15 B
ほっぺにチュウされました///
ーーー
「よしっ!じゃあ、まずは拘束を解かなきゃな!シアンほどいてやれ!」
「はいよー」
「ありがとうございます!」
シアンさんが僕を拘束していた縄をほどいてくれる。
「すまなかったな。拘束しちまって。最近、他国の連中がちょっかいかけてきたり、新手の盗賊が居着いたりしてたからな。ザクソンさん達が一緒にいる以上は、一応警戒しなきゃならんかったんだわ。」
「いえ、こんな所にぽつんと人がいたら、僕でも怪しむと思いますから。気になさらないでください。」
縄がほどけて、シアンさんが手を貸してくれて、立ち上がる。シアンさんにもお礼を伝える。
「そう言ってもらえると助かるよ。そんで、これからについてなんだがな。依頼自体は終わっていて、俺達はマイルトンって街に帰るとこなんだ。今夜は野宿になるだろうが、明日は街道に出られるだろうから、宿に泊まる。ほんで、明後日、マイルトンに到着予定だ。」
「街までは、けっこう遠いんですね。」
具体的な距離はわからないけど、1日中歩くとしても、かなりの距離を歩くことになりそうだ。
「街道に出るまでは歩くが、最初の村からは、貸し馬か馬車に乗るから、安心していいぞ。」
「貸し馬?馬をかりるんですか?」
「ん?そうだぞ?あぁ、そこら辺の事も忘れてんのか!そうかそうか。あのな、街道沿いの村や町にはな、貸し馬屋が必ずあるんだよ。大きな町なら何件もあるんだぞ。そこで、馬か馬車を借りられるんだ。ほんで、次の村や町で乗り換えたりしながら、目的の土地まで行くんだよ。王族や貴族、豪商なんかは、自前で用意できるんだろうが、普通はそんなに長距離を移動したりしないからな。家に農業用の馬や牛がいることはあるが、旅行とか商談とかは専用の牛馬を借りるのが一般的だな。冒険者も、マスタークラスにでもならん限りは、そんな感じだなぁ。ほんで、ゆっくりの旅なら、牛車でもいいんだが、今回は速さで馬だな。」
「なるほど!」
おぉ!知らなかった!ずっと歩くのかと思ってたから、ありがたい!
「だがな、気を付けなきゃならんこともあるんだぞ。」
「気を付けなきゃいけないことですか?それは……いったい?」
「弱ってる馬を見破ることだな。」
「弱ってる馬?ですか?」
「そう。弱ってたり、あまり長距離を走れない馬もいるんだよ。良心的じゃない馬貸しが、たまにいてな。そういう馬を通常料金で貸そうとしやがるんだ。だから、馬の良し悪しを見極める術がないと、騙されることがあるから、気を付けなきゃならん。まぁ、今回は俺達がいるから、安心しとけ!はっはっはっ」
「なるほど。もし、自分で借りることがあれば、気を付けます!ありがとうございます!」
「おうよっ!」
「ちょっとー、そろそろ私達を紹介してくれないかしら?ライアン!」
「あっ!すみません!僕が話の腰を折っちゃったので!」
「いいのよ。ライアンは、よく話が脱線しちゃう人だから、私達はもう慣れっこよ。」
そう言って、まだ話したことない女性が笑っている。
「すまんすまん。よし!じゃあ、旅の仲間を紹介していこうか。まず、こいつはケイト。俺が不在の時はこいつがリーダーだ。」
「よろしくね、ソウマ。私は、ケイト・ランパルトよ。それと、一応あなたも自己紹介しなさいよ、ライアン。」
ケイトさんは、ワイルドな笑みを浮かべて挨拶してくれた。
僕が身長170㎝だけど、ケイトさんは僕より少しだけ背が高くて、スラッとしてる。
メディナさんの髪とは、また違った印象の赤っぽい茶髪を後ろでまとめて腰まで垂らしている。
背中には、何かの武器を背負ってて。槍かな?なんだろう?
