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花束を君に  作者: アレン
菫の章
17/18

7

 目の前に座る巫女さんはカップを取り口をつけて飲んでふっと小さく息を吐いた。


「まず自己紹介を。この国の巫女を務めています、(ぎん)です」

「ぎん、さん」


 見た見た目通りの名前だ。神職の人だし多分本名じゃないんだろうけど。

 私達も名前を名乗って、さぁ用意した質問をしようと思ったけど、どうしてもさっきの言葉が気になってしまった。


「あの、さっきの遠い国からってどういう」


 私の言葉に銀さんは少し首を傾げた。


「そのままの意味ですよ。流人の方がここまで来るのは大変だっただろうと」

「え、どうして流人って」

「気配がそうでしたので。あら、もしかして違いましたか?」


 慌てたように口に手を当てる銀さんに、私は首を振る。


「いえ、合ってます」

「良かった。勘違いだったのかと焦りました」


 ホッとしたように銀さんは笑ったけど、困惑している私達の気持ちに気づいたようで、直ぐに疑問に答えてくれた。


「貴方の気配が以前会った流人の方とよく似ていたので」

「あの、気配ってどういう」

「私は人の気配や色で見ることが出来るのです。流人の方はこの世界の人と違うんです」

「へぇ」


 分からないけど、この人には人に見えないものが見えている、ということみたいだ。巫女だから、なんだろうか。


「話というのは貴方の境遇に関してですか?」

「え」

「貴方はとても複雑な気配をしています。貴方だけのものでなく、いくつもの気配が絡みついている。あまりいいものではありません」

「あ、あの今回聞きたかったのは破神や破滅の巫女に関してなんです」

「破神や破滅の巫女、ですか」

「実は……」


 私は自分が禁忌の湖で目覚めたことや朝緋と紫翠君の時に見た記憶などを話した。この時寛太との出来事については話さなかった。何だか口に出せば恐ろしいことが起こる気がしたのだ。

 銀さんは私のたどたどしい説明を黙ったまま真剣に聞いてくれ、話し終えたところで手を口元に当てた。


「なるほど……」

「あの、突拍子のない話なんですが本当なんです」

「記憶に関しては自分も見た。あれは気のせいとかそういうのではなかった」


 銀さんは私と朝緋を見てから手を膝で合わせて真剣な表情を浮かべた。


「私が巫女である理由は気配を見ることが出来るとこ、そして神の神託を受け取ることが出来るからです。そして、つい先日神託を受けました。破滅の時が迫っている、と」


 破滅の時……

 私はゴクリと唾を飲み込む。


「破滅の時、というとやはり言い伝えのことなのですか?」


 黒斗の問いに銀さんは頷いた。


「元々破神の封印が弱くなり、魔界の住人が渡ってくるなど世界の均衡が崩れ初めてはいたのです。言い伝え通りになってしまうのでは、と危惧していたのです。此度の神託、そして禁忌の湖に流人が現れたこと言い伝えが現実になりつつあるということでしょう」


 銀さんの言葉は私の中で重くのしかかってきた。可能性だったものが現実味を帯びる。


「あ、あのっ」


 汗ばんだ手をギュッと握る。


「私は、元の世界に帰りたいん、です。家族や友達もいるし、心配してるだろうし。私は帰れるのでしょうか? 帰る方法はあるんでしょうか?」


 つっかえながら言った私に、銀さんは困ったように眉を下げた。


「とても残酷な事を言ってしまいますが、可能性は低いです。この世界と流人の世界とは今のところは一方通行なのです。こちらに来ても帰れたという人はいないのです」

「そんな……」

「ただ、先程も言いましたがこの世界は今均衡が崩れています。その均衡を元に戻すことが出来れば、本来この世界に居るはずのない流人は元の世界へと戻ることが出来るかもしれません」

