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14 B


 盗賊かと思ったら、冒険者さんでした!


ーーー


 「少年、あーいや、ソウマと言ったか?話を整理すると、自分の名前とドラゴンに城から連れて来られたこと以外は、覚えてねぇ。ってことで合ってるか?」

 ライアンさんが、真剣な顔で問いかけてくる。右頬の古傷のせいか、妙な迫力を感じる。


 「そう、みたいです。」

 ライアンさんの迫力に、ちょっとビビりながらも、ちゃんと答える。この世界の事を知らない以上は、間違ってはいない。はず!


 「そうか……わかった。」

 ライアンさんは、信じてくれたのか、剣を鞘に納めてくれた。


 「ちょっと待ってろ。二人は、少年を見ていてくれ。」

 そう言って、ライアンさんは他の人達がいる方へ引き返していく。僕の処遇を相談するのかもしれない。こうなったら、いい方向に話が向かうことを祈るしかない。頼むー、神様ー!


 

 必死に祈る僕の横で、メディナと呼ばれる女性がなんだかキラキラした目で僕を見ているような気がする。


 「あの…なんでしょうか?」

 恐る恐る聞いてみる。


 「剿滅の赤竜。恐れと崇敬を集めるドラゴン。子供の頃から、レヴィエールの迷い子の話を聞いて、私たちは育つの。」

 キラキラした目で僕を見ながら語り始める。僕を見ているはずなんだけど、どこか違うところを見ているような感じがする。


 「は、はぃ??あの、そのレヴィエールの迷い子って、なんなんですか?さっきから何度も言われてますけど?」


 「君、興味あるの!?」

 メディナさんが、興奮気味に身を乗り出してくる。

 ち、近い!

 初めてちゃんとメディナさんの顔を正面から見た。年上だとは思うけど、綺麗な長い茶髪を右側から前に流していて、童顔でとても可愛い人だ。こんなに可愛い人に、間近から見られることがなかったので、とても緊張してしまう……


 「えっ?!いやっ、興味というか、、そのですね、えっと!あのドラゴンに関係があることなんですよね?!」


 「もちろん!レヴィエールの守り神。君をここに連れてきたドラゴンが出てくる物語だもん!」


 「レヴィエールの守り神?」

 迷い子じゃなくて?


 「レヴィエールっていうのはね、たぶん君がいたお城の名前なのよ。古代の失われし文明。その象徴たるお城が、レヴィエール。私たちも、おとぎ話の中でしか知らないお城。あのドラゴンは、そこに住んでいると言われているの。まぁ、坊やの話が事実なら、坊やはその生き証人なわけだけどね。」

 シアンさんが、しょうがないわね。って感じの苦笑いをしながら、補足してくれる。


 「な、なるほどぉ……それで、レヴィエールに住んでいる守り神ってことになるんですね?」


 「まっ、そういうことになるわね。」


 「それじゃあ、迷い子というのは?」


 「大昔に、森で迷子になった子達のことよ。坊やみたいに、ドラゴンが連れて帰ってきたの。」


 「そ!そんなことがあったんですか!?」

 初耳だった!レンダントさんは、そんな話してなかったし、いつか再会できたら、聞いてみよう!


 「本当かどうかは、わからないわよ?レヴィエールの迷い子の話は、地域で少しずつ違うって聞くし、下手すれば家によっても詳細が異なるから。共通しているのは、子供達が迷子になったことと、ドラゴンが連れて帰ってきたことの二つ。この話はね、子供達が森へ勝手に遊びに行かないように、お母さんが子供達に話して聞かせる物語なの。そして、メディナのお気に入りの話でもあるんだけどね。」

 シアンさんが、意味ありげにメディナさんを見る。


 「もう!別にいいでしょ!だって、素敵なお話なんだもん!」

 メディナさんが、ちょっと恥ずかしそうに言い返している。


 「そんなに素敵なお話なんですか?」


 「ええ!聞きたい??」

 ち、近いです!メディナさん!