それに、しっかり者のベテラン冒険者感がすごい!
「おぉ!そうだったな!俺がこのパーティーのリーダーやってる、ライアンだ。ライアン・タワード。よろしくなっ!」
「はい!ケイトさん、ライアンさん、よろしくお願いします!」
「おう!ほんで、さっきも紹介したが、こちらが依頼主のザクソンさんだ。」
「どうも。ソウマ君。私は、山師をしているザクソン・デュアリバルと申します。」
ザクソンさんは、身長は僕と同じくらいだけど、小太りなおじ様で、茶髪を綺麗に纏めている。商人さんっぽかったけど、山師さん?たぶん、一番年上だと思うけど、とても丁寧に挨拶してくれて、優しそうな人だ。
「よろしくお願いします!えっとー、山師さん……ですか?」
「えぇ。山師とは、簡単に言うと、鉱山の場所や質を調べたり、開発の指示をしたりすることを生業にしている者のことですよ。道中お暇があれば、またお話させていただきましょう。あまり脱線していると、ケイトさんに怒られますからなぁ。」
そう言って、ザクソンさんやケイトさん達が笑いあっている。皆さん、とても仲が良いみたいだ。
「な、なるほど!勉強になります!あの、それと…同行を許可していただいて、ありがとうございました!わからないことが多いですけど、足手纏いにはならないように、頑張りますので!」
「いえいえ、レヴィエールの迷い子さんにお会いできて、私も光栄ですよ。あぁ、ちなみに、こちらは私の助手のガクベン君です。測量などを担当してもらっています。」
「ガクベン・ナヒールです。よろしくお願いします。」
ガクベンさんは、ニコリと微笑んで挨拶してくれた。
僕より、少しだけ背が高い。落ち着いた青髪を肩くらいまで伸ばしていて、眼鏡をかけた男性だ。とても、不思議な雰囲気を持っている。
「はい!よろしくお願いします!」
不思議な雰囲気の人だなぁ、時間がある時に、測量の事を聞いてみよう!
「よしっ、じゃあ、次はマキタだな!」
ライアンさんが、手に槍?斧?…あぁ、バトルアックスっていうんだっけ?そんな強そうな武器を持っている男性の方を差す。
「それより、ライアンさん、これ自分でちゃんと持ってくださいっす。」
そう言って、マキタさんがバトルアックスをライアンさんに渡す。
「おぉ、そうだったわ!なんか軽いと思ったわ!はっはっはっ」
笑いながら、ライアンさんが背中にバトルアックスを納める。あれ、重そうだなぁ。
「ほんと、頼むっすよぉ、、ほんじゃ、自己紹介っすね。マキタ・ヒャンクっす。一応、このメンバーだと、前衛任されてまっす!よろしくっす!」
マキタさんは、背中に二本の剣を背負ってるみたいだ。二刀流なのかな?僕よりは、身長が高いけど、ライアンさんほどじゃない。ちょうど真ん中くらいだ。ライアンさんが、たぶん180㎝くらいかな?喋り方は癖があるけど、けっこう年上だと思う。
「よろしくお願いします!」
「じやっ、次は私ね。シアン・クララビーよ。よろしくっ!坊や。」
シアンさんは、隣でにっこり笑って、手を差し出してくれたので、握手も交わす。立ってみてわかったけど、僕よりは少し背が低くて、意外とキリッとした顔立ちだ。
「はい!よろしくお願いします!」
「それで、最後はメディナね。」
シアンさんが、僕を挟んで反対にいるメディナさんを紹介してくれる。
「メディナ・タルトレッテです。魔法師です。よろしくお願いします。ソウマ君!」
メディナさんは、シアンさんよりも少し背が低くて、ちょっと見上げる形で、キラキラした目で挨拶してくれた。さっきのほっぺは、挨拶だ。あれは、挨拶あいさつアイサツ……
「よ、よろしくお願いします。メディナさん。」
ちょっと緊張してしまうよぉ……
「よしっ!これで、みんな挨拶したな。街までの仲間とは言え、これから一緒に旅をするんだ。気軽に接してくれよ、ソウマ。」
ライアンさんと握手する。
「あっ、はい!お世話になります!」
「じゃあ、ちょうどいいし、ここで休憩してから、移動しましょうか?」
ケイトさんが提案する。
「そうですね。私もちょうどお腹が空いてきたところです。」
ザクソンさんが、お腹空いたアピールをして、
「あっ、私も~」
シアンさんが賛同したので、
「よしっ!じゃあ、休憩だ!」
ライアンさんの決定で、お昼休憩になった!
