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第一幕 俺の事情と転生


……俺は今、とある大きな問題を抱えている。





俺の名前は稲葉(いなば) 時正(ときまさ)。現在高校一年、容姿もまあまあ、成績もまあまあという評価を貰ってる一般的な男子高校生である。



ただ普通じゃないところを挙げるとするならば……




「ハッ!底辺なクズのお前が出しゃばるんじゃねェよ!!」

「そうです!この学校一の強さを誇る鮫島(さめじま)に逆らおうだなんて、お前は相当なバカですか!?」


「ご、ごめんなさい!やめてください!」





……いじめに参加してしまっている事だろうか。



あ、一応言っておくけど、俺はいじめられてない。


ガキ大将の鮫島(さめじま) 凌牙(りょうが)の腰巾着であり胡麻擂り、それが俺の立場。

ちなみに「そうです!」と鮫島の言葉に便乗したのも俺だ。

ちょっと脳内の口調と喋り口調が違うが、正真正銘俺の発言だぞ。



…それはともかく、このいじめに参加してるのは俺含めて5名。


いじめっ子の鮫島、

腰巾着兼胡麻擂りの俺、

運動や暴行が好きな奴、

眼鏡で根暗っぽいがずる賢い奴、

そしていじめられっ子の幸村(ゆきむら) 相太(そうた)


なんで3、4番目の二人の名前を呼ばずに奴って呼んでるかって?

ただ興味無くて名前が覚えれなかったんだよ。


幸村はよくいじめの途中で名前呼ばれるし、鮫島はよく自分でも「この鮫島様に敵うとでも?」とか平気で言うイタい奴だったから自然と覚えた。









……本題に入ろうか。


正直言って、俺は鮫島の腰巾着を辞めたい。



俺の1日は、まず朝の教室で幸村を罵倒するために早く登校する事から始まる。


授業中でも幸村の席にプリントを回さず授業終わったら幸村に自分の課題をやらせ、昼放課には購買に昼食をパシらせて買ってこなかったり頼んだやつと違ったら暴行。


放課後なんかいじめるのに絶好の時間だ。どうせ帰って手当てするだろうと校舎裏にて集団リンチ、教科書やノートもぐちゃぐちゃにして、鮫島が満足したらやっと帰宅。


うん、ゆっくりする時間が無い。


一日中鮫島のご機嫌取りをしなきゃいけないし、今は先生がいじめを黙認してるがいつ他の先生に見つかるか内心ヒヤヒヤしてる。あと昼食ぐらい一人で食べたい。


それに……あのイケメンで正義感の強い……あー、また名前忘れた。

まあいいや、そのイケメン君がいじめを見つける度に突っかかってくるんだよね。

イケメン君だけならまだなんとかなったかもしれないけど、問題はイケメン君に惚れてるハーレムメンバー達である。


イケメン君、正義感強いし成績いいし運動神経抜群なのでモテる。

そのイケメン君のハーレムメンバーに、美少女が四人もいるのだ。


この美少女達の内2名は何らかの武道を習っており、残りの2名はファンクラブ会員が他校にまでいるというモテっぷりを発揮している。


そしてこの子達、イケメン君のためならば何だってする。


それこそイケメン君が頼めばいじめ現場を取り押さえていじめっ子全員退学〜とか、ファンクラブ会員使っていじめの証拠を大量に調べ上げてこれまたいじめっ子退学〜とかできちゃうわけだ。


最悪退学とか、絶対嫌だ。



なので最近腰巾着脱却計画を立てている。


今はまだ思考中なのでなんとも言えないが、手始めに鮫島の財布をスってバレないように中身を幸村の財布の中に入れた。鮫島の金はほぼ幸村からカツアゲしたものだし、スリは俺の特技なので金を返すなんて楽勝だ。

あとは俺が暴行をする場合はちょっと弱くやったり、鮫島のご機嫌を早く良くして暴行時間を短かくしたりもした。


いじめに参加している時点で弱いもクソも無いと思うが、これで多少は弁償ができれば嬉しい。


まあクラスの一部は俺が腰巾着を脱却したいという気持ちに気づいているっぽいが、鮫島達はバカなので俺の気持ちには一切気づいて無い。


これで気づいてやんわりといじめグループから離脱できれば嬉しいのだが、バカで脳筋な猿なので仕方ない。



……おっと、そんな事を考えていたら時間がヤバい。電車に乗り遅れる!


