第8話 勇士vs星騎士
クラウスとレニは朝からジークよりギルドへ呼び出されていた。
「そんな訳で……今日はこの依頼を受けるで」
「いやいやいや……どんな訳だよ。呼び出してソレはないぜ、ジークさん」
「私も一緒? どんな依頼だろ」
「せや、んでもって俺の同期も一緒や。お~いッ、ランテ~」
ジークは依頼板の前で勇士と話す女性に声を掛ける。ランテと呼ばれた女性は仲間との会話を終え、3人の元へ近づいてきた。
見た目は黒色のやや癖のついている長髪、金色の瞳。スタイルはよく言えばスレンダーだが本人も気にしている為口に出してはいけない。装備は背丈ほどある銃、布製の衣服は緑を基調とし、胸元を開けたモノを身に着け、防御用の金属板も最低限度しかない……射撃で邪魔にならないような軽装備であった。
「出発? ならサッサと行くよ、ジーク」
「待ちぃや、せめて自己紹介位はせんかい」
「……ランテ・アルテ、この緑箒と同期よ。よろしくね新人クン達」
「誰が緑箒やッ!? 」
「アンタしかいないでしょ、ジーク」
自己紹介を終えると外で待つことを告げ、ギルドから出ていってしまう。
「変わった人だなぁ」
「アイツはまた……気ぃ悪くせんでな? 腕は確かなんやが、どうも愛想がなぁ」
「は、ハハハ……きっと人見知りな方なんですね」
「ともかく仲良くしてやってくれ、依頼の内容は歩きながらしよか。内容も単純やし」
ジークは二人を連れて外へと出ていく……それから数分後の事、メイド服の女性が勇士協会を訪ねてきた。特に迷うことなく受付へと進み、事務処理をしている男性へ声を掛ける。
「あの、お尋ねしたい事があるのですが……」
「ロアさんじゃないですか、本日はどのような件で? 」
「ある人を探しておりまして、その御方に市長がぜひお礼をしたいと」
「し、市長が? えっと……その方の特徴は? 」
「探しているのは若い男性で、髪はダークブラウンで長さは短め。背中、いえ丁度腰辺りに剣を付けているそうです。……あ、あと最近助士になったばかりと」
「(カキカキ)……分かりました、ではその特徴に合う助士を探しますので待合のテーブルでお待ちください」
男性はそう告げると後ろにある本棚からファイルを取り出し、資料を1つずつ確認していく。
ロアは待つように言われたテーブルまで移動し、椅子へ腰を下ろした。
「そう言えばレニ様もあの時、”勇士協会に報告”と言ってましたね……丁度良いので一緒に探してもらいましょう」
ロアは再度立ち上がり、受付へと戻る。
あたかも知らないようなそぶりでレニの特徴を教え、一緒に探してもらうように頼んでいた。男性は快く承諾……その対応に満足したロアは悠々と席へと戻って行った。
※※※
~星騎士駐屯所~
「ランテ、行くでぇッ! 」
「オーケー、……貰ったよ」
「「ウルフェンバレット! 」」
タタタァンッ……ガガガッ、ガガガギンッ
放たれたゴム弾はジークの輝術によって作られた壁で跳弾し、星騎士へと直撃した。鎧で弾かれた弾はジークによって打ち返されもう一人の星騎士へ、さらに弾かれた弾はランテの出現させる壁にて再度跳弾……何度も何度も跳弾を繰り返させていた。
狼による集団戦のように様々な方向から来る衝撃と痛みに耐えかねた騎士たちは身を屈めながら声を上げた。
「グォッ! 何……ギャァッ?! 」
「イダダダッ?! ま、参った! 」
「そこまで! 勝者、ジーク&ランテ!」
審判が勝者を告げると周囲からは拍手が鳴る。
観客の中には一般人もいたが大半は星騎士、拍手には金属音が混じっていた。
しかしその雰囲気はあまり良いモノとは言えなかった。
「また負けたか……」「三連敗、さすがに笑えんな」
「だらしない奴らだ」「俺だったらもっと上手く……」
仲間の健闘を称えず、むしろ悪態をついている方が多い。
ジークとランテの連携は素晴らしかったが、それは相手の星騎士たちにも言える事であった。
