第17話 招待状
~交易都市 セクタス~
勇士協会へ入るとクラウスは受付のシルバから声を掛けられる
「クラウス君、市長から手紙が届いているよ」
「え……俺に? なんで市長から?」
「正確には君とレニ君宛だ、はいコレね」
手紙を受け取ると封を切り中を確認する、チケットが二枚と手紙が同封されていた。
内容は都市への貢献に対しての報酬……の他にクラウスの解決した強盗事件とレニが”指導”した武器屋の品質向上に関してお礼がしたいとの事であった。
「し、指導? 私は工房を借りただけだよ、後は作業は見せたくらいだし……」
「ん~……もしかしてあの爺ちゃん、市長だったのか? 」
自分が招待された事に疑問を持つレニ……後方からランテが声を掛けてくる。
「まぁせっかく招待されたんだから行ってきなさい、こんな機会中々ないわよ? 」
「そうだねランテさんの言う通りだよ、幸いにも食事会は明日の様だし今日は準備をした方が良いかもね」
「「……準備? 」」
二人の返答にランテとシルバは一瞬硬直し顔を見合わせる。
「まさか貴方達、その格好で行くつもり? 」
「え、ダメなのか? 」
「あ、あのねぇクラウス君……この食事会はお偉いさん達が集まる場所なんだ。それなりの格好をしないとチケットを持ってても通してくれないよ」
「そ、それなりの格好? 」
両者ともに”それなりの格好”というモノが頭に浮かんでいないらしい、ランテ達には彼らの頭部に?マークが浮かんでいるのが見えているだろう。
その様子を見たランテは深く溜息を吐き、彼らに簡潔にだが礼儀や作法を説明をした。レニも普段通りのツナギ姿で行こうと思っていたらしく、話の途中から顔を真っ赤になり俯いてしまう。
二人だけで準備させることに不安を覚えたシルバはランテに同行を依頼、もちろん彼女は快諾……腕を引っ張って勇士ギルドを出発した。
※※※
~大型マーケット 羅針盤~
場所は都市の中心にある大型マーケット、羅針盤の中にある格式ある服屋 ―レディース&ジェントル― 。
ランテに連れられ二人は店に入ると、店内には様々な種類のスーツやドレスが棚に並んでいる。若い二人にはどれも同じようにしか見えていないようだ。
「わぁ……綺麗な服がいっぱいあるね、クラウス」
「俺には違いが分かんねぇよ、どれも同じに見える」
「まずは採寸しなきゃね、店員さ~ん」
ランテが店員を呼ぶと、要望を伝える……すると奥から更に一人が採寸道具を持ってきた。
男女に分かれるとそれぞれ採寸が行われ、終わると試着の時間が始まる。
「クラウスはそちらにお任せします。じゃあ私はレ二の方に行くから、ちゃんと店員さんの言う事聞くのよ? 」
「俺は子供か! 」
「ではクラウス様、さっそく始めましょう」
「……はぁ、とりあえずよろしくお願いします」
まずはシンプルなスーツを進められる。黒を基調としており、パーティー等に参加しても問題のない最低ラインのモノだそうだ。一緒にネクタイも選ばれる、模様は青のストライプだ。
「う……この布で首元を締めんのか」
「おや、ネクタイを着けられるのは初めてですかな? 」
「そもそもこのスーツ? って言うのすら着た事がないッス。」
「では着け方も一緒に勉強しましょう、ネクタイが曲がっていてはせっかくのスーツも格好悪くなりますから」
店員の着け方を見て、それを真似るクラウス……最初はぎこちなく、自身の首を絞める事も多かった。その後は別の種類のスーツを着て、ネクタイを自分で着ける作業の繰り返しだった。
時折ランテが様子を見に来てアドバイスをしてくれる、それを加味しながら着ていくと徐々に自分の好みも分り始める。クラウスの場合はデザインよりも動きやすさを重視したいようだ、それを聞いた店員は可動域が広く、多少の運動もできるモノを持ってくる。ベスト付きのタイプで、黒に近い紺色を基調としたスーツだ。実際に着用し、軽くストレッチ等を行うが問題なく動ける……話によると引退した勇士が設計したスーツのようだ。
「これ、良いッスね。他のよりも全然動きやすい」
「クラウス様のご要望に合ったようで何よりです、このスーツになさいますか? 」
「これでお願いします」
自身の着るスーツが決まり、とりあえずは一段落……店員さんによると会計はまとめて行うらしい。
勝手に店から出るのも悪いと思い、暫く他のスーツを見ていた。
するとランテから声が掛かる。
「クラウス! 終わったんならこっちに――」
「わ、わわわ……! ランテさん、ちょっと待って」
「何言ってんの、ちゃんと見てもらいなさい」
……なにやら騒がしい、クラウスは若干気も引けたが彼女たちの元へ向かう事にした。
女性向けのエリアに到着すると雰囲気が一気に変わる、男性スーツ特有の緊張感が無くなり、どこか柔らかい雰囲気を感じる。
店内を進んでいるとランテが手を振っていた、誘われるがまま到着すると試着室が見えてくる。
カーテンはしまっており、彼女の話によるとレ二が閉じこもっているようだ。
「……なんで? 」
「なんでって、君ねぇ……ホントに言ってる? 」
「な、なんだよランテさん」
「こりゃレ二も苦労する訳ね。ほら、さっさと諦めて出てきなさい」
「え――」
ランテはため息を吐きながら試着室のカーテンを開く。
そこにはパーティドレスをきたレ二の姿があった。清楚で品のあるフィット&フレアがガーリーさ、そして繊細なレースとボルドー×ベージュの落ち着いた色味が大人っぽさを演出している。
クラウスの姿を見た、レニは徐々に顔が赤くなっていく。
「く、クラウス……み、見ないでぇ」
「……」
「ほらクラウス、何か言ってあげないと」
「あ、あぁ……似合ってる、と思う」
クラウスもランテの言葉に不意を突かれ、答えがやや曖昧になってしまった。
だがその表情は明らかで、頬が若干赤い。
同時にレ二も先ほどよりも赤くなり、カーテンを勢いよく閉めてしまう。
その様子を見ていたランテと店員達は頷きながら微笑んでいる。
「や~……若いって良いねぇ」
「フフフ、そうですね」
「良いモノを見せて頂きました、ありがとうございます」
レ二の着替えも終わり、その後は会計を行う為にレジへと向かうだけ。
二人が財布を出そうとするがランテはそれを制止する……どうやら彼女がお金を出してくれるようだ。
そしてスーツとドレスの合計金額がレジの画面に表示される。
その額を見た二人は言葉が出なかった……こういった商品は意外に高くつく事を勉強した若き勇士達であった。