11話〜手がかり〜
ある宇宙の果てに、魔法の国がありました。魔法の国の王様は、地球にある力を授けます。
1つは、ダイヤモンドを。寒い寒い大きな北の地に。
1つは、サファイアを。大きな時計台に。
1つは、ルビーを。大きな門に。
1つは、ヒスイを。和の国へ。
1つは、エメラルドを。情熱の国へ。
1つは、オパールを。お墓のお城へ。
1つは、トパーズを。地球一高い山に。
それぞれ地球の地に、落としました。
王様は力を使い切り、宇宙の果てへと消えていきます。
その7つの宝石が揃ったとき、願いが叶う……かもしれません……
たった数ページの、短い絵本だった。でもこれまで見た何よりも、的を経ている。
「ダイヤモンド、サファイア、ルビー、ヒスイ、エメラルド、オパール、トパーズ……それがわかっただけでもだいぶ収獲なのに、場所のヒントっぽいのも書いてあるな。」
「持ってっていいって言ってたし、とりあえず持ってこうか。」
「そうだな。……あ、」
ヨルが上を向いたまま停止してしまった。え、なに?どうしたの?
「……ヤバい、集合時間過ぎてる。」
ヨルの目線の先を見ると、時計。針は5時55分を指していた。
「もうすぐ図書館閉まるじゃん!」
「そういえば人いない……出口で待ってるかもしれない!行こう!」
走ったら怒られるので速歩きで。
「ヨル王子!ホシ!」
図書館を出ると、やっぱり4人は待っててくれた。
「迷子になっちゃった?あそこ迷うよね〜。」
ツキが優しく話かけてくれる。ちょっと違うけど……
「コイツ途中、ちょー分厚い生物学書見ててビビったわ!」
「あはは……すいません、前来たときにはなかった生物学書があったのでつい……」
みんなそれぞれ本を見て周ったようだが、本を借りていないあたり特に収獲はなさそうだった。
「重要なヒントになる本を見つけた。とりあえず、場所を移動しよう。」
デスティニさんが俺の家で話そう、と言ったので、お言葉に甘えてデスティニさんの家に戻った。
「戻ったか。どうだった?」
デスティニさんの家に戻ると、使い魔三匹が待っていた。三匹で輪になっていたので、何か話していたのだろうか。
「うん。今から重要な話するの。」
ネクがピョンっと私の肩に跳び乗る。肩の重さも懐かしい。
「これだ。」
ヨルの置いた本に、みんなが釘付けになる。デスティニさんがページをめくっていき、お話を読み始める。
「……なるほど……でもこの『大きな時計台』ってのはここイギリスにあるビッグベンのことだな。」
「『地球一高い山』はエベレストのことでしょうか?」
「お墓の城は〜……どっかの世界遺産にありそうだけどなぁ〜……」
さすが地球を知っている二人。候補がポンポン出てくる。でもそれ以外はあまり聞き覚えがなかったらしく、言葉が止まった。
「じゃあ……次の目的は、とりあえず近そうなビッグベンに行くことだな。」
「じゃ、とりあえず今日はここに泊まってって、明日出発してこい。そーだ!非常食とかも渡すから待ってろよー!」
……また親戚のおじちゃんムーブが……いやまあ、とても助かるんだけどね?
久しぶりのふかふかの布団で寝て、つい寝すぎてしまった。みんな起きてくるのは遅かったみたいだけど、デスティニさんは起こすわけでもなく起きてきたら「おはよう」と言った。なんだか家にいる気分で、懐かしくなったのだった。
「じゃ、何か困ったら、すぐ戻ってくるんだぞ。いつでも待ってるからな?」
「うん。ありがとう。」
みんなを代表して、セイがお礼を言う。それにしても、セイはここに戻ってくる度にこの会話をしているのだろうか?
