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花束を君に  作者: アレン
菫の章
12/18

 次の日、教会に行くため朝早く私たちは宿を出た。 

 明るくなって改めて見た町は、漫画やゲームみたいな王都って感じの街並みだ。奥に見える真っ白なお城は某テーマパークのみたい。朝早いけど、大通りは人通りが多く、お店も沢山開いている。その大半は食料品のお店で、多分朝市ってやつだろうか。元気な声で客引きをする店主や楽しそうに世間話をする女の人や笑う子供達でとても賑やかだ。それにアーケードや飾り付けなどがされていて、それも相待って華やかに感じる。


「ねぇ何かお祝い事でもあるのかな」

「そうかもね。後で聞いてみようか」


 そんな通りをお城の方へ進んでいくと、広場に出た。広場は中央に噴水があり、その向こうにはお城へ続く道があり、道の入口に教会が立っていた。


「あそこ?」

「うん。だけど人がいないね」


 黒斗の言葉の通り教会には人の気配がない。


「まだ時間が早すぎたのかな」

「うーん。そんなことないと思うんだけど……」


 困ったように黒斗は頭を搔く。困ったな、と3人で目を合わせた時。


 グーギュルルル


 盛大にお腹が鳴った。私はバッとお腹をおさえたけど音はバッチリ2人に聞こえていたようで、視線が集まる。


「あ、あははは。朝ご飯食べてないからお腹すいちゃった」


 苦笑いしながら言ったら、またお腹がなってしまった。


「そうだね。あそこの店で食べながら時間潰そうか」


 黒斗が指さしたのはカフェのようなお店で、テラス席に座れば教会の様子を見ることができる。特に反対はなかったので私は頷き、朝緋も何も言わず店の方へ向かった。


 メニューは相変わらず分からなかったので、黒斗にお願いした。しばらくして運ばれてきたのはスコーン型のパンのようなのと、ジャム、サラダに紅茶の朝食には丁度いいセットだった。


「うわぁ美味しそう」

「へへへ、ありがとなお客さん」


 思わず漏れた言葉に、料理を並べていた店員さんが照れ臭そうに笑みを浮かべた。


「ここへは観光に?」

「いえ、巫女様に用があって」

「そりゃあ時期が悪いな。巫女様への謁見はしばらくないぞ」

「えっ!」

「もうすぐ祭りがあるからな。それ以降じゃないと再開しない」

「あぁそうか。そういえば建国記念日の祭りの時期だ今」


 黒斗はやってしまったという風に空を仰いだ。そっかお祭りが近いから色んな所に飾り付けがされてたんだ。


「どうしよう」

「どうもこうも待つしかねぇだろ」

「そうだね。幸い宿の心配はないしね」

「そんじゃあ是非祭りの日はうちの店に来てくれ。祭り限定の料理用意する予定なんで」

「うわぁ是非!」

「今回の祭りは特別だからな。なんたって第2王子様が初めて公に顔を出すんだぞ。あの第2王子がだ」

「あの?」


 首を傾げると、店員は驚いたように目を見開いた。


「ん? お客さん知らない、なんてことないよな」

「ええっと……」


 話も店員の反応もなんでなのか分からなくて朝緋達の方を伺うと、彼らは少し気まずそうに目を逸らした。何かまずいことを言ってしまったんだろうか、と不安になってくる。すると店員は気まずそうに小さな声で話し出した。


「えっと、王子はその、あれだから……」

「あれ?」

「まいったなぁ」


 困ったようにポリポリと頭を掻く店主に助け舟を出したのは朝緋だった。


「王子は髪と目が同じ色なんだよ、俺らと同じようにな」


 そう言って自分の目元をトントンと指で叩く。


「それと人前に出ないのと何が関係あるの?」

「お客さん本当に知らないんだな」

「こいつ世間知らずなんで」


 いやいや、こんなこと教えてもらってないんだから分かるわけないでしょ。ムッと頬を膨らませる。


「朝緋、明日香ちゃんにその辺のことは教えてなかったんだから仕方ないだろう。えっとね、この国いや世界では目と髪の色が近い人はいるけど、完全に同じってのはかなり珍しいんだよ」

「あ、それはなんとなく分かるわ」


 これまで出会ってきた中で同じ色だったのは朝緋だけだ。


「で、これは古い言い伝えなんだけど、髪と目の色が近いほど魔に近いって言われているんだ」

「そういう人間は厄災を呼ぶって言われてるしな」

「やくさい……」

「おい朝緋! またそんな事を。単なる言い伝えさ珍しいからそんな風に言われてるだけ」

「そうそう。もとよりそんなことを信じているのは聖職者や貴族くらいさ」


 フォローしてくれる黒斗と店主に私はなんとか笑顔を返す。朝緋は頬杖をつきながらため息をついた。

 厄災を振り撒く。私にピッタリすぎて笑えてくる。そういえば前に朝緋同じようなこと言ってたな。彼としては過去のこともあってそう思っているのかもしれないけど、この言い伝えも関係しているかもしれない。彼がそうだとは絶対に思わないけど私は『厄災を呼ぶ者』っていうのは実にお似合いな呼び名だ。


「第2王子に関しては、教会が言い伝えを理由に王族に相応しくない、なんて言われてるが第1王子が優秀だから国は安泰だろうさ」

「そう、なんですか」

「んまぁそんなこんなで王子のお披露目に祭りが盛大に開かれるから、楽しんでくれ」

「はい。ありがとうございます」


 店主は笑顔を向けて店の中に戻っていった。

 テーブルには沈黙が流れる。2人の表情からして私がどう思っているかを探っていうことが伺えた。正直びっくりしたし、人ごとだと笑えるものでもなかった。


「ごめんね。先に話しておくべき話だったね」


 申し訳なさそうな黒斗に私は首を振る。話ずらかったんだろうっていうのは分かるし、私を気遣ってくれていたんだろう。

 私は紅茶を一口飲んで2人に微笑む。


「時間、できちゃってね」


 2人は顔を見合わせ少しホッとしたように表情を緩めた。


「だね」

「観光でもして待ってりゃいいだろ」

「せっかくだから楽しもう」

「うん。私大通りのお店色々見たかったんだよね」

「じゃあ食べたら行ってみよう」


 私は頷いてパンを頬張った。



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