13 B
なんとか今日中にアップできました!
すやすや。。
ーーー
「っくさっ!!」
鼻が曲がりそうな匂いに、思わず目を覚ます。
目覚めた勢いで、身体を起こそうとしたら、うまく動けずに、ビタンッと背中を地面にぶつけてしまう。
「痛っ!」
「おっ、やっと起きたね、坊や。」
「いてて……えっ、誰?!いたっ!あれ、手と足が、、?くさっ!」
なんだ、この状況!?
寝かされた状態で、目の前に女性が一人立っていて、何かの小袋を僕の顔の近くにぶら下げて、こちらを見下ろしている。この小袋が、強烈な匂いを発している!
そして、僕は手足が動かない。何かで拘束されている!
「シアン、少年が起きたのか?」
今度は、男性の声が聞こえてきた。声のした方へ頭を向ける。すると、少し離れた場所に複数の男女が座っていたり立ったりしていた。しかも、みんなこっちを見ている。
なんだ、この状況!?
シアンと呼ばれた女性は、銀髪をショートカットにしている。膝下まである濃いめのピンク色のローブを着ていて、背中には弓と矢筒があり、ローブの下には剣がチラッと見える。見えないだけで、ローブの下にはまだ装備があるかもしれない。
そして、向こうにいる人達は、皆それぞれにカラフルなローブを着ていて、やはり武器を装備しているようだ。手に剣を持っている人もいる。
なんで、僕は捕まってるんだ?!近づいてきていた人達って、冒険者じゃなくて、盗賊だったのか!?
「やっぱり、匂い袋はえげつないわねぇー、くさすぎ!」
シアンと呼ばれた女性は、よく見ると顔をしかめている。やっぱりくさいのだろう。彼女は、ぶら下げていた小袋を違う袋に納めてから、鼻を摘まんで、顔の前で手をブンブン振っている。
匂い袋?が、他の袋に納まると匂いは弱くなった。あんな強烈な匂い初めて嗅いだよ!そう思いながら、袋を見つめていると、
「ごめんね。坊やがなかなか起きないから、気付け薬代わりに、匂い袋を使わせてもらったわ。っまだ、ちょっとくさいわね、、」
また鼻を摘まんでいる。僕も摘まみたい!
「すまなかったな、シアン。だが!くじ引きの結果なんだから、恨まないでくれよ。それに、離れていても、やっぱり臭いぞ、匂い袋は!はっはっはっ」
先程声をかけてきた男性が、豪快に笑いながらこちらに歩み寄ってくる。
しっかりした身体で、身長は高い。たぶん、四十代くらいかなと思うけど、西洋人っぽい顔立ちだから、はっきりとはわからない。髪は、ざっくばらんに切ってある。右頬に古い傷痕が見える。
「さて、少年」
歩み寄ってきた男性が、腰から剣を抜き放ち、切っ先を僕に向けて、「ちぃと質問に答えてもらおうか。」
笑顔とは裏腹に、恐いくらい真剣な声で問いかけてきた。
「ひぃっ」
こわい……殺される!やっぱり、この人達は盗賊なのかもしれない!
