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花束を君に  作者: アレン
菫の章
13/18

 いや、大通りの店を見たいって言ったのは私だよ。朝ごはんを食べ終わった頃には人が増えていって広場では楽器の演奏なんかも始まってすごく賑やかになっていた。宿に帰りがてら気になっていたお店を覗いたり、買い物をしたりして楽しんだ。時々私と朝緋を見る視線を感じた。多分私たちの髪と目を見ているんだろう。物珍しそうなものから奇妙なものを見るようなそれに気分のいいものではなかったけど、朝緋は気づかないふりをしていたし、私もそうして楽しむ事に集中した。そう、途中までは良かったんだ、途中までは。


「ほぉ、やっぱり王都のは素材が違うな。こんな素材いったいいくらするんだろうな」

「おいこっちのはすげぇ細工だ。どうやってこんな細かいの掘るんだ」


 私の目の前には露店の前でしゃがんでキラキラと目を輝かせながら商品を物色している男が2人。


「そうだろうそうだろう。兄ちゃん達分かる人だねぇ、職人かい?」

「ええジオの」

「へぇジオの! ジオの職人に褒めてもらえるなんて光栄だな。これも見てくれないか」

「おっ、これもまたすごいですね」


 あぁ店主さんまで参戦してしまった。ますますヒートアップする職人トークはまだまだ止まりそうにない。元はと言えば私がここ見てみようって言ったんだけどさ、まさかこんな盛り上がるなんて思わなかったじゃん。2人が木工職人だってこと忘れてたよ。

 小さくため息をついていると、話は工房を見にくるかというところまで発展している。これは付き合っていたら日が暮れてしまいそうだな。

 黒斗と店主さんが話し込んでいたので商品を眺める朝緋のそばにしゃがんで服の裾を引っ張る。


「ねぇ私先に宿に戻ってるね」

「どうした?」

「工房見に行くんでしょ。私邪魔になっちゃうだろうから。気にせず行ってきて」


私の提案に朝緋は少し考えていたが、好奇心の方が優ったようで頷いて返してきた。


「ありがとな。道分かるか?」

「大丈夫、一本道だしね」

「これ、何か買って帰れ」


 そう言ってお金を渡してくれた朝緋にお礼を言って私はその場を離れた。


 宿までの道を歩きながらぼんやりと道ゆく人を見ながら昨日別れた親子を思い出す。

 紀乃さん達無事にお父さんには会えたかな。会うの半年ぶりだっていったっけ。簡単に移動する手段ももちろんネットなんて簡単に連絡を取れたりできないから、遠くの人と会うのは一苦労だよね。

 そこでふとお兄ちゃんの顔が浮かぶ。ここにきてもう1ヶ月以上経ってしまったけどどうしてるだろう。私は行方不明ってことになってるのかな。きっと警察沙汰とかになっちゃってるんだろうな。心配、してるよね。ちゃんとご飯食べてるかな。1人で無茶してなければいいんだけど。

 ハァとため息をつく、とクイっと後ろから服を引っ張られた。驚いて振り返ると子供がいた。その子はフードを深く被っていてその隙間から菫色も瞳を覗かせ私を見つめている。顔立ちから多分男の子かな。


「えっと……」


 少年はジッと見つめてくる。これはどうすればいいんだろうか。周りを見てみるけど親らしき人は見当たらない。もしかして迷子なのかな。


「お前」

「ん?」

「髪と目が同じ色なんだな」


 そう言って少年は興味津々そうに目をキラキラと目を輝かせた。


「よし。お前我の共に指名する。行くぞ!」

「へ? ちょ、ちょっとっ」


 少年は私の手を掴むと強引に引っ張って歩き始めた。急展開に頭がついていかない私はなすがままになった。


         ♢ ♢ ♢


「おおこれはなんだ?」

「牛串さ。秘伝のタレを使ったうちの牛串は国一番だぞ」

「国一番か。よし2本もらおう」

「毎度あり!」

「ほら食え」

「あ、ありがとう」


 手渡された串を食べてみる。甘辛いタレと溢れ出た肉汁が丁度よく絡み付いてすごく美味しい。これは食べ始めたら止まらないやつかも……


「って、待って待って!」


 また引っ張って歩いていこうとする少年を止めて道の端に移動する。


「なんだいきなり」


 少年はお肉を頬張りながら首を傾げる。


「一体どういう状況なの? なんで私は知らない少年の奢りで買い食いしてるの?!」

「見せつけて楽しむ趣味はないからな。お前も美味な物にありつけられて得だろう」

「それはありがとうございます、だけど私戻らないと」

「何故? 我の共ができているんだ光栄だろう?」


 さも当然というふうな顔をする少年。私はハァとため息をついて彼の頭をフードの上からグリグリとする。


「な、何をするっ!」

「なぁにが光栄だろ、よ! あんたのこれはただの誘拐よ、ゆ・う・か・い!」


 ビシッと言ってやると少年は目をパチパチと瞬かせた。少し考えるようにした後、私の言わんとすることが分かったのか気まずそうに目を逸らして俯いた。そして私の服の袖を掴んで「ごめんなさい」と小さく呟いた。

 しょんぼりとした彼の姿に私はポリポリとこめかみを掻く。ちょっと言いすぎちゃったかな。すぐに止めて断らず着いてきちゃった私も悪いし、悪意があるわけでもなさそうだしな。未だ裾を握る小さな手に、心の中でため息をつく。


「ねぇお父さんとお母さんは?」

「え?」

「一緒にここに来たんだよね。まさか1人で?」

「えっと、連れが1人」

「じゃあその人を一緒に探すよ。それでいい?」


 少年が顔を挙げてパァと表情を輝かせる。


「本当か? じゃあ次はあれを食べてみたいぞ」


 はしゃいでいう少年に、早速自分の発言に後悔しそうになる。なんかこの子の都合のいいように行動しちゃった感がするなぁ。


「おいお前何やってんだ早く行くぞ」

「あー……、はいはい行きますよ。それはそうとお前ってのは辞めてもらえないかな。私は明日香っていうの、だから名前かお姉ちゃんくらいでさ」

「明日香だな。我のことは特別に紫翠しすいと呼ぶことを許していやる。行くぞ明日香!」


 結局呼び捨て……。もう言い返すことも疲れて、私は肩を落としながら先に行く紫翠君の後を追った。


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