8-1 王妃のお仕事
アホ王子を殴るという悲願を果たし、ついでに王から求婚を受けて【玉の輿】に乗ったことで、ギロチン台から解放された私は、異世界出身のオバサン。
池中まりあ 44歳 有頂天
さっきまでアホ王子への逆襲で頭がいっぱいだったけど、そのアホ王子の姿が見えなくなったことで自分の【結婚】の方に意識が移り、有頂天で会場内を走り回っている。
20代から密かに憧れ続けた【結婚】。
【奨学金】を返済してからとかいろいろ考えて保留したけど、32歳になってから【結婚相談所】に初めて行って知った絶望的な現実。
幾度となく参加した友人の【結婚式】で味わった【取り残された感】。
すぐ近くにあるように思えても、どうやったらたどり着けるのか全く分からない【葛藤】。
成果は出なくても、歳を重ねるごとに不利になるという婚活の絶対的ルールからの【焦燥感】。
【交際】って何だー!
【求婚】って何だー!
【結婚】ってどうやってすればいいんだー!
そんな人生を生きてきた私にも、ついに【運命の出会い】が!
【ギロチン台に乗っている時に王から求婚】
ファンタスティックかつ、最高にロマンチックなプロポーズで、私は憧れの【既婚者】となる!
最高だ!
【王妃】って、職業かなー。
だとしたら、【共働き】ってことになるのかなー。
しかも、【息子】まで付いてきた。
年齢的に子供は産めないから家族はあきらめていたけれど。
バツイチ子持ちの男を狙えば、可能性はあったんだ。
手に入れた!
欲しかったものを手に入れたぞ!
「アヒャヒャヒャヒャー! 私は勝った! 人生に勝ったぞ!」
ズダダダダダダダダダダ
「私こそが勝者だ! これで、世界は、私のモノだー! アヒャヒャヒャヒャー!」
ズダダダダダダダダダダダダダダ
ガシッ 「はうっ!」
「まぁ、落ち着け」
国王に上から頭頂部を掴まれて取り押さえられる私。
「【王妃】の立場で【世界征服】みたいなことを言うもんじゃない」
「はい。ごめんなさい」
国王に常識的に説教される。
確かに【立場的にマジで危ない問題発言】だ。
危うく【王妃(覇国軍師)】疑惑を作るところだった。
落ち着いて会場内を見渡すと、参加者の皆さんは走り回る私をスルーしつつ、協力して会場内を【即位式】から【結婚式】にセットし直していた。
部屋の真ん中には既にバージンロードぽい絨毯があるので、それの両脇に折り畳み式の椅子を並べて、チャペル風の配置にしている。
バージンロード風通路の奥に置かれた宣誓台ぽいものの前で、ごつい男達が3人集まってじゃんけんをしている。
こっちの世界でもじゃんけんあったんだ。しかもルールは同じっぽい。
3人の中でローンチ村のモンティナ村長がじゃんけんに勝った。そして、村長は宣誓台の中から【神父】ぽい服を取り出して羽織った。
それ、じゃんけんで決めるんだ……。
部屋の隅では、研究室メンバーが私が固定されていたギロチン台を掃除している。収納ついでの整備なのか、降ろした刃の部分に丁寧に防錆油を塗って磨いてるけど、ソレもう捨てませんか?
国王は私の頭頂部を掴みながら会場内を静かに見ている。
手が重いから放してほしいんだけど。
この王。老け顔で恰幅の良いオッサン。アホ王子と同じでわりと長身。
老け顔は気になるけど、まぁ、イイ男だ。
コレが私の夫か。
玉の輿で異世界余生。悪くない。
メイドのミナが私の方に来た。
「マリア様。化粧直しですよ。衣裳部屋でドレスを選んでください」
そうか。
【結婚式】だから、ウェディングドレス的なモノもあるのか!
…………
王城の衣装部屋で、服飾担当のメイド3人に囲まれて、四つん這いになって落ち込む私は、身長144cmのチビのオバサン。
池中まりあ 44歳 新婦@ドレスが無い
元の世界と違って布とかがそこそこ貴重なので、衣装の仕立て直しや使いまわしは普通にしているこの世界。
歴代王妃様や、王族令嬢等が着ていた正装が良好な状態で多数保管されている王城2階の衣裳部屋。
だけど、チビの私に合う服が無い。
身長160cmと170cmなら、体格にもよるけど長さ方向で直しを入れればある程度対処できる場合もある。
だけど、身長144cmの子供体型にもなると、大人用の服は型紙ベースで別物なので、多少の直しじゃどうにもならない。
「あ、あの。マリア様。こんなのはどうでしょうか」
メイドのミナが出してきたのは、子供用の魔法少女風コスプレドレス。
スク水並みにラインが出る上半身に膝上20cm丈の【パン●ラ】前提の超ミニスカートを組み合わせたようなもの。
確かにサイズは合いそうだけど、44歳のオバサンには装備できる代物ではない。
アラフォーの生足なんて汚物ですよ。
笑いをこらえながら【危険物】を持ち出してきたメイド3人を、足腰立たなくなるまで追いかけまわしてやった。
持久走は得意だ。
まだ若い者には負けん。
…………
サイズの合わない華やかな衣装を無理矢理着るぐらいなら、今着ている【聖女】ぽい服でいいやと納得。元々私の【正装】として作ったものだし。
バテたメイド3人を衣裳部屋に放置して1階の会場に戻ってきた。
それっぽい飾りつけは進んで【結婚式場】が出来上がりつつあった。
式の後の【宴会】に時間を合わせるから、開始までそれほど時間が無いらしい。
モンティナ村長とクレス軍曹が国王に【進行表】の説明をしていたので、私もそれに加わる。
即席だけど、長年夢見た自分の【結婚式】。
異世界転移してるから友人呼べないのは残念だけど、私は私の幸せを満喫しよう。
バターン
「待て!」
会場の扉が開いて、フレディ王子の声。
帰ってきたのか。
扉の方を見ると、逆光を背にフレディ王子ともう一人。
ナスターシャだ。
「この会場、私がもらい受ける。私とナスターシャの【結婚式】だ!」
仕返しでコテンパンにされて敗走したと思ったら、女連れで逆襲に来るとは。
我が【息子】ながらなかなか逞しい奴。
だが、知り合いの女を連れてきていきなり結婚式とは、発想が幼稚園児並みだ。
いいだろう。もう一回コテンパンにしてやる。
【結婚】は簡単じゃない。
【結婚】は簡単じゃない。
【結婚】は簡単じゃない。
大人の人生の難しさを思い知れ!
「王子。知り合いの女性を連れてきていきなり結婚式とか、それは子供の発想ですよ。結婚は子供がするものじゃありません。結婚とか言い出す前に、まずは大人になりなさい」
「【既成事実】を済ませてきた!」
「【初体験】でしたわ」
ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
●オマケ解説●
小柄な人用のドレスも作れるんだろうけど、その場に無いんだとしたら即席で準備は難しい。スカートミニ丈にしてごまかす技もあるけれど、アラフォーでそれは痛いとか。
まぁ、平均外体型の方々はいろんなところで苦労しますわ。




