21 A
いろいろ書きたいことはあるんですが、前書きで書くことではないなと思いながら、書いたり消したりしてます。
なので、一つだけ。
争いは、創作物の中だけであってほしい。
これだけは、書かせてください。
それでは、本編をどうぞ
2022/03/09
活動報告にも書いたのですが、目の治療というか、回復を優先させていただきますので、今週か来週までお休みさせていただきます。
支障のない程度までよくなれば、すぐに再開しますので、お待ちください。
「変な視線を感じる?ですか?」
「ぐるるぅぅ、そうなんだよね。こう、なんていうか、ねちっこい視線?気持ち悪くて、とにかく嫌な感じなのよ!」
夕方のピーク前、お客様があまりいない時間帯に、お弁当なんかの品出しをしながら、マルさんと木村さんの三人で話をしていたら、マルさんが「最近、変な視線を感じるんだ」と不安そうに言い出した。
けして、俺の視線ではない。はず、、
「、、、気持ち悪いです。」
「えっ!?木村さんも?」
俺じゃないぞ!!俺じゃない!!
「、、お店に来る途中の道で、感じるです。」
「ガルガル!私も、出勤してる時に、途中から見られてるって悪寒がするの!一緒かも、がるるるぅ。なんなんだろう、、」
ロミマに出勤する途中の視線、、それは間違いなく俺じゃない。シフト中に、極たま~にちょこっとナイステイルに癒されているだけだからなっ!
「俺は、なんにも感じないんだけどなぁ。いつ頃からとかわかります?あの報道陣とか、配信系の人達じゃないんですよね?」
神社での神隠し事件の後、ロミマ駅前店には、数日間に渡って、報道関係や配信系の人達が押し掛けてきた。お店に取材申し込みをしてくる人達は、まだマシで。出勤退勤で、お店の外を通る時に、スタッフバレしている俺たちに、無断でカメラを向けてくる人達もいて、かなりピリピリした雰囲気が一時お店を支配した。
何よりも、俺がイラついたのは、木村さん達女性スタッフの写真がネットで勝手に出回ったことだ。美人すぎるスタッフとか、スタッフ天使とか、その言葉はその通りなんだが、本人達に無断で写真を隠し撮りして、ネットに晒したのは犯罪だろ。店長やエリアマネージャーが警察に相談したり、ネットの浄化作用で少し沈静化したけど、神隠し事件と相まって、数日ネットで盛り上がっていた。芸能人のスキャンダルが起こったとかで、世間の関心がそちらに移ると、嘘のように駅前店は静かになった。
それから、もう二週間近く経ったことで、少し警戒が緩んできていたのだが。
「3日4日前くらいから、かな?でも、ぐるるぅ、あの人達だったら、近付いてきてインタビューとか言い出すと思うんだけど、いないんだよねぇ、誰も。ぐるるぅ」
マルさんは、パスタを並べながら、記憶を探るように、首を傾げている。
「、、視線だけ感じるです」
木村さんは、俺を挟んでマルさんと反対側でサンドイッチを黙々と並べている。だいぶ仕事にも慣れてきて、スムーズに作業できるようになってきたなぁ。俺が新人の頃よりも、仕事の飲みこみが早いんだよなぁ、、木村さん優秀。
「その視線を感じる時は、周りに誰もいないってこと?」
「、、人はいます。見てる人がいないです。」
「やっぱり一緒かも。私も、人はいるんだけどね。ぐるるぅ。なんていうか、こっちを見てる人はいないって感じ?視線は感じるんだけど、見てる人がいない。ぐるるぅ。だから、余計に気持ち悪いんだよね。ぐるるるるるぅ」
マルさんは、顎に指を当てて、探偵スタイルで考え込み始めてしまった。パスタは、綺麗に並べ終えていて、さすがマルさん。仕事が綺麗で速い!
