第10話 喫茶店を始める前に その2
連絡を受けた日の夕方、祖父から事情を聞けた。
体調が思わしくない事。
店の入っている雑居ビルが売却予定で、オーナーから立退きを打診されている事。
従業員の横領が発覚した事。
体調については、療養して貰うしかない。
横領については、祖父の意思を尊重するものの、私が今回の事業売却でお世話になった弁護士に相談する事に。
問題は、立退きだった。今すぐではないものの、祖父が復帰しても帰る場所が無いのでは意味が無い。明日以降、時期を見て私が地主様と接触してみる事になった。
幸いな事に、もしビルを丸ごと売却して貰える事になっても、対応出来るだけの資金が私には有る。
翌日以降私が色々動いた結果、横領した従業員は解雇の上損害を全額請求。
祖父は情けを掛けたかったようだが、長期間に渡り金額も大きかった事から弁護士のアドバイスの元、刑事告訴しない代わりにこの条件になった。
横領の内容は、コーヒー豆の横流しと売上金の一部を毎日懐に入れていたという、単純な手口だった。
横領の件で一番苦労したのは、税金の修正申告だった。税務署からすれば、脱税以外の何物でもない。ここは、私の先輩税理士に丸投げして頑張って貰った。
喫茶店は、一時休業する事に決まった。
横領従業員が居なくなると、体調が思わしくない祖父一人では立ち行かない事は明白だったから。
ある程度見通しが立った後、喫茶店入居ビル四階に住んでいるオーナーに、ビル売却と立退きの打診の詳細を尋ねる事にして、弁護士を通して連絡を取った。