異世界と混じり合った世界で
それは異様な光景であった。日本の首都であるために膨大な乗降数を誇る東京駅。
その通路にまるでRPGから飛び出してきたような鎧やローブを纏った一団がおり、真に迫った姿からはコスプレイヤーの類には見えなかった。身につけている剣や斧はどう見ても真剣だ。
一団が周囲を困惑気に眺める様子からは敵意の気配は感じ取れなかったが、周辺の群衆はゆっくりと距離を取っていく。
相手を刺激しないためだ。日本人も今や平和ボケして居ない。命に危険をもたらしかねない危険があればそれを目ざとく察知し,回避しようとする。
そんな中、東京駅を警邏していた鉄道警察隊の警察官が一団に接触しようとする。警察官は、青色の制服の上に特殊繊維製の防弾・防刃ベストを羽織っていた。
警察官の体は極度に緊張していた。これから接触しなければならない相手は本物の武装集団だからだ。相手の正体は、ファンタジーな世界から迷い込んだ冒険者、もしくは傭兵か国軍の兵士だろう。
願わくばと接近しながら警察官は相手の集団が強大な戦闘能力をもとうと善良でまっとうな性格の主であることを望んだ。それなら平穏な接触が期待できる。もしくは暴れても魔術加工済みの9mmパラペラム弾で十分殺害できる相手であってほしい。
もし相手が強大な戦闘能力の主かつ善人であっても癖のある性格の主であるため誤解から衝突に繋がるような相手や凶暴な相手ならば最悪だろう。自動拳銃程度で制圧できはしない。
そんな存在が相手だろうと鎮圧されるだろうー既に警察官は脳内にインプラントされたナノチップを介して鉄道警察隊の事務所に急報を知らせている。更にそこからの通報で今頃は警視庁の強力な魔術加工済みの強化外骨格を有するエマージェンシレスポンスチーム(緊急即応部隊)をはじめとする特殊部隊、警視庁に属する身体能力、霊能力,魔術に秀でた警察官が即応待機しているはずだ。
大幅に増強されている首都圏の陸上自衛隊も歩兵部隊どころか戦車部隊や二足歩行大型機動兵器も出動準備しているだろう、当然超自然的存在に攻撃が通用する措置は施してある。
だから相手との間に衝突が起きようと鎮圧されるだろうからそこは安心できるが、警察官は大人しい相手であってほしかった、大規模な武力鎮圧や異能力バトルが行われる状況になった場合警察官本人と大勢の乗降客は死んでいるからだ。
鎮圧自体はできるから安心と言っていったが、最悪鎮圧できない可能性すらある。
ちくしょう,神めと警察官は毒づく。その悪態は複数の神が確認された今となっては無意味だったが,毒づかずにはいられなかった。
何故地球、それも地球全域に無数の異世界から人や物が迷い込むような事態を起こしたのだと。
その現象がなぜ起きるのかは今もって判明していないが、数十年前から地球に異世界から様々な物が迷い込む現象が生じている。それは人類に高度な科学技術力や正真正銘の魔法などをもたらす福音でもあったが、同時に災厄でもあった。
地球上に存在する生物よりも遥かに強力な身体能力や特殊能力を持つ生物の出現、異世界人と地球人との間の身体能力・特殊能力を持つ故の差、その名前を冠する生物ではなく正真正銘の異世界の神や悪魔の出現、実は地球にも存在していた超自然的存在の活発化。
これらの影響により国際情勢は悪化し幾つかの国は亡国と化したし,国の体を守った国でも治安の悪化などが深刻な問題と化している。これらはまだ可愛い方で異世界の優れた兵器技術を手にしたならず者国家が領土の拡大に成功し、人権思想を持つ先進国が極端な差別主義や生存のためなら何をしても許されるという思考に染まったものもいる。
日本は懸命な努力と異世界からの産物を元に持ち堪えていたが、地球は黄昏の時代を迎えていた。
たとえそんな時代だろうと警官は治安維持という義務を果たすつもりだー警官は国籍,市民権こそ日本であるものの純粋な日本人ではなくエルフである、それも日本に帰化した二世目だ。
異世界から人やものが流れ込んでくるという事態の初期であるために体面を優先して仕方なくという面もあったにせよ、日本に数十人規模で迷い込んだ警官の両親や知り合いを日本は受け入れてくれた。
警官の属するエルフを受け入れてくれた日本に恩を返すために警官は警察の義務を果たす。