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13話〜助け〜

「逃げずに来たか。置いて逃げることも考えたが、お優しいものだ。」

転移先には、やはりよく似通った双子の顔があった。さらに、その奥に同じ服を着た、ディーア族王国騎士団の姿。

「ホシはどこだ。」

「あの少女ならここさ、」

ミルキーが言い終わる前に、セイの鋭い突きがミルキーの手首を襲う。首根っこを掴まれていたホシは、重力に従って地面へ落ちて行く。

「ブルハ・ラール・キラ!!」

ホシの体が地面に叩きつけられると同時に、キラがドーム状バリアを形成する。本当なら地面に叩きつけられないようにしたかったが、残念ながらそんな余裕はなかった。

「……なかなかの反射速度を持っているようだな。」

ギリギリと、ミルキーとセイが持つ剣が合わさり、悲鳴を上げる。その瞬間には既に俺の見えない速度で斬り合いをしており、セイの剣術は相当なものだと悟る。

「ブルハ・ラール・ヨル!」

セイに近づいていく援軍を、俺の魔法で炎に包む。

「ブルハ・ラール・ツキ!」

ツキの声がするのと同時に、魔力が底上げされたような感覚がする。たぶん、強化魔法だ。

「……燃えにくいな、」

フィールドは乾いた砂と、岩。きっとわざわざここを選んだのだろう。魔力だけバカでかい、俺対策に。

パリンッッ!!

ガラスが割れるような、高い音があたりに響く。まさかと思って、その音がしそうな方を向くと、そのまさかが当たってしまった。

「ホシ!キラ!」

キラのバリアが割れたんだ。本当なら、俺がキラに押し寄せる敵を攻撃していく予定だったのに。俺の力が足りなかったから。

「ブルハ・ラール・ウェイ」

キラはもうバリアをするだけの体力が残っていない。ホシはまだ目覚めない。

ダメだ、ダメだ、『また』大切な人がいなくなってしまう。

ホシとキラに、鋭い攻撃が向かおうとしている。

セイはミルキーを引き止めるのに精一杯。ツキは戦闘向きではない。


心の中で何かが、プチッと切れた。


「ブルハ・ラール・ヨル!!」

今出せる、最高の威力で。焼き尽くす。炎で燃えていく。

「……チッ、」

一旦、敵が下がった。セイと斬り合っていたミルキーも攻撃の手を止め、後ろへ下がっていった。これでいい。とりあえず、ホシをこちらにやって、逃げれそうなら逃げて、無理そうなら体制を立て直して……

……あれ、魔法って、どうやって止めるっけ?

今も尚、燃え続ける炎。周りは燃えにくい砂や岩のはずなのに、あたりは真っ赤で、岩が燃えている。もういい。やめてもいいはずなのに。体の底からどんどん魔力が放出されていく。自分の手が熱い。全身が焼ける。ここで、初めて気付いた。

ーー魔法暴走、してる。ーー

「はっ、ひゅっ、」

早くやめないと。仲間まで巻き込む。もう既に、近くにいたホシとキラに火の手が回ろうとしている。

「……くそ、これは予想外だな、撤退だ。」

幸い、敵は撤退してくれたようだ。でも俺はそんな場合じゃない。

ダメだ。ダメだ。『また』、やってしまう。殺してしまう。

「ヨル王子!髪!意識して!頑張って!」

キラの声が聞こえる。混乱している俺には、その言葉が上手く聞き取れなかった。

……ごめんなさい、父上、母上……

炎が自分の体までも呑み込んでいく。体が燃える感覚。煙の匂いで、息が苦しい。4人の姿は炎に隠れて見えないが、きっともう俺の魔法が呑み込んでいる。

どうしよう。俺の、せいで。


ーーー「ヨル!!」


目の前に、赤以外の色。揺れる黄色い三つ編みに、紫の瞳。

ーー間違えるはずもない、ホシだ。

俺に近づくほど、熱いはずなのに。体が焼けて苦しいはずなのに。ホシはそんなの感じないとばかりに、最初に俺の手を握り、そのまま抱きしめてきた。熱いのに、温かい。矛盾しているが、本当にそう感じた。

