盆休み
盆休みで帰省する奴がいるからって、ついでに同窓会をやるのはどうだろう。
そんな考えが浮かんだが、会場に足を向けた。
面倒そうな事になる前に帰ればいいか。
やはりというか、会場となっている公民館の一室にはさほど集まっていない。二十人を超える程度か。これなら居酒屋でも間に合う。
二列に列べられた長い卓にケータリングのツマミとビール瓶。畳の部屋に足を踏み入れると俺は端の方に座る。
一番端の座布団には既に座ってる奴がいた。誰だったか。
「……どうも。ハシモトさん、でしたか?」
向こうは俺の事を覚えていたらしい。まぁ、ガキの頃は有名人だったからな。
「あ~どうもどうも、えーっと……」
「……あぁ、カネダです」
俺とは逆の意味で有名人だった奴だ。云われてみれば……こんな顔だったか?
俺はガキの頃荒れていた。いわゆるツッパリ……今じゃ死語だな。
カネダ君は……虐められっ子だった。
「あー……俺がここに座っちゃ……厭かい?」
「いえいえ、どうぞ」
俺は当時カネダ君の様な子とは没交渉だった。
カネダ君にちょっかいを掛けていたのは俺ではなく……
「……あれ…シモト……」
別の卓に集まっている連中がひそひそと俺の事を噂する。
いわゆる『普通の子』だった連中。
『普通』
アイツらを真ん中と考えると、俺は端っこ。カネダ君は反対側の端っこ。
そんな立ち位置。
「ま、一杯」
「あぁどうも」
カネダ君に注がれ、俺も注いでやり二人で杯をあおる。
お互い居心地のいいものじゃない。同窓会なんて。
「ハシモト君ですか?お久し振り~」
ビール瓶片手に向こうの卓にいた三人が俺の横に来た。
この暑いさなかに皆スーツ姿。顔に貼り付いた営業スマイル。誰が誰だか判らない。
「まま、おひとつ」
「あ……どうも」
コイツらが現れたのは、別に俺を懐かしがっての事じゃない。
腕力が上下の基準なのはガキの頃だけ。今は稼げるかどうかで決まる。
……マウンティングに来た訳だ。
「ハシモト君はコッチに?上京は?」
「大変だよね、田舎は」
へらへらとした笑いがニヤニヤとした嗤いに変わっていく。
面倒臭ぇな……
……帰るかと思った時。
「そっちの人は……ぅ」
「え?カ……カネダ……!?」
「……ぅそだろ」
俺の隣の顔を見た途端、顔色を変えて元の卓に戻っていく。
俺はカネダ君を振り向いた。
表情が消えている。
さっきまで穏やかな笑顔だった彼は冷たい視線を隣の卓に向けていた。
隣の卓は三人が戻ると一瞬ざわつき……蒼冷めた顔をこっちに向けている。
……なんだ!?
アイツら、昔虐めていた事で罪悪感を……って感じじゃないな。
隣の卓の連中は、そそくさと帰り仕度をして部屋を出ていく。
あっという間に参加者は半分以下になった。
「……あー、えー時間も押し迫って参りましたので…この辺でお開きという事に」
歯切れの悪い幹事役の声で皆が席を立つ。
「じゃあ……ハシモトさん、僕はこれで」
「あ~、どうも。また今度」
今度会うなんて、いつになる事やら。お決まりの台詞をカネダ君に掛けた。
カネダ君が部屋を出た後、俺も席を立つ。
……ん?
先に出ていったカネダ君の席を見て、俺は違和感を感じた。
何も飲み食いして無かったのか?
取り皿もガラスコップも綺麗なものだ。割り箸にも手をつけていなかった。
いや、俺は彼に注いだはずだが……
「ハシモト君、ハシモト君、済みませんが会費いいですか?」
幹事役が俺のところに来る。
「済みませんね、途中参加なのに」
「いや~、大丈夫」
財布を出しながら、ふと、訊いてみた。
「なぁ、カネダ君って今どこに住んでるんだ?」
「え?」
「え?って、呼んだんだから知ってるだろ?」
「カネダ?呼んで無いよ……呼べないですよ……」
「だって居ただろ?」
幹事役は顔を歪ませた。変なものを見る様な目を俺に向ける。
「カネダは……死んだだろ、卒業した後すぐに」
──────────────終