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6-2:テーブルを殴った

 プールの中から出てきた【猪狩いのがりのナスターシャ】と一緒に食材を確保した後、今日の夕食の調理を手伝う私は、異世界召喚されたオバサン【聖女】。


 池中いけなかまりあ 43歳 独身


 今日のメニューはステーキだ。

 肉の調理はナスターシャ嬢。私は味噌汁的なスープと、ポテトサラダを準備。主食がないけどいいのかな。

 スレンダー長身グラマラス美人の【ヒロイン】を見上げながら雑談。


 トントントン サクッ サクッ


「ナスターシャさんはここで一人で住んでいるんですか?」

「私は【体質】の関係で穀物を主食にすることができないので、肉が必要だったんです。でも、今この国では畜産はほとんど行われていません」

 なんかこのむすめ、微妙に話が飛ぶなぁ。まぁ、いいけど。


「そこで、野生のイノシシが生息している山が近いこの農園の管理を任されました」

 あぁ、そう繋がるんだ。


 シャカシャカシャカ ボタボタ


「いつもあんな感じでイノシシを獲ってるんですか?」

「ええ。あの【狩り】が出来るようになったのもフレディ様のおかげですわ」

 あのアホ王子! 一体このむすめにナニさせてるんだ!


「もちろん最初は怖かったのですが、フレディ様はコレを私にくださいました」

 彼女がポケットから取り出したのは【銃】。てのひらサイズの【小型銃】。

 【銃】あるんじゃん。でも、なんか彼女の持ち方がおかしい。


 コトコト グツグツグツ 


「コレを持っていればできると、フレディ様は私を励ましてくれました」

 いや、持っているだけじゃダメでしょ。


「最初は何度も失敗しました。返り討ちにされて大怪我もしました。でも、私を救ってくれたフレディ様ができると言ってくれたんだからと、それを信じて何度も挑みました」

 信じることも大事だけど、そこで疑問を持つことも大事だと思うよ?


 トントントントン サクッ トントン


「でも、最初は小さい【獲物】を狙ったんですよね?」

「いけませんわ。成長余力のある小さな生命は【価値ある生命】。殺してはいけません。生かしておいてもこれ以上美味しくならないぐらいに成長した【獲物】を狩ることが大切ですわ」

 つまり、最初から大物狙ったのか。

 私が言うのもなんだけど、そんな無茶苦茶してよく生きてたな。


「初めて【獲物】を仕留めた時の感動は、今でも忘れられません」

 そして、やり遂げたんだ……。


 シャーコ シャーコ ジュゥゥゥウ


「背中から首にしがみついた私を振り落とそうと暴れる【獲物】の【命】を、私の腕の中で仕留めた瞬間。一度は死の淵から落ちかけたこの私の【命】が【捕食者】に格上げされたと感じまして」

 しがみついた人間を振り回すぐらいの大物を素手で仕留めたのか。そしてそこで何かに目覚めてしまったのか。


「もうあの時は、嬉しくて嬉しくて。初めての【獲物】を抱きしめて一晩中貪りましたわ」

 しかも喰ったのか! 生で喰ったのか! 彼女は本当に一体何なんだ!


 サクッ サクッ


「取り出した肉でフレディ様にステーキをご馳走したら、とても喜んでもらえました。初めての【狩り】の成功を褒めてもらえて、すごく嬉しかったです」

 あのアホ王子。どうやって仕留めたか知ってるのか? 多分思ってたのと違うぞ。


「【獲物】の肉や骨を食べ続けたことで身体も大きく強くなり、より大きな【獲物】も仕留めることができるようになりました。強くなっていく私を見てフレディ様も喜んでくれました」

 どういう風に強くなっているのか、あのアホ王子把握しているのか?


 ジュージュー


「できましたわ。フレディ様の大好物のイノシシ肉ステーキです」

「わぁ、美味しそう。テーブル拭いてきます」

「お願いしまーす」


 気になることはいろいろあるけど、せっかくのステーキ定食だ。冷めないうちに食べよう。アホ王子は何処に居るかな。


…………


 リビングで居眠りしていたアホ王子を叩き起こして、ダイニングのテーブルに集合。3人で楽しくて豪華な夕食。ナスターシャ嬢作のイノシシ肉ステーキは絶品だった。

 いつぞやの【本場のボルシチ】を思い出す。

 

 片付け後、3人でコーヒーを飲みながらしばし雑談。


「ナスターシャの【円満ステーキ】は絶品だな」

「ありがとうございます。フレディ様」

「すごく美味しかったけど、そのメニュー名は一体何?」


「ああ、私は王族の仕事の一環で争いごとの仲介を求められることもあるのだが、当事者達をここに連れてきてあのステーキをご馳走すると【円満解決】するんだ。だからあのステーキを【円満ステーキ】と呼んでる」