 「ぜ、ぜひ…」

 気持ち身体を後退させながら、頷く。

 すると、メディナさんが、おっほん!それでは、と話し始めた。


 「昔昔、とある村に幼い兄弟のヘムルとナージャがおりました。母は、彼らにあまり遠くに行ってはダメよ。と言い付けていました。ですが、ある日、彼らは森で珍しい木の実を探したり、鳥さん達を追いかけたりして遊んでいると、あまりにも遊びに夢中になってしまい、母との約束の時間を忘れ、深い森の中へ迷いこんでしまいます。ナージャは、帰り道がわからなくなったことに気がつくと、怖くなり泣き出してしまいました。ヘムルは、ナージャを励まします。日が暮れれば、森は暗い闇に覆われ、闇に住まうもの達の時間が始まってしまう。そう教わってきたヘムルは、必死に帰り道を探しますが、更に迷いこんでいくばかり。ナージャは、歩き疲れて、もう歩けないと、ヘムルを困らせてしまいます。ヘムルは、自分も泣きたいのを我慢して、ナージャを励まします。その時、遠くから金切り声が聞こえてきたのです。ヘムルは、知っています。その声が、ゴブリンのものだと。ヘムルはナージャを連れて、走り出します。なるべく遠くへ。ですが、ゴブリンの声はだんだん近づいてくるのです。歩き疲れていたナージャは、うまく走れなくなって、転んでしまいました。手を繋いでいたヘムルも、引っ張られて転けてしまいます。ナージャは、痛みと怖さから大声で泣き出してしまいます。とうとうゴブリンが、二人に追いついてしまいました。ゴブリンは、一匹でしたが、こん棒を持っています。ヘムルは、自分も怖いのに、ナージャを守ろうと庇います。ゴブリンは、不気味な笑い声をあげます。じりじりとゴブリンが、ヘムル達に近づいてきます。もうダメだ!とヘムルが思った時でした。大きな鳴き声が聞こえてきたのです。ゴブリンも驚いて、尻餅をついてしまいました。バサッバサッと音が聞こえてきたかと思うと、大きな影がヘルム達を飲み込んでしまいました。ヘルムが見上げると、そこにはドラゴンがいたのです。ゴブリンは、ドラゴンが怖くなり走って逃げ出します。ヘルムとナージャは、恐怖のあまり動けませんでした。ドラゴンは、ヘルム達の近くに降り立つと、二人をじっと眺めます。とうとうヘルムまで泣き出しました。ドラゴンは、そんな二人をその大きな手で掴み、大きなお城まで飛んで行ってしまいます。ですが、ドラゴンは二人を食べたりはしませんでした。甘い果物を採ってきて食べさせた後、泣きつかれて眠ってしまった二人を村の近くまで連れて帰ってきたのです。外は、もう暗くなっていましたが、村は大騒ぎしていました。いなくなった子供達を探すため、松明を焚き、大人達が走り回っていたのです。そんな所に、子供を連れたドラゴンが現れたのです。ドラゴンは、子供達を降ろした後、優しい鳴き声を上げたかと思うと、再び飛び立っていきました。母が子供達に駆け寄ります。子供達は、疲れてすやすや眠ったままでしたが、母の泣き声に気がついて、一緒に泣き出してしまうのでした。……というお話です。」


 手が拘束されていなければ、拍手を送りたいくらい、メディナさんの語りは引き込まれるものがあった。

 

 「…どう?素敵でしょ?」


 「そうですね。子供達がちゃんと帰ってこれて、ほっとしました。」


 「ふふっ。そうね。でも、ドラゴンがね。子供達をお城に連れていったりするのは、余計に怖がらせるだけだっていう人もいるの。でも、私は違うと思うんだ。たぶん、ドラゴンは子供達を励ましたかったんじゃないかなー。お城からの景色を見せたり、果物をあげたりして、元気になって欲しかったんだと思うんだ。私は、そう信じてる。」


 「……僕も、そう思います。僕がお城にいる時に、ドラゴンが果物をたくさん持ってきてくれたんです。火も焚いてくれて、寒くなかったですし。たくさん優しくしてくれたんです。何もわからない僕を助けてくれたんです。彼は、優しいドラゴンだと思います。」


 「ほんと!?やっぱり!」

 ちょ、ほんとに近いです!メディナさん!


