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八月の信号

作者: きー

 


 「今日は大丈夫かな。」郵便局の前に地元では有名な信号がある。その信号は赤から青になかなか変わらないということでよく知られている。運悪くその赤信号にひかかったわたしはいつものようにしかめっ面で信号を待っていた。しかし、いつも苛立ちながら信号を待っているわたしが初めて腹を立てなかったのだ。理由はとてもシンプルだ。信号を待つことよりも、「あれ」に意識を持っていかれたからである。わたしは信号を待っている間、ウィンタージャケットを身につけ、首元にマフラーを巻き、分厚い黒色の手袋をしている男性が視界に入った。至って普通の格好をしている男性なのだが、わたしはその男性がすぐに異質なものだと思った。そう、今日は強い日差しが照りつける八月中旬だからだ。「なにあれ。」思わずわたしは小さな声で呟いてしまった。

 その男性を見つけて二分ぐらい経ったと思う。わたしは信号を待っていることなんてすっかり忘れていた。その不自然な彼の格好が無性に気になってしまい、彼をずっと凝視してしまっていた。わたしは男性の体調が悪いのだろうか、それとも人様には見せられない何かを体に隠しているのか、はたまた何か他の理由があるのだろか、とあれやこれと考えた。何故あの男性がこんな真夏に厚着をしているのか考察しているとき、わたしのズボンの右ポケットから着信音が流れた。この着信音はたしか非通知電話のときに流れる曲だ。恐る恐る携帯の画面を見てみると、やはり非通知電話だった。わたしはこの電話に出るか出ないか多少迷ったが、もしかしたら電話帳に登録し忘れてしまっていた友達から連絡がきたのかもしれないと思い、その電話に出ることにした。

 「はい、もしもし。」と私は小さな声で言った。すると、「なんであなたはさっきからずっと僕のことを見ているんですか。」とドスの効いた低い声の男性が言った。「あの、どちら様ですか。」とわたしはすかさず答えた。次の瞬間わたしは戦慄した。「八月の真夏日になぜか冬の服装をしているものだよ。」と気味の悪いことを言い放って、電話を切られてしまった。わたしは何が起こったのか理解出来ず、アスファルトの地面を見つめていた。どういうことだ。何が起こったのだ。もう一度わたし自身にそう言い聞かせると、わたしはすぐさまさっきの横断歩道の向こう側にいた男性のいるほうを見た。しかし、ちょうど向こうの信号で待っていた彼の姿がどこにも見当たらない。どこだ。あの男はどこに行ったのだ。わたしは少しパニックに陥っていたが、平常心を徐々に取り戻し、あたりの状況を冷静に確認した。すると、ある事に気付いた。いつの間にか信号が青に変わっていた。

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