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4-2:武器を殴った

 リーセス国軍が上陸した東部第一海岸と、自軍陣地にした最寄りの村を繋ぐ洞窟要塞の隅っこにて、1人しゃがみこんで人懐こい蝙蝠こうもり達をでる私は、異世界に【聖女】として召喚されたオバサン。

 仕事頑張ったのに、軍師をクビになったオバサン。


 池中いけなかまりあ 43歳 独身


 軍師を解任するというアホ王子の宣言を聞いて、思わず飛び出してしまった。


 軍師になりたかったわけじゃない。そもそも任命された覚えもない。だけど、女だからという理由で仕事から外されると心の古傷が痛んでしまう。


 産業機械メーカーの事務員として新卒入社し、総合職に抜擢されて、皆の期待に応えようと頑張った20代。そして、その生き方に限界を感じた30代。

 あの時の寂寥感がこみ上げて、なんとなく歌いたくなる。


 何かと音が響く洞窟内。

 若い頃はカラオケ好きだった。


 この蝙蝠こうもりだらけのステージで、【アニメ声】と言われた地声を全開にして、やるせない気持ちを表現してやる。



 ●女の職歴は涙の歴史

  作詞・作曲:マリア with 蝙蝠こうもりだらけ

  歌:マリア with 蝙蝠こうもりだらけ


   仕事も給与も男と同じ

   20代なら職場の華だ

   腰掛け扱いされまいと日々日々精進

   だけど三十路で職場のやみ

   残す気がないなら募集をするな

   総合職への女性採用


   チームでダントツ仕事量

   質も速さも負けてない

   女だからと言われぬためと日々日々努力

   だけど出世は男が先に

   する気がないなら最初から言うな

   女性の積極役職登用


   出張も異動もなんのその

   体力ハンデは地道に効くが

   女だからと言わせぬためと日々日々辛抱

   だけど現場は男が主役

   無理というなら候補にするな

   途上国への単身赴任


 私の【アニメ声】全開パフォーマンス。

 蝙蝠こうもり達が応援してくれているような気がする。

 ついでに、心の叫びも上げてみよう。


「クロワッサーン!」

 

