表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四星剣  作者: KUMA
勇士を目指す少年、記憶を求める少女
5/22

第5話 兄弟

【ルプス坑道:最奥】


 坑道の最奥……大小様々な輝力結晶(マナクリスタル)が壁や地表から顔を出している。ランプの光を増幅させて放っている事もあり、太陽の光が届かなくともある程度の視界は確保できていた。


 中央付近には逞しい体つきに黒々しい髭を蓄えている大柄な男が立っている。武装は頭部に角突きの兜をかぶり、手足を防具で固め、獣の皮を鞣した腰巻……胴体部は裸の上に胸当てを付けていた。自身の武器であろうポールアックスは地面に突き立て、片手で支えている。

 もう一方の手には光輝く結晶が握られており、レニに対して向けられていた。左右に動かすと光は揺らぎ、不規則に点滅を始める……再び彼女に向け直すと安定し、強い光を放つ。


「今度は当たりだ、ちゃ~んと石も反応してるぜぇ」

『直接見るまでは信頼できん。使いの者を送る、暫し待て』

「今度は間違いないっての、それよりも約束は守ってくれるんだろうな? 」

『……それは捕らえた娘次第だ』

「オイ待てって! ……クソッ」


 男は近くにあった木箱を蹴り付ける。誰かと話していたようだが少し離れた所にロープで縛られたレニがいるだけで、近くには誰もいない。

 しかし彼女には見えていた、男と向かい合うように人の形をした黒い霧の様なものをハッキリ目撃していたのだ。話が終わっても黒い霧は男の後ろに付いたまま離れない……彼は気づいていないようだ。


「それにしても、な~んでコイツにだけ反応するんだかなぁ? 」

「……」

「おいおい無視かよ嬢ちゃん、もっとおじさんとお話ししようぜ……んじゃ昔話をしてやろう。あれは―――」

「……(また始まったよ、もう何回目だろ)」


 話の内容は数年前の事、男が自称【王都兵団長】だった頃の事であった。盗賊団として動いている姿からは想像もできないが、どの話も嘘を言っている様には聞こえない。

 少なくとも彼女はそう感じているらしい。


 男は堂々と、そして高らかに語る。自身が行っていた仕事、部下の秘密、得た名声の数々……そして話の締めは決まっていた。


「―――今度は失敗しねぇ……俺はもう一度這い上がってやる」

「あの、真っ当な仕事に就けば良かったじゃないの? 盗賊なんてしないでさ」

「うるせぇッ! 小せぇ頃から武器しか使ってねぇんだ、今更頭を使うなんてできねぇよ」

「じ、自警団とかは? 」

「はぁ……嬢ちゃん、何か大きな事をするには金が必要になるんだよ。手っ取り早く稼ぐ、お前さんはその為の換金物なんだがな」


 換金物と言う単語を聞いた瞬間、レニの脳内では様々な情景が再生された。あんな事やこんな事……それはもうここで語ってはアウトになりそうな事まで。真っ赤になった彼女を見た男は肩を竦める。


「たしかに上物(じょうもん)だがなぁ……」


 小言を言うと同時に彼女に結晶を仕舞いながら背を向けて煙草を吸い始めた。


「ふぅ……あぁ~ウメェな、ん? ……風か、珍しい」


 余韻に浸っていると通路の方角から微かに風が吹く。初めはそよ風のように緩やかなものだった……しかし次の瞬間風は化けた。煙草の火は突如消え、男は身体を後ろに反らせつつ後退。


「ぬぉっ?! 」

「外れた?! 」

「いやアレで()え、行くぞッ! 」


 ポトリと煙草の切れ端が地面に落ちる……男は体勢を持ち直すと武器を構え、通路の方角を睨みつけた。

 その先からは勇士 ジーク、そしてクラウスが武器を構えながら走ってくる。


「不意打ちたぁいい度胸じゃねぇか! 」

「俺が一気に攻める、クラウスは嬢ちゃんを助けぇッ! 」


 ジークは速度を落とさず接近し棍を、男はそれを迎え撃つように斧を振るった。

 武器のぶつかり合う音が周囲に反響する、しばらく攻防を繰り広げると鍔つり合い状態となった。


「盗賊になってから鈍ったんやないか? 」

「ハッ、こちとら絶好調だっての! オォォォラアァッ!! 」


 男は腕に力を込めると武器でジークを持ち上げ、無理やり吹き飛ばす。

 宙を舞いながら大きく後退させられる、しかし彼の顔は笑っていた。


「【ロック・ロック】! 」

「んなッ空中で輝術を……ウオォォッ?! 」


 空中で男の足元を棍で指し示すと金色(こんじき)に輝く輝術陣(アーツサークル)が出現する。

 男の身体を黒茶色の土が這い上がっていき、ジークが着地するときには頭部以外を覆ってしまっていた。力にはかなりの自信があるようだが、いくら力を込めてもビクともしない。


