09 B
皆様のお時間をいただき、読んでいただけることに感謝しております。
やっと序章にあたる部分が描ききれそうです。(もう少しかかります)
初めて書く作品故、至らぬ点も多々あると思いますが、これからもよろしくお願い致します。
暖かい陽射しの中に、僕はいた。
遥か遠く、微かに遠吠えが聞こえる。
また、遠吠えが聞こえた。
僕の中で、何かがざわめいている。
遠吠えが、あちらこちらから聞こえてくる。
何かが、僕の中を隅々まで駆け巡っていく。
遠吠えが共鳴している。これは、狼の遠吠え?
懐かしい。
狼の遠吠えなんて、初めて聞いたはずなのに。
僕はそれを知っている。
ーーー
「……夢、か」
背中に、ゴツゴツした感触を覚えながら、僕は目覚めた。
夢を、見ていたようだ。
夢だったはずなのに、胸がざわめいている。
目を閉じて、耳をすませば、狼の遠吠えが聞こえてくる気がする。
何かが、僕の中へ馴染んでいく気がする。
そこにあるべき、懐かしい何かが、あるべき場所へ。
これは……
ーーー
レンダントさんと出会ってから、二晩が過ぎた。
3日目の朝。
レンダントさんは、まだ眠っている。
レンダントさんが寝る時は、ちょうど猫が丸まって蹲るような態勢になる。
この二晩は、レンダントさんの胸と腕の間に、ちょうど良い窪みができるので、そこに背を預けて、眠らせてもらった。なので、必然的に、レンダントさんの頭は、こちらへ向いている。穏やかな寝顔だ。
今も、微睡みから抜けきらない僕は、夢を思い返しながら、背中に感じる暖かさに包まれている。レンダントさんは、とっても暖かいので、毛布なんか無くても、寒さを遠ざけられて、ありがたい限りだ。
コブレミの実を初めとした、いろんな果物をいただいてから、僕たちは様々な事を話した。
僕の元いた世界の話、レンダントさんの住むこの世界の話、今日で3日目になるのに、まだまだ話足りないと思えるくらい、楽しくて貴重な時間になった。
途中、何度かレンダントさんは、補給をしに、地上へ行った。やはり、異世界の話をするくらいしかできない僕は、申し訳ない気持ちになったけど、その分精一杯元の世界の事を思い出して話した。
レンダントさんとの話で一番驚いたのは、この世界には獣人が存在しないらしい。エルフやドワーフなんかは、いるらしいけど、異種族間で頻繁に交流があるようには見えないそうだ。
逆に、僕の世界に獣人がいるという話に、レンダントさんが驚き、とても興味を持ってくれたので、日本史と世界史を獣人たちの話題を中心にして話してみた。
大昔、とある異世界が滅びかけた時、その世界の住人であった獣人やエルフ、ドワーフなどが力を合わせ、異世界への扉を開き、移住した。彼らは、散り散りに世界各地へ。そして、人間との交流や争いの歴史が始まる。
それが、僕がいた世界。
日本に関しては、各時代、共闘した歴史もあれば、迫害や差別の日々もあった。近代、他国からの圧力で、鎖国状態からの開国と、同時に異種族への公的差別の撤廃、異種族間での婚姻の成立等が認められ、公に僕のようなクォーターやハーフが日本でも生まれるようになる。現代でも、静かな差別はある。だけど、融和が進み、相互理解も深まりつつある。
ハーフやクォーターが生まれることで、彼らはその出自と特徴に悩まされる話も、レンダントさんはたまに質問を挟みながら、興味深げに聞いてくれた。
僕自身の話もした。
狼人族のクォーターとして生まれたこと、見た目は人族そのものだけど、聴覚と脚力のみ特徴を受け継ぎ、幼い頃はそのために苦しんだことなども、気づけば話をしていた。レンダントさんは、優しい言葉をかけてくれて、寄り添ってくれた。
僕は、狼人族である祖父が大好きなこと、だけど、祖父への差別の声を幼い時に聞いてしまい、異種族とはなんなのか悩んだこと。異世界転移する直前に、友達と喧嘩してしまい、仲直りせずにこちらへ来たこと。神様が、僕を救ってくださったこと。。ついつい、溜まっていたものを吐き出すように、いろんな事を話していた。
僕が、ここまで自分の事を話すのは、どっちの世界でも、これが初めてかもしれない。なんだか、こそばゆい。
レンダントさんの話は、とっても勉強になった。
この世界も、一度滅びかけたらしい。
、、、異世界滅びすぎじゃない??