「ふぃ~……お疲れさん、おかげで良い訓練になったで」
「うん、私も満足。君たちも悪くなかったよ」
「……ッ! 」
「お、おいッ!? す、すみません。失礼します! 」
手を差し伸べたジークの手を払い、星騎士は立ち上がるとそのまま走り去ってしまう。パートナーだった騎士は無礼を謝罪し、後を追った。
ジーク、ランテはそのままクラウス達の元へと戻る。
「ふむ、分かってはいたがやっぱ嫌われとるなぁ」
「仕方がないよ、私達は星騎士にとって商売敵みたいな感じだもの」
「あんな試合見せられたら開いた口が塞がらないぜ……」
「ホント二人とも息ピッ―――」
「今何て言った?! 二人はお似合いって? キャーッ! 」
「アカン……ランテのヤツ、変なスイッチが入ってしもうた。こうなると暫くはこの状態やで」
レニの言葉にすかさず反応するランテ、どうやら勘違いしているらしい。話しかけても全く耳を貸さない……空を見上げ、うっとりとしながら何かを妄想していた。
「フフフ……駄目よぉ、ジーク…………エへへへ」
「やっぱ変わってる人だったか」
「く、クールな人だと思ってたのになぁ……」
「だが実力は確かやったろ。 さ、次はお前さん達、新人の番やで」
今回の依頼は星騎士から出されたものであった。内容は模擬戦……互いに街や住民を守る者として腕を高めあう事が目的らしい。
前半はジーク達のようなベテラン同士が試合をし、後半は新人同士で行うとの事。
広場中央には既に新人騎士が立っていた。武器はハルバードとスピア……模擬戦なので刃の部分にはカバーがされている。クラウス達も同様だが、そのカバーは得物の重量は変わらない特殊な素材で作られているらしい。2人も急いで相手の元へと向かった、審判が互いの確認を取る。
「準備はよろしいですね? では、始めましょうか。互いにまずは礼を……」
「「よろしくお願いしま―――」」
「ッ?! ま、待ちな―――」
クラウス、レニがそれぞれ頭を下げた時であった。
声を遮るように声が響き渡った。
「ハァァァァッ! 」「でやぁぁぁッ! 」
「ッ?! 」
「クラウス?! きゃぁッ! 」
クラウスはハルバードの星騎士から後頭部に受け、地面へと叩きつけられた。レニはもう一人の星騎士によるスピアの踏み込み突きで茂みの奥に吹き飛ばされてしまう。兜によって声は若干聞こえづらいが、ハルバードを持つ聖騎士は男性、槍持ちは女性である事は分かった。
両者とも肩で息をしていた、体力の限界ではなく気持ちが昂りによるものらしい。
「聞こえないのか!? 止―――」
「す、しゅでに貴様たちははははッ! 」
「おお、落ち着きなさい。 す、既に敵地にいると言うのに頭を下げりゅ……」
興奮のあまりろれつが回らず、審判の注意も聞こえていない。
よく見ると身体や武器の切っ先が震えている、自分たちの行為がどのような事なのかは理解しているようだ。その後方……観客である星騎士たちの中に不敵な笑みを浮かべている者が数人いた。
「クズ共が……! おいッ、何―――」
「ジーク待って。あの子達が言っている事は間違ってないよ、たしかに今考えてみれば私達の立場からすると此処は敵地だよね。何が起きても不思議じゃない」
「ただの模擬戦やで?! 殺しあうような戦場やない! すぐにアイツらを―――」
「それに二人ともあの人の弟子なんでしょ? ホラ……」
いつの間にか冷静さを取り戻したランテが指を指す、そこにはフラフラと俯きながら立ち上がるクラウスがいた。頭部からは血が滴り、ポツリ……ポツリと一定の間隔で地面へと落ちている。
「不意打ちか…………? 」
「う、動かない、のか? ならぁッ! 」
男性の星騎士がクラウスへと武器を振り上げながら飛び掛かって来る。
勢いそのまま武器を振り下ろした。
「な……何処へ行っ―――」
「それで勝てると思ってるなら―――」
「ひょ……? へぶッ?! 」
刃が当たる直前、クラウスの姿が消えた。