「あのっ、僕に何か手伝えることありますか!?なんでもします!」
街まで連れて行ってもらうんだから、できることはしなきゃ!
「そうだなぁ、、いや、ソウマは座ってていいぞ。慣れてる俺達がやった方が早いからな。ザクソンさんとガクベンさんも、ソウマと一緒にお待ちください。キャンプの準備をしますので。」
そう言って、皆さんはテキパキとお昼の準備を始めた。
申し訳ないけど、待ってろと言われたのに、しゃしゃり出て、迷惑かけてもしょうがないので、大人しく皆さんの行動を観察する。この世界では、どうやって野営するのか、見ておいて損はないはず。
まず、川沿いの道ということもあり、シアンさんとメディナさんが川に魚を獲りに行った。矢に紐を結んで、魚を弓で射るらしい。メディナさんは、その補助みたいだ。
他の三人は、石を組んでいる。火を起こすのかもしれない。
あれ?薪拾いなら、僕もできるんじゃ?
「あの!薪拾いなら、僕も手伝います!」
ライアンさんに提案してみる。
「そうか?まぁ、それくらいなら大丈夫か?んー、どう思うケイト?」
「そうねー、一応、護身用に私のマチェットを一本貸すわ。それで、いいんじゃない?」
……護身用?薪拾いに?マチェットって?
僕の頭に?が浮かぶ?
「そうだな。まぁ、なんかあってもカバーすれば、いいか。よしっ!じゃあ、薪拾い手伝ってくれ、ソウマ!」
「えっ、あっ、はい!あの……薪拾いって、そんなに危険なんですか?」
僕は、この世界の事を何も知らないんだから、元の世界の常識で考えちゃいけないのかもしれない!
「そうよ。とても危険な仕事よ。」
ケイトさんが腰のベルトの内一本を外しながら、言った。え?ベルトを外してる?
「はい、万歳して、ソウマ。」
「えっ、こうですか?」
言われたとおりに万歳する。
「そっ、そのままね。」
そう言うと、ケイトさんが僕の腰に手をまわしてくる。
「あー、マキタっ、予備の手袋をソウマに貸してあげてっ!」
そして、ベルトを締めてくれる。
えっ?なにこれ?
