後日談:嫁と姑のお茶会
年末近いある日の昼過ぎ。王城の医務室で、王と一緒に急患の治療に当たる私は異世界出身のオバサン。
池中まりあ 44歳 王妃(救急外科医)
【万能の拳】による【手当て】は副反応が強すぎて使いづらいものであったけど、王が私の近くに居る場合に限り副反応なしで治療ができることが分かった。
これは、【夫】を意識することで【都合のイイ話】を受け入れることができるからだと思う。
あんまり多用すべき技術ではないので緊急性がある場合に限って活用しているけど、今日は5人も急患が来た。
我が【息子】フレディ王子と、新規に就任した若手議員4名だ。
フレディ王子は肋骨5本骨折。
他4名は両肩の関節が砕けたような奇妙な外傷。
治療は無事終了し、医務室で寝ている5人を担当医に引き継いで王と私は次の予定へ。
王は、立法会議。
今日はフレディ王子がまとめた【刑法】の法案を審議する予定。
私は、久々に会うナスターシャと王城の庭でお茶する約束がある。
…………
王城の庭にあるテーブルで、息子の嫁であるナスターシャとお茶する私は、王子の母親でもあり異世界出身のオバサン。
池中まりあ 44歳 王妃(姑)
この季節屋外は寒いので私は厚着でホットコーヒーを飲んでいるけど、対面に座るナスターシャは半袖で薄手のドレス姿。
【生体核融合】をエネルギー源としている彼女は、体内に無尽蔵の熱源があるので寒さには強い。
今日は【息子】が立法会議に出席するために息子夫婦揃って王城に来る予定があったので、それに合わせてお茶会の約束をしていた。
嫁と姑のお茶会だ。
やっぱり人間って、夢が叶うとさらに欲が出てしまうもの。
ちょっと前まで独女だったけど、姑の立場になってみると【内助の功】とか【夫婦生活】とか、そして【孫】とかいろいろ気になってしまう。
さぁ、見せてもらおうか【ウチの嫁】の性能とやらを。
「今日の昼食で新しく就任した議員の方に【円満ステーキ】を提供しましたわ」
「そうなの。好評だった?」
「いぇ、それが。あまり口に合わなかったようで」
イノシシ肉はクセがあるから、苦手な人も居るかもしれない。
「それは残念ねぇ」
「しかも、なんかいろいろ文句を仰って、肉を残そうとするのです」
ちょっと前まで食糧事情が悪かったのに、豊作でそれが改善されたら食べ物を粗末にしだすのか。
料理する側からすると許しがたいことだけど、まぁ、人間なんてそんなもんだよね。
「私が育てた【獲物】の命が粗末にされたと思うと悲しくなってしまって……」
そうか。ナスターシャは自分で育てたイノシシを解体して調理しているから、余計に残されたりすると辛いんだね。
「つい、皆さんのロースの部分を砕いてしまいました」
今日の急患はナスターシャの仕業だったか!
変だと思ったよ! 転倒や転落じゃあんな折れ方しない!
両肩の関節を握り潰したんだな!
「皆さん大泣きしていましたが、最終的には【完食】していただきました」
食卓がどんな【地獄絵図】になったんだろう。
「食べ物を粗末にしないようにと、フレディ様には逆らわないようにと話をしたら、若手議員の皆さん分かっていただけたようです」
犯罪だ。一歩間違えたら犯罪だ。
嫁が逮捕されたら息子の立場も悪くなる。
姑として、言うべきことは言うべき時に言っておこう。
「今日審議している【刑法】が施行されたら【傷害罪】に該当する可能性があるから、今後はそういうことは控えたほうがいいんじゃないかなー」
「【法の不遡及】が大原則ですから今なら大丈夫ですわ。【刑法】が施行される前に、食べ物が大切であることと、フレディ様に逆らってはいけないということを周知徹底しておきますの」
ウチの嫁の【内助の功】は完璧だ。
「そういえば、その場にフレディ王子は居なかったの?」
居たなら怪我人が出る前になんとかできただろうに。
「最近気温が低くなってきまして」
相変わらず話が飛ぶなぁ。別にいいけど。
「毎晩プールの代わりにフレディ様で身体を冷やして寝ているのです」
……もうこのぐらいじゃ私の【魂】は飛ばないぞ。
グラマラスナイスバディなナスターシャと毎晩一緒に寝られるなんて、【息子】は幸せだなぁ。
「でも昨晩、フレディ様が困ったことを言いだしたので、肋骨を折ってしまいました」
【息子】の骨折もナスターシャの仕業か!
骨折で食事会欠席してたから、怪我人が増えたのか!
