第1話 ~名もなき少年~
走る足音。絶え間ない悲鳴。銃弾の嵐。ここは戦場だ。弱き者は死に、強き者は生き残る。そういう場所だ。ただ、そんな中、敵陣真ん中を駆け抜ける少年が1人いた。
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斬る、斬る、斬る。 斬る、斬る、斬る。
「………ふぅ」
目標100体破壊の訓練を終え、一息つこうとしたとたん、顔をしかめた。緊急出動要請のアラームが鳴ったからである。
俺は現在、イカーサ町というところに住んでいる。今は何をしていたのかというと、戦闘訓練である。俺は町の義勇軍に所属しているため、戦闘訓練はつんでおかなければならない。
ではなぜ義勇軍があるのかというと、隣町、ガー湖市に怪物が突如出現したからである。ここは都市圏なので国の軍もあるが、各市町村長がお国のためと義勇軍を募ったのだ。
「またか……」
俺はポツリとそう呟いた。今のアラームは義勇軍の召集アラームで、ここ1週間で3回も呼ばれている。いや多すぎだろ、バイトかよ……
愚痴のひとつこぼれてもバチは当たらないだろう。
「………行くか」
この際、怪物を蹴散らして憂さ晴らしにでもしてやろうかなどと考えながら、俺は出撃に備え荷造りを始めた。
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「全く懲りないなこいつらも………」
大して強くもない怪物どもを蹴散らす変わらない光景に飽き飽きしていた頃
「………!?」
俺は明らかに今までの奴らとは違う気配を感じ取った。
「撤退、撤退ーーー!」
「急げ! あいつにやられるぞ!」
一方国の軍はなにやら問題が発生しているらしい
「なんで…なんで『能力』持ちがこんなところにいるんだ……!」
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終焉戦争
この戦いが後に国の明暗を分ける戦争になることを、まだ誰も知らない………
「何、だ、これ、は」
俺は目の前の光景に絶句していた。国の軍の戦闘員の死体が大量に転がっていたのだ。怪物と言っても、あいつらはさほど強くない。突進に注意していれば、苦戦する相手ではない。
ではなぜ───
「おやおや、まだこんなところに人がいるなぁ?みたところ弱そうだなぁ。」
「!?」
突然、背後から声がした。声の主を見て、もう一度驚かされる。奴の体には昆虫のような足が生えていたのだ。さらに、胴体も蜘蛛のようになっている。 一体、こいつは───
「ケケッ。一体お前は誰なんだって顔してやがるなあ。答える義理はねえが、マア冥土の土産ってやつだ。教えてやる」
奴はそう言うと、声高らかに放った。
「俺の名はリキル。天帝軍の軍曹にして『毒蜘蛛』の異名を持つ、『能力』持ちだ!!」
『能力』
それは、限られた人しか持たない、特殊な力。生まれながら持った者やモデルとして作られた人工的な能力もある。この国の軍はほとんどが後者でできている………らしい。
うわさ程度にしか聞いていなかったが、まさか敵軍にも能力持ちがいるとは。
「俺は天帝軍の軍曹として、今からお前を」
リキルは6本ある足に力を込め、
「殺す!!!」
そう宣言し、こちらに猛スピードで突っ込んできた。
しかし俺を舐めてもらっては困る。俺は少しだけ本気を出すことにした。
「我流 一文字 抜剣『灯籠流し』」
そう、俺だってただがむしゃらに訓練していた訳ではない。今回のような対人(?)を想定して訓練しているのだ。
「がはっ! 貴様、只の一般人じゃねぇな? 良いだろう、こちらも全力で行かせてもらう! 『毒針飛ばし』!」
成る程、伊達に軍曹と言うだけある。一撃では倒れなかったか。オマケに能力まで使ってきた。何かはわからないが、取り敢えず弾いておこう。
「我流 乱切り 『籠目籠目』」
俺はリキルの放った針のようなものを全て叩き斬った。
「な、なに! 何が起こった! なぜ『毒針飛ばし』で麻痺していない!」
どうやら奴には俺の技が見えていなかったらしい。リキルは毒蜘蛛というだけあって蜘蛛の能力になっているのだろう。そのせいかあまり目がよくなさそうだ。軍曹の割には実力が足りない気がするな。能力に頼りすぎていたのだろうか。
「……もう怒った。貴様には我が奥義で仕留めてやろう。食らうがいい! 『蜘蛛巢毒地獄』!」
リキルは大量のクモの巣を飛ばしてきた。しかもクモの巣は毒つきというオマケつきで。
これでは先刻のように斬っては毒が自分にかかってしまう。だが、
「俺が斬るだけだと思うなよ」
俺は右方向へ全力でダッシュした。
「!? ど、どこへ行った!?」
俺は瞬きひとつの間にリキルへの背後へと移動し、
「『夜空の剣先』」
「がはぁ!」
奴の弱点と思わしき部分を正確に斬った。
「く、そ、今日の、ところは、見逃して、やる。次、は、おぼえ、てろよ!」
リキルはありがちな捨て台詞を吐いて逃げて行ってしまった。逃げ足の速いやつだ。
すると、背後から、複数の足跡が聞こえてきた。
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「総司令官!」
「どうしたの?まさか、被害拡大でも起こった?」
「いえ、むしろその逆です。軍でない何者かが天誅軍軍曹『リキル』を単独で退却させました。討伐まではいかなかったようですが……」
「ええ!? 天馬君達じゃないの!?」
「は、はい。どうやら中将殿が到着したころには1人の少年だけがいたと……」
「その少年君、名前は、能力は」
「いえ、それが………『名前は捨てた』と少年は言っているそうで………さらに能力も保有していないと………」
「!? ほーう? それは面白い。私もその少年のところへ向かう。ついてきなさい!」
「総司令官!? ちょ、ちょっとまって下さい!」
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「………あなた、何者ですか?」
「それはこっちのセリフだ」
俺はリキルを退散させた後、遅れてやって来た軍の少年らしき人とご対面していた。
「申し遅れました。ぼk……私は天誅軍中将、『天馬カグラ』と申します。改めて聞きましょう。あなたは何者ですか?」
成る程、中将だったか。おそらくリキルは軍曹だったから、こちらは格上を出してきた感じか。
「俺はイカーサの義勇軍の者だ」
「義勇軍の方でしたか。失礼ですが名前は?」
「生憎だが、俺に名前は無い」
「!? そんなことはない、義勇軍の名簿の数は確かに一致していたはず…」
「あれか。あれは捨て名だ。」
「な…」
そう、俺には名前が無い。いや、正しくは自分の名前を捨てた、というべきか。
「あら、天馬くん。口ぽかーんってさせちゃって。どうしたの?」
「うわっ! ……って総司令官!」
突然ヌッと目の前に現れた女性。どうやら総司令官らしいが…………
「この子が例の少年君?」
こちらを振り返ったその女性は………
「!?」
「ふふっ。初めまして……………かな?」
第2話へ続く───────────────
あとがき(キャラ雑談)
※本編とは関係ありません
?)少年君すごいじゃない!軍曹レベルを『能力』無しで勝っちゃうなんて!
少年君)その少年君って呼び方止めてくれませんか………おい筆者、俺の名前少年君にすんじゃねぇ叩っ斬るぞ
?)そういえば君の技名に統一感ないね?
主)漢字だけだと筆者のネーミングがね…
?)おいもーちょっと頑張れ筆者君。私のもひどくなったら許さないわよー
筆)…………努力します