 クロワッサーン……

  クロワッサーン……

   クロワッサーン……


 洞窟内に反響する。

 少し心が晴れた。


 さて、傷心のあまりアホ王子を置いて飛び出してしまったが、これからどうしたものか。

 そう思ったら、背後の洞窟入口から足音。


「マリア! ここに居たのか。探したぞ!」

「……王子様。なぜここが?」

「よく通る声で変な歌がはっきりと聞こえたぞ」


 ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁ



「すまなかったマリア。でも、軍師を解任したのは、女だからという理由じゃないんだ」

「どういう意味ですか?」

「異世界由来の戦術知識やあの状況下での冷静な状況判断力。マリアが軍師として経験を積んだら、国を滅ぼし世界を牛耳る【聖女(覇国軍師)】に進化しそうで怖かったんだ」


 そういえば、逆さ宙吊りにされた時に【こんな国滅びてしまえ】とか叫んだっけ。

 【聖女(覇国軍師)】疑惑もやむなしか。


「この状況を何とかするための作戦は考えてみたんだが、やっぱりマリアが居ないと細部がどうにも固まらなくてな」

「王子はどんな作戦を考えたんですか?」

「持ってきた武器の中に水中でも使える爆弾がある。それで船底を爆破して沈めてしまおうと」

「えーと、どうやって、その爆弾を敵艦の船底まで運ぶのでしょうか……」

「泳ぎの得意な知り合いがいるんだ。そいつを連れてきて、爆弾をもって崖から飛び降りてもらって、水中を泳いで船底に爆弾を取り付けさせる」


「王子様!」

「どうしたマリア?」


「二人で力を合わせて、作戦をいちから考え直しましょう!」

「力を貸してくれるか! ありがとうマリア!」


 裏方でもいい。必要とされるならそれで……。


◇◇◇


 私の【アニメ声】パフォーマンスをアホ王子に聞かれてしまった3日後の朝。

住人の避難が完了した村で、上陸したリーセス国軍の状況を監視しつつもダラダラする私達。

 状況は動いていない。


 上陸部隊は【揚陸艦】を乗り上げさせた浜辺に陣地を構築し、周辺の捜索を続けている。捜索範囲は広がっているが、進捗は遅い。

 なんせ地形が険しい。それに、浜辺にはかつての戦争で使われたと思われる洞窟要塞の通路の出口が多数ある。地雷等の罠や奇襲攻撃を警戒して慎重に捜索するのはよくわかる。


 実際は何にも無いんだけど。


 地の利を活かした戦術を考えようと、【国防軍】1000人の一部動員についてアホ王子に聞いてみたら、求人中だけど人が集まっていないとか。

 なるほど。1000人というのは、募集枠でしたか。


 本気出したらこの国簡単に征服できそうな気がする。


 そして今日も村の集会所の宿泊施設を借りて寝泊まり。保存食で朝食を済ませて作戦行動開始。


「じゃ、そろそろ偵察行ってきます」

「頼むぞマリア。私は芋の世話をするから畑の方に居る。何かあったら報告頼む」


 洞窟や山影からの偵察は私の仕事。裸眼視力がいいのと、チビで身軽なところが偵察向きだ。即席で作った【迷彩マント】で林に溶け込み遠目で敵情視察。

 王子は、避難した村人に頼まれた畑の世話。水やりぐらいだけど、食料事情が悪いこの国ではとても重要な仕事だ。


…………


 いつもの経路を巡回しようと、洞窟要塞に入ったら【白旗】を持った敵兵とばったり遭遇。

 若い男だ。風貌は黒目黒髪の日本人風。


「えーと、あ……、キャズム王国の方でしょうか。言葉通じますか?」

 私も驚いたけど、相手も驚いている様子。


「……はい。言葉は大丈夫です。私はキャズム王国の【聖女】係のマリアです」

「あー、私は、リーセス国軍海兵隊のクレス軍曹です。救援要請をお願いしたく参りました。そちらの部隊の責任者のところまで案内をお願いします」


 船とか旗とかに描かれていた文字がこっちと共通だったから、言葉は通じるんじゃないかと思ってたけど、普通に会話できてよかった。

 向こうから対話に来てくれたのはありがたい。救援要請とのことだけど、うまく対応して先制攻撃の件をチャラにしなくては。


…………


「部隊の大半が体調不良だと?」

「えぇ、そうなんです。上陸時点では全員健康だったのですが、上陸して陣地を構築し、周辺の捜索をしているうちに、一人、二人、と高熱を出して倒れだして……」


 クレス軍曹を連れて畑に行き、畑仕事を切り上げたアホ王子と一緒に集会所に集まる。

 集会所前の機材集積場所にパラソル付きテーブルを置いて、3人でコーヒーを飲みながら事情を聞く。


「えー、昨日までは寝込んでいたのは4人だったのですが、今朝急激に増えまして。動ける人数が10人しか残らなかったので、9人に看病を任せて私が救援要請に来た次第です」


「上陸後に急に高熱を出すなんて……上陸地点に何かあったのかしら」


「!! まさかマリア!」

「何です王子?」


「偵察ついでに海岸線に毒や病原体を散布したのか!?」

「してないわよ!」

「えっ! まさか【生物兵器】ですか!? そんな非人道的な!」

「マリア! もう【聖女(覇国軍師)】に覚醒してしまっていたのか! 人道を忘れたのか!」


 私は何もしてないし、そんな物騒なものに覚醒してないし、私を【生贄いけにえ】にしようとした王子に人道を語られる筋合いは無いし。


「この覇国軍師!」

「非人道的! 残虐非道!」

「高齢独女!」

「低身長!」


 この若造共。調子に乗って好き放題言ってくれる……。

 でも先制攻撃の負い目がある。それをごまかすために我慢だ。

 オバサンの大人の心で我慢だ。

 【それでも私はやってない】の心だ。


「「更●期!」」


「万能のこぶし!」 ドバキッ

●オマケ解説●


 女性総合職は【職場のやみ】への入口。

 男と対等の収入は魅力だけど、競争相手ライバルを嫁にしたがる男は居ない。

 抜擢されたとしても、そこに一度入ってしまったなら【職場結婚】への道は閉ざされてしまう悪魔の誘い。


・外回りから帰ったとき、伝票処理とかしてくれる事務員さん。

  →嫁イメージ〇


・同じ枠内で考課を競い、賞与原資を奪い合う総合職の女性。

  →嫁イメージ×


 「そんな【弱男】は願い下げ」と、強がる女にえて言おう。

 強い男ほど、こだわります。これは男の【習性】ですよ。


 それを知ってか知らずか、出会いに恵まれたなら良妻賢母になれたであろう優秀な女性ほど、周囲からの期待に応えて【職場のやみ】に堕ちていき、そして、アラフォー喪独女としてんでいく。

 そんな哀しさを、蝙蝠こうもり達と歌おうぜ。


※この作品はフィクションです(笑)


 作中歌の「女の職歴は涙の歴史」を作曲AIであるSUNO AIに歌わせてみました。やっぱりかなりひどいです。

https://ncode.syosetu.com/n2174io/

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