地獄という名の狂気の世界
血がほとばしり、肉が裂ける音が響く。
神を称える為に建造されたコロシアム。
ここでは日夜、殺し合いによる賭け事が行われていた。
人々は血に酔いしれ、決闘者の死を望む。
そんな世界に彼ははいた。
彼は名も与えられる事はなく、それでいて武器も与えられる事はなかった。
あるのは原始的な獣の皮の腰巻きくらいであろうか。
それに対して、彼の対戦相手は重火器とパワードスーツに身を包んだ巨漢の持ち主だった。名はジャッカル。
この世界でも指折りの傭兵である。
彼はそんなジャッカルを睨む。
しかし、それは自身に武器が与えられなかったからと云う不平からではない。
ただ、新たな獲物がやって来た事で飢えた狼の如く牙を剥き出して威嚇しているのだ。
そして、銅鑼が鳴り響き、決闘が始まる合図が告げられる。
先に動いたのはジャッカルであった。
ジャッカルはガトリング砲を両手で抱え、彼に弾幕の雨を浴びせる。
ガトリング砲の弾は貫通彈となっており、彼の後方近くで観戦をしていた観客席の客も蜂の巣となる。
だが、当の本人である彼は怯まないどころか、ジャッカルに突進して行くではないか。
「化け物め!」
ジャッカルはガトリング砲で彼の拳を防ぐが威力が殺し切れずに後方へ吹き飛ぶ。
ガトリング砲の銃身はその一撃でひしゃげ、ジャッカルはそれを捨てるとグレネードランチャーを構える。
それを見て、彼は雄叫びを上げて突撃した。
そして、放たれたグレネードランチャーを掴むとそれをジャッカルの砲身に押し戻して爆発する。
モウモウと立ち込める黒い煙の中、パワードスーツに身を包むジャッカルは周囲を見渡す。
至近距離で爆発したとは云え、彼の着ているパワードスーツは耐性の強い最新のものである。故に無傷であった。
そして、それを故にそれを見てしまった。
爛々と輝く赤い鬼の姿を・・・。
「この化け物め!くたばりやがれ!」
ジャッカルのその声に彼は雄叫びを上げ、銃弾を弾きながらジャッカルのパワードスーツを纏う腕を引きちぎる。
最新鋭のスーツも彼の前には役に立たないらしい。
ジャッカルの絶叫が響き、無事な手でハンドガンを放つ。
だが、ガトリング砲やグレネードすら受け付けない彼には通用しなかった。
「くそが!なんで死なねえんだよ!」
ジャッカルは悲鳴に似た叫びを上げると顔面に彼の拳を叩き込まれ、大きく吹き飛んで客席へと落ちる。
悲鳴が起こり、吹き飛んだ頭が脳髄と頭蓋骨などの肉片を撒き散らせて客席へと降り注ぐ。
そんな彼は次の相手を既に見据えていた。
彼は飢えを満たすかのように引きちぎったジャッカルの腕に噛み付くとそれを咀嚼して飲み込む。
その光景を見て、観客の何人かが吐いたが、彼は気にしない。
そう。これは処刑なのである。
彼と当たる事は即ち、死は免れないのである。
彼に名前はない。ただ、彼を知る者は鮮血に染まった身体の彼をこう呼んでいる。
ーー地獄の番犬【ケルベロス】と。
そうして、今宵もまたケルベロスによる新たなる犠牲者があとを立たず、虐殺ショーに悲鳴と歓声が上がるのであった。
ここは地獄。本能と死のまとわりつく狂気の世界である。