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5-1:癒し手のお仕事

 リーセス国軍海兵隊のクレス軍曹の救援要請に応える形で、浜辺に乗り上げているリーセス国海軍の【揚陸艦】の病室にて患者の容態を見る私は、異世界召喚されたオバサン【聖女】。


 池中いけなかまりあ 43歳 独身


 揚陸艦乗員24名と、海兵隊員203名の合計227名。

 そのうち、動けるのはクレス軍曹含めて6名。

 私が生き埋めにされている間に発病者が増えたそうな。


 作戦行動能力は完全に喪失し、艦の病室は重傷者18名で満床。

 【揚陸艦】の広い貨物室に毛布を敷いて、軽症者を休ませている。

 完全に病院船だ。


 とにかく動ける人が少ないので、アホ王子もクレス軍曹と一緒に患者達に【経口補水液】を配っている。


 私は、重傷者としてベッドで横になる艦の軍医から事情聴取。

「症状がひどくてつらい所を申し訳ありませんが、この病気に心当たりはないでしょうか」

「……あぁ、リーセス国内では近年あまり例が無いが……。過去の資料に記載があった【感染症】と状況が近い」

 まぁ。【感染症】であることは私にも何となくわかる。リーセス国であまり例が無いなら、治療法も当てにできないか。せめて、症状を緩和する薬剤でもあれば。


「この艦の医務室に、症状を緩和できるような薬品は搭載していませんか?」

「……あります。施錠された赤いキャビネットに、自決用の毒薬が」

「ゆっくり寝ていてください」


 病人になった軍医は当てにならない。

 とにかく安静にして、大人しくしていてもらおう。

 薬があったとしても、私は医師免許は無いから処方ができない。


 前の世界で読んだファンタジーでは、【聖女】と言えば【回復魔法】のパターンが多かった。病人怪我人だらけの病室を一気に治療してたりもしていたなぁ。


「エリアヒール!」


 何となく言ってみたけど、何も起きない。

 やっぱり、そんな【都合のイイ話】は無いか。


「マリア。さっきのは一体なんだ?」

「!?」


 アホ王子が病室に戻ってきていた。そして、見られていた。

 まぁいいや。今は叫んでいる場合じゃない。ちょっと作戦会議だ。


…………


「えっ。【万能のこぶし】で【回復魔法】できるんですか?」

 私の左手の取れないグローブ【万能のこぶし】に、意外な機能が。


「まぁ、【回復魔法】とは呼ばないが、その【万能のこぶし】の基底にある技術は、適性者のイメージを具現化するという物だ。今は詳しくは話さないが、マリアができると信じれば病人の治療もできるはずだ」

「イメージを具現化するって、なんでもアリじゃないですか。本当に【万能のこぶし】なんですね」


「いや、今は詳しく話すのは自重するが、【万能】というわけでもない。でもマリアは間違いなく適性はあるから試すことはできるはずだ。一度試せば分かると思う」

「技術話を自重することもできるんですね」

「マリアに技術話をすると大変なことになるからな」


 ちょっと前の【艦砲射撃】の件か。確かに私が原因といえばそうだけど、ちょっと解釈違ってないかな。

 まぁいいか。


 この状況を何とかしなくてはいけないのは確かなので、試してみることにした。


 ヲタだから妄想イメージは得意だ。

 【回復魔法】で病人を癒す。【癒し手】のイメージ。

 最初に試すのは微妙に物騒な軍医。


 寝ている軍医の心臓のあたりに左手を当てて、【回復魔法】的な何かを身体の中に流し込み、病気を一気に全快させるイメージ。

 病人を癒す【手当て】だ。


 なんかできそうな気がする!


「病原・退散!」

 

 何となく思いついた掛け声で【万能のこぶし】が金色に輝く。

 そして


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 寝ていた軍医が絶叫と共に飛び起きてもだえ苦しむ。


 あれ?