目と鼻の先に、剣の切っ先がある。目は見開き、剣で視界がいっぱいになる。少し腕をつき出せば、僕の顔か喉に容赦なく突き刺さるだろう。想像してしまって、ゾッとする。
戦慄するって、こういうことかもしれない。さっきまで混乱していたのに、頭の芯が凍りついたかのように、恐怖が思考を塗りつぶしていく。手足は拘束されているけれど、無意識に遠ざかろうと身体を捩る。
「こっ、殺さないで!」
思わず叫んでいた。
「ん?別に殺す気はないぞ。今のところはな。おかしな事さえしなければ、傷つけたりもしない。質問に答えてくれさえすれば、解放する。」
ドラマなんかだと、そう言って、結局殺すじゃないか!母と見たドラマがフラッシュバックしてくる。
「ごめんね、坊や。君が暴れたり魔法を使ったりしないように、念のためよ。」シアンという女性が、優しく声をかけてくれる。
僕は、必死に頷く。
「答えます!なんでも答えます!」
「その方がありがたい。できれば、俺も傷つけたくはないからな。はっはっはっ!」
男性の表情と声が、少し柔らかくなり、また豪快に笑っている。
「坊やが眠っている間に、一応、武器や暗器を持っていないかのチェックをさせてもらったわ。珍しい服装ではあるけれど、装備を一切持っていないことは、確認したわ。……坊やは、魔法使いなの?」
僕は、横に思いっきり頭を振って、否定する。
魔力は、持っているけれど、魔法そのものはまだ習っていないから、使いようがない。
「うーん、嘘をついてるようには感じないわねぇ。ライアンさん、どう思います?」シアンと呼ばれた女性が、豪快に笑っていた男性に問いかける。男性が、渋い黄色のローブを着ていることに、今になって気づく。
「そうだなぁ、だが、メディナは強い魔力を感じるって言ってたしなぁ。少年、本当に魔法が使えないのか?」
男性が、顎に手を当てて、思案顔で問いかける。
僕は、今度は縦に頭を振る。
「魔法は使えません!つ、使い方を知らないんです!」
「ほぉ、なるほど。それじゃあ、少年はフィラナリア王国のスパイなのか?」
……?なにを言っているんだ?
「フィラナリア…王国?そんな国知りません!スパイだなんて!違います!」
「じゃあ、坊やはドイスベルグ王国の人なの?」
「?その国も知りません……あの…僕は、何も知らないんです!国とか、スパイとか、何もわからないんです……」
「何も知らない?……覚えてないということ?」
シアンさんが、心配そうに覗きこんでくる。
僕は、この世界に来たばかりで、本当に何も知らない。でも、レンダントさんは、異世界から来たことなんかは、言わない方がいいと言っていた……となると、『知らない』ではなくて、『覚えていない』の方が話が通じるかもしれない。助かるために!
頭が急速に回転をしだす。そうだ!何も覚えていない!記憶喪失!ラノベでよくある展開じゃないか!これだ!、と思った時だった。
「ねぇ?君、ドラゴンを見たりしなかった?」
いつの間にか、淡い紫色のローブを着た女性が近くに来ていて、僕に問いかけてくる。
ドラゴン!?レンダントさん!??
「えっ!あっ?その!」
なんと答えればいいのか、何が正解かわからなくなる。もしかしたら、レンダントさんといるところを見られた?いや、でも、レンダントさんは、まだ遠いと言っていたし、それはないか。じゃあ、なんだ?この人達は、レンダントさんを探している?盗賊か冒険者かわからないけど、ドラゴンを探している?
サァァァと血の気が引いていく。ドラゴンを探しているなら、それは素材回収のために、狩りをするということじゃないのか?ダメだ!レンダントさんが簡単に狩られることはないと思うけど、それはダメだ!なんとかしないと!頭を使え!何かいい答えを!
「だ、大丈夫?ドラゴンに、こんなに反応するってことは、やっぱりレヴィエールの迷い子なのよ!この子!」
レヴィエールの迷い子?
「メディナ…それは、迷信でしょう。その歳になっても、まだ信じてるの?」
「さっきのは、やっぱり赤竜だったのよ!山を越えていくのを見たんだから!」
「わかった!わかったから、落ち着け。メディナ。それは、俺も見たから、わかってる。」
やっぱり、レンダントさんが目撃されたんだ!マズイかもしれない!
「すまんな、少年。もう少し質問をさせてくれ。これが肝心要の質問なんだが、こんなところで何をしていた?たった一人で、こんな人里離れた所に、装備の一つも持たずに、どうやってここまで来たんだ?」
「それは……」
なんて答えればいいんだ?記憶喪失は、大前提としても、確かにこんな所に一人でいるのは、変かもしれない。魔獣やゴブリンがこの世界にはいるって、レンダントさんは言っていた。つまり、なんの装備も持たない人間が、こんな所にいるわけがないのか!しまったぁ、そこまで考えてなかった!ど、どうしよう、、、
「ねぇ、君、やっぱりドラゴンに連れてこられたんじゃない?ここまで?」
「……そうなんですよ。っ!」
しまった!どうすればいいのか考えていたら、うっかり素直に返事をしてしまった!