数千年前、優れた文明が存在していたけど、大魔法大戦が起こり、世界を暗黒期へと変えたらしい。人族だけじゃなく、エルフやドワーフ、ドラゴンもその多くが死に、長く苦しい時代を過ごしたらしい。
そして、千と数百年前にやっと光の元での暮らしを取り戻した。という話だった。
ドラゴンも、数は減らしたけれど、そもそも長命で、本来魔力や霊力だけでも生きていけるために、その文化や伝統は受け継がれ、ここから遥か北の地で王国を築いているらしかった。
その流れで知ったんだけど、レンダントさんははぐれドラゴンらしい。ドラゴンの王国から追放されて、1匹でこの地に住んでいるそうだ。なんで、こんな優しいドラゴンさんを追放するのか!プンスカ怒る僕を、レンダントさんが宥めてくれる一面もあった。
暗黒期が終わり、世界各地で、それぞれの種族が開拓・復興を進めているらしい。
しかし、ドラゴンは別として、他の種族の開拓・復興はゆっくりなものらしく、その原因が、魔獣や、ゴブリン、オーク、トロールを初めとした闇の勢力の誕生にあるみたいだ。
元々、暗黒期前には、魔獣も闇の住人達も存在しなかったそうで。光が注ぐ時代になり、開拓していく中で、それらと遭遇し、争いが起こっている。そのため、人族達の勢力圏の拡まりは、思うように行かないのではないかと、レンダントさんは考えているらしい。
僕が住んでいた世界にも、ゴブリン種族はいたけれど、レンダントさんの話を聞いていると、どうやら同じ種族名を持つ別の生き物のようだ。こちらのゴブリンは、人にとってかなり危険らしい。
人族の国は、いくつかあるらしいけれど、詳しいことはレンダントさんにもわからないそうだ。
二つの世界は、似ているようで、違うことも多いのかもしれない。
ちなみに、今僕たちがいる建物は、暗黒期前の建造物で、魔法の残滓を感じるらしい。
もしかすると、結界か何かが展開していたんじゃないだろうか。だから、数千年経っても、完全には崩れていないのかも。
そうだ!魔法!
何より僕が興味を持ったのが、魔法!
当然、僕は元の世界でそれなりにアニメや漫画を見ていたし、その中に魔法が出てくる物語は多かった。そもそも、元の世界には、異種族が移住してくる前、彼らは魔法がある世界にいたという伝承が残っている。それらは、歴史の教科書にも載っているのだ。僕のいた世界では、魔法は使えなかったらしいけど、確かに魔法が存在したということは、僕たちの憧れを加速させた。
それが、この世界にはある!
せっかく異世界に来たんだから、使ってみたいと思うのは、当然だと思う!!
ただ、人間とドラゴンでは魔法の使い方が違うから、レンダントさんが僕に魔法を教えることは、難しいそうだ。残念。。。
だけど、人の街に行けば、習えるんじゃないかと、僕は希望を捨ててはいないよ!
「ソウマ、起きてる。おはよう。」
あっ、レンダントさんも起きたらしい。
「おはよう。レンダントさん!よく眠ってたね!」
「あぁ、ソウマといると、よく眠れるよ。ふぅぁぁぁああ?ん?…ソウマ?」
二日間ずっと会話していたせいか、レンダントさんとの会話がだんだん流暢になってきた。レンダントさんが学習しているのか、加護が馴染んできたのか、それはわからないけれど、話しやすくなるのは嬉しい誤算だった。
そのレンダントさんが、大きな口であくびをしてから、不意に僕を不思議そうに見つめている。なんだろう?
「どうかしたの?」
「ソウマ…何か変わった?魔力を強く感じる。昨日までは、何も感じなかったのに……匂いも、なんだか少し違う。」
「魔力?匂い!?えっ、僕臭い?臭うの?ごめん!!ドラゴンの嗅覚が、どれくらい発達してるのかは、わからないけど、、そうだよね…ずっとお風呂入ってないし、そろそろ臭ってもおかしくないよね、、ごめんね!離れるから、ちょっと待ってて!!」
僕は、急いで離れるために、立ち上がろうとする。
「ああ、それは大丈夫だよ。ソウマは、臭くないよ。そうじゃなくて、存在の匂いというか、ソウマそのものの匂いが、昨日までと違うんだよ。魔力も、昨日までと違う。これは……」
「そ、そっか!それは、良かった!」
上げた腰を下げて、座りなおす。
でも、お風呂は無理だとしても、そろそろ身体は洗いたいな……
「獣、狼?それに、レンダントの魔力も感じる?」
「??えっ、えぇっ!?僕から?!」
「そう。ソウマから、レンダントの魔力も感じる。そのままの魔力じゃなくて、なんだか混じったような……ソウマ、レンダントの魔力食べた?」
「えぇぇぇ!?食べてないよ!てか、魔力って食べられんの!?」
「そういう種族もいるけど、、ソウマは食べれないよねぇ。うーん……」
えっ、どういうこと?自分では、何も気づかなかったけど、僕の何かが変わったらしい。レンダントさんの魔力が、僕の中に…そういえば、
「そういえば、夢の中でレンダントさんの暖かさを感じていたような……」
「夢を見ていたのかい?どんな夢か覚えてる?」