でも、こっちを見てる視線を感じるのに、自分を見てる人が見える範囲にいないかぁ。幽霊??んなわけないよな。だとしたら、
「もしかして、ストーカー?だったり?」
見えない所から、こっそり覗いている可能性が高いよな
「がるぅぅぅ、やっぱりそうなのかなぁ。」
「、、ストーカーさんです?」
木村さんが、首をコテリと傾げている。
木村さんも、不安そうだ。たぶん。相変わらず表情が読み取りにくいけど、ストーカーと聞いて、不安にならないわけがない。
「仮にストーカーだったとして、二人とも同じ時期にその視線を感じるようになったんですよね?もしかしたら、ラズニャさん達も同じような被害にあってるかもですかね?」
木村さん、マルさんだけじゃなく、小松さんやラズニャさんもネットに勝手に写真や動画をアップされていた。
「ガルッ!後で聞いてみる!」
あの無断取材や無断アップロード問題で、皆さんかなりのストレスを抱えていたのが、時間とともに少し和らいできたかなと思っていたのに、許すまじストーカー!!
「一度、店長に相談した方がいいと思います。あと、夜道で一人にならないとか、なんか対策しないとですね!」
「がるるぅ。私は、家族に迎えにきてもらえるけど、歩美ちゃんは?」
マルさんは歩美ちゃん呼びかぁ、、俺もいつかは!
ちなみに、マルさんのご両親は普通に駅前店にお客様として来られることがあるので、お会いするといろんな話をしたりもする。初めてマルさんから紹介された時は、緊張して、変な自己紹介をしてしまい、マルさんに苦笑された思い出がある。
「、、叔母さんも働いてるので、」
「そっかぁ。ぐるるぅ、あんた、送っていってあげなさいよ。シフトも被ってること多いんだし」
「えぇっ!?俺がだすかっ!?」
動揺して、噛んだし!
「嫌なの?歩美ちゃんは、こんなのがついてたら嫌?」
「、、嫌じゃないです。」
品出ししていた手を止めて、木村さんのいる左側を向くと、木村さんも手を止めて、こちらを見つめていた。
だ!か!ら!!その眼鏡越しにじぃーっと見つめてくるのは、破壊力高すぎるんだよーーーー!!こればかりは、二週間経とうが、一年経とうが、慣れる気がしない、、
「じゃっ、じゃあ、今日から送っていくよ。シフトの終わり時間少しズレてるけど、待っててもらえる?」
「、、待ちます。ありがとうです。」
木村さんが、ペコリと頭を軽く下げながら、感謝してくれる。
やべぇ、なんか変に緊張してきたー!!
ーーーーー
「・・・」
「・・・・・」
何を話せばいいんだぁーーーーーーー!??
あの後、マルさんに「あんたが狼になるようなことがあったら、覚悟しなよ」と特大の釘を刺されたが、もちろん俺にそんなつもりはない。
木村さんは、大切なバイト仲間で、友達なんだから。自分にそう必死に言い聞かせて、ドキドキを抑えようとしているんだが、逆に変に意識してしまって、余計にドキドキしてしまう悪循環になっていた。
というか、狼人族のマルさんに狼になるなよって言われる日が来るとは。
送り狼にはならないぞ!と自分に誓って、いざ木村さんと一緒に夜道を帰っているんだが、、何を話せばいいのかわからない。
木村さんは、しっぽがルンルン気味だから、この空気に問題ないのかもしれないけど、俺にとっては大問題である。
女の子と二人で歩いているのに、盛り上がる会話の一つもできないなんて、俺だめじゃん!!
確かに、そもそも木村さんはおしゃべりなタイプではない。
にしても、何も会話しないまま、ずっと横を歩いてるのって、どうなん??
ぐぁぁぁぁ、どうしたらいいんだぁ!!?
「、、森山さん、」
木村さんが、こそっといつもより小さな声で話しかけてくる。
「、、視線を感じるです。」
「えっ?!」
「、、、」
木村さんが、指を口元に当てて、しぃーーと伝えてくる。
不謹慎なことはわかってるが、これだけは言いたい。
その仕草、可愛すぎるよ、、
「、、森山さんは、ここで待っていてください」
一瞬、その可愛さに気を取られ、ん?どういう意味?と聞こうとした瞬間、綺麗な虎耳の残像を残して、木村さんが消えた。
あぁっ、消えた!?
