

「そして、三歳のときについに魔力が暴走した。その時、王様と王妃様はヨル王子に魔法制御の魔法をかけたの。……ヨル王子の、髪に。そこが、一番かけやすかったのかな。」

……つまり、その魔法を切らないために、髪はあのときから伸ばしたまま。そういうことなのだろう。

「王様は魔力枯渇で衰弱死、王妃様は大火傷で亡くなられた。」

あの原因不明の火災に、そんな過去が。確かにそのまま世間に公表してしまえばヨルの立ち場も危うかっただろうし、政治は今より混乱していただろう。

「じゃあ……ヨル様の髪が切れてしまったら……」

「うん。地球を呑み込むほどの業火に見舞われる。ヨル王子は元々、それほどの魔力を持っていた。」

「…………」

私を含めて、みんな声が出なくなったのか会話が止まる。私は今、国家秘密レベルの話を聞いている。そのことを、胸にとどめながら。静かに、声を呑み込んだ。

「魔法制御の訓練も、してたんだけどね。なかなか上手くいかないみたいで。

……さっ、寝よ寝よ!明日起きれなくなっちゃう!ビッグベン目指すんでしょ?」

キラが無理矢理話を切って、座っていたソファに寝転がる。そういえばビッグベンの話、すっかり忘れてた。それが目的だったはずなのに。喧嘩して仲直りまでの流れが濃いんだよな。誘拐されて魔法暴走起きて……本来の目的を忘れてしまったのも許してほしい。

「ていうかこれ、狭いね……全員寝転がれない……」

キラがだいぶ縮まって寝てくれているので、あそこのソファはあと一人は寝れる。ヨルのところは入らなさそうだ。いや、キラみたいに縮まれば入れるだろうけど、起こすのも忍びないしそもそも起きなさそうだ。あとは、私が今座っている一人しか座れないソファのみ。頑張ってもあと一人分足りない。

「僕、床に座って寝ましょうか?慣れてますし。」

「……あ、……うん、ごめん、ありがとう……」

そんなことさせられない!とかっこいいことを言えたらよかったが、生憎私は床に座って寝たことはない。ここはお言葉に甘えさせていただくしかなさそうだ。ツキ、キラ、セイの三人で座っていたソファはツキとキラが寝て、セイは床で寝ることになった。


「うう……水……」

猛烈な喉の渇きで目が覚めた。あのとき、かなり煙を吸ったせいかまだ喉がイガイガする。たしかドリンクバーあるって言ってたっけ……あ、そういえばヨルは水大丈夫かな?たぶんあの戦闘の前から何も飲んでないだろうし……寝ている間に脱水になるってお母さんが言ってた気がする。それに、ヨルは私よりも多くあの煙を吸っていたはずだ。2杯分持って行こう。


「ヨル、ヨル、」

みんなを起こさないように小声でヨルを起こす。その代わり、少し強めに揺さぶって。

「……ん…?」

「喉渇いてない?水、いる?」

ピクリと反応があったので、水の入ったコップをヨルの前に差し出す。

「……い、る。」

寝起きのせいなのか煙を吸ったせいなのかわからないが、かなり掠れた声で返事が返ってくる。ごくごくと音を鳴らしながら、あっという間にコップの中の水が無くなっていく。やっぱり喉、渇いてたんだ。

「……ありがとう……」

「う、うん。」

「「…………。」」

『ごめん』とは言い合ったものの、やはりまだ気まずさが残る。私も、かなり子供っぽいことで飛び出しちゃったからなぁ……

「「あの、」」

……。声が被った。なんてありがちな。そしてお互いどうぞどうぞと譲り合って会話が進まない。結局、私が最初に話し出すことになった。

「……い、や。私、子どもっぽかったかなって。」

「……いや、こっちも悪かったし、気にしてない。」

………。何故かヨルがかたくなに目を合わせてくれない。なにか言いにくいことがあるのだろうか。怒っている様子はないけど……

「泣き顔をみられたのが気まずいんだろう。コイツも思春期だからな。」

「オースティン!?起きてたのかよ!ていうか余計なこと言うな!!」

ヒョコっとヨルの肩から顔を出したオースティンが、なにやら目を合わせてくれなかった答えを。あれ、そんなことだったんだ。別に気にしてないのに。私なんて最初の方怖くて怖くて何度も泣きそうになったし。う〜ん。男の子のプライドってわからない。

「というか、全員起きてるぞ。」

「は?」「え?」

最初にネクが、私の肩に乗ってきた。次にププッという笑い声とともにキラの肩が震え、ツキが申し訳なさそうに身を起こす。ラルフが立ち上がり、気まずそうにセイが顔を上げた。

「「…………。」」

本当に全員起きてるじゃん。使い魔含めて。え、いつから?最初からだったら、さすがに恥ずかしいんだが。

「〜〜っ、もう寝る!!」

ヨルがふて寝のようにそっぽを向いて動かなくなってしまった。なんだか私まで急に恥ずかしくなってきて、ヨルと同じようにそっぽを向いて寝転がった。

「ごっ、ごめんね!盗み聞くつもりはなかったんだけど、話し声で目が覚めちゃって!」

「ツキ、もう駄目だよ。二人とも不貞腐れちゃってる。……ふふっ、」

「えっと……微笑ましかった?ですよ。」

「主、それはフォローになっていないと思いますぞ。」

キラがずっと笑っているのがどうにも気に入らない。不貞腐れてると思われるのも気に入らないが、修正しようとすると墓穴を掘りそうなので何も言えない。

そんな、ちょっぴり苦々しい思いをしながら更けた夜だった。

書いてから気づいたんですが……外国ってカラオケ個室じゃないらしいですね。泊まれるかどうかも不明です。

まあ……そのへんはあまり突っ込まないでいただくと助かります。動物連れ込んでますし。

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