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12話〜喧嘩〜

走って走って、街の街灯も届かない裏路地へ来た。少し怖いと思ってしまうが、私にはネクがいると開き直る。

「なんなの!わかるわけないじゃん……そんなの、教わってない……」

そうだよ。私は、4人みたいに特別じゃない。そこだけは、『みんな同じ』にはなれない。そんな普通は、知らない。

そこは、『区別』してよ……

「ホシの言い分もわかる。お前は確かに、今までごく普通に暮らしてきた。地球人に魔法の存在がバレたらなんて、特別注意することはなかっただろう。でも、それ以前にここは集団行動だ。ホシ一人のせいで、世界が危険にさらされたりディーア族に居場所がバレたりと、周りにも危害が及ぶ。そこはわかるな?」

小さくコクンと頷く。わかってるよ。私一人の行動で何かが大きく変わってしまうことくらい。あの日、ヨルに助けられて生き残ったときから、ずっと。

「……それに、そのこととは別に、お前のことを心配したんだろうけどな。あの王子様は。」

「……?」

私が勝手な行動をしたから、怒ったんじゃないの?

「お前のあの動画に興味を持ったものがお前に対して何かするかもしれない。軽い質問攻めで済むならいいが、もしかしたら誘拐、研究所に閉じ込められる……なんてことも起きるかもしれない。」

その言葉に、ドキッとする。そんなに、危険なことだったんだ。あれ。

「落ち着いたら、ちゃんと話し合え。安心しろ、ずっと仲良しこよしなんてできない。少し喧嘩するのが丁度いいさ。」

「………」

少し、イライラが落ち着いたかもしれない。もうちょっとしたら、ちゃんと戻ろう。謝れるかどうかはわからないが、不注意だったっていう私の気持ちは、ちゃんと伝えよう。

「……ホシ、止まれ。」

ネクの警戒した声に、ピタッと心臓まで止まりそうになる。耳をすませると、微かに足音が聞こえてきた。地球人?補導される?いや、違う。確かに、魔力を感じる。

……ディーア族、だ。

足音とは逆方向に、とりあえず走る。どうしよう。もしかして、あの動画のせい?ヨルが思った通りに、なっちゃったってこと?

「ブルハ・ラール・ウェイ」

パァンッッッッッ!!!

私の髪に銃弾がかする。音にびっくりしたのか緊張なのか、足が縺れて転んでしまう。

「ブルハ・ラール・ミルキー!!」

キィィンッッッッ!!

最初のときと同じように、ネクが私を守ってくれた。でもミルキーさんは最初とは違い、下がらずにギリギリとバリアを切ろうとする。徐々にバリアにヒビが入り、ついにパリーンッという音とともにバリアは壊れた。

「ネク!!」

体の小さいネクは私の後ろに思った以上に飛ばされて、暗闇の中では真っ黒な体は見えなくなってしまった。

「ブルハ・ラール・ミルキー」

続けて私に攻撃を仕掛ける。それを咄嗟に避けて、なんの属性が効果的かを考える。

「ブルハ・ラール・ホシ!!」

考えた結果、光魔法。暗闇に慣れた目に、急な鋭い光はキツイはずだ。

「ブルハ・ラール・ウェイ」

パァンッ!

逃げようと後ろを向いた途端、私の予想に反して銃弾が私の体に当たる。死ぬかと思ったが、どうやら加減されていたらしく、鋭い激痛に終わった。

「ゔっ……」

「安心しろ、今回は殺しはしない。」

私の口元にそっとハンカチのようなものが当てられる。もしかして、これって。そう考える隙もなく、意識がだんだんと遠のいていく。

「今回お前は、王子を引き寄せる人質だ。」

「使い魔の方はどうする」

「ほかっておこう。仲間を呼ばれないと始まらない。」

ふわりと体の浮く感覚がする。持ち上げられたんだ、と認識する前に、私の意識は完全に無くなっていた。


〜Sideヨル〜

「………」

「ほらヨル王子、そろそろ落ち着きましたか?」

建物の光やキラキラした看板のせいで、夜中にも関わらず全く暗くならない町中。何故か俺は、キラと二人でベンチに座っていた。ついでにオースティンも隣で毛繕いしている。

「……ツキ王女とセイは?」

「先にホテルを探しに行きました。なんかカラオケ?くらいなら空いてるかもとか言ってましたけど……」

早く、俺も泊まれるところを探しに行かないと。そう思うのに、イライラして物を叩きつけたい気分だし、ホシのことを考えるとなんともいえない、胸の奥が重くなるような気持ちになる。

「……ふふっ、」

「……なんだよ?」

ふと、急に隣にいるキラが笑い出した。俺はこんな気持ちなのに、と、何故か喧嘩腰になる。

「いや、ちょっと嬉しくて。」

「……嬉しい……?」

こんな状況が嬉しいとは、どういうことだ。明らかに、三人に迷惑をかけているというのに。

「私と会ったころには、ヨル王子はもう大人っぽかったじゃないですか。大人に紛れて仕事して、多くの人間を動かして……」

小さいころの苦労は、今でも忘れない。確かにお手伝いみたいなのはいたけど、それでも子どもの俺に、王の業務はキツかった。自動的に大人との接し方もわかってくるものだ。

「でも、あんな子どもっぽい悪口言い合いながら、喧嘩するなんて。ヨル王子もちゃんと13歳の男の子なんだなぁって、安心しました。」

そうやって改めて言われると恥ずかしくなってくる。考えてみれば喧嘩なんて初めてだし、バカとかアホとか言われたのも初めてだ。仕事中、大人にイラついても我慢しなきゃって思うのに、ホシが相手だとつい爆発してしまうのは何故だろう。我慢なら、慣れてるはずなのに。

「いい友達を、持ちましたね。」

「……ともだち、」

ホシとは、友達なのだろうか。ただ、生き残った同士だから。クラスメイトだったから。王族だから。無理矢理にでも、仲良くなるしかなかっただけではないか?

