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3-1:ドライバーのお仕事

 元の世界の4tトラックに相当する【輸送車】に乗って、西側の国境に向かって走る私は、異世界召喚されたオバサン【聖女】。


 池中まりあ 43歳 独身


 アホのフレディ王子に【生贄いけにえ】にされかけた後、アホの総本山である国王陛下の丸投げ無茶ぶりにより、アホ王子と共に隣国からの侵略を防ぐための交渉を任された。


 西側陸続きのローカス大帝国、東の海の向こうのリーセス国。

 両側の対応が必要であるが、国境線が首都に近い西側の国境に先に行くことにした。

 東海岸線には別動隊として偵察部隊を編成して配置。

 まずは様子見をしてもらう算段とのこと。


 今日の仕事はドライバー。

 作業服を着て【輸送車】を運転。

 助手席にフレディ王子。

 荷台には【国防軍】メンバーの3人と当面の食料を搭載している。


 原理はよくわからないが、この世界ではえらく高性能な電池が実用化されており、先日乗せてもらったジープ的な車もこの【輸送車】も電気自動車だ。


 道路舗装が不十分なので、速度は前の世界の原付程度がせいぜい。

 だけど馬車とかに比べればよほど速い。


 運転操作方法が前の世界の物に近かったので、前職クレーンオペレーターの私が運転手を引き受けた。

 20tのラフタークレーンを街中で乗り回していた私だ。4tトラックぐらい簡単だ。

 パワーステアリングが無いので、据え切りの時は助手席のアホ王子に手伝ってもらうけど。


 出発前に打ち合わせする時間が無かったから、運転しながらアホ王子に今後の予定を確認。


「王子。これから行くところはどんな所なんです?」

「国境沿いの村だ。ローンチ村という。120年前の侵略戦争で激戦区となった場所だ。【結界】崩壊により侵略が再開されたらこの場所が戦場になる」

「陸続きだから国境線は長いと思いますが、そこから来るという確証はあるんですか?」

「ローカス大帝国との国境は山岳地帯だ。地形的に往来できる場所が限られる。大部隊が侵攻できる場所はあの付近しかない。だから、少なくとも最初に攻撃を受ける場所はあそこだ」


 ちゃんと考えてるのか。

 でも、攻撃があるかもしれない場所に行くなら、この部隊編成について気になることがある。


「戦場になるような場所に行くのに、総勢5名ってどうなんでしょう。【国防軍】の主戦力を連れてくるべきじゃないですか?」

「ローンチ村は人口100人程度の山村だ。1000人規模の国防軍がいきなり押しかけても生活が出来ない。陣地展開するにしても、土地の確保、飲用水や食料、排水や廃棄物等の生活インフラの見通しをまず立てる必要がある」


 なるほど。確かに言われればそうだ。

 そこで生活できる準備をしておかないと、大部隊を派兵しても戦う前に自滅してしまう。


「ローンチ村の村長に電信で予め事情を伝えてある。村人を動員して、120年前に使用した地下要塞や、国境を超える街道跡の調査をしているはずだ」


 アホ王子と思っていたけど、出発前にいろいろ検討や準備をしていたんだな。

 案外アホでもないのかも。


「食料事情がひっ迫している中で村の人達の仕事を増やしたんだから、マリアは【結界】を壊した件、ちゃんと謝るんだぞ」


 納得いかん。このアホ王子!


 車内で幼稚な口論をしながらも【輸送車】は安全運転で西へ走る。


…………


 そして夕方。目的地に到着。


 ローンチ村。

 キャズム王国西部に位置する山村。

 人口は100人程度。

 主要産業は林業で、山の斜面を利用した柑橘類の栽培もしている。


 【輸送車】を村の集会所前広場に停めて、アホ王子と一緒に日本家屋風の集会所の玄関に行くと、ごつい中年男が待っていた。


「お久しぶりです王子。そちらの御方が例の【聖女】様ですか」

「久しぶりだな。村長。そうだ。コイツが【結界】を壊した【聖女】だ」

「初めまして。【聖女】係のマリアです」

「初めまして【聖女】様。村長のモンティナです」


 【聖女】と紹介されたから、【聖女】は名乗ってやる。

 だけど絶対に謝らないぞ。


「本当に、大変なことになりましたね王子」 チラッ

「全くだ。村長にも苦労を掛けるかもしれないがよろしく頼む」 チラッ

「まぁ、私にできることなら何なりと」 チラッ

「済まないが、事態が収束するまで【国防軍】の【少佐】を引き受けて欲しい」 チラッ

「分かりました。微力ながら、国を守るために力を尽くさせて頂きます」 チラッ


 話をしながらも二人ともなんか意味深な目線で私を見下ろしてくる。


 何が言いたいんだ。

 【生贄いけにえ】を拒否して【結界】を壊した件か?

 謝らないぞ。絶対に謝らないぞ。


 私は身長144cmのチビのオバサン。

 会社員している時も、クレーンオペレーターしている時もちっちゃいからってナメられることは多かった。

 だからこそ、理不尽な要求に一度でも屈したらろくなことにならないのをよく知っている。


 今回は私は絶対悪くない。

 いや、困った事態の原因にはなっているけど、【生贄いけにえ】にされるのを拒否したことで謝れと言われる筋合いは無い。


 ガツンと言ってやる。

 

「二人ともチラチラと私を見てきますが、言いたいことがあるならハッキリ言ってみなさい」

「作業服のズボンのチャックが開いてて、前から下着が見えてるぞ」


 ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ

●オマケ解説●


 大部隊展開前に現地の調査と下準備をするのは大事だよね。

 1000人なら、食料だけでも1日1tぐらいには必要になるし、飲用水生活用水はそれ以上に必要になる。

 平野部ならともかく山岳地帯だったら、通行ルートが限られるから、部隊展開後に道路が寸断されたら戦う前に遭難してしまう。

 【兵站】というやつですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 100人を守るための1人の生け贄をありとしているあたり、王子はちゃんと政治を執る者として、教育を受けてる、もしくは今までの経験があるんですね。 でも、まりあさんとしては確かに突然呼び出され…
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