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01.婚約破棄は突然に



ーーー『ごめん、本当に騙してたとかじゃないんだけど、言うタイミング逃しちゃって。結婚のこと聞いてこなかったからさ。あ、指輪?あれは誕生日プレゼントみたいなもので…俺的には結婚したいぐらい好きだったんだ。本当だよ』


 あの、意味不明な弁解ツラツラの電話が掛かってきたのが丁度今から一週間前。私が恋人だと思っていた彼氏様はどうやら既婚であったらしい。指輪まで貰って、夜景の見える観覧車でプロポーズ受けたはずだけれど、あれらはすべて私の妄想だったのだろうか。


 だとしたら確実に精神科に行った方が良い。



「……とにかく会って話さなきゃ」


 マッチングアプリで出会って二年付き合った彼氏にフラれたのはつい先週の話。遠距離恋愛だったけれど、私が会いに行ったり、向こうが来たりで何とか円満に続いていると思っていた。最近、横浜でデートした時には「良ければ将来を考えてほしい」と指輪まで貰ったのだ。


 誕生日プレゼントみたいなもの?

 私の誕生日はまだ数ヶ月先だ。


「それにしても、東京の道難し…!」


 勢いで車を飛ばして名古屋から飛んで来たは良いけれど、高速道路を降りて新宿に差し掛かったあたりでハンドル捌きに一抹の不安を覚えるようになった。めちゃくちゃに人が多いし、車の量も半端ない。


 よく名古屋走りなんて言って、愛知は車のマナーがなってないと言うけれど、そんなの可愛く思えるぐらいだ。逆走する自転車のスレスレのところを爆音を響かせたホストクラブのトラックが走り抜ける。


 元恋人の名刺に書かれた住所まであと少し。



「……っひ、あああ!?」


 大通りを曲がって小道に入ろうとした瞬間、赤になった信号を無視して個人宅配サービスの自転車が突っ込んで来た。避け切れずに対向車線にはみ出してしまい、向かってきた黒い車がアップになる。


ーーー“ガシャンッ”


 鉄板が衝突して凹む嫌な音がした。

 思わず目を閉じる。


 ぶつけた。完全にぶつけてしまった。しかも、見知らぬ街で。やっぱり頭に血が昇っていると冷静でなんか居られないのだ。こんなことなら新幹線で来ればよかった。


 恐る恐る目を開ける。エアバッグは開いていないので、そんなに大きな衝突ではなかったかもしれない。少し安心したのも束の間、相手の車の方を見て身体が固まった。


 車のボンネットの上に立つあのマークは…

 とんでもない相手にぶち当ててしまった焦りで、卒倒しそうになりながらも何とかドアを開けて外へ出た。


 向こうの車からも数人の男が出て来て、衝突した箇所を確認している。



「……あの、お怪我はないでしょうか!?」

「ああ。ここじゃ場所も悪いんで付いてきて」

「………はい」


 黒髪長髪ポニーテールの男に早口でそう言われて、私は大人しく頷く。交通事故を起こした場合は、損害賠償の量刑の関係から、当事者間の話し合いで謝罪すべきではないと聞いたことがあるけれど、あれは本当なのだろうか?今回の場合、完全に私が悪いのですが。


 走り出すベンツを追い掛けながら、胸は爆発しそうなほど騒がしい。長年死守してきたゴールド免許とも今日でお別れになる。ああ、新幹線で来ていれば……


 黒いベンツは有料の駐車場で停止した。

 隣に駐車して、慌てて運転席を降りる。



「あの、私初めて事故を起こしたんですが、こういう場合はどうしたら…!?」


 既に車から降りていた男たちは顔を見合わせた後、後部座席の扉を開き、中に問い掛けた。


「白秋さん、どうします?女だけですけど」

「そうなんだ。じゃあ、連れて行こうか」

「……え?」


 わけが分からないまま、背中を押されてシートの上に倒れ込む。後部座席には既に若い男が座っていた。外で待機していた男たちから白秋と呼ばれていたのは、この男らしい。


「あの、いったいどこへ…?」

「うん。着いたら分かると思うよ」


 そのまま男は眠たそうに欠伸をして目を閉じた。


 自分の置かれた状況が非常に宜しくないということは分かる。冷や汗どころか本気で泣きそうになりながら、身を縮こまらせていると、足元に転がった白い箱につま先が当たった。


 目を向けると、小型のクーラーボックスのようなものが置いてある。車の振動に合わせて小さく揺れる箱をよくよく観察すると、箱の淵にどす黒いシミがついているのを見つけた。



「………血!?」


 瞬時に車内が静まり返った。

 ルームミラー越しに運転手であるポニーテールの男が私を睨み付ける。疑いは今、着実に確信に変わりつつあった。高級車にガラの悪そうな男たち。事件性のある箱。


 これは、かなりのアンラッキー



「気付かないフリとか出来ないんだ?」


 隣に座る白秋という男の穏やかな声に振り向くと、腹部に激痛が走った。殴られたのだ、と分かった時にはもう既に私は意識を手放していた。



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