「何を言われたのか分からないけど、肋骨を折るのはやりすぎじゃないかなー」
「こう、抱き締める加減が難しいのです。いつもは折れないように加減しているのですが」
確かに。イノシシを殴り倒すナスターシャに全力で抱き着かれたら、身体がバラバラになるな。
「【お義母様】。骨盤を砕いてしまっても治療はできるものでしょうか」
「さすがに、腰椎とか損傷すると後遺症とか出そうだから、やめた方がいいんじゃないかなー」
「分かりました。フレディ様には、【言動】にはくれぐれも気を付けるように伝えておきますわ」
「あと、できれば、話し合いは【傷害罪】に該当しないように気を付けて欲しいかなー」
「【傷害罪】は【親告罪】ですの。【夫婦間の問題】は【家庭内で解決】が原則ですわ」
ウチの嫁は【夫婦生活】も完璧だ。
話の流れ的に気になってしまい、つい嫁のお腹に視線を送ってしまう。
【既成事実】から数カ月経っているが、中に誰か居るようには見えない。
まぁ、初期や中期じゃ分からないけどね。
「私の牧場では、イノシシの交配も進めてますの」
また話が飛んだな。
「みんな可愛い子たちですが、成熟しても種付けで【結果】を出せない雄はすぐに解体していますの」
まぁ、畜産ってそういうところあるよね。
「私は一度に3人ぐらい産みたいのですが、なかなか叶いません」
いきなりそこまで話が飛ぶのか!
がんばれ【重力】! 私の【魂】をこの地球に留め給え!
ここで跳んだら姑が廃る。
「そこで昨晩フレディ様に相談したら【お互いの問題】というので、つい強く抱き締めてしまいまして」
あぁ、それで肋骨折っちゃったのか。
確かに男女両方の問題だし、そもそも彼女の【体質】で妊娠ができるかどうかも未知数ではあるけど、それは伝え方に注意が必要な案件だぞ【息子】よ。
「5本目が折れて、骨盤を両脚で鋏んだあたりで、フレディ様は何とかしてくれると【約束】してくださいました」
【息子】よ。骨盤が無事で良かったね。
「【結果】だけが問題と念押ししていますから、フレディ様は私の願いを叶えてくれると信じていますわ」
ウチの嫁は【孫】が期待できる。
「でも、毎日そんなんじゃ、息子は疲れていないかなー」
実際どうかはわからないけど、【母親】としてちょっと心配。
「大丈夫ですわ。疲れている時には、首筋を撫でながら【辛いなら楽にしてあげましょうか】と励ましたら、すごく元気になってくれますの」
……。
「あれほど素敵な【プロポーズ】をしてくれたフレディ様ですもの。誰もが認める【世界一の男】になれなければ、生かしてはおけませんわ」
…………。
本当に、男ってやつは、なんでどいつもこいつも一生分の【借り】を作るような事をしでかしてしまうのか。
あの田中もそうだった。
私が交際を断った日の夜に、傷心の勢いなのか1年後輩の事務員の山崎さんに【既成事実】をしてしまい、一生分の【借り】を作った。
そして、その場で5年以内に年収800万到達を拒否権無しで【約束】させられ、ダントツの出世頭になってマジで達成し、そのまま結婚。
今は課長をしているけど、これは事業部間での取り合いの結末だ。
3つの事業部をまたいで8つの課の課長を兼務し、直属部下だけでも34名と部長以上の仕事を残業無しで回す超人で、年収は確実に部長級以上。でかいマイホームに住み子供は9人も居る。
ちなみに旧姓山崎さんは物静かで優しい女子だけど、空手の有段者。
本気を出したら田中ぐらいは秒殺できる。
でも、それはそれでいいんじゃないかなと思う。
【英雄色を好む】とも言うし。
それに、【息子】については自業自得だ。
自分を殺そうとした相手と一緒に居るのがどんな気持ちか、しっかりと学んでもらおう。
今度こそ、もう私が殴る必要は無い。
生き延びることができたなら、世界一の王になるだろう。
そして、この世界の歴史に名を遺す偉人になるだろう。
ウチの【息子】は将来楽しみだ。
●あとがき
ご愛読ありがとうございました。
まぁ、女性の婚活って若さ(残り時間)が全てって言うところあるから、どんなに頑張っても時間が経つほど不利になるという残酷な現実あるよね。
そうなっちゃう原因としては、20代だと同世代の若い男が【幼稚】に見えて仕方ないというのもあるのかもしれない。
でも、男というのは、結婚をすることで苦労して、苦しんで、妻に苦労させられて、苦しめられて、シバかれて、追いつめられて、突き落とされて、引きずりまわされて、【真の男】になっていくものである。
そういう【地獄】を未経験な未婚の若い男が【幼稚】に見えるのは当たり前だ。
だからこそ、【幼稚】な中からも若くて鍛えがいのある【材料】を見抜いて、確保して、鍛えて、シバいて、苦しめて、追いつめて、突き落として、自分用の【最強の夫】を作っていくのが【女子力】なのだろう。
まぁ、女性は若いうちに【材料】を確保した者が勝ち組ってこった。
トンデモな物語にお付き合い頂きありがとうございました。
そして、…… いろいろ ごめんなさい。
※この物語はフィクションです(笑)