「ソウマ君、手袋っす!」
マキタさんが、手袋を優しくぽいっと投げ渡してくれた。
「ありがとうございますっ!」
「街に着くまで、私のマチェットを貸してあげるから、大事にしてね。刻印してあるから、そう簡単には折れたりしないけど、自分の手を斬ったりしないように、気を付けるのよ。」
僕の腰にベルトが巻かれて、後ろ腰に何かが装備されている。
地面に平行に、横向きについているみたいだ。
「あの、触ってもいいですか?」
「ええ、もちろん。でも、まずは手袋はめてからね。そしたら、扱い方を教えるから、一度出してみて。」
マキタさんから借りた手袋を両手にはめてから、右手で腰の後ろに装備されたマチェットとかいう物のグリップを握り、ゆっくり引き抜く。
それは、大きめのナイフみたいなもので、片刃。黒い刀身に金色の文字で何か刻印してあった。
「それは、マチェットナイフよ。私達冒険者は、少なくとも一本は持ってるわね。」
ケイトさんが、左手でマチェットナイフを引き抜く。僕に貸してくれた分も含めたら、二本も装備していたみたいだ。それに、マチェットナイフを引き抜く時に見えたけど、他にも腰にナイフっぽいものを装備していた。背中の槍みたいなもの、マチェットナイフ二本、ナイフ、冒険者って、いっぱい武器を持っているのかもしれない。
「マチェットはね、森を移動する時に邪魔な枝や草を刈ったりもできるし、状況によっては戦闘にも使える代物でね。私達冒険者は、重宝してるのよ。ショートソードほどは重くないし、取り扱いも簡単だから、ソウマでも使うのは難しくないと思うわよ。」
「なるほど。こんな感じですか?」
僕は、とりあえずマチェットナイフを何度か振ってみる。
「そうねー、草を刈る程度なら、それでいいわ。でも、もし魔獣やゴブリンが現れたら、それじゃあ刃が通らないわね。そんなに力いっぱい振るう必要はないの。刃で殴るんじゃなくて、ちゃんと立てて、スパッといっちゃう感じよ!こんな風に!」
スパッ?ケイトさんが、お手本のように、マチェットナイフをくるくるスパスパ振っているけど、なんかすごい!
綺麗だ。なんだろう?無駄な力みがないのかな?とってもフォームが美しい。なるほど、確かに僕は力で振ってたのかもしれない。これは、練習が必要だな!
「すごいです!練習したら、僕もそんな風に使いこなせますか!?」
「えぇ、もちろん!ソウマは、まだ細いからロングソードやショートソードを扱うのは難しいかもしれないけど、マチェットならイケるはずよ!せっかくだから、休憩の時に、教えてあげるわ!」
「いいんですか!?ありがとうございます!」
「ええ!でも、その前に薪拾いしなきゃね。」
「ぁっ、そうでした!」
「でも、その前に薪拾いの注意事項を言っておくから、忘れないで。ちょっとした不注意で、人間はすぐ死んじゃうから。気をつけないといけないの」
え!やっぱり、薪拾いって、命懸けなの!?
「まず、大事なことは勝手に遠くまで行かないこと。森によっては、迷わせてくることがあるから、キャンプの位置をしっかり把握しておくこと、仲間と声を掛け合うこと。これは、絶対よ。」
「わ、わかりました。気をつけます!」
「次に、薪拾いに集中し過ぎないこと。薪を拾う時は、どうしても意識が下に行くわ。こういう時が一番危ないの。魔獣なんかの接近に気がつくのが遅れる原因になる。だから、周りをちゃんと警戒しながら、薪を拾うこと。もし、魔獣が現れたら、薪はすぐに落として、戦闘態勢を取り、仲間を呼ぶこと。下手に背中を見せちゃ駄目よ。距離が遠いならいいけど、近くまで来られていた場合は、回避するために、相手をちゃんと見るの。」
「相手を見る。……戦闘は、素人なんですけど、僕にできるでしょうか?」
「今回は、私が必ず近くにいるから、焦って混乱したりしなければ、大丈夫。私の指示をよく聞いて、従ってくれれば、大丈夫だから。」
「わかりました……他にも、何かありますか?」
「そうねぇ、あとはー、変なキノコを見つけても、食べちゃダメよ。」
ケイトさんが、素敵な笑顔でとっても怖いことを言っている。それは、アニメとかでよく見るやつだ……
「気をつけます!」
「よし!じゃあ、行きましょうか!」
ケイトさんと話している間に、ライアンさんはザクソンさん達の所に行き、マキタさんが先に薪を拾いに行ったみたいだ。
ーーー
「ふぅぅ、けっこう集まったなぁ」
僕とケイトさんは、あまり深く森の中に入らないようにしながら、薪を拾っている。やっぱり秋だから、木の実なんかがよく落ちている。ケイトさんが「これ、よく燃えるのよ」とか教えてくれながら、松ぼっくりみたいなのを拾ったり、食べられる茸の見分け方を教わったりしていると、それなりの量の薪を拾えた。
「さて、そろそろ戻りましょうか?」
「そうですね!」
と、その時だった。
ザクザク バキッ
と、何かの足音が遠くから聴こえてきた。
「ケイトさん!何かの足音が聴こえます!まだ遠いですけど、近づいてきてます!」
「え?…………何も聴こえないわよ?」
この世界には、獣人族は存在しないらしいから、説明が難しいので、とりあえず!
