__の章
手も足も体の何処も動かない。さっきまで痛みを感じていたのに、今ではそれすらも消えてしまった。自分が死へと向かっているのだと分かる。
「……」
声がして目線を動かす。誰かが私を見下ろしている。ぼやけた視界では表情までは分からない、だけど『彼』が泣いているということは直ぐに気づいた。
泣かないで
動かなかった手がスっと動いた。動く間ポロポロと体が崩れていったが、構わず彼の頬に触れ、零れる涙をそっと拭う。
「泣かないで」
口から漏れた声はとてもか細く弱々しいものだったが、彼には届いたようで視線が合わさった。
苦しげな目。そんな顔しないで。私は幸せなんだよ。掠れて途切れ途切れになってしまったが、一生懸命思いを彼に伝えた。話しているうちに意識が薄れていき、自分で何を言っているか分からなくなってくる。
何とか言い終わった時にはもう微かな呼吸も辛くなってしまった。ちゃんと気持ちは伝わったのだろうか。
じっと彼を見つめると、彼はグッと顔を歪めて微笑んだ。
「俺もだ。お前と過ごせた僅かな時間はこの長い生の中で奇跡のように幸せだった。ありがとう」
そう言い私の体をそっと抱きしめ、額を合わせた。
「すまない。助けられなくて、守れなくて」
ポロリと涙が頬に落ちる。
「そんなこと言わないで」
「いや。俺はお前に何も……」
「じゃあ1つ、お願いがあるの」
「なんだ」
「私がこの先生まれ変わっても、貴方に会いたい。貴方のことを忘れてしまうけれど、それでも」
身勝手な願いだということは分かってる。それでも……
言葉が続かなかった私を、彼は包み込むように抱きしめた。
「あぁ約束する。必ずお前を見つけ出すよ」
耳元に聞こえた言葉に私はホッとした。それと同時に体から力が抜け、真っ暗な世界へと堕ちていった。
久しぶりの小説投稿なので至らない点が多いと思いますがよろしくお願いします。
1つの章が書け次第投稿していく予定なのでゆっくりの投稿になると思いますが気長に読んでいただけると嬉しいです。