「いってきます!」


バッグを乱暴に掴むと、ダッシュで家から出た。ちゃんと戸締りも確認したよー。



















「鮫島君、おはようございます!」


はい、今日も鮫島に笑顔で媚びていまーす。


鮫島には愛想良く振舞っているが、残念ながら俺は鮫島が大っ嫌いだ。

もう媚びるのやめたい。






……あ、幸村が登校してきた。



「お〜い、幸村クン?俺達とちょっと遊ぼうぜ〜?」


そうやって絡みに行くのはずる賢い眼鏡の奴。朝から元気だなぁ。

勿論奴は遊びに誘ってるんじゃ無い。罵倒するために呼んだだけである。


今は四人で幸村の席の周りに立ち、ニコニコしながら幸村を威圧している。ねえ、本読みたいし離脱していいかな?どうせ許してもらえないだろうけど。



「君達!何をしている!」


おっと、イケメン様のお出ましのようだ。



西條(さいじょう)か。なに、ただ幸村クンと仲良くしてるだけだけど〜?」


眼鏡の奴が嫌味ったらしくイケメン君に言う。あとイケメン君の苗字は西條だったか、覚えておくか。どうせまたすぐに忘れるがな。



「どう見ても幸村君が怯えてるじゃないか!」


「そうだよ!この前だって幸村君を囲んで脅してたよね?いじめはダメだって何回も言ってるでしょ!」


次に現れたのは西條のハーレムメンバーの一人……名前覚えてねぇや。まあ赤眼鏡に茶髪のお下げだし図書委員でいいか。


で、その図書委員は確か幸村の幼馴染だったらしく、よくいじめを止めようと西條と一緒に突っかかってくる。その姿が健気で、一目見ただけで惚れた人が続出。この高校に入学して一か月でファンクラブが出来たとかなんとか。



「幸村君、大丈夫?怪我してない?」


図書委員が幸村に駆け寄り、怪我の有無を確認する。

昨日も集団リンチをしてたので服の下は恐らくアザだらけだろうが、図書委員は腕や顔しか見てないのでバレないと思う。



「野蛮な行為をする殿方は目障りですわ、今すぐやめてくださいまし!」


「そうだよ、久遠院(くどういん)ちゃんの言う通りだよ!いじめ、ダメ、絶対!」


遅れてきたのは、緩いドリル状のツインテールをしたお嬢様の久遠院、あとは……コイツの名前も忘れた。俺はどんだけクラスメイトに興味無いんだよ……

とりあえずなんかいっつも皆に優しくしてたし聖女とでも呼ぼうか。


勿論この二人もイケメン君のハーレムメンバー。あと出てきていない最後の一人は、日直のため先生の手伝いをしているところをさっき目撃した。



「……へいへい、じゃあ邪魔者の俺らは大人しく座ってますよー」


……おっと、俺が考えているうちに会話が終わってた。鮫島も引いてるし、早く席着こう。











クラス全員が席に着き、静かに先生を待っている。


さっき日直も帰ってきたし、先生ももうすぐ来るだろう。




そう考えていた時、生徒一人ひとりの足元に金色に輝く魔方陣が現れたのだ。



その魔方陣の存在に気づいた時にはもう遅く、声を出す間も無く魔方陣の光は増していき、視界は真っ白に染め上げられた。





















「稲葉さん、起きてください」


そんな柔らかな男性の声が聞こえ、俺は目覚めた。


先程まで意識を失っていた筈なのに俺は立っており、気がつけば見知らぬ大時計の上。



「お目覚めになられたようですね、貴方は稲葉 時正さんで合ってますか?」


目の前には綺麗な装飾が施されたモノクルをかけ、銀色の長髪を後ろで束ねた青年が立っていた。



「……は、はい、そうですが……」


あまりにも急な展開で素が出そうになったが、なんとか踏み止まり猫を被る。



「私は時空神と呼ばれる者です。よろしくお願いしますね」


「………………はい?」



……え、時空神?神様!?


どゆこと?!厨二のイタイ奴!?それとも本物!?



「とても驚いていることでしょうが、時間も押してるので説明させて頂きますね」


時空神と名乗った青年は、一つ咳払いをした後一方的に話していった。



「貴方にはこれから異世界に転生して頂きます。それに伴い元の世界での生活は諦めて頂く事となりますがご了承下さい。


異世界というのは、貴方の元居た世界の言葉を借りると『剣と魔法のファンタジー』。魔法は勿論、勇者や魔王も存在します」



「………………つまり、僕は死んだのか?」


さっきから驚きの連続だったので頭が回らなかったが、なんとか落ち着きを取り戻す。

驚いたら負けとでも思っておこう。



「はい、そう考えてくれて構いません。


……あ、それと転生するのは貴方だけではありません。貴方の周りにいたクラスメイトの皆様全員転生します」


「クラス全員が……」


クラスメイトにはガキ大将の鮫島や自己中なギャル達など、中々の問題児が揃ってる。

異世界で変な事に巻き込まれなければいいのだが……残念ながら俺はいじめに巻き込まれた実績がある。多少の覚悟はしないといけない。



「では、続きをお話ししますね。


皆様がこのまま転生しても、恐らく半数は成人前に死んでしまうでしょう。なので皆様各自に神の加護を授けます。


この神の加護は基本、神に気に入られた者にしか与えられませんが、転生者は例外として気に入られなくても加護が与えられます。


ただし気に入られなかった者の加護は下級の神が適当に授けた程度の物でしか無いので、気に入られた者の加護と比べると劣ります。まあそれでも異世界では強い部類に入るのですが」