まだ二人だったころ、ディーア族に襲われたとき。俺が捕まって、ホシは逃げればよかったのに。逃げずに、助けてくれて、『ヨル』と、呼び捨てで呼んでくれたのが嬉しかった。謙遜して遠巻きに見ている奴らとも、権力目当てに媚を売っている奴らとも違う。真っ直ぐに『俺』を見てくれるのが、暖かくて、懐かしかった。

「……喧嘩って、どうやったら終わるんだ?」

「あはは!喧嘩初心者ですか!謝ればいいと思いますよ?一言『ごめん』って!」

「……なんか癪だ。」

「ぶふふっ、」

何が面白かったのか、キラはプルプルと体を震わせて爆笑していた。こっちは結構本気なのに、と頬を膨らませるしかなかった。

「王子!キラ!」

暗闇の中からネクの声が聞こえる。体は暗闇で見えないが、金色の目が光っているのでどこにいるかはわかる。

「王女とセイは?」

「泊まるところ、探しに行ったけど……」

かなり焦っている様子だし、どうしたのだろう。それにホシもいない。ネクは元々ホシの肩に乗っていたから、見失ったということはないはずだ。

「ホシが、攫われた。」

「「……は?」」

キラと一緒に、つい声が出た。攫われた。殺されたのではなく、攫われた。つまり、それは……

「……人質……」

「理解が早くて助かる。俺の近くにこの魔法陣の紙が置かれていた。これを通って来いということだろう。」

ディーア族の目的は、やはり俺だろう。もしくは、ツキ王女か。でも精々ツキ王女はついでだ。今、ルシーン国が一番欲っしているのはグラマー族の王子である俺の首。確実な勝利を宣言するには、俺の首が必要なのだ。

「キラ、ツキ王女とセイに連絡。」

「はい。」

即座に、キラは魔法で通信を始めた。俺は魔法陣の紙を持って、人気のないところに移動する。

「いいのか?」

この状況でも尚、毛繕いを辞めずにベンチに悠々と座っているオースティンが話し出す。

「旅は、ホシとやらが居なくても続けられる。むしろ、危なっかしい要素が無くなって、危険が減る。王子であるお前が、命をかけて助けに行くほどか?」

確かに、その通りかもしれない。実際ホシはあの五人の中で一番戦力にならないし、世間知らずだ。でも能力はまだ未知数だし、何よりその勇気と直感に、何度も助けられた。それに、

「……助ける。ホシは、友達、だから。……たぶん。」

向こうが俺のことをどう思っているかはわからないが、少なくとも俺はホシのことを、友達だと思う。人生で初めての、友達だと。

「ふん、いいだろう。お前の判断について行ってやる。だが、そこは言い切るのがかっこいいというものよ。」

「うるさいなぁ!」

オースティンの性格はよくわかっている。この質問も単なる意地悪ではなく、俺の心をまとめるための、あやふやなまま助けに行かないための、大切な質問。

「ヨル様!キラ!」

ここでツキとセイが到着。タイミングがよろしい。

「ホシを、助けるんだよね?早く行こう!」

「待ってください。相手は王国騎士団……そう簡単にはいきません。まずは作戦を練りましょう。人質ということは、今すぐどうこうすることじゃないと思います。」

「あっ、ご、ごめんね。そうだよね。慌ててて……」

とりあえず全員気が動揺しているのは間違いなさそうなので、一度深呼吸を挟む。

「とりあえず、僕が先に攻撃してホシさんをディーア族から引き剥がしましょう。」

「私はなるべく遠くから援護に回りたいな。攻撃はあんまり得意じゃないし……」

剣の使い手であるセイと、回復術師であるツキ王女が言葉を重ねる。基本のスタンスはそれで良さそうだ。前に出るセイは傷を負いやすいだろうし、そこをツキ王女が回復できれば欠点も減る。

「じゃあ私は、引き剥がしたホシをバリアで守るよ。さすがにセイもホシを連れ出すほどヒマはないと思うし。」

「俺は……敵はあの双子だけとも限らないし、援軍を攻撃していく。」

でも俺の魔法は対策されている可能性が高い。やはり鍵になるのは、相手もそこまで戦力を知らないであろうセイか。難点としては、俺たちもセイの戦力を知らないことだが。

「……じゃあ、いいか?」

俺が魔法陣の紙を地面に置いて、確認を取る。

「はい。戦闘は基本臨機応変ですしね。このまま戦略を立てていてもしょうがないですよ。」

まずは、キラが。

「大丈夫。ホシには、たくさん助けられたから……」

次に、ツキが。

「行きましょう、ヨル様。」

最後に、セイが。

全員の心が決まったところで、魔法陣に足を置く。すると眩しいほどの光が放射され、転移特有の浮遊感を感じた。

大丈夫。俺は、王子とか使命感とか抜きに、友達を、助けに行くんだ。…

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