「えっ! 本当ですか?!」

「あくまで可能性、ですが」


 銀さんは念を押すように言ったが、どん底だった所から微かに希望が見えた。まだ帰る手段が完全に無くなったわけじゃないんだ。


「均衡を元に戻すにはどうすればいいんですか?」

「均衡が崩れている原因は破神の封印が解けかけているからです。なので封印をもう一度施せば世界は元に戻ります」

「その方法は?」

「封印は破滅の巫女と5人の獣者が儀式を行う必要があります」

「5人の獣者?」

「ええ。獣者とは、その昔巫女と共に破神を封印した者達のことです。彼らは封印の人柱となり、封印の糧となったと伝えられています。そして、封印が弱まった時には巫女と共にもう一度封印を行うためにこの地に現れると伝えられています」

「そんな言い伝え聞いたことないな」

「これは代々ルグニカの巫女が受け継いできた話ですから一般的には知られていません。更に言うと、破滅の巫女も世間の認識は私達が伝えてきたものとは違うのです」

「え?」

「破滅の巫女とは、破神を封印する巫女のこと。決して破滅を呼ぶ存在ではないのです。ただ巫女が現れる時が破神の封印が緩んだ時であり」

「破滅が近づいたタイミングだから、巫女が現れると世界が終わるって言われていたのか」


 銀さんがコクリと頷く。

 私は少し肩の力が抜けた。そっか、巫女のせいで世界が終わるってわけじゃないのか。

 そんな私に黒斗が軽く肩を叩いて笑みを向けてくれた。私もそれに笑みを返す。

 疑問は解消された。そしてこれから私がやらなければならないことも分かった。だったら……


「あの。私はこれから何をすればいいのでしょうか?」

「儀式のために獣者を見つけ出して頂きたいのです」

「なるほど。でもどうやって、そもそもどうしたら獣者だと分かる……」


 私はハッとして朝緋の方を見た。銀さんも黒斗も視線を向けていて、彼は表情を変えず視線を受け止め、小さくため息をついた。


「記憶が見えた者が獣者ってこと、なんだろうな」

「恐らくは。明日香さん他に同じように記憶を見た人はいるのですか」

「あ、紫翠君とです。あと、多分記憶を見た後痣が現れるのもそうかも、朝緋も紫翠君も花の形の痣が現れたんです」

「痣ですか」


 チラッと銀さんが朝緋の方を見たので、朝緋は襟を捲って首の痣を見せた。


「なるほど。では獣者かを判別するには明日香さんと触れて何かしらの記憶を見る、そして体の一部に痣が発現するとこということですね」

「そうなりますね」

「他にも特徴はないのかな。例えば目と髪が同じ色の人とかさ」


 黒斗の言葉になるほどと思った。確かに今のところ2人とも髪と目が同じ色の人なのんだ。ということは。銀さんの方を見ると、彼女も同じ考えだったみたいで私の方を見て頷き、手を差し伸べてきた。私はその手をそっと握る。しばらく触れたままでいたけど、特に何かを見るとこはかった、銀さんも同じだったようでそっと手を離した。そんな私たちを見て「まぁ例えばだったからね」と黒斗は残念そうに肩を竦めた。


「まぁ探す参考にするにはいいんじゃないか。闇雲に探し出すよりいいだろう」

「そうですね。ではまずアクリアへ行ってみるのはどうでしょう。確かそこの巫女が目と髪の色が同じ女性だったはずです」

「分かりました」

「この話は私から王と王妃に話しておきます。王子の件もありますし、皆が関わる話ですから。構いませんか?」

「はい。そうして頂いた方がありがたいです」

「分かりました。では本日はこれで。後日また報告しますのでそれまでお休みになっていて下さい」


 銀さんは微笑みその場を後にした。

 部屋を出ていく彼女の背を追って、居なくなってからもそのまま扉を見続けた。


 思ったよりも大変なことになってしまった。元の世界に帰るにはこの世界の破滅を止める為に破神を封印しなきゃいけない。それをできるのは世の中で破滅を呼ぶと言われている破滅の巫女で、それは私だった。そして封印の為には5人の獣者を探し出さなきゃいけない。

 まるで小説や漫画みたいな展開だ。いや、そもそも異世界に来てしまってる時点でそうだったか。

 思わず深いため息がこぼれた。


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