「ちなみに僕を気に入った神様っているんですか?」


「それは勿論いますよ、というか君に気に入った神というのは私です」


「いやお前かい!!」


…おっと、少し素が出た。だって非現実的な現象が今起きてるんだぞ?多少素が出たってしょうがない。

というかこれを機に猫かぶるのやめよっかな。



「少々話が逸れましたね。 加護の詳細は異世界で『ステータスオープン』と言えばわかります。



後は……ああ、まだ聖具の話をしていませんでしたね。


聖具は、鍛治神や生産神、武具神、物によっては最高位の神である創造神が作った武器やアイテムです。

転生者には各自に合った専用の聖具を一つ授けられます。この聖具は他人に譲渡することは出来ず、失くしても一定距離を離れれば自動で持ち主の元まで転移します。


聖具のデメリットとしましては、他の聖具と交換も出来ない事、所持者の能力に合った聖具が授けられるので所持者の好みでは決まらない事などがありますが、聖具は例外無く高品質、高性能なので大丈夫でしょう。


ここまでで何か質問はありませんか?」




「……では、二つ程気になった事があるのですが」


時空神が説明している間に少し気になった事があったので、一応聞いてみる。


「……一つ目、異世界って、多分エルフとか獣人とか魔物とか、生き物が沢山いるでしょう?人間以外に転生することってあるんですか?」


「おや、中々良い質問しますね」


時空神は何やら感心したような表情を見せる。



「一応可能性としてはありますが、貴方達の魂に合った生き物に転生するようになっているので、大半が人族と呼ばれる普通の人間に転生するでしょう。


ただエルフや獣人となると魂の形が似てるので転生するかもしれませんし、ごく稀に魔物に転生する方っているんですよね……」



……転生したら人外っていう可能性もあるのか。


出来れば人族の裕福な家庭に生まれてゆったりと生きたいなぁ。


……って、今はそんな事を考えてる場合じゃない。



「……二つ目、何故僕らが転生する事となったのですか?メリットは無いと思うのですが……」


転生すると説明されたが、加護や聖具を貰って転生するという高待遇さ。

正直神様側のメリットが見えない。



「いや、メリットはちゃんとありますよ?


これから転生する世界は今、魔法技術が停滞しつつあります。

その上人を襲う魔物が増幅、強化されておりこのままでは人類が滅びてしまう。


そこで私達は転生者、もしくは異世界に転移してきた転移者を送ります。

転生者は異世界には無い色んな知識があるので、自然と魔法技術が発達していくという訳です」


転生者がゲームや漫画の知識を元に魔法を開発し、新技術やら何やら発見して技術が発達。

魔法技術が発達すればそれだけ魔物に対抗する力が強くなり、人類はしばらく滅びなくなるという訳だ。



「あ、あと説明する事がありましたね。


一つ目。貴方達が転生した3〜5年目程で、前世の記憶を取り戻します。流石に生まれた時点で記憶があると、脳に負荷がかかってしまいますのでね。


そして二つ目。貴方達が転生して15年目に必ず転生者が全員集まる日があります」


「転生者が全員?」


「はい。その時になれば私達神が各転生者様にお知らせし、最も転生者が集まっている国に転移します。


どこに集まる事になるかは貴方達の行動次第ですが、安全で確実に再会できる場所にしますのでご安心を」



15年後には必ず転生者と会うのか……




会いたくねぇ。


滅茶苦茶会いたくねぇ。



特に鮫島と西條。

両者とも厄介ごとを連れてきそうだし。

というか異世界では素を全開にしてのびのびと暮らしたいし、転生者と会ったらロクな事にならないだろうし。





……まあ、幸村だったら前世の事を誠心誠意謝罪しなきゃならねぇかもだけど。



「では、これで説明は終わりです。


生まれる場所も家庭も種族もランダムですが、なるべく長生きできるように頑張ってくださいね〜」


時空神が何処からか赤いスイッチを取り出し、ポチッといい音を出しながら押した。










すると、俺の下に穴がぽっかりと空いた。



「うわああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………!?」



俺は重力に逆らえず、そのまま穴に落ちていった。




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