【3ー②】四神の神子とオマケ神子
【3ー②】
………一体、なにが起こっているのだろう??
そんな私は青い服を超イケメンお兄さんに抱えられたまま、なにやら人の集まっている場所まで連れて行かれている。そもそもこんなお姫様抱っこされているだなんて、たとえ夢の中であっても「キャー役得」という風にはならないようだ。体が無意識に緊張して硬直してしまっている。
恐る恐る目線だけを動かして見上げてみると、真っ直ぐに前方を向いている、やはり整った顔立ちの凛々しいイケメンの顔があって直視するのも恐れ多いその気品に急いで目線を下の方に戻す。
ーーちょっと、マジでヤバくない? 夢なのにスッゴいクオリティー高いんですけど。そして私の脳ミソって『神』!?
だけど何故に『三國志』キャラなんだろ? しかも背景は古代中国っぽいんだけど『龍神』とか『召喚』とかファンタジー要素まで滲んでるし、まあ、夢の中だから何でも有りっちゃ有りだけど、でも私ってそこまで想像力豊かだったかなあ?
そして私を抱えているイケメンの歩みが止まったので、私は我に返ったように体を捻る。
「あ、あの、もう下ろして下さ~い。自分で歩けるから~」
「あ、ああ、すまない」
私はそのイケメンが私を慎重に下ろそうとするのを待たずして、とにかくこの恥ずかしい現状から逃れようと慌てて体を動かしたのが悪かった。酔っ払いの千鳥足の事をすっかり忘れていたのだ。床に付いた足元の踏ん張りがきかずに体がよろけて、そのまま転倒するーーはずだった。
しかしそんな私の背後から誰かの手が転倒を防ぐように私の支えている。
「大丈夫か!? 神子!」
それは今、私の目の前で心配そうな顔をしている私を抱えていた青い(服)のイケメンではない、明らかに別の人物だ。
「クスッ、駄目だなあ、青龍王は。女人はもっと丁寧に扱わないと嫌われてしまうよ?」
私の体を背後から抱き抱えるようにして支えながら聞こえてくる声に振り向くようにして見上げれば、そこには赤い衣装をまとった、これまた超イケメンな王子様が魅惑的な笑みを浮かべている。
ひゃあぁぁーーウソでしょう!? ここにもまた超イケメン王子がっ!!
するとその赤い(服)のイケメン王子が私の方に視線を向けてニッコリと微笑む。
「フフッ、初めまして。『大熊猫』の神子殿。具合が悪そうだけれど大丈夫? 医師を呼ぼうか?」
「だ、だ、大丈夫です」
そんな赤の(服)イケメンの言葉に、やはり目を合わせる事も出来ずに俯いたまま首を横に振ると、黒姫が口を開く。
「朱雀王、天の神子に医師は必要なくてよ? 私達神子はこの世界では所詮『憑坐』の身ですもの。それよりも貴方、今『大熊猫』の神子って、もしかして、もう『属性』が分かったの?」
「実はそうなんだ。黒姫がなかなか戻ってこないし、四神がご機嫌ななめで天に還ってしまいそうだから、ここにいる四人の神子達を先に確認してしまおうって事になってね。その結果、ここの四人の神子達に私達の属性との『反応』があったってわけ。だから最後に残った彼女が『大熊猫』って事。ちなみに私が彼女に触れても『反応』は無し。青龍王の方はどうだった?」
すると青龍王と呼ばれた青い(服)イケメンが首を横に振る。
「私にも『反応』は無かった。どうやら彼女は青龍の神子ではないようだな」
「そして朱雀の神子でもないーーとすると、後は玄武と白虎だけだけど………」
朱雀王と呼ばれた赤い(服)イケメンが私の背後を見つめると、青龍王と呼ばれたイケメンも同じく見つめている。そんな黒姫も小さくため息をついた。
「ーーそう。そういえば応龍の方はどうしたの?」
黒姫の問いに青龍王が答える。
「応龍は此度の『召喚』で神力を使い果たして非常に疲れたから、後は我等に任せると。どうしても手に負えぬようであれば我を呼べと神像の中で眠っているようだ」
そんな青龍王の言葉に朱雀王が笑いながら言葉を続けた。
「そうそう。応龍は属性の確認くらい子供でも出来るって。だから今回の己の仕事は天の神子をこの地に召喚する事でその大役を果たしたから後の事は私達の仕事だと言って天龍様は神像の中で休息中。「神とはいえ万能にあらず、なんでもかんでも神に頼るな。人の子の事は人の子の中で解決せよ」だって」
それを聞いた黒姫の眉間に深い皺が寄せられ怖い顔で神像の方向を睨み付ける。
「ふん、出たわね。応龍の我儘が。ものは言い様だけれど、単に自分が面倒くさくなっただけでしょう? しかもなんでもかんでも神に頼るな。ですって? 元々この儀式は応龍の為にあるようなものなのに、無事に遂行されなければ困るのは応龍じゃないの!