 その【円満解決】の裏に何かがあるとは思いませんか? 王子様。


 ナスターシャ嬢が可愛らしい笑顔で私を見ている。


 ふと、婚活中の出来事を思い出した。

 交際期間中のデートで【漁船】と【漁港】についてやたらしつこく聞いてくる男が居た。職業は新聞記者とのことだから、ただの職業病かなと思って【本場のボルシチ】の話ではぐらかしたら携帯電話に着信。

 断りを入れて席を離れて電話に出たら、【非通知設定】からの【無言電話】。不審に思いつつも席に戻ったら、お茶代を残して男は消えていた。

 再び会うことは無かったけど、噂では【行方不明】になったとか。

 

 大丈夫。私は口は固いほうだ。


「分かります王子様。美味しいもの食べたら争いごとなんて小さな話と思いますよね。肉料理が珍しいこの国で、ナスターシャの手料理食べたら、そりゃぁ【円満解決】もしますよ」

「そうだろう。そうだろう。ナスターシャは最高なんだ」


「以前、水を燃料にしたエネルギーシステムを生体に導入する技術の話をしただろう」

「そういえば、そんな話がありましたね」

 【常温核融合】を応用した【生体核融合】に相当する何か。試作品があると聞いていたから、私もちょっと楽しみにしてた。

「ナスターシャはその技術研究の成果なんだ」

「!?」

 微生物や動物かと思っていたけど、まさか人間に適用してたのか! なんということを!


 まさかの【害獣駆除対応原子力駆動型撲殺解体系ヒロイン】


「生体内のエネルギーを水で作り出すことができるから、食事も呼吸も無しで活動ができる。無呼吸で動けるから息切れもしないし、泳ぎも得意だ」

 泳ぐのが得意な知り合いって彼女の事か!


「無尽蔵のエネルギーを体内で生成できるから、理論上は常人を超越した筋力や負傷回復力を持つことが可能だ。まぁ、安全性の問題はあるから、その方向の検証は今後慎重に行うつもりだが」

 王子様は知らないかもしれませんが、既に大成功していますよ。


「でも、夏場は冷却が追いつかないし、寝ている間は発熱量が増えてしまうので、普段は冷却用のプールの中で過ごしていますの」

 あのプールは冷却用か! 会った時にプールから出てきたのはそういう理由か!


「確かに今のところ問題点もある。体組成の耐熱は常人と同じだから熱中症になりやすい。あと、身体維持に必要な栄養を摂るために食事は肉を食べないといけない」

 ああ、何となくわかる。生きるためのエネルギーとして炭水化物はいらないけど、体組成を維持するためにはタンパク質は不可欠だから、【糖質制限】的な栄養バランスが必要になり、つまり肉食が必要と。


 これが【肉食女子】か。


「食肉の流通が少ないので、最初は苦労しましたわね」

「そうだな。あの頃は私も重要な研究で忙しかったし、ナスターシャの存在をあまり人に知られたくなかったからな。狩猟と食肉加工用の機材を用意して、自分で頑張ってもらったんだったな」

 王子様。その時渡した機材の使い方、ちゃんと説明しましたか?


「フレディ様ができると言ってくれたのを信じてがんばりましたわ」

「そうだな。自分で【狩り】が出来るようになってからすごく元気になったな。病弱だったナスターシャが元気になってくれて私も嬉しかったぞ」


 あの時の事を思い出す。

 今思えば、【パスポート】取得歴が無い私が【本場のボルシチ】の話をしたのが【アウト】だった。

 命が大切なら常日頃から発言内容には注意が必要だ。世界が変わってもそれは変わらない。


 今まさに生き残るための【大人の話術】が試されている。


「どうだマリア。すごいだろう」

「すごいですね王子様。ナスターシャは王子様にとって大切な存在なんですね」


「ああ、彼女は私の大切な 」 「万能のこぶし!」 ドバキッ

●オマケ解説●


 【生体核融合】とは【常温核融合】の応用で、細胞内の発電所であるミトコンドリアにカーボンナノチューブ製の核融合炉を搭載し、軽水素同士の核融合エネルギーでATPを産生するシステム。


 発声のために見かけ上は呼吸しているけど、酸素は使ってない。僅かにヘリウムを吐いている。

 無酸素で活動できる利便性はあるけど、熱効率が若干悪いので普段の放熱が主な悩み。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スレンダー美女ナスターシャさんと体内での常温核融合のギャップが面白いですね。 確かに核融合炉持ってたら、銃は必要ないですね。 ヘリウム吐いていると言うことは、少し声が高いのかなと想像してし…
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