武器が地面へめり込むと同時に男性の後方から槍持ちの間抜けな悲鳴が聞こえてくる。
頭部に何かが直撃したようだ。
そして振り向くと其処には……奪ったスピアを突き出そうとしているクラウスの姿があった。
「大間違いだッ!! 」
「うおォォォッ?! 」
「レニ! そっち行ったぞ!! 」
「オーケィ……ヤァッ! 」
ガギィィンッ! ……ガシャンッ
「グ、グヘャァッ……!?」
突き出したスピアは胴体部に直撃。
レニと同じ軌道で茂みへと吹き飛ばされていた……そして茂みの中から金属音が鳴ると男性聖騎士が奥から飛び出し、頭から地面へと叩きつけられる。
「ナイスバッティングだ、レニ」
「う、うん、ありがとクラウス。でも大丈夫かなあの人、変な姿勢で落ちたみたいだけど」
「大丈夫だろ、さぁお前等早く立ち上がれよ。そのねじ曲がった根性……叩き直してやる! 」
「う、う~ん……」「い、痛いよぉ……」
「……はぁ? 」
クラウスも呆気に取られていた。
二人の星騎士は既に動ける状態ではないようだ、それを見た審判は勝者の名を告げた。
「しょ、勝者! クラウス&レニ! 」
「う、嘘……だろ? あの不意打ちをまともに喰らったのになんで」
「アイツら動揺してたから踏み込みが甘かったんだ、そうに違いない」
予想外の事態が発生したからか、星騎士サイドはザワついていた。ジークは2人の元に駆け寄る。
「大丈夫かお前らッ?! 」
「わ、私は何とか……」
「え、あハイ。大丈夫、です? 」
「馬鹿野郎! 一番の重傷者が何言っとぉッ?! 回復錠、は苦手やったなお前。はよ薬被っておき!」
「やれやれ、過保護だねジーク。でもよくやったよ新人クン達、まずは1勝おめでと」
「いや、終いや。これ以上やったらウチの大事な新人を壊されかねん……おいッ、馬鹿な指示を出した奴! 出てこいやァッ!! 」
ジークはクラウスに回復薬をかけると、周囲の星騎士へ怒鳴る。
ザワつきは鎮まり、全員口を閉ざしていた……暫く沈黙が続くと観客の中から他の騎士よりも装飾が豪華な鎧を着た太った男性が出てくる、近くには背にひし形の兜とハーフマントを着けた星騎士が数人いた。
「ここの監督代理は俺だがぁ……何かあったのか? 」
「テメェ……! 自分の部下にどういう教育をしとるんやッ! 危うくウチの――― 」
男はジークの言葉に耳を貸さない、周囲の騎士に確認を取る。
「……おい、お前等何があった? この男は何故怒っている、説明をしろ」
「ただ模擬戦をしていただけです、ベテランの試合を見て興奮した新人が開始の合図を待たずに攻撃を……」
「フム、ではその新人たちをしっかり教育しておくように。そして勇士諸君、アンタらもプロなら顧客が満足いくように対応してくれ」
「おい待てぇッ! 話はまだ―――」
掴み掛ろうとすると複数人の星騎士に遮られ、ジークは地面へと組み伏せられてしまう。
男はそのまま背を向けて施設へと向かっていく……扉を開け、入ろうとする手前に一言。
「ああそうだ、ジークさん。貴方のお兄さん、星騎士団で預かる事になったから。よく考えて動いた方が良い……では」
「……ハァッ?! おま―――」
扉はそのまま閉められる。
ジークも拘束を解かれるが動こうとすると、彼の護衛であろう星騎士から喉元へ剣を突きつけられる。
「ウッ……」
「そのまま依頼を続行しろ、それがトリス様からの命令だ」
「ウチの馬鹿がご迷惑を……ジーク、ここはコイツ達の言う事を聞こう。さすがに分が悪すぎる、二人も良いね? 」
クラウス、レニは無言で頷く。
ジークは俯くと数回地面を殴る……少し間をあけて立ち上がると、背を向けて観客席へと戻って行った。
残ったランテは2人にアドバイスをする。
「2人とも、さっき言ったように此処は敵地。そう思った方が良い、きっと次も何かしら仕掛けてくると思うから気を付けて」
試合場には既に次の新人が待ち構えていた。