 なんか思っていたのと違う。


…………


 数分間の間、断末魔の悲鳴を上げながらベッドの上をもだえ苦しみのたうち回った軍医。

 涙と鼻水とヨダレで、ベッドの上をぐちゃぐちゃにして、まるで【胃カメラ】の撮影が終わった後のような御様子。

 35歳以降の会社の健康診断で受診する【胃カメラ】。口からワイヤーのようなカメラを胃の中に入れて撮影するが、あの苦しみは経験した人でないと分からない。

 

「あー、治療していただきありがとうございます。申し遅れましたが、私は軍医のテクス少尉です。情けない話ですが、真っ先に発病して最初に重症化してしまったので、部隊を守ることができませんでした」


 顔を洗ってきた軍医ことテクス少尉が普通に話してくれる。

 顔色はいい。治療は成功したようだ。

 だけど、ちょっと怯えた目線で私を見るのはやめて欲しい。心が痛む。


「私はキャズム王国の【聖女】係のマリアです。治療が成功してなによりです」

「あぁ、助かりましたが、さきほどの治療法は一体何なんでしょうか。医者の私ですら経験したことが無いほどの激しい神経痛、筋肉痛、悪寒、頭痛、吐き気、めまい。短時間ではありましたが【拷問】を超越するひどさを経験しました。【時の涙】が見えた気がします」


 それで、私を怯えるような目線で見るのか。

 治療は成功したのに。

 まぁ、創作物の【聖女】みたいな【都合のイイ話】は無いってことか。


「これは、自然回復までに感じる苦痛を短時間に凝縮することで回復を早める治療法です。苦痛もなく病気がすぐ直るような都合のイイ治療法なんてありえませんよ。そんなの出来たらお医者さん全員失業じゃないですか」

「あぁ、なるほど。そういう治療法ですか。よくわかりました。使いどころは難しいですが、今みたいに自然回復を待てないような状況下で、訓練を受けた軍人相手に使用する場合は有効ですね」


「分かっていただいて助かります。できれば、治療する患者の選定と、治療計画の指揮をお願いしたいのですが」

「分かりました。軍医としてしっかりと務めさせていただきますので、ご協力よろしくお願いします」


 良かった。この流れで治療に協力すれば、先制攻撃の件もチャラにできそうだ。


 テクス少尉が病室内を巡回しだしたら、病室の出口あたりでこちらに手招きしているアホ王子が見えた。なんか呼んでいるようなのでそっちに行く。


 アホ王子に廊下に連れ出されて、小声で話しかけられる。

「マリア。私はその技術の研究をしているから分かるが、その【しばり】に必然性は無いぞ」

「えっ? じゃぁ【苦痛】なしで治療ができるモノなんですか?」

「マリアができると思えばできるはずなんだが」

「うーん。でも、そんな【都合のイイ話】ができる気がしませんが」


 取れないグローブ【万能のこぶし】に意識を集中してみる。

 でも、やっぱりできる気がしない。


「それは、マリアがそう深く思い込んでるからだ」

「思い込み?」

「【都合のイイ話】なんてありえないと固く思い込んでることはないか?」

「確かに、それはあるかもしれません」


「無限の可能性を持つ技術を手にしても、自分に【都合のイイ話】をここまで頑なに拒否してしまうとは。そこまで心がすさむほどにひどい人生を歩んできたのか。前の世界では苦労したんだな。マリア」


 ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁ

●オマケ解説●


 自分だけは大丈夫と思って、40代の独身オバサン達は若いハイスぺイケメン狙いで婚活を続ける。でも、それが実現するほど【都合のイイ話】はあり得ない。

 男にだって人権はあるんだよ。


 でもまぁ、人生長く生きていると【都合のイイ話】が転がり込んでくることも無くはない。そんな時にはチャンスをモノに出来るように、日頃からポジティブ思考で生きていたいよね。


 現実世界には独喪女にスパダリ溺愛なんてあり得ない。そんな中でもポジティブに生きる嬢ちゃんを描いた作品がこちら。


 野田あご様 「崖っぷちシリーズ」

 https://ncode.syosetu.com/s6792h/

 (池中まりあの原点がここにあります)

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