それに神は本来、人の願いで生かされ存在する者。人が神を求めなくなれば、この世から神の存在が消える。だから頼られているという事は自分達が生きている証じゃない。それなら、もう少しこちら側に協力的であって欲しいわ!」
そんな黒姫に青龍王が口を開く。
「黒姫、貴女の怒りももっともだが、応龍自身も神力が弱っている今、『召喚』という大きな神力を使った事で神とはいえど、その御体にはかなりの負担が掛かって気力体力共に消耗しているはずだ。だから少しでも応龍を休ませた方が良いだろう。これからの事を考えても万が一、応龍が消えてしまうような事だけは決してあってはならぬのだ」
「はあぁ………分かっているわよ。そんな事。確かに神に限らず、なんでも頼ってしまうのは依存心の増長にも繋がりかねないからあまり良くはないものね。だけどあまり応龍を甘やかさない方がいいわよ? 応龍は神様のくせにズルいんだから。しかもそんな事言っていたら貴方もいい様に利用されるわよ?」
呆れかえる黒姫に青龍王は小さく首を振る。
「私は人の子なれど、 誇り高き四神が一族の末裔。そして天界の長である応龍は我等にとっての主君。その応龍が望むのであれば、その意に従うは我が使命。応龍の役に立てるのであれば本望だ」
「ははは、黒姫。青龍王にそれを言っても無駄だよ。彼は応龍の熱心な信者だから」
「朱雀王の言う通りね。まあ、それはともかく、貴方、いつまで彼女を抱きしめているつもりなの?」
「抱きしめているではなく支えているって言って欲しいな」
「それはどうかしら? どさくさに紛れて便乗している様にも見えるけど」
「さすがに天の神子に対してそれは無いかな? 私はこれでも一応四神の一族の長だし、そんな下心有りな不謹慎な真似をすると思う? それとも目の前で倒れそうになっている女人をそのまま見過ごせって事?」
黒姫達の会話に私はハッと我に返る。今まで黒姫と彼等の話をお酒の酔いの回った頭でボーっとしながら聞いていたけれど、そういえばさっきから私、この赤いイケメンの朱雀王さんに背後からウエストに片腕を回されて支えられたままだ。
「うっひゃああ!! は、離して下さいぃぃ!」
慌てて朱雀王から離れようとするも彼はまだ私の体を離してはくれない。
「うん。離してあげたいんだけれど、でも大丈夫? さっきから見ていたけれど、歩くのもおぼつかないくらいフラフラしているから私が離したら、そのまま倒れそうだと思って」
朱雀王さんは愛想良くニッコリと私に笑いかけながら、すごく柔らかな優しい口調で話すので、どうにも心臓のドキドキがリアルに止まらない。ーーいや、止まったら死んじゃうケド、とにかく優しいぃぃ!! カッコいいぃ!!」
「だ、大丈夫。歩かなければ立てる! だからとにかく離して下さいぃぃ。ううっ、それでなくても人前で恥ずかしいぃんですぅ」
「そう? 分かった。それじゃあ、ゆっくり離すから足を床にしっかりとつけて立つんだよ? だけど転ぶと危ないから一応、私の手を取っておこうか」
そう言って朱雀王は私の片手を包むように握ると、ようやく私のウエストに回していた腕を離してくれる。しかもその間、私の頭の中は酔いと心臓から伝わるドキドキで大パニックだ。
ーーうっひゃああ!! イケメンと至近距離だけじゃなく、手、手ぇ握られてるぅぅ!!
そしてもし、今ここで転んだりなんかしたら更に心臓に悪い事が続きそうな予感がして、私は足に力を入れて床を踏みしめる様に腰を少し落として、まるでバスケの相手をガートするような体勢を取っていると、朱雀王が声を殺して笑っている。
「クスクスッ、どうやら大丈夫みたいだね。『大熊猫』のお嬢さんは予想以上に面白い人らしい。貴女が私の神子ではないのがちょっと残念かな?」
朱雀王は愛嬌を含ませた笑顔で小さく首を傾けると、私の手を「ごめんね?」と言って、そっと離してくれた。
ーー乙女キラーだ、この人。しかも女性の扱いのかなりの手練れと見た。それとは反対に青龍王さんはすごく真面目で堅物っぽくて女性に不慣れな感じ? だけど二人ともメチャクチャ、カッコいいぃぃ。
これってやっぱり私の願望(いや、欲望か?)が夢の中で具現化された姿なんだろうか??
【3ー続】