「あの、僕、耳がいいみたいなんです。あっちの方から足音が聴こえてくるんです!」
なんの足音かわからない怖さもあって、自然と小声になってしまうけど、キャンプと反対側から聴こえてくることを伝える。
僕は、狼人族の聴力をある程度引き継いでいるけど、耳が普通の人間の形をしている関係で、人間の二倍から三倍の聴力しかない上に、意識しておかないと、遠くの音は聞き逃してしまう傾向にある。でも、今はケイトさんの話を聞いて、警戒していたので、早く音に気づくことができた!
「……わかった。信じるわ。とりあえず、このままゆっくりキャンプに向かって後退するわよ。警戒をゆるめずにね。薪は、ここに纏めて置いていきましょう。」
「はい!」
薪を置いた僕たちは、背後を警戒しながら、ゆっくりとキャンプ目指して移動を始める。
足音は、だんだん近づいてきていた。
もう少しでキャンプが見えるという所まで来た時だった。
足音が早くなって、大きな鳴き声が聴こえてきた。
「ソウマ、止まって!そこの太い木の裏に隠れて!」
「はい!」
急いで木の裏に隠れる!
「今の鳴き声は、魔猪ね!……大きさにもよるけど、お昼は豪勢に焼き肉かしら?」
ケイトさんが、緊張しているのかいないのかわからない事を言っている!なんか冒険者っぽい!
「今の鳴き声で、マキタもこっちに来るはず。ここで狩るわ。ソウマ、よく見てて。マチェットの使い方、教えてあげるから。あっ、でもそこから動いちゃダメよ。」
「りょ、了解です!木の影からこっそり見てますね!」
「よし!じゃあ、ちょっと狩ってくるわね!」
ケイトさんは、舌舐りするかのような表情で少し開けた場所へ向かった。
すぐにそれは現れた。
猪。かなり大きい。元の世界でリアルに猪を見たことがないけど、たぶんそれよりも大きいし、鋭くて長い牙が二本アッパー気味に生えてるし、角が一角ある。高さだけでも、僕の胸か首までありそうだ!あんなのとケイトさん戦おうとしてるのか!?ただの突進ですら、必殺の一撃になりそうだよ!
「ほぉっ、けっこうデカイじゃないか。いいねぇ。ソウマ!よく見とくんだよ!」
そう言うと、ケイトさんはマチェットナイフを引き抜き、正面に構えた。
魔猪は、ケイトさんに向かって真っ直ぐ突進していく。
「人間、コロス」
……ぇっ?魔猪の言葉!?
そう認識した時、ちょうど魔猪とケイトさんが接触しようとしていた。
魔猪が、頭を横に斜めにと激しく振りながら突進していく。
「人間にんげんにんげんコロスコロスコロス!」
魔猪こわっ!
ケイトさんは、いつの間にかマチェットを逆手に持ち替えていた。そして、魔猪とぶつかる直前に左前に屈みながら飛び出して、紙一重で魔猪の牙を避けた!マチェットのグリップを右手で握り、左手で柄頭を抑えている。すれ違いざまに、魔猪の右前足を斬りつける!