「無駄や無駄、そいつの硬度は鉄並みにある。いくら【剛腕】の二つ名があったアンタでも脱出できひん」

「テメェ……俺らファフニールがもう一度這い上がれるかもしれないチャンスなんだぞ? 何故邪魔をする! 」

「汚い仕事に手ぇ出してまで這い上がるこたぁないやろ、んなモンこっちから願い下げや」


 ジークは武器を折りたたみ背にしまうと懐から小袋を取り出す。開けると中には水色の粉末が入っており、ひと摘みするとフリードの顔に振りかけた。


「これ以上泥を塗らんでくれや、兄貴がファフニールをホントに大切にしとるんならな」

「ッ……眠りの、粉…………ジー、ク……………」


 男も迫りくる眠気を退けようと歯を食いしばるが、抵抗も空しく意識は途切れてしまう。

 数秒後には豪快ないびきが坑道内に響き渡っていた、時折うなされる様に小言を呟いているようだが何故か聞き取れない。


「これでヨシっと……クラウス! そっちはどや? 」


 掛け声にクラウスも手を上げて答える、レニも解放されたらしい。彼女は身体に縄の跡が残っていないか気になっているようだ。


「どっか痛めたのか、レニ? 」

「ううん、ダイジョブ。クラウスも怪我はない? 」


 クラウスは怪我がない事を告げるとレニを連れてジークの元へ向かう。

 これまでの経緯と助けてくれたジークが勇士である事、援軍が向かっている事等を説明した。



「―――まぁそんなこんなで今はコイツを助士試験って名目で嬢ちゃんを助けにきたって感じや」

「クラウス~、助けに来てくれたのは嬉しいけど本職の人に迷惑かけちゃだめだよ」

「うぐ……だ、だってほっとけないだろ。あの事だって―――」

「く、クラウス! それは……」


 咄嗟にクラウスの口を塞ぐレニ、どうやら【あの事】とは他人には聞かれたくない話の様だ。

 ジークも気になったようだが深くは聞かなかった、話題を捕縛した男の事に変える。


 名前はフリード・ニーベル、元王都兵団長であり5年前から行方不明となっていた。ジークとは血縁関係があり実兄に当たる。盗賊団としては3年前から活動していたらしく各地を転々としていたらしい。


「いや待て待て待て、兄弟だって? 」

「まぁな、それより捕まっとる間に変な事されてへんか? 」

「そう言えば変な結晶を私に向けて独り言を呟いてたよ、独り言ってよりも誰かと話してるような感じだったけど」

「誰かと……? 頭に通信機みたいなモンは見当たらんが、もしかして体の方に着けてたかもしれんなぁ……使う輝術(アーツ)、失敗したわ」


 ジークは片手で頭を掻きながら棍でフリードの胴体部を叩いた。多少の衝撃では起きないらしい……数回叩いた後に今後の予定を話し始めた。


「ま、言ってもしゃあない、次や次。今頃俺の仲間も坑道へ入ってきた頃やろ、民間人の保護が終わったら連絡が来るはず……あ」


 腰に付けたポーチからTFを取り出すと、ジークは言葉を失ってしまった。

 無言でクラウス達に画面を見せてくる……右上に通信状況が表示されるのだが、アンテナは1つもたっていなかった。おそらく周囲にある結晶や鉱石が発している輝力が影響して安定していないのだろう。


「かぁ~ッなんや踏んだり蹴ったりやなぁ……クラウス、俺は一旦上へ行くから見張り頼むで。起きないとは思うが……万が一を考えてや」

「俺一人で良いのか? 」

「サイクロプスん時は危なかったが、それ以降は間違いなく合格点や。もし魔物が出たら俺の兄貴を守ってな、嬢ちゃんは……戦う術はあるんやろ? 」

「え……あ、ハイ。クラウスと一緒に習ってたので」

「じゃあ問題ないやろ、多分。ほなチョイと行ってくるで~」


 ジークはそのまま入ってきた通路へと走っていき、二人は呆気にとられながら見送っていた。姿が見えなくなると互いの顔を見合わせると、クラウスは笑いながら肩をすくめた。


「えっと、ジークさんって少し変わってるね」

「……否定はしない、俺だって急にこんなことになるとは思わなかったさ。よ~しっ、気合い入れて見張りをしようぜ? 」

「うん、そだね。しっかり見張らないとッ」



             ※※※



『フム、コレは予定が狂ってしまったな……』


 フリードの後ろには黒い霧が浮いていた。

安心しきっているからかレニもその気配を掴めていないらしい。


『まぁ仕方がないだろう、このまま力を見せてもらおう』


 霧が地面に沈むと、拘束されたフリードの足元に黒い液体が溢れてくる。地面から這うように上り、全身を覆うと身体へと染み込んでいった。


 フリードの肌から生気が失われていき、その肌は灰がかった色へ……静かに開かれた目は真紅に変化していた。


『魔物の力を得た狂戦士、と言った所か。サイクロプスの力……存分に振るうがいい』




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