「えーっと、なんだか暖かい陽射しの中にいたんです。そしたら、狼の遠吠えが聞こえてきて、、懐かしいなぁって感じて…狼の遠吠えなんて、聞いたことないはずなんですけど。えへへ、なんだか不思議な感じで。あっ、それで、その暖かい陽射しが、レンダントさんの暖かさに似てたなぁって。」
「狼の遠吠え……狼人族の血脈。なるほど。もしかしたら、ソウマは覚醒したのかもしれないね。狼人族の力が。」
「ぇっ?いやいや、僕は聴覚と脚力は、祖父譲りだけど、魔法なんて使えないし!」
「そうだねぇ。うーん、これは推測でしかないけど、レンダントの魔力やこの世界の魔素が呼び水になって、ソウマの中に眠っていた狼人族の力が目覚めたのかもしれないね。ドラゴンは、本来とても高位の魔的存在なんだ。そんな存在と、ずっと一緒にいた。例えるなら、渇ききった空っぽの器に、純度の高い清んだ水を溢れるくらい注いだような。レンダントの魔力を近くで、ずっと浴びていたんだよ。ごめん。こんなに長い間、人と共にいたことがなかったから、うかつだったよ。」
「器…魔力が……僕に。」
「ソウマ。ソウマのいた世界の話や、獣人達が元いた世界の話をしてくれたよね?」
「うん。」
「獣人達が元いた世界には、魔法が存在していたんだよね?」
「そう、だと思う。教科書や伝承の話に、そうやって書いてあったから。」
「うん。だとすると、狼人族の血を少しでも受け継いでいるソウマには、魔法を使う素質が、元々備わっていた可能性がある。ただ、ソウマの世界は、なんらかの理由で…恐らく魔素の不在が原因で、魔法が行使できない状態にあった。」
「魔素の不在?確か、そういう説があるって、テレビで見たよ!」
「テレビ?テレビってなんだい?」
「え?テレビ?あー、えっとね、電気で映像が観れるんだけど…なんて説明すればいいだ!!んーっとね、どこか遠い場所で撮影した景色や人が動くのを、誰でもどこにいても、いつでも観られるんだ!」
「ほぉぉ、それはすごい!!ドラゴンにもできないことをやってのけるとは、異世界の人族は、なかなかやるではないか、ソウマ!行ってみたいものだな!その世界に!はっはっはっ!のじゃ様とやらにも、会ってみたいな!」
「神様、レンダントさんを見たら、びっくりして、泣いちゃうかも!」
レンダントさんと二人で笑いあう。神様も、一緒に笑えたらいいのにな。
「レンダントさん、えーっと、それで??」
一頻り笑った所で、レンダントさんに続きを促してみる。レンダントさんは、いろんなことに興味を持つので、よく話の腰が折れる。いいドラゴンさんだけど、ちょっと勉強熱心すぎるのだ。
「ん?あぁそうだった。つまり、ソウマには元々魔力の器があったと考えられる。そして、レンダントの魔力を近くで浴びて、この世界のモノを口にした。レンダントと出会っていなければ、恐らく本来の純粋な狼人族としての魔力を宿していたかもしれない。だけど、高位の魔的な存在であるレンダントが側にいたことで、魔力が混ざりあってしまった。だから、ソウマには狼人族としての魔力と、ドラゴンであるレンダントの魔力が混ざりあいながら宿ってしまった。……すまない!ソウマ!祖先の血を汚してしまった!」
「ん?えっ?汚してしまった??ドラゴンの魔力って、宿っちゃだめなの??」
「そういうわけではない……と思うんだが、何しろレンダントにも、初めてのこと故、はっきりとはわからん。だが、ソウマの狼人族の祖先達から引き継いだものに、意図したことではないとはいえ、ドラゴンの力を混じらせてしまったのだ。異世界の、更に異世界の狼人族の祖先とはいえ、申し訳ないことをした。」
「あー、、なるほど。レンダントさんは、僕の狼人族の祖先達に申し訳ないと思っているんだね?んー、でも、僕は祖父以外の祖先の事をよく知らないし、気にしてないよ?というか、むしろ、すごいよ!!」
「すごい?」
「うん!だって、僕には祖先から受け継いだ狼人族としての魔力と、レンダントさんの魔力があるんでしょ!!カッコイイじゃん!ダブルでハイブリッド!!」
「は、ハイブリッド??」
「そう!ハイブリッド!僕に、ドラゴンの力が!……あれ?それって、どういうこと?単純に、魔力が宿って、魔法が使えるようになったってこと…じゃないんだよね??」
「あぁ、それも推測でしかないし、やってみないとわからんが、ソウマには、狼人族としての固有の力と、ドラゴンの固有の力がそれぞれに備わっていると思われる。ただ、それぞれの持つ固有の力が完全に宿っているのかは、わからない。何もかもが、初めてのことなんだ。これは、実験をしないと!!」
「実験??」
レンダントさんが、キラキラした目でこちらを見ている。
彼の知識欲に火がついてしまったみたいだ、、、、
「ソウマ!さあ、実験を始めよう!!」
うん。今日、下界に降りる予定だったけど、無理っぽいな。
変な覚悟を決める僕であった。
レンダントさんは、所謂飛竜タイプのドラゴンです。
モン○ンのリオさんとか、洋画に出てきそうなタイプを想像していただけると幸いです。(作中で説明しきれていなくて、申し訳ありません。)