足を斬られた魔猪は、バランスを崩しながら、前のめりに地面に突っ込んだ。魔猪が突っ込んだ威力で、ちょっと地面が揺れたよ!苦しそうに鳴きながらも、立ち上がろうとしている。
ケイトさんは、斬った衝撃を逃がすためか、軽く二回転してから踏みとどまって振り返り、魔猪に向かって走り出す。そして、その勢いで魔猪の右後ろ足を斬りつける!かなり深い傷を負わせたように見える。
「痛い痛い痛い、人間コロスコロスコロス!」
魔猪こわっ!というか、僕、魔猪の言葉がわかるんだ!これも、加護の効果かも!神様、すごい!
ケイトさんは、転がって暴れる魔猪から一旦距離を取る。
「さすがに、マチェットじゃ、こっからは厳しいか……」
ケイトさんが、背中の槍みたいなのに手を伸ばそうとした時だった。
「ケイトさん!ソウマ君!大丈夫っすか!?」
マキタさんが駆け寄ってきた。
「おうっ、マキタ!ちょうどいいところにきた!私達は無事だよ!」
「良かったっす!」
マキタさんが、ケイトさんの隣に並ぶ。
「パルチーでやってもいいんだけど、マキタの方がこの状態なら早いでしょ?」
「そっすね!じゃあ、俺がやってもいいっすか?」
「任せた!」
「はいっす!」
マキタさんが、右肩側のグリップを握って、剣を引き抜く。
おぉ、輝く両刃の刀身に見事な装飾が施されている。あれは、マチェットにもあった刻印??そういえば、刻印で折れにくくなってるとかケイトさんが言ってたな?後で確認しなきゃ!
あれは、ロングソード?ショートソード?たぶん、刀身が一メートルないくらいかな?
マキタさんは、立ち上がろうともがき暴れる魔猪と適度な距離を取りながら、油断なく進み、魔猪の首あたりに、「っす!」と下から斬りあげると、すばやく飛び退く!すると、うわっ!…魔猪の首からすごい勢いで血が飛び出してきた。
あんなに大量の血を初めて見たせいか、身震いしてしまう。
「これで、血抜きもできて、一石二鳥っす!」
素早く血飛沫の圏外に逃れたマキタさんが、サムズアップしてきたので、ぎこちなくサムズアップ返しをする。
「すごい……マキタさん、すごいです!ケイトさんも!突っ込んだ時は、正直ヒヤヒヤしましたけど!」
ちゃんと気持ちの整理をする間もなく、戦闘はあっさりと終わってしまったけど、なんかすごいものを見た気がして、茫然となりつつも、何か伝えなきゃ!と、感想をそのまま述べてしまった。
「あはは、ごめんな、ソウマ。マチェットで全部やろうと思ったんだけど、こいつ元気良すぎて、無理だったわ!」
ケイトさんが、笑いながら謝意を伝えてきたので、
「いや、全然!すごかったです!これで、あそこまで戦えるんですね!」
自分の腰にあるマチェットナイフ。これは、確かにすごい武器だけど、だからこそ気をつけて扱わないといけないな!
「いや、マチェットだけで、このサイズの魔猪を倒すって、なかなかっすよ?ソウマ君、ケイトさんは強すぎるんす!だから、参考にしたら、ヤバイっすよ!」
「えっ!?りょ、了解です!」
あっ、やっぱりですよねー、あはははは……
「余計なこと言わなくていいのよ。だけど、ソウマ。これも大事なことだから、教えておくわ。魔獣に限らず、獣は怪我してからが、一番危ないの。さっきみたいに暴れられると、動きが予測できないし、思わぬ反撃をくらうことがある。だから、もしさっきみたいな状態になったら、トドメを差す時こそ、油断しちゃだめ。少しの油断が、死に繋がる。いい、わかった?」
「わかりました!肝に銘じます!」
「よし!じゃあ、まずは薪を回収しに行って、キャンプまで運ぶわよ。ライアンにも相談しなきゃだし。それから、魔猪を運んで、解体ね!魔猪の肉は、美味いわよー!」
ケイトさんが、今日一番のワイルドな笑みを浮かべていた。
ーーー
薪を運んでから、僕がザクソンさん達の所に残り、ライアンさんやケイトさん達は魔猪の方に戻っていった。
あんなデカイの、どうやって運ぶんだろう?
