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33 A


 「ソウマは、昔からお祖父ちゃん子で、優しいんです」


 カプチキを食べ終わって、それぞれのんびり境内を眺めていると、古河さんがゆっくりと語りだしてくれた。


 「ソウマは、狼人族のクォーターで、お祖父さんが狼人族なんです。見た目には、狼人族の特徴を継いでいないので、人族に間違えられることが多いんですけど、本人は狼人族の、、お祖父さんの血を受け継いでいることを誇りに思っているところがあるので、昔からその事を悩んだりしていました。」


 「クォーターの悩みかぁ。。確かに、今回の事がなかったら、気づかないままだったかも」

 ソウマ君とは、ロミマでのお客様と店員という関係しかなくて、しっかり喋ったこともなかったから、そこまで深く知ることは、今まで機会がなかった。


 現代において、ハーフやクォーターの悩みは多いって話はよく聞く。昔よりも差別的な発言は、公には減ったとは言われているけれど、未だに偏見や誤解も多いし、閉鎖的な種族がいることも、間違いない。各種族が、なんの縛りも、壁もなく、共に歩きだし始めたのは、近代になってからなのだから、まだその歴史は浅い。

 理解が進んできてはいても、自分の出自を素直に明かせない人もいる。種族間の壁は、未だに完全には崩せていないのが、現状だろう。


 「でも、見た目は人族なんですけど、聴覚と脚力はお祖父さん譲りの能力を持っていて、特に聴覚が優れているんです。ただ、今はそんなことないんですけど、幼い頃はその感覚をコントロールができてなかったみたいで。そのせいで、お祖父さんへの侮辱や差別的な発言が聞こえてしまったりして、幼い頃のソウマは、種族の違いに悩んだり、クォーターである自分を責めたりしていました。よくしてくれていた近所の人が、陰では悪口を言ってた。なんて、辛すぎますよ」


 「確かに、それは辛いね。。お祖父さんの世代かぁ。本当に難しい問題だよね。政府からいきなり、差別をするなって言われても、今までずっと壁があったんだから、人の意識は簡単には変えられないし。俺達の世代は、もう当たり前の様にいろんな種族が一緒に暮らしているけど、上の世代はまだね、、。でも、それにしても、ソウマ君は、ロミマでレジ越しに話してただけだけどさ、素直で優しそうな人に見えたよ。」


 「そうなんですよ。優しいんです、あいつは。ソウマ、すごい悩んで、苦しんで、いろいろありましたけど、今は前向きに種族間の在り方に向き合ってるんです。将来は、種族間の相互理解を進めたり深めたりする仕事をしたいって、こないだ言ってたんです、、お互いにわかりあえれば、ケンカすることもなくなるよねって。そういう勉強をしたいから、大学の受験先も、、、だから、一人でいなくなるなんて、ありえないんです。事件に巻き込まれたのか、、本当に異世界に行ってしまったのか、、わからないけど、、、どこに行っちゃったの、、」

 古河さんの声が震えていた。

 近くにいた古河さんだからこそ、本当に何を信じていいのかわからなくなっているのかもしれない。


 「異世界、か。うん。、、ソウマ君は生きてるよ」

 自分でも不思議なくらい、自然と言葉が出てきた。

 なぜだろう、やっぱり、異世界って言葉に、心が動かされてしまう。


 「え?」


 「ソウマ君は、生きてる。無責任な言葉に聴こえるかもしれないけど、彼はちゃんとどこかで生きてる。俺は、そう思うな。異世界転移してるんだとしたら、ここじゃない世界で、ちゃんと生きてると思う。それに、もしそうなら、いつか帰ってこれるかもしれないじゃん、この世界にさ」


 本当は、なぜか、確信がある。

 異世界に、ソウマ君はいる。

 今、ここにいて、その確信は深まっていく。


 なぜかは、わからない。でも


 「帰ってくる、、ソウマが。。異世界、信じて待っててもいいんでしょうか、、本当にあるんでしょうか、異世界が」


 「うん。あると思う。というか、あると信じようよ。ソウマ君は帰ってくる!そしたら、また二人でカプチキ買いにおいでよ。ロミマで待ってるからさ」


 「、、待ってるです」

 木村さんも、力強く頷いてくれた。


 「また、一緒に、、ぅん」

 弱々しくも、震える声で、古河さんも頷いてくれた。


 それから、訥訥(とつとつ)ともう少し古河さんから、ソウマ君の昔話を聞いたり、古河さん自身の話を聞いたりした。

 

ーーーーー


 「遅くなってきたし、そろそろ帰ろっか?」


 「そうですね。、、今日は、ありがとうございました。話を聞いてもらえて、なんだか少し楽になりました。あの、また今度ロミマ行ってもいいですか?」


 「もちろんだよ!ねっ?木村さん」


 「、、もちろん、です!」

 コクりコクりしている木村さん。


 「良かった。今度は、温かいうちにカプチキ食べなきゃですね!」


 「そうだよ。しっとりも美味しいけど、一番は揚げたてだからね。さっ、送っていくよ。歩きながら、もう少し話せるし」


 「いいんですか?すみません。ありがとうございます」


 ベンチから立ち上がって、三人で境内を歩きだす。

 それから、せっかくだからと、みんなで参拝することになって、カランカランさせてもらった。


 パンッパンッ

 (ソウマ君が、無事に帰ってきますように!)


 横を見ると、深々とお辞儀をした古河さんが、一番長くお願い事をしていた。

 そのお願い、神様に届くといいな。

 

 「さっ、帰ろっか」


 《どこにいるの、レオ》


 「え??」

 急にクリアな声が響いて、びっくりした!

 声の主を探して、キョロキョロするけど、辺りに声の主は見当たらない。


 「森山さん??どうかしたんですか?」

 古河さんが、ポカンとしている。


 「え?今の聞こえなかった?」


 「、、?」

 「なにがですか?」

 木村さんも、首を傾げてる??

 二人には、今の声が聞こえてない???


 「え、いや、今、声が、、えぇ、聞こえなかったの??もしかして、気のせい?だったのかな?あれ、でも、はっきりと聞こえたんだけどなぁ、、」


 「うーん、何も聞こえませんでしたよ?」


 「そっ、かぁ、、気のせいだったのかな。女の子の声が聞こえた気がしたんだけど。」

 辺りを見渡しても、それらしき人の姿はやはりない。やっぱり、気のせいだったみたいだ。


 「ごめん。変なこと言って。ささっ、気を取りなおして、帰りましょー。カプチキは食べたけど、なんだかお腹すいたし。あのさっ、二人とも、よかったら、うどん食べて帰らない?」


 「いいですねっ!!」

 「、、!!」耳がピコンとなっているよ、木村さん。


 それから、三人でももたろすうどんに寄らせてもらって、温かいうどんを堪能しました。

 相変わらず、うどんはうまいっ!!出汁最高だぜっ!!


 そして、木村さんは、やっぱり猫舌でした。



 想像して欲しい。

 小柄な白虎人族のメガネをかけた美少女が、熱々の肉ゴボウ天うどんを、ふぅふぅしているところを!!

 めちゃんこ可愛いぞ!!


 

 そういえば、最近、ずっとレイさんを見かけてないけど、どうしたんだろ?

 境内にいないなんて、珍しい気がするけど??




ーーーーー


ーーーーー


 《レオ、お願い、力を貸して。》

 


 その声は、まだ届かない。


 

  

 

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