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月夜の晩の事でした
ポロロンポロンと鍵盤叩く
家鼠達は鍵盤叩く
刺繍の趣味は無いのですが
縫わねば全く進まぬと言う
チクチクチクリと縫うて行く
豪奢な花びら描いて見せる
ゆうらり日暮れも近づて
ランタン明かりが明るくて
夕ご飯のスゥプの湯気が
隣の家から聞こえてくる
日差しはすっかり沈み切り
月がとっくり浮かぶ夜
月が見えぬと言われた男が
心が痛いと言うて纏う
一張羅の天鵞絨のマント
上手く行く事ばかりでは
無いと言うのが道理だが
夢見るだけはつまらぬので
ちぃくちくと刺繍する
鮮やかな花は牡丹のようだ