「やっぱり!!ねぇ、お城にいたりしなかった?!」
「えっ?なんで知ってるんですか?」
「まさか…本当に、レヴィエールの迷い子なの?」
シアンさんが、信じられないという顔で、こちらを見ている。
「うーむ。にわかには信じがたいが……少年、どういうことか説明してくれないか?何があった?」
「それは、、」
レヴィエールの迷い子って、なに?下手に嘘をついたらバレそうだし、、言っちゃったことはしょうがないし、、ありのままを話してみるしかないか…
「実は、気づいたらお城にいたんです。それより前の事は何も覚えてなくて……そしたら、お城にドラゴンがいて、数日そこで過ごしました。そして、今日ここに飛んで連れられてきたんです。それ以外は、何もわからなくて……」
「レヴィエールの迷い子の伝承そのものだわ!ほんとだったのね!」
「落ち着いて、メディナ!……坊や、それが本当だとして、ドラゴンの目的はなんなのかわかる?あのドラゴンが、どんなドラゴンか知っているの?」
「ど、どんなドラゴン?ですか?」
レンダントという名前のドラゴンですけど?なんて言えないし!
「あのドラゴンはね、剿滅の赤竜って呼ばれてるのよ。」
「そうめつ?それは、どういう意味なんですか?」
「あのドラゴンはね、この一帯で盗賊のアジトやゴブリンの巣を壊滅させたりしていることで有名なの。街には、手を出してこないけど、いつ襲ってくるかわからないから、警戒対象なのよ。」
「そんな!嘘です!僕は、数日一緒にいました!食べられたり、襲われたりはしていません!」
そんなバカな!レンダントさんは、とっても優しいドラゴンだ!人間を殺したり食べたりしないと言っていた!何か誤解があるに違いない!
「ちょっ、わかった、わかったから!落ち着いて!話には続きがあるの。実はね、盗賊のアジトを襲ったりするんだけど、誰も死傷者が出ないことでも有名なの。アジトだけを破壊して、盗賊達は追いかけられたり、ブレスを吹きかけられたりするんだけど、誰も死なずに生き残るの。関所とか街は襲われないし、必ず盗賊とか犯罪者のアジトばかりが襲われるのよ。だから、この周辺では盗賊がほとんど出なくなって、比較的安全に移動できることで有名だったりもするの。それで、地域住民からは守り神のように扱われていたりするわけ。でも、冒険者ギルドとしては、念のために警戒対象に入れているの。何かあってからじゃ、遅いからね。」
「……なるほど。」
シアンさんの説明に、一応の納得をする。レンダントさんからは、そんな話聞いてなかったので、正直びっくりした。
あれ?今、冒険者ギルドって言った?言ったよね?つまり、この人達は!
「あのっ、皆さんて冒険者さん、なんですか?」
「私たち?えぇ、そうよ。クエストでパーティ組んでる冒険者よ。」
盗賊じゃなかったーーー!!
「僕、てっきり皆さんは盗賊かと……」
「え?私たちが?あっはっはっ!そういえば、ちゃんと言ってなかったわね。私たちは、冒険者よ。あそこにいる人達も、ほとんどは冒険者ね。あっ、そういえば、坊やの名前も聞いてなかったわ。なんて名前なの?……それは、覚えてる?」
「あ、はい!それだけは、覚えてます!僕は、ソウマ・クラレットです!」
ライアンさんの剣は、まだ僕に向いているけど、冒険者の人達なら、なんとか話が通じるかもしれない。ここからが、勝負だ!
僕が、この世界で生きていくために!!