「ごめんね!ありがとう!私のこと、心配してくれたんだよね!?」

ホシの体温に、安心する。だんだん心が、落ち着いてくる。そうだ、髪。キラの言葉が、ようやく理解できた。帽子を取って長い髪を出し、髪に魔力を集中させた。

「……俺の方こそ、ごめん……、もっと、ホシの立場、考えればよかった……」

空気に冷気が混じってくる。俺の魔法暴走が、落ち着いたんだ。あたりは爆弾でも落ちたかのような有り様。俺はそのまま、疲れて眠ってしまった。


☆☆☆☆☆☆


「ちちうえ!ははうえ!」

父上も母上も小さな紙とにらめっこしているのが気に食わなくて、思いっきり後ろから突進する。

「あらら、どうしたの?ヨル。」

「もうちょっとでお仕事終わるからな〜」

二人とも、一度仕事の手を止めてこちらを見てくれる。邪魔しているというのは幼いながらにわかっていたが、それでもこっちを見てほしくて同じことを何回もしてしまう。

「あのね!はなび!はなびできるんだよ!まほーれんしゅーしたの!」

「お!花火か〜。いいな、俺もそのくらいのころいっぱい出したな〜」

「じゃあ中庭に行っててね。私たちも、もうちょっとしたら行くわ。」

「うん!」

父上と母上に自分の花火を見てもらえる。二人が来るまで、ちょっと練習してよう。最高の花火を見せるんだ。

「ヨル王子!また食堂のチョコ勝手に食べましたね!」

「あ」

そういえば三時のおやつが待ちきれなくて、お昼を食べた後少し盗み食いしていた。でも今はそれどころではない。早く中庭にいかなければ。

「きゃ〜!!」

「ヨル王子〜!!」

本気で走れば子どもの足なんて簡単に追いつくはずなのに、メイドは本気で追ってこない。

このころはまだ、王宮内は平和だった。ぼくがヤンチャしても、レッスンをサボっても、『元気ですね』で済まされた。まだまだ、俺の即位には時間がある。

そう、誰もが思っていた。


「はやくはやく!ちちうえ!ははうえ!」

先に中庭についたぼくは、父上と母上が見えた瞬間に待ちきれなくなって、ピョンピョン跳ねながら手を振った。

「はいはい。ちゃんと行くから。」

「あははっ、元気だなぁ〜」

普通の家庭みたいに、母上がずっと家に居て、泣いたら構ってくれるわけではない。父上が休日に遊びに連れて行ってくれることも、少ない。でも、これでも満足していた。乳母だって大好きだし、メイドも秘密のお菓子をくれる。父上と母上も、一日に数時間ではあるがこうやって遊んでくれる。

「みててね!ブルハ・ラール・ヨル!」

パァン!

