趣味、ラジオ
夏のホラー2022投稿用
私の趣味はラジオです。
こう言うと、まずみんなから変な顔をされます。
それはまあそうでしょう。
ラジオを聞く、なら分かります。
アマチュア無線の免許をとってとか、ネットで個人のラジオ配信をするでも分かります。
でもラジオだけだと困惑するしかありませんもの。
でもそうとしか言えないのです。
私が随分長く愛用しているのは、3000円だったか4000円だったかする、ポータブルラジオ。
電源スイッチ以外に、受信する周波数と音量を調節するダイヤル、AMかFMかを切り替えるのと簡単な音の出力モードを切り換えるスイッチ。
それだけしかない、並列で単3電池2.5本分ぐらいの大きさしかない、なんともアナログで簡素な電池式ラジオ。
そこらのラジオより拾える周波数帯が少しだけ広いのが、微かな自慢。
それにこれまた古くからある、有線イヤホンを接続して準備完了。
これを夜道に持ち歩いて、本来なにも聞こえないはずの周波数に合わせて、ゲリラ放送や他国の言語にしか聞こえない謎の会話とかを拾うのが趣味。
このアングラな、真っ当じゃないナニカを見付け出すのにロマンを感じて、面白く思ってしまうのです。
ちゃんと合っていない周波数ではノイズがひどいですが、それが逆に秘密のものを探り当てる為の雰囲気作りに丁度良くて、気分が盛り上がります。
つまりそう言ったモノに触れられたくなくて“趣味がラジオ”と言葉をぼかすのです。
~~~~~~
さて本題です。
普段は外を出歩いて怪しい電波を拾っているのですが、今日は何の気まぐれか私自身の部屋のベランダで拾ってみようかなと、思い立ちました。
眼下には生活道路が整備されていて、なんかやたらとゆっくり走って……歩いて? いる車とかも眺めながら。
…………あー、はい。
住んでる場所は一軒家で、私の部屋は2階ですので。
(ん~、プライバシーの為にぼかした方が良かったかな? まあ話に関わってくるし、いいや)
普段は歩きながらですから、ながら歩きしないよう周波数を固定して歩き回るのが普通です。
が、今回は動かないですので、代わりにあらゆる周波数で何か聞こえないかなとダイヤルをいじり回していました。
するとですね。 唐突に襲われました。
襲ってきたのは、電波の共振と呼ばれる大絶叫。
あのマイクとスピーカーを近付けると起きるアレですね。
それを聞いてしまって、思わずイヤホンを耳から外して退避。
少し経って、イヤホンから漏れ出てくる小さな音にハウリング音が交ざってないのを恐る恐る確認してから、イヤホンをかけ直して耳をすませます。
……よくやるな、ですか? いえいえ、実はこのハウリングって正解にたどり着いた証でもあるんです。
何かの電波を受信したって事にもなりますので。
それで受信する周波数の繊細な微調整をしていたら、やっぱり聞こえてくるんですよ、怪しい音声が。
ざざざーとか、きゅいいぃぃいいぃいとか、きーーーーとか言うノイズに紛れて。
なんとか音声を拾おうと、
[わた…(ザ)…し…(ザザザ)…ムリーさん…(ザザザザザザ)…]
なんて女性の声が聞こえてきました。
すごいですよね?
ラジオ電波で名前を少しだけ変えて、都市伝説のモノマネしてるって。
しかも何度も同じ音声が聞こえて、繰り返し言っているんですよ。
それでしばらく、小さく笑ってしまいました。
それで笑いがおさまってきた頃、ノイズに紛れている声までなんとか拾い、聴いてみたんです。 すると。
[わた…(ザ)…し…(ザザザ)…ムリーさん……今あなたの家の玄関にいま…(ザザザザザザ)…]
血の気が引きました。
なんとなくでベランダから見える玄関を見たら、本当に女性の人影がありました。
玄関に灯りはありますが、逆光なのか見えるのは人影だけ。
ただまあ、都市伝説で良く聞く本物みたく、いかにも人形って感じの人形では無いのです。
だから名前を少しだけ変えたのかな~なんて、混乱する中でも頭をよぎったり。
血の気を引かせながら頭がゴチャゴチャと変な考えを巡らせていましたが、それは玄関の呼び鈴音で中断されました。
ええ。 ムリーさんがチャイムを押したのです。
私は動けません。
あんまりにもあんまりな事態ですので。
それでもこの展開を見届ける位はできます。
なのでじっと人影を見ていたのですが、玄関からお母さんが対応に出ました。
……………………ちゃんと対応出来ている以上、あの都市伝説の人形では無いようです。
では何なのかと訊かれても、見ているだけでは分かりません。
あ、あの人影がお母さんと家に入った。
もしかしたらお母さんの知り合いだったのかな?
そう思いながら先ほどの一連のナニカへの疑問は捨てて、次の怪しい周波数を探しに、慎重な手つきでダイヤルを回します。
~~~~~~
あれから8分位でしょうか。
今日はもう怪しい電波が拾えませんでしたので、この辺で止めようかなと思い始めた頃。
私の部屋の扉が急に開いて、お母さんと誰かスーツ姿のピシッと決まった格好良い女性が入ってきたのです。
それでお母さんからは何もなく、その女性が人差し指を口に当てながら、小声で話しかけてきました。
「夜遅くにすみません。 わたくし、武利産業の者でして、この部屋から盗聴器と思われる電波が出ている様ですので調査に来ました」
血の気が引きました。
わた(く)し、むりいさん(ぎょうのものです)
蛇足
盗聴器
誰が仕掛けたかは未設定。
女友達かも知れないし、年頃の娘を心配した家族かも知れないし、はたまた全く関係無い誰かが忍び込んで仕掛けたのかも知れない。
大分前で法が改正とかされていなければ、自分が聞いた話では、盗聴そのものは違法じゃないとか。
でもそれを録音とかして記録すると違法になると。
今もそうかは保証しないので、信用はしないで下さい。
それと、盗聴自体は違法じゃなくとも、人間として決して褒められる行為ではないと自分は思います。
武利産業
盗聴電波を探して、有料で見つけて取り外す押し掛け調査員が所属する会社。
なぜ探偵事務所とか興信所とかじゃないのかと訊かれても、電気工事とか電化製品とかの仲介営業がメインの所だからとしか……。
それの新人教育の一環。
飛び込み営業の度胸をつける目的。
普通の営業では大抵失敗して社員の自信に繋がらないから、こうしてみては?
とかってノリで始まった。