【3】四神の神子達とオマケ神子
【3】
「ほら、あともう少しよ、頑張って」
私は酔っぱらいの千鳥足で歩きながら何度となく気分が悪くなって、その場にしゃがみ込みを繰り返し何人かの女性に支えられ黒姫に励まされながら歩いている。
ーーそういえば私、どこに行くんだろ?にしてもリアルな『夢』だなあ~ 具合が悪いのもリアルなんだもん。出来ればもうベッドで寝たいんだケド。だって歩くと更に酔いが回って、なんだか吐き気が………うぇっぷ。
私は口許をハンカチで押さえながら前方を見ると、大きな中国のお城の様な建物の入り口が見え、中には沢山のこれまた古代中国衣装を着た人間がわんさかいる。
ーーおいおい、マジで韓流ドラマ? どうなってんの?
そんな私達が建物の入り口に入ると、中に居た古代中国衣装のオジサン達の視線が一斉にこちらの方に集中して異様に怖い。
「………あのぅ~黒姫さん。どうやら私、場違いなんで、ここで帰ってもいいかな?」
私は入り口付近で立ち止まると中に進む事を体全体で頑なに拒絶するも、黒姫は腕を引っ張る。
「なに言ってるの! ここまで来て帰るとか召喚された意味が無いでしょ!」
「いやいや、寧ろ『召喚』って何それ?だから。漫画や小説じゃあるまいし。しかも中のオジサン方もメッチャ怖い顔でこっち睨んでるじゃん。だから私、絶対帰った方がいいって!」
尚も先に進む事を徹底して拒み続けるも、私を囲む女性達が体にまとわりついて離れない。
「はあ~大丈夫だから。誰も貴女に危害は加えないわ。貴女の『属性』を確認するだけよ。それが済んだらちゃんと帰れるから安心して?」
「あ~なんか本格的に頭痛くなってきた。それにスッゴく具合も悪いし、その属性だかなんだか知らないケド、後日改めてという事で今日はもう家に帰してよぉ~」
「あ~もう! いい歳して我儘言わないの! しかも貴女は神子達の中でも最年長なんだから、みっともない姿を見せたら恥ずかしいわよ? 大人なんだからしっかりしなさい!」
「え~大人だからって、しっかりしないと駄目だなんて偏見よぉ~ 大人だって嫌なものは嫌なんだから。しかもこれって私の夢なんだから、そこまでする必要ないでしょう? あ~もう面倒くさいったら。ああ~早く目が覚めろ~」
私はその場にしゃがみ込んでしまうと、黒姫が眉間に皺を寄せて苛々した口調で怒る。
「ちょっと! いい加減にしてよ、この酔っぱらい! 面倒くさいのはこっちの方よ! 他の神子達は素直に応じているのに、どうして貴女だけはこうも手こずらせるのよ!」
「みんな同じじゃないと駄目だなんて誰が決めたんですかぁ? 私は私だも~ん。それに面倒なんだったら私を呼ばなきゃいいでしょ~」
「くうぅ、なんか無性に腹が立ってきたわ! 酔い覚ましでひっぱたいてやろうかしら?」
そう言って黒姫が拳を挙げるのを周りの女性達が止める。
「黒姫! どうか落ちついて下さい!」
「黒姫! 相手は酔っていて正気ではないのです。それに天の神子に暴力は許されません」
すると人々がざわつく中、中央玉座に座っていた国王らしき人物がこちらに声を掛けてくる。
「黒姫、一体どうしたのだ? その者は召喚されてきた天の神子であろう?」
「はあぁ~どうもこうも完璧に応龍の人選間違いよ。しかも酔っぱらいの神子なんて前代未聞だわ。応龍にはきちんと責任をとってもらわないと」
黒姫が呆れたように大きなため息を吐く。
「仕方ないーーそこの衛兵、神子をこちらにお連れしろ」
「はっ」
国王の言葉に直ぐ様、近くにいた衛兵の二人が主に一礼し、こちらの方に近付いてくる。
「ーー失礼します。神子。皇帝の命により貴女をお連れ致します」
そう言って衛兵が私の腕を掴もうとするので私は大暴れするように手足をバタつかせて抵抗する。
「きゃああーーちょっと!何すんのよ! 私に触らないでよ! この痴漢!!変態!! 女の体に気安く触んないで!! あんた達!セクハラって言葉知らないの!? 警察に通報するわよ!!」
「ちょっと! 酔っぱらいのくせに暴れないで!! それにこの国にセクハラなんて言葉は無いわよ。そして警察もいないから通報もまず無理ね」
「はああ? セクハラも警察も無いって、今時どんな国なのよ!? とにかくなんでもいいけど私に触んないで!! もし私に指一本でも触れたら、それこそ『天罰』食らわすからね!!」
するとその『天罰』という言葉が効いたらしく、衛兵達が慄くように私から離れて困惑している。
「ーー黒姫、どうしたらよいでしょうか? 我々では神子に触れる事が出来ぬようです」
「はあぁ~そうね。それでなくとも神子にはそれぞれ特有の『神通力』があるから下手に刺激すると、こちらが危ないし仕方ないわね。ここはやはり私がーーー」
黒姫が衛兵を後ろに下がらせ私に近付くかと同時に、私の後ろからいきなり両脇から掬い上げるようにして体を持ち上げられ両足が地面から浮くと、そのまま両膝に腕を通され、いわゆるお姫様抱っこの状態だ。
「えっ? え?」
「天の神子よ、最早時間が無いのだ。『天罰』ならこの私が甘んじて受けよう。そして我等は決してそなたに危害は加えぬゆえ、大人しくこちらの意に従って欲しい」
そう言って私を抱えているのは青い衣装を纏った高貴な気配を漂わせた王子様のような超イケメンの若い青年だった。
ーーえ、えっ、ウソ。何? この超イケメンは!? どっから現れた?? ーーっていうか、こんなカッコいい男、今まで見た事ないーーー
「助かったわ、青龍王。さすがに龍王に『天罰』など恐れるに足りないですものね」
「それは過言に過ぎぬ、黒姫。私とて人の身である以上、この身に何があってもおかしくはないのだ。したがこのままでは、いつまでも埒があかぬゆえ、神子に対して無礼を承知でこのような行動を取らせて貰った。
ーー天の神子よ。無礼を働き大変申し訳ないと思っている。そなたも色々と困惑している事だろうが、どうか聞き分けてくれ」
「へっ? え、あ~と、その、は、はい」
ーーイケメン恐るべし。という事を人生初めて身を持って体験した。ーー勿論『夢』だけど。
『夢』とはいえ、こんな超イケメンに軽々とお姫様抱っこされている自分。あり得ない。ーーうん。だって『夢』だもん。
ああ~見れば見るほどカッコいいな。こんなイケメン本当にいるんだ。ーーうん、だって『夢』だから。
私は先ほどまで暴れていたはずなのに、まるで借りてきた猫のように大人しくというか、全身が固まったまま動けないでいると、黒姫がやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。
「ーー今度からこういう場合は貴方に任せようかしら?青龍王。その方が仕事が早いわ」
【3ー終】