父上と母上に見せるために練習した花火が、空に打ち上がる。パラパラと火の粉が落ちてきて少し熱かったが、父上と母上は笑ってくれた。

「おお!俺がヨルぐらいのころやった花火より綺麗じゃないか!」

「さすがヨル!私たちの可愛い息子」

母上がおでこにキスをしてくる。それが嬉しくて、ぼくも母上の頬にキスをする。

「ずるいな〜。ヨル、父上にもやってくれよ〜」

「え〜、ちちうえじょりじょりするからいや〜」

「あらら、残念ね、あなた。」

あはは、と空に笑い声が響く。その幸せを、疑いはしなかった。ぼくが、この言葉を言い出すまでは。

「もっとはなびだす!」

「気をつけるんだぞ〜」

その言葉をちゃんと聞いておけばよかったとは思わない。だって、それはあまりにも突然で、自分の意志とか不注意とか、関係なかったから。


ボッッッッ


「……………え?」

急に手のひらから、大きな炎が上がった。違う。ぼくは、いつも通り花火を出そうとして。熱い。怖い。手が焼ける。

「ひっ、うぁぁぁ!!!」

まだ幼いぼくには、泣くしかなかった。怖くて怖くて、燃える手で父上と母上に手を伸ばした。

「ヨル!落ち着いて!ゆっくり深呼吸!」

「ほら、スーハーだぞ!ヨル!」

「たすけて、ちちうえ、ははうえ!」

まだ三歳であったぼくに落ち着くとか、深呼吸とかできるわけもなく。泣きながら父上と母上に助けを求めるしかできなかった。

「熱い!ちちうえ、ははうえ!」

いつの間にか炎は王宮にまで燃え移っていて、使用人たちが水魔法で対応したりしていた。それでも炎の勢いは、消えない。

「……ライラ」

「ええ、わかっているわ。」

父上と母上の声が聞こえる。だんだん、目が開かなくなってくる。怖い。早く、はやく、助けて。

「ヨル、大丈夫よ。」

「絶対に、死なせはしない。」

煙に混じって、父上と母上の匂いがする。優しく包まれるような感覚。……抱きしめられている。温かい。そっと、頭の帽子が取れる感覚がする。

「「ヨル、愛してる。」」

二人の声が重なる。だんだんと視界が暗くなり、耳も聞こえなくなってくる。

「「ブルハ・ラール」」

最後に、二人の呪文を唱える声が、聞こえた。


「どういうことですか!最初の検査では、異常はなかったはずでしょう!?」

目が覚めると、自分のベッドの上。ぐるぐると、全身に白い包帯が巻かれてあった。

「……通常は、魔力が溜まるのは頭のはずなんです。でも、ヨル王子の場合、魔力が溜まっていたのが心臓だとわかりました。それで最初の検査に引っ掛からず……」

「どういうこと……?じゃあ、ヨル王子は『魔力の高い子ども』だったってこと?」

まりょくの、たかいこども。

知っている。それは確か、制御できないほどの魔力を身にまとって産まれてくる赤ちゃんのこと。普通は、薬で抑えたり手術で取り除いたりする。でもぼくは、そういうことはしなかったと聞いた。『魔力の高い子ども』ではなかったと。

「それより、どうするんですか?急に王も王妃も亡くなられてしまうなんて……即位するにも、ヨル王子はまだ三歳ですよ?」

……なくなられた。

どういうことだろう。父上と母上、どっかに行っちゃったのかな?

「……ねえ、ちちうえとははうえは?」

「……っヨル王子!……聞いていたんですか?」

コクンと小さく頷く。なにか、聞かれてまずいことでもあったのだろうか。

「我から話してやろう。」

「……おーすてぃん?」

父上の使い魔である、オースティンだ。オースティンは100年近く歴代の王に使えていて、結構偉いらしい。

「二人で話す。他のものは掃けよ。」

オースティンの一言でさっきまで話していたメイドや医者たちが、部屋を出ていく。

「まず最初に。我は今日から、お前の使い魔だ。」

「……なんで?ちちうえのつかいまじゃないの?」

「それは後々話す。次にもう一つ。」

なんとなく重要な話だということは伝わったので、黙って聞いておく。

「髪は、絶対切るな。気休め程度に伸びにくくなる魔法はかけたが、長くて鬱陶しいと思っても絶対に切るな。まあケアについてはここにいる限り粗末にされることは絶対にないだろう。」

「……うん……?」

ところどころわからないところもあったが、まあつまり髪は切るなということだろう。なんでだろう?ぼくは、男の子なのに。

「……次に……難しい話になる。でも今誤魔化しても後々面倒事が増えそうだ。話すが、いいな?」

オースティンの黄緑色の瞳には拒否権はないと書かれているようで、少しドキッとする。結局、反射的に頷くしかできなかった。

「……まず、お前の父親と母親は、死んだ。」

………。しんだ。シンダ。死んだ……

それって、居なくなったってこと?帰ってこないってこと?……二度と、会ってくれないってこと?

「暴走したお前に、髪に魔法をかけたんだ。魔力を抑える、禁書に近い魔法を。ライラは魔力枯渇こそしたが、主には全身の大火傷で死に、ゾンネは過剰な魔力枯渇によって衰弱死した。」

母上は、ぼくの炎で死んだ。父上は、ぼくを助ける魔法で死んだ。それって、つまり。

「ぼくが、ちちうえとははうえをころしたの?」

「………」

オースティンは、何も言わなかった。目を背けることもなく、真っ直ぐにぼくを見つめて、『そうだ』と語っていた。

「……うそだ!ぜったいかえってくるもん!オースティンのうそつき!きらい!どっかいけ!」

近くにあった枕を手当たり次第にオースティンに投げつける。そうするとオースティンは何も言わずに去っていった。誰もいない部屋に静寂がはしる。それをかき消すように、大声で泣いた。

「うぁぁぁ〜〜〜ん!!」

しばらく経ったら、乳母とメイドが駆けつけてきた。こんなに泣いても、父上も母上も来てくれない。ぼくが怪我をしたと聞いたら、絶対に来てくれた父上と母上が。もう、本当に会えないんだと、子どもながらに痛感した瞬間だった。


世間には、『原因不明の火災で王と王妃が死亡した』という事件で知られている。俺が話の中心に立っていたことは、信頼できる、城の一部の人間しか知らない。

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