「「「「「いってきます!」」」」」
「いってらっしゃい!!」
五人で合わせた声に、デスティニさんはニカッと歯で笑って見送ってくれた。私たちが曲がり角で見えなくなるまで、手を振ってくれていた。
「じゃあ、案内よろしくね!セイ!」
「はい。ここからは、バスや電車を使いましょうか。ほうきで移動するより速いし、リスクも低いですから。それに、町中ですしディーア族と会いづらいかもしれません。」
ここからの案内は、ビッグベンに行ったことがあるというセイに。しかもセイはデスティニさんから、地球の便利アイテム『スマホ』というものをもらっているらしい。文字を打てば電車の時刻もなんでもすぐに出てくる便利な代物。カエムルにも同じようなのあったな。世界が壊れた途端、何かの魔法回線が切れたのか使えなくなったけど。
「じゃあ、ここに乗りますよ。」
何やら四角い鉄の塊が蠢いている。カエムル人の私から見ればこんな巨大な鉄、魔法も使わずにどうやって動かしているのだろうというのが素直な感想だ。
「基本的なルールは絨毯と変わらないんだな。」
セイが変な機械を操作すると、白い紙が出てくる。これを改札機?みたいなのに入れるらしい。
「そうですね。元は僕達も地球人でしたから、考え方や文化は似ているところがあるかもしれません。」
カエムルにも絨毯という交通機関がある。そこでも切符的なものを買って乗るのだ。
「あ、そうだ。使い魔はバックに入れてください。少し苦しいかもしれませんが、動物がいると色々面倒なことが多いんです。」
おっと。なるほど。だから大きめのバックが渡されたのか。バックのチャックを開けてネクに目配せすると、大人しくバックの中に入ってくれた。
白い紙……切符らしい。を、改札機に入れて、『でんしゃ』というものに乗る。飛んでもいないのにすごく速くて、なんだか新鮮だった。
「どのくらいかかるの?」
「電車だけで行くとなると……丸一日はかかりますね。途中でホテルも取りましょうか。」
ツキとセイの会話を聞き、まだビッグベンまでの道のりは長そうだな、と悟った。
「今日はここまでですね。」
どうやら今の電車が終電だったらしい。あたりはすっかり暗くなり、少し肌寒い。
「まずホテル探さないとじゃない?」
「当日だしね……空いてるかな?」
「まず、僕が成人に見られるかどうかなんですよね……未成年だと親の同意書とかなんか諸々必要みたいですから……」
「……ねえ、セイって何歳なの?」
少し気になったことを聞いてみる。成人に見られるかどうか怪しい、ということは18歳前後なのだろうか。
「17か18だと思います。地球にいて季節感覚が狂ってるので誕生日がいつなのかよくわからない状態で……でも、『あの事件』から10年が経っているのなら、僕は今年で18になると思いますよ。」
「18かぁ〜……」
私は今年で13。セイとは5年も離れているんだ。と、ぼんやりと思っていたら、暗い夜の中、小さく座っている子どもの姿が見えた。え、夜だよ?終電来たよ?なんで子どもが一人で?
「どっ、どうしたの!?」
つい反射的に声をかけてしまった。ヨルたち気づいていないようで、どんどん先に進んでしまう。呼び止めようかとも思ったが、私には連絡魔法があるし、後で合流すればいいかと諦めた。
「りょこ、う、いって、て。ほてる、いくとき、おかあさんたちとはぐれちゃったぁ〜!!」
あ〜……なるほど……確かに、この子の顔立ちや髪の色は周りの人と少し違う。イギリス人ではないのだろう。
「大丈夫!一緒に待ってよ?ほら!」
水魔法でシャボン玉を作ってみせる。子どものころ、友達のお母さんがこれをやってくれて、とても楽しかったのを覚えている。
「お姉ちゃん凄い!!どこから出したの!?」
「うえ!?」
思った以上に食いついてびっくり。どこから出したと言われても……魔力?
「もしかしてお姉ちゃん、サーカス?炎も出せるの?」
「ほ、炎?炎かぁ〜……はい。」
ヨルの魔法を思い出して指から小さな火を出して見せた。子どもはさらに興奮し、今度は火の輪を要求してきた。
「なに?マジシャン?」
「こんな夜に?」
「ゲリラショーじゃない?ラッキーじゃん。」
ワラワラと人が集まってきてしまう。しまったどうしよう。辞めどころがわからない……
「ホシ!!」
「ヨル!」
ヨルが人混みを掻き分けてこちらへ来てくれた。よかった、これで辞められる……
「う、え?」
思ったより強い力で腕を引っ張られて、変な声が出てしまった。しかも……なんか……怒って、る?