シアンさんとメディナさんは、もう戻ってきていた。こちらも大漁だった。名前はわからないけど、美味しそうな魚が何匹も獲れていた。シアンさんは、弓の名手なのかもしれない!
「さて、火を起こすわよ!坊や、手伝って!」
「あ、はい!」
シアンさんに呼ばれて、石組みの所へ行く。
「魔猪のお肉も焼くなら、もう一ヶ所欲しいわね。坊や、こっちに同じような石組みを作るわよ。メディナは、こっちで火を起こしといて!魚も焼き始めちゃっていいから」
「はーい!」
メディナさんが、張り切って薪を組んでいく。
「了解です!……重っ!石ってけっこう重いんですね!よいしょっ!」
こっちはこっちで頑張ろう!
「そう?」
シアンさんは、どっちかと言うと華奢な身体に見えるのに、石をすいすい動かしている。冒険者だし、意外と筋肉がすごいのかもしれない。
「身体操作は、冒険者の基本なの。もちろん、ある程度の筋肉つけるとかはまた別に必要だけどさ、身体の使い方を覚えれば、これくらいは余裕よ?」
「…身体操作?…ですか?…やいしゃっと!」
言葉としては理解できるけど、それが何を意味するかはわからない。武術とかやってこなかったから、イメージがわかない!
「そっ!冒険者やってるとね、あんまりムッキムキに筋肉つけすぎてもダメなの。まっ、たまに筋肉バカがいるのは、いるけどね。動きが悪くなるし、体力持っていかれちゃうからね。あっ、兵士とかは別よ。冒険者の話だから。だから、身体操作。自分の身体を理解して、合理的に使う。これが、冒険者の養成所で最初に習うことなの。特に、基本力で劣る女性が、冒険者やるには、身体操作を極めるか魔法士やるか、それは必須ね。坊やも、細い方だから、街に着いたら習ってみるのも、いいんじゃない?街の公開講座とかあってるからさ。さっ、完成!いい感じじゃない?」
「そ、そうですね、、」
けっこう疲れた……石重いんだもん……
でも、立派な石組みができたと思う!
コの字型にある程度の高さまで石を組んで、かまどを作った!
というか、公開講座ってなんだ?
今日は、なんか濃すぎる!レンダントさんと別れてから、まだ一日も経ってないのに、いろんな情報が入ってきて、知恵熱が出そうだよ……
「さっ、薪を並べて~」
シアンさんが、薪の置き方も教えてくれる。けっこう順番が大切らしい。
「じゃ、メディナ火をよろしくー」
え、メディナさん?
「はーい、ファイヤー」
おうっ、マッチ要らずだ!メディナさんが、魔法の杖っぽいの振ったら、火の玉が薪に火をつけた!
そうか、魔法が使えれば、簡単に火が起こせるんだ!これは、やっぱり魔法も習いたいな!
「よぉーし、後はだんだん太い薪に火をつけていくだけだし!魔猪が来るまでは、ちょっと休憩してていいよ、坊や。」
「でも、僕にできることがあれば」
「坊や。いきなり魔猪との戦いに遭遇したり、いろいろ気づかない内に疲れが溜まってるはずよ。午後からはまた移動だから、今のうちに休んでおきなって。」
「……わかりました。すみません、じゃあ、ちょっとだけ休ませてもらいます。」
皆さんの邪魔にならなさそうな場所に行って、とりあえず横になる。
そんなに疲れていないと思っていたけど、横になってみるとすぐにうつらうつらしてきた。
読んでいただけることに日々感謝しております。
なるべく丁寧に書きたいと思っているので、展開がゆっくりになっているかもしれませんが、物語は確実に進めていきたいと思っています。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします!