第19話 デート!
「そういえば、自己紹介なんかはしてなかったよね?」
車の中で、いちろうさん。
マスターと客としての関係上、私も少し前に積極的になるまでは、名前を知ってるだけだった。
「改めまして、神崎一郎です。仲間からは、何故か、ジンさんと呼ばれます。大学卒業したての23歳、喫茶店と、別に小さな会社を一つ経営してます。」
実は、もう知ってますと、心の中で呟く私。
「香坂綾乃です。」
まだ、テンパってる私。
お店の裏口から出てすぐの駐車場から、銀色ピカピカのセダンタイプに乗り込んだ私達。最新型ではないものの、クルマ好きの方がよく選ぶような国産高級車だった。
「車、お好きなんですね?」
話題に詰まって、たまたま知っていた車だったので問いかける。
「へえ〜、詳しいのかな?」
「父がクルマ好きで、綺麗に乗っている人はクルマ好きで信用出来るって言ってました。あと、今の車を買う時に、この車が最終候補に残ってましたので、知ってました。」
話してから、あっ、しまったかな〜と思った。だって、この車、イッセンマンエンイジョウスルカラ!
ということは、私の素性が……。
名前聞いて、わかってしまったかも。
「これから行くところなんだけど、」
明らかに、さっきの私の話はスルーしてくれたようだ。
「あそこ!」
彼が指差す先には……。
隣町のショッピングモール併設遊園地にある、田舎街には不釣り合いな大きな観覧車があった。
ここは、地元民定番のデートスポット。
そして観覧車には、よく聞く、有りがちな伝説があって、チョッピリ期待する私だった。