 「もうー、落ち着きなさい、メディナ。坊やが困ってるじゃない。」


 「だってだって、レヴィエールの守り神は、やっぱり優しいドラゴンだったのよ!これは、みんなに自慢しなきゃ!レヴィエールが実在するのよね?ソウマ君!?」


 「えっ?あー、はい。たぶん。……あのお城がレヴィエールという名前なのかはわかりませんけど、雲の上にお城があったのは、間違いないです。」


 「レヴィエールが実在する。これは、確かにすごいニュースになりそうね。」

 シアンさんも、ちょっと嬉しそうだ。


 「ねっ!ねっ!!すごいよね!ソウマ君!!」

       

 チュッ!


 …えっ……ほっぺに柔らかい感触が……ぇぇぇぇぇぇ!??


 「ありがとう、ソウマ君!君に出会えて良かった!これも、神様の御導きね!」

 なんと!!これは、あれか!?あれなのか!?欧米では、挨拶でほっぺにチューするという、あれか!?あわわわわわわ、なんだこの状況は!?


 「なんだなんだ、騒がしいな、おい。」


 「ライアンさん!レヴィエールは、やっぱり存在してました!ソウマ君は、やっぱりレヴィエールの迷い子です!」

 戻ってきたライアンさんに、メディナさんがとっても嬉しそうに返事をしている。

 今回は、ライアンさんだけじゃなくて、向こうにいた全員が一緒にこちらに来ていた。メディナさん達との会話がなかったら、聞き耳をたてて、僕の処遇の相談だろうと思われる会話を盗み聞きしようと思っていたのに、すっかり忘れてた!ど、どうなったんだろう……


 「そっか。良かったな、メディナ。まっ、その話はまた後でゆっくり聞くとして。ソウマ!紹介する。こちらは、ザクソンさんだ。今、俺達が請け負ってる仕事の依頼主だ。」


 「よろしくね。」

 ザクソンと紹介された男性が、気さくに声をかけてくれる。

 

 「あっ、はい。よろしくお願いします。」

 何をよろしくお願いするんだろう??

 ザクソンさんは、ちょっと小太りな男性でこのメンバーの中で一番年上っぽく見える。四・五十代だろうか。冒険者というより、商人ぽい感じだ。


 「ソウマ。俺達は、今ザクソンさんの依頼で仕事をしている途中で、最終的な裁量はザクソンさんにあるんだ。それで、ソウマの事を相談していたんだが、ソウマさえ良ければ、俺達と来ないか?俺達が拠点にしている街まで送ろう。それから、身の振り方を考えればいい。医者に診てもらえば、記憶を取り戻すことも可能かもしれん。どうだ?一緒に来ないか?」


 「……いいんですか?どこの誰かもわからない僕を連れて行っても?さっき……スパイかもって?」


 「ん?あぁ、まぁ、大丈夫だろ?行くあてもないんだろ?もし、こんな所に置いてったら、すぐに死んじまうだろうしな。スパイなら、逆にこんな所に一人でいるわけないだろうし。逆に怪しすぎだろ?はっはっはっ!」

 ライアンさん達が、笑ってる。

 僕を拾ってくれる。

 断る理由は、もちろんない!!


 「お願いします!僕を一緒に連れていってください!」


 「おうっ!任せとけ!そん代わり、荷物運びくらいはしてもらうからな。覚悟しとけよ!ソウマ!はっはっはっ!」


 「はい!よろしくお願いします!」


 

 


 

 

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