「なに?終わり?」
「ゲリラショーじゃなかったの?」
ザワザワと聞こえる雑音の中、子どもの親が駆け寄っていくのが見えた。とりあえずそのことには安心しながら、何故か一言も話さないヨルに、人混みの無い路地に連れ込まれた。そこにはツキ、キラ、セイの全員が揃っていて、私を見るとツキがほっと胸を撫で下ろした。
「ホシ!よかったぁ、急に居なくなったからどこに行ったのかと……」
「あはは……ごめん。子どもが一人でいてさあ……」
チラッと、ヨルの方を見てみる。やはり険しい顔をしていて、怒っているのは間違いなさそうだった。
「あの……ヨル?なんで怒ってるの……?」
「なんでって……当たり前だろ?わからないのかよ。」
勇気を出して言ったのに、『わからないのかよ』。少しカチンときた。何が?わからないから聞いてんじゃん。
「なんで、あんな大勢の前で魔法を使った?」
「……え、」
それは、子どもを元気づけようとして。それは状況からわかるだろう。もしかして、人助けをするなとでも……?
「地球人に魔法の存在がバレたら、どうなるのかわかってるのかよ!もう既に、ホシの映像はネットで拡散されてる!!」
今まで困った顔で傍観していたセイが、そっとスマホの画面をこちらに向ける。
「……え、」
私の動画が、ネットにアップされていた。ハートマークの上には、何千と書かれた数字があった。つまり、少なくともすでに、何千人の人が私が魔法を使ったところを見ているということだ。
「この動画で、ディーア族に居場所がバレたかもしれない。地球人が魔法について勘づいたかもしれない。特に後車!地球に魔法の存在がバレたら、アステール国の復刻どころじゃない!ルシーン国にまで被害が及ぶんだぞ!」
「え、う、」
今更そんなこと言われたって。じゃあどうすればいいの。だって実際、そんなこと知らなかった。地球に魔法の存在がバレてはいけないことは知っていたけど、そんなに重要視していなかったというか、少しなら大丈夫だと思ったというか。結論として、今までの私の生活の中で、そんなこと意識していなかったし、意識するような状況になることもなかった。
「……だって……知らなかったんだもん。」
「知らなかったで済むかよ!バレたら取り返しがつかないんだぞ!!」
そんなに怒られても。だんだんとイライラが積もってくる。ツキもキラもセイも、その通りだ、というように何も言わない。何?私が、全部悪いっていうの?
「ヨルの、バーカ。」
色々言いたいことはあったけど、最終的に出てきたのはそんな言葉だった。もっと言いたいことがあるのに。上手く言葉にできない自分が、もどかしい。
「……ホシのアホ。」
帰ってきたのはそんな言葉。さらにイライラか積もる。
「ヨルのトンチンカン!」
「ホシのアンポンタン!」
「ヨルの頭でっかち!!」
「え〜っと……ホシのおたんこなす!!」
お互い悪口のレパートリーがなくなったところで一旦止まる。我ながら子どもっぽい言い合いをしていることはわかっているが、イライラは収まらない。
「最初に言ってくれればよかったじゃん!」
「普通わかるだろ!!地球人に魔法の存在がバレちゃいけないことぐらい!!」
普通?普通は、わかんないよ。だって、私は。
ヨルやツキみたいに王族でもない。
キラみたいに王族に使えてるメイドでもない。
セイみたいに地球に慣れているわけでもない。
ほんの少し前まで、普通に学校に行って、休日に友達と遊びに行って。
ーー普通に生活していた、ただの女の子だったんだからーー
「もういい!!知らない!!」
ついに私は、その場を飛び出した。後ろからヨル以外の三人の声が聞こえるが、無視して走った。私の持つバックの中にいるネクだけは、「あまり遠くに行き過ぎるなよ」と警告の言葉を口にした。その警告すら半分無視し、暗闇の中をどんどん遠くへ走っていく。




