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Symphonic

仕事も休みだし無機質な気分で過ごしていたら、友達 (けん)から電話があった。

「…あ、いたいた…暇?飲みいこ…鍋でも食べ…奢る…、新装開店…パチンコ出まく…」

ボックスタイプではない公衆電話かららしく、強い北風が所々音声を遮り、寒さで呂律も回っていないようだったが、名乗り無き声の主は直ぐに察しがついた。


健とは高校からの仲で、事ある度…いや事なくても飲みに行っては、毎度毎度同じ話題を繰り返し、くだまいたり、些細な言い合いとなったり、時には涙ぐんだりもしていた。

お互い1人暮らしでそれほど遠い距離でもない。飲み足りなければどっちかの住居で宴は続いた。


予定通り駅前で鍋をつつき、ラストオーダーコールと共に店を後にした。昼間でも寒いのにこの時間だと尚更。

「先月オープンした外国人ねーちゃん達の店っぽいシンフォニック(Symphonic)って言う所、そこ曲がった所にあるけど言ってみない?1時間3000円とか書いてたから、今度は俺が奢るよ3000円だし」

20歳過ぎて自分で生計できるくらいになれば、ちょっとは背伸びしたくなる。

いや他の奴よりも数倍リードしたくなる。そんな偉ぶった気持ちを健にぶつけた。

否定されても一人で行くつもりだった。

健は「昨日からの口内炎が痛い…じゃ、ちょっとだけ…1時間な」と、否定肯定をミックスした返答だった。


角を曲がると目的地「Symphonic」は黒地に黄色字の看板。いかにも、と言う雰囲気で待っていた。

その入口前では店の女の子らしき2人とはしゃいでいる4、5人のサラリーマングループが確認できた。俺と健はそこへ少しづつ歩みより遠目に観察した。

女の子は大柄と小柄で、対照的なシルエットは双方を引き立てている。

「あはは、またきてください、ありがとうございました~!」

「おぅ、また来るからね~。アキちゃん、マイちゃん、今日は寒いね~バイバーイ」


街灯の下でのそんな光景は、客と店の関係が平和に保たれている様子でちょっと安心した。

サラリーマン達の姿が見えなくなるまで、見送っていた2人は、反対側からやってくる我々を見付けニヤニヤと近寄ってきた。

と言うよりも、そもそも入店するつもりだったから、そっちへ舵をとっていた事を察したのだ。


「おにぃさん、いらっしゃいませ~!」

と、イントネーションが明らかに外国人であり満面の笑顔で迎えられた。

当初想定していた、どうする?はいる?どうする?的なやり取りする間もなかった。

大柄な女性は俺の腕に自分を腕を絡ませてきては強引に入店をせまってきたのだ。

あまりにも人工的な香水が気になった。

「おねぇさん1時間3000円でしょ?」

健に奢ると宣言した以上、この確認は大切。

「そうですよ~!おにぃさん、あっはは。1時間でいいよ~」


度々言うけど入店するつもりだったので、それに反する行動はしなかった。

そして俺と健はその「未知なる店 Symphonic」入口内部へ入る事になったのでした。


1993年 平成5年 真冬のある日

この日、私の人生に於いてとてつもなく複雑なジャンクションへ向かって走り出した事は、まだ気付いてはいなかった。


(つづく)

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