プロローグ
「居たぞ! 【聖女】召喚成功だ!」
「何! 何処に落ちた!」
「ゴミ箱です! 既に【手袋】が付いています!」
クレーン作業中の事故で死の危険を感じた。
と思ったら、仰向けで金属製の床に転がっていた。
金属製の壁に囲われていて、外側から騒がしい声が聞こえる。
壁の上から人の頭が出てきた。若い男のようだ。
「おお! よくぞ来てくれた。言葉は分かるか? 名前を教えてくれ」
「……マリアです」
「マリアか! 私はフレディ。この国の王子だ」
覗き込みながら若い男が声をかけてくる。
王子というのはよくわからないが、なんか変なことが起きたのは間違いない。
「召喚早々に申し訳ないが、【聖女】の仕事を頼みたい」
「仕事があるのはいいのですが、私が居るこの容器は一体何なんでしょうか?」
「あー……。異世界人をもてなす為に特別に用意した、頑丈な金属製の器だ」
聞こえてたよ。さっき誰か【ゴミ箱】って言ってたよね。
そして、工事現場を職場にしていた私には、もうコレが何なのか分かる。
「そうですか。私の職場ではこのような容器を【産廃コンテナ】と呼んで、工事現場で廃棄物を集めるために使っていましたが」
「そうか、そっちの世界でも同じように使っているのだな」
やっぱりこれは【ゴミ箱】だったか。
そして、ここは異世界らしい。
ちなみに私は日本人。
でも、とっさに名乗った名前は本名だ。
池中まりあ 43歳 独身
婚歴ナシ転職歴アリ。最終職歴はクレーンオペレーター。
婚活敗者のお先真っ暗アラフォー独身女。
仕事はしてるけど、育児はしてない社会のお荷物。石潰し。
元の世界に【不要物】と判断されたのか、異世界の【ゴミ箱】に放り込まれてしまった。
おかげで命拾いはしたけれど、こっちの世界の方々はこんなオバサンを【聖女】呼ばわりで召喚して一体どうするつもりだ。