「え?木村さん!?」
いきなりのことに反応が遅れて、思わず大きな声を出しながら辺りを見回すと、
「にゃにゃにゃ!待つにゃ!ニャコにゃ!にゃにゃにゃー」
と、聞き慣れた声が歩いてきた方角から聞こえてきた。
「ニャコ?」
声の聞こえた方に、少し歩いていくと、街路樹の陰から、木村さんとニャコが出てきた。
「あぁ、木村さん、良かった。急に姿が見えなくなったから、ビックリしたよ。つーか、ニャコは、そこでなにしてんの?」
「にゃにゃ!それはにゃ、あれにゃ、にゃにゃ~」
「、、一緒に帰りたかったですか?」
「そうにゃ!!」
「いや、絶対違うだろ!」
思わず、ツッコンでしまった。
「にゃにゃ~、、実はシルキーカフェからの帰りに恭一を見かけたにゃ。それで、声をかけようと思ったら、その子と一緒に歩いてたにゃから、つい、」
「後ろから尾行してた。と?普通に声かけてくれたら良かったのに。」
「ごめんにゃ~」
「、、ストーカーさんがいるかもしれないので、送ってもらっていました」
「ストーカーにゃ??」
「あぁ、最近変な視線を感じるって、木村さん達が言ってて、それで一応、帰る時間が近い俺が、木村さんを家まで送っていくことになったんだよ。」
「そうだったにゃぁ!」
「ったく、もうどうせだし、一緒に行くか?木村さんも、それでいい?」
「、、もちろんです!」
「だそうだが?」
「行くにゃ!一緒に送っていくにゃ~」
「まったく。ニャコが、ストーカーって、どんな状況なんだよ?」
「むぅぅぅ、それは言っちゃだめにゃ~!」
「引っ掻くな引っ掻くな。ていうか、木村さん、すごかったね!見えなかったけど、一瞬でニャコのとこまで行ってて、ビックリだよ!」
「にゃにゃー!そうにゃよ!二人が立ち止まっにゃと思ったら、いつの間にか目の前に木村にゃんがいて、しっぽが逆立ったにゃよ!あれは、なんだったにゃ?」
木村さんは、小柄だけど、虎人族だし、足が速いのはわかるんだけど、一瞬で十メートルくらいを移動するのは、さすがに種族の枠を越えてる気がする。
「、、瞬歩です。」
「瞬歩?なんだっけ、それ?なんか聞いたことある!武術だっけ?」
「瞬歩にゃ?にゃにゃ?聞いたことないにゃ~、なんにゃ?」
「、、秘密です。」
木村さん、秘密のラインおかしくない??
もう、瞬歩って言っちゃったよ!
でも、まぁ、
「そっか、秘密ならしょうがないね」
現代になっても、各種族にはそれぞれのルールがあったりして、秘密事項があったりする。それを深く追及するのはマナー違反だ。
「でも、やっぱりすごかったよ!木村さん!」
「アニメみたいだったにゃー!木村にゃん、かっこいいにゃん!」
「、、かっこいいです?」
「にゃにゃ!」
「、、、」
ん?なんと!!
照れている!木村さんが照れているぞ!
リアクションが小さいから、わかりづらいけど、俺は確信を持って宣言する!木村さんが、照れたぞ!!
レア照れが見れて、俺の心は歓喜している!!
「、、帰るです」
おっと、照れを隠すように、木村さんが歩き出してしまった。
「おっ、待った待った。ほれ、ニャコも行くぞ。」
「木村にゃんの家まで、レッツニャー!!」
そんなこんなで、三人で楽しく歩いて、何事もないまま木村さんを送り届けてから、ニャコもついでに家まで送って、この日は俺も家路につくのであった。