【3ー⑥】四神の神子とオマケ神子
【3ー⑥】
「白虎王、いい加減にせぬか。我も神子の言う通りだと思う。そなたの態度や言動は一国の君主として不適切であり、いまだ自覚に欠けているようだな。そんな事では我がいなくなった後、どうするのだ。白家には今一度、宗主の教育を徹底させねばならぬな」
さすがの父親の窘めの言葉に白虎王は口ごもり、私はその様子を見ながら「まだまだ子供ね」とでも言うようにニヤニヤしながら見つめると、白虎王が悔しそうにこちらを睨んでいる。
ーーふふん、勝った! そんな男前のカッコいいお顔で睨んでも駄目よぉ~ 所詮大人には敵わないんだから。
するとふいに応龍皇から声が掛かる。
「天の神子よ、そなたの寛大な心に感謝する。その寛大に甘えて、もう一つ頼みがあるのだ」
「はい? 頼み……ですか?」
私が首を傾げると応龍皇が頷いた。
「うむ。そなたを『応龍』に会わせたい」
ーーんん? 『応龍』って、この王様の事じゃないの?
「『応龍』って? 貴方の事じゃないの?」
「いや、我は『応龍』の神力の器である人間にすぎぬ。『応龍』とは天の主神である龍神だ。そしてそなた達を異界より喚び寄せたのも、その応龍なのだ」
ーーう~ん。なんだかアニメちっくな展開になってきたぞ? しかも『龍神』とかマジか!! 子供の頃にそんなアニメを見たことはあったけど、それが今になって夢に構築されたのだろうか? だとしたら夢恐るべし………
「ええ~っと。いまいちよく分からなかいんですけど、私がその『龍神』と会ってどうするの? ーーいや、待てよ? その龍神が喚び寄せたっていうなら、私をウチに帰してもらう事も出来る?」
ーーそうだよ! なんだかもうよく分からないけど、私がここにいるのもその『龍神』が原因なんだったら、私が『神子』とか何かの間違いだって説明すればウチに帰してもらえるかも。いや、絶対に帰してくれなきゃ困る!! 私にはそれはもう鬼仕様のお仕事が待っているのよ!!
「無論だ。しかもそれは応龍にしか出来ぬゆえ、そなたを応龍に会わせたいのだ。もしかするとそなたが召喚されたのは予期せぬ間違いであったのかもしれぬ。
本来、『天の神子』は四神の属性を持っている。ゆえに神子は四人であるははずなのだが此度は五人。そしてすでにそなた以外の神子達はそれぞれ属性が分かっている。したがそなたは我が息子達と触れても何も反応がない。そうなるとそなたは我等が求める神子ではないという事になる」
その言葉に私はそれこそ素早く反応する。
「そうです!! これは何かの間違いなんですよ! ええ、きっとその龍神様が勘違いなされて人数を間違っちゃったに違いありません。たとえ神様であろうと間違いは誰にでも起こりえますからね~」
しかし黒姫はどうにも訝しげな表情を浮かべている。
「本当にそうかしら? あの応龍が間違うだなんて。まあ、あまりに寝ぼけていたのなら分からないこともないのだけれど………」
そんな黒姫に私は詰め寄る。
「黒姫! 絶対そうだよ! きっと寝起き状態だったから間違ったんじゃない? そもそも私が『神子』なんて、どう見てもあり得ないから。ほら、年齢もそこそこいってるしさ、容姿だって黒姫みたいな美人でもなんでもない、ごく普通の凡人だもの」
すると黒姫の眉尻がピクリと動く。
「………年齢の事はあまり言わないで。私にも引っ掛かるものがあるから。ーーでもね、貴女の名前の中に『天』の文字が使われているし、容姿は特に関係ないとは思うけど、そもそも素質がなければ応龍の召喚には反応しないはずなのよ。しかも応龍皇の血を受けた憑坐になんて。それなら応龍皇と同じ属性の青龍王に、なにかしら反応してもよいのだけれど、ーー青龍王、本当に彼女触れて何も感じなかった?」
