4-3:そして生き埋めへ
「あの、王子様。僭越ながら申し上げたいことがあります」
「なんだ。言ってみろ」
「何故、無実の罪を着せられて散々罵倒された私が、首まで地面に埋められているのでしょうか」
「……生き埋めにされる理由に心当たりは無いか?」
「14歳の頃に、雨上がりに中州で遊んでいたアホな暴走族を避難させようとしたら、案の定急に増水して、背の低い私だけが流されてしまった件でしょうか」
あの後、【不死身のマリア様】と呼ばれて彼等に崇拝されたのはいい思い出だ。
更生して会社を興した彼等はレジャー用の安全用品で多数特許を取得して、不況の中でもニッチな市場で堅実に儲けていたなぁ。
でも、【マリア・サバイバル】のブランド名は勘弁してほしかった。
「雨の後に川の中州に入るのは関心できんな。その対応は適切だったと思うぞ。そして、今回はその件ではない」
「では、その時に海まで流されて【漁船】に救助された後、【漁港】に連れていかれて、帰宅するまで二カ月以上かかってしまった件でしょうか」
洋上で【潜望鏡】に引っかかった私をダイバーの人が剝がしに来たので、必死でしがみついたら無茶苦茶驚かれた。
その後、素潜りでエアロックに引き込まれて【漁船】の艦内に連れられて船室に軟禁された。
身振り手振りで会話しながらあちらの言葉も覚えて、数週間で【漁港】に到着。
そこの食堂で掃除や皿洗いの手伝いをしながら一カ月ほど過ごした。
そこでいろんな人に会って、いろいろ教えてもらった。
帰るときに【漁港】の職員さんと【大使館】の人達に、あの船は【漁船】であの港は【漁港】と念押しされたので、あれは【漁船】であそこは【漁港】なんだろう。
帰り際に奢ってもらった【本場のボルシチ】は絶品だった。
「海に流されて、船で助けられるというのは奇跡に近いぐらいの幸運なんだぞ。【熊殺し】の件といい、マリアはものすごい強運持ちだな。でも、その件でもない」
いつもの流れをやってはみたものの、今回は本当に頭に来ているのでこのへんで切り上げることにした。
「不適切発言に逆上して、【電磁加速砲】一式を粉砕してしまった件でしょうか」
「それだ」
若造共の【不適切発言】に逆上して【万能の拳】を振り上げたら、空から謎の稲妻が降り注いで荷物集積場所にあった【電磁加速砲】に命中して爆発。皆で吹っ飛ばされて土まみれになった。
その後、初対面のはずのフレディ王子とクレス軍曹が、見事なコンビネーションで爆発で出来た穴に私を素早く【埋め立て】して今に至る。
「マリア、さっきのとんでもないモノは一体何なんだ」
「【女の怒り】です」
実は私にもどういう原理で何が出たのか分からない。
でも、出した理由は分かってる。
「えー、確かに失礼な発言だったとは思いますが、やりすぎじゃないでしょうか。キャズム王国の女性は皆そうなんですか?」
「それだけでこんな無茶苦茶をするのは、いくら何でも短気だぞ。人生経験豊富な年長者じゃないのか?」
失礼だぁ? それだけだぁ?
若い頃の無理がたたって43歳で既にそういう状態になっている私に対して、あの言葉は【心の逆鱗】そのもの。失礼では済まない。
女を怒らせるとどういうことになるか教えてやる若造共。
「だったら二人とも、
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■/* 男心を傷つけるひどい言葉の数々 */■
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とか言われてもなにも思いませんか?」
「「申し訳ありません! マリア様!」」
涙目で土下座の若い男二人。当然だ。
コレは私の秘密兵器【口撃力】。
今の私はチビのオバサン。だけど、昔はチビの若い娘だった。
身長144cmのチビで貧乳で【アニメ声】の若い娘。
一部の特殊性癖男性陣から見れば【合法ロリ】そのものだ。
社会人になり交友関係も広がる中で、そういう目で見たり、そういう風な扱いをしてくる人も多かった。
自覚はある。明るい所で普通に話しかけてくれるなら、そういう扱いでも別に良かった。
でも、一線を越える困った男も稀に居た。
そんな男から身を守るための【口撃力】。
容赦なく相手の男心を折る、精神破壊系奥義。
容赦が無いのは【怖い】から。
【熊殺し】の異名があっても、正体はチビの若い娘だ。
勝手に職場特定して残業帰りの夜道で待ち伏せしていた男に、偶然を装って【家まで送ろうか】とか言われるのが、チビ娘にとってどれほど怖いか分からんアホにかける情けは無い。
本当に怖いのそういうの。
男の人達分かって。お願い。
合法ロリの屈託のない笑顔とアニメ声で【口撃力】をぶちかましてやったら、相手の男が【心療●科】送りになってしまい、【裁●沙汰】になりかけた。
事態を察知した田中が先輩女性社員達に話をつないでくれて、彼女達の支援で【弁●士】に相談。最終的には、私が【慰●料】を受け取る形で【和解】となった。
当時は【●護士】スゴイと思ったものだが、【円満解決】の裏側で田中がス●ーカーになりかけていた相手の男を【拳で修正】していたのを知ったのはずいぶん後になってのことだ。
相手の男は改心して脱サラし、【弁護●】になって【ストー●ー被害】の相談窓口として活躍しているとか。
ひどいことをしたくは無かった。
普通に明るい所で話しかけて欲しかった。
サプライズもモテ要素もいらないから、なにより怖がらせない配慮が欲しかった。
【ヲタ趣向】が近いことは知ってたから、普通に話しかけてくれれば【ヲタ仲間】になれたのに。
十数年ぶりに【口撃力】を披露したら、若い頃のしょっぱい経験を思い出してしまった。
まぁ、チビで長く生きているとこういうこともある。
そして、土が冷たい。
更●期の身体が冷える。
生き埋め状態が辛くなってきた。
若造共が土下座状態で震えているが、そろそろ掘り起こしてもらおう。
「者共、面を上げい」
「「ははーっ!」」
女を怒らせてはいけない。女を怖がらせてはいけない。
とっても大事なことですよ。
●オマケ解説●
マリアは何処の国まで行っていたのやら……。
海の男は溺者を見捨てることはできないようです。
初対面の女性を相手する時は、まず怖がらせないように気を付けよう。
変なことをしてトラウマ植え付けると、【高齢独女】に進化して、将来社会保障を圧迫してしまうかもしれませんよ。
※この作品はフィクションです(笑)