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花束を君に  作者: アレン
菫の章
18/18

8

 広場を埋め尽くす程の人々は皆同じ方向を見上げ歓喜の声を上げている。その目線の先にはお城のバルコニーで男性と女性、そして若い青年が笑顔で手を振っていた。


「すごい歓声だね」

「年に一度の大きなお祭りだからね」


 少し離れたところで眺めながら呟いた私に、黒斗が答えた。


「せっかくならもっと近くで見られたら良かったんだけどね」


 ポリポリと頬をかいた黒斗に、私は「そうだね」と頷いた。


「おい、こんな所で油売ってねぇで早く行くぞ」


 後ろで朝緋が呆れたようにため息をついた。振り返ると、マントを羽織った朝陽とその横に同じようにマントを着た2人が立っていた。


「そうだ。どうしてこのタイミングで出発しているかを忘れたのか?」

「分かってるってば」

「ふん。ほらサッサっと行くぞ明日香」


 手を差し伸べてきた小さな手を私は握り返して笑った。手の主、紫翠君も満足気に微笑んだ。


         ♢ ♢ ♢


 銀さんと話をした後、待つように言われたけど思ったよりもその時間は短かった。

 その日の内に私達は王妃様に呼び出された。部屋へ行くとそこには王妃様の他に紫翠君と知らない男性が2人いた。私は彼らが誰か分からなかったけど、朝緋と黒斗の反応からかなりヤバい人だということは感じ取れた。


「ねぇあの男の人達誰?」


 隣の朝緋に耳打ちすると、彼は「王と第1王子」と小さく答えた。その言葉に一気に緊張してピッと背を伸ばす。

 私達が座ったのを確認して、王妃様が口を開く。


「話は巫女から聞きました。明日香さん、貴方は破滅の巫女だそうですね」

「はい……」

「そして朝緋さん、そして紫翠が獣者であると」

「ぎんさ、巫女様との話で恐らくそうだろうと」

「そうだな。近年の魔物の暴走や言い伝えだの存在だと思われた黒の支持者の存在。これらを加味して破滅の巫女が現れてもおかしくない状況だ」

「そうですね。この者たちが嘘を言っている、と決めつけてしまうのは性急でしょう。それに紫翠の話もありますし」


 第1王子が紫翠君の方へ目線を向ける。頷いた彼に王子は少し微笑んで頷き返し王の方を向いた。


「王、巫女の言うように彼女を破滅の巫女として封印の為獣者を探しだすべきだと思います」

「そうだな」


 王は腕を組み、ふぅと息を吐いた。


「しかし、探すことを支援する事は出来ない」

「ど、どうしてですか?!」


 立ち上がって声を上げた紫翠君に、王は目線だけで彼を諌めて私を真っ直ぐ見た。


「勘違いしないで欲しいが、君が嘘を言っていると思っているわけではない。だが、破神や破滅の巫女について民衆はただの言い伝えやおとぎ話程度にしか思っていない。それを国が公に動いてしまえば、話が真実であり世に破滅が近づいていると知れ渡り、混乱を招いてしまう」

「あ……」


 そうか。街で話を聞いた時も、皆ただの言い伝えだって本気にしていなかった。それを国が破滅の巫女が現れたから獣者を探すのを手伝う、なんて知れ渡ればどうなるかなんて明白だ。


「では何もしない、と?」


 王妃様の問いに王は首を振る。


「紫翠」


 呼ばれた紫翠君がビクリと背を伸ばして王様の方を向く。


「はいっ」

「お前に破滅の巫女と共に獣者の捜索を行うことを命ずる」

「え?」

「紫翠はまだ公に出ていないので顔がしれていない。共に行動しても王子だとはそうそう気づかれないだろう。だが王子を同行させる条件として護衛を一人付ける。そして行動を逐一報告し何かあれば手を回す、というのでどうだろう」


 王様は口角を上げた。

 王様の言い分は公に手伝えないけど、王子を同行させる事で護衛と何かあった時の手を出す口実にする、という事だろう。

 紫翠君の方を見ると、彼は強く頷いてきた。覚悟を決めた目に私も頷き返した。


「分かりました。よろしくお願いします」


         ♢ ♢ ♢


 私達は広場を後にして馬車乗り場へ向かった。お祭りの間に行けば人が少ないだろう、という黒斗が提案してくれたのだけど、言葉通り御者さん以外はいないみたいだ。


「手続きをして参りますので少々お待ち下さい」


 そう言って駆けて行ったのは紫翠君の護衛として旅をすることになった椿という女の子だ。彼女は私と同い年くらいで、護衛としてとても優秀だと紫翠君が太鼓判を押していた。


「さて、と僕はジオに戻るとするよ」

「え?!」


 手を頭の後ろで組みながら言った黒斗の言葉に、驚いて彼を見る。


「黒斗帰っちゃうの?」

「まぁずっと店を空けておくわけにはいかないし、朝緋の家の管理もしなきゃいけないしね」

「そっか……」


 そうだよね。当初はただ私が巫女さんに会うのを手伝ってくれる為に王都まで着いてきてくれただけだった。それがこんな大事になっちゃって、これ以上無関係の黒斗を巻き込んでしまう訳にはいかない。

 そう考えると、朝緋も巻き込まれちゃったんだよね。

 チラリと朝緋の方を見る。紫翠君と荷物の確認をしている彼。獣者を探す旅に出ることになってから、バタバタしていたから彼とはゆっくり話をしていない。巻き込まれてしまった彼が、今どう思っているのか聞けてない。迷惑、に思ってるだろうないきなりとんでもないことに巻き込まれて、拒否する間もなく宛もない旅に出ることになっちゃって……

 ギュッと唇を強く結ぶ。


「明日香ちゃん?」


 黒斗の声にハッと我に返った。心配そうに覗き込んできた彼に、私は大丈夫と笑みを向ける。


「黒斗ここまで本当にありがとう。私お世話になりっぱなしで何も返せてなくて……」

「そんなことないよ。それにこれからも何かあれば遠慮なく頼ってよ。明日香ちゃんの為ならたとえ火の中水の中だよ」


 フンっと鼻を鳴らして胸を張る彼に、私は吹き出してクスクス笑った。


「じゃあまた会おうね」

「うん、また」


 目を差し出してきた黒斗の手を握り返す。

 瞬間、バチッと頭に電気が走る。



 掠れる視界の中、誰かが体を抱き上げて頬を触ってきた。顔は近い、だけど誰だかハッキリ見えない。


「必ず――見つけ出すよ」


 微かに聞こえた言葉に反応したかったけど、体も口も動かすことは出来なかった。



 ハッと現実に戻って目をパチパチと瞬かせる。今のは何? 黒斗を見てみるけど、彼は笑顔のままで困惑しているような様子はない。もしかして今の私しか見てない、のかな。

 手を振って去っていく彼に手を振り返しながら、私は自分の頬に触れる。

 さっきの記憶、一体なんだったんだろう。朝緋や紫翠君の時と同じ感じだったけど、今回は私しか見ていないみたいだった。記憶を見るのは獣者と触れた時だと思っていたけど、そうじゃなかったのかな。でも、さっきのは朝緋達の時とは少し違っていたような気がする。何が、と言われるとハッキリとは答えられないけど、何かが違ったのだ。


「明日香準備が出来たから行くぞー」


 紫翠君の呼ぶ声に私は思考を止めて息を吐く。

 気にはなるけど、考えたって仕方ない。今はやるべき事だけを考えよう。


「今行く!」


 私は考えを振り切るように3人の元へ走った。



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