それに対して青龍王が答える。
「ああ、確かに何も感じ取れなかった。私の中の青龍の『玉』もずっと沈黙したままだ」
「………そう。ーーということは、やっぱり応龍に会わせた方が早いわね。それにもう時間もない事だし、もし本当に間違いなら元の世界に還してあげないとだけど………でもな~んか腑に落ちないというか怪しいのよねぇ」
「怪しくないっ!! 全然怪しくないから!! ほんっつとに人畜無害な普通の人間だからね? 実際どこをどうみても分かるでしょ!?」
「う~ん『無害』………本当にそうかしら?」
「黒姫さぁ~ん。同じ国の人間なんだから信じてよぉ~」
更に首を傾げる黒姫に、もうこのさい嘘泣き上等、懇願するように両手を組んで見つめていると、応龍皇からの助け舟が入る。
「神子よ、我等はそなたに一切危害は加えぬゆえ、安心するがよい。もしそなたが我等が求める『天の神子』ではなくとも丁重に扱う事を約束する。そして直ぐにでも応龍に元の世界に還させよう。だから応龍に会ってはくれぬか?」
ーーどうやら、その『応龍』とやらに会わないと私は帰れないようだ。だからここは頷くしかないだろう。
「そ、そうですね。そう事なら分かりました」
「ありがとう、神子。感謝する」
この王様は本当にいい人だなあ。黒姫が惚れるのも分かるわ。しかも老いてはいるけれどすっごいイケメンだし。
ーーだけどこの王様、さっきから顔色が悪いというか一見毅然としているけれど、まるで生気の感じられないような虚脱感が垣間見えるのは私だけ? それともどこか具合でも悪いのだろうか?
*****
ーーそれからかくして私は自分の場違い感を感じつつも彼等と城の中庭の方へ同行する事に。なんでもそこには応龍と四神の御神体があるのだそうだ。
そんな私の隣には黒姫が並び、その前を青龍王と朱雀王が。背後には玄武王と白虎王がついて歩いている。それはまるで私が逃げ出せないように囲われているとしか思えず、しかも、どこもかしこも美男美女に囲まれている事を意識すると全身に緊張が走り、なんとも居心地が悪い。
私が『応龍』という龍神に面会する事を承諾すると、応龍皇はやはり体調がすぐれないらしく退出する事を告げ、青龍王に私を中庭へ連れていく様に命じ、青龍王は先ほどから足元のおぼつかなかった私を支える為に手を差し出したのだが、それには丁重に丁重を重ねてお断りした。だって一度意識してしまった異性と手を繋ぐなどと、よほどの図太いメンタルでもなければ、まず無理だろう。
私は前を歩く青龍王の横顔をなにげに見つめながら、こんなに落ちついているのに年下なのかあ………しかもこんな美青年なんて普段滅多にお目に掛からないだけに、カッコよすぎてため息出ちゃうわ。それに他の人達もイケメン揃いとか、私の夢ブラボー!!などと思わず顔がにやけそうになっていると、その横顔がふいにこちらを向いたのでドキッとして慌てて視線を逸らす。
「神子、大丈夫か? もう少しゆっくり歩いた方がよいだろうか?」
「だ、大丈夫です! ええ、そのままでお構いなく!」
どうやら私がぼーっとしながら、このイケメンお兄さんの横顔に見惚れていたせいで、いつの間にか歩く速度が遅くなっていたようだ。
ーーああ~ヤバ! あまりにジロジロ見られていたの気付かれた? だって綺麗な顔がそこにあったら、つい見ちゃうでしょ。それにさっきお姫様抱っこされた相手だから尚の事意識しちゃうじゃん。しかもこの夢から目覚めれば二度とお目に掛かれないかもしれないし~
すると隣を歩く黒姫が小さくため息をついた。
【3ー続】




