第15話 天才? それとも天災?
~交易都市 平民街 古民家~
平民街と貴族街の丁度中間地にある古民家にて2人の勇士と暴走したゴーレムが戦っていた。敷地は広く、周囲には壁もある……この中で上手く立ち回れば都市への被害は最小限に抑えられるだろう。
幸か不幸かゴーレムの狙いはクラウスに向けられている、相手は丸太の様な太い腕を彼に振り下ろしてきた。
ドゴォッ
「っぶね! 」
『よ、避けるのじゃ! 何とかこっちでも操作できないか試みてみる! 』
「くらえ! 風刃!! 」
武器を抜きながら特技を放つクラウス、しかし風の刃はゴーレムの身体に当たるとそのまま霧散してしまう。ゴーレムの身体には傷一つ入っておらず、効果はなかったようだ。
「はぁッ?! き、効いてないのか?」
『輝力反射装甲じゃ! 輝力を装甲表面で受け流す、放出系の特技や輝術は効かん。やるなら物理じゃ。……頼むから加減してくれよ? 』
「こんな状況で、加減何てできるか! レニ、俺が隙を作る!」
「わ、分かったよ! 」
クラウスはゴーレムに対し俊足を使って高速移動し、かく乱を試みた。狙いが定まらないまま攻撃を繰り出すが空振りをしてしまい、勢い余ってそのまま倒れてしまう。
レニはその隙に接近し、飛び上がるとゴーレム目がけて槌を振り下ろす。
「クリティカル、ハンm……あ゛あ゛あ゛!? 」
ゴィィィィン……
勢いよく振り下ろしたは良いが逆にレニへ攻撃の衝撃が伝わり、手が痺れてしまう。
ゴーレムの装甲は少し凹んだ以外に変化は見られない、体勢を持ち直しながらレニを振り落とす。
「きゃ―――」
【ピピ……新たな敵正反応、対処します】
『く、やめんかこのポンコツ! 』
内部で何か行っているようだがゴーレムの動きは一向に止まらない。上半身を回転させ、腕を振り回しながらレニの元へ向かい始める。
身体を傾け、地面を削りながら迫りくるゴーレム……後数メートルの所でクラウスが間に割って入ってきた。足に力を込め、剣で相手の腕を受ける。
ガキンッ……ズズズ
クラウスは輝功を解放しながら、輝力を防御に回していた。武器の前に出現した風の壁が腕の勢いを殺したことで彼も吹き飛ばされずに済んだようだ。
「おおおッ! 虚空、崩天!! 」
『ぬぉッ?! 』
斬り上げと踵落としの連撃が決まると、ゴーレムは初めて大きく後退する。危険を察知した相手は再び狙いをクラウスに定め、今度はそのまま突進してきた。
「簡単には止まんねぇか……! 」
クラウスはランテの言葉を思い出す。
”奥義を出すには相手の体勢を大きく崩す必要がある”……そこで彼はこう考えた、一撃でダメならば連撃……体勢を持ち直す暇を与えなければそのまま奥義へと繋げられるのではないかと。
突進を回避すると、そのまま相手を追いかける。
「行くぞ! 」
相手が振り返ると同時にクラウスの攻撃が始まる。武器に輝力を込め、斬撃と脚による打撃を交互に繰り出していた。攻撃が当たる度に輝力の輝きは増してゆく……どうやら連撃を行いながら練り上げているようだ。
『ォォォ?! ゆ、揺れれ―――』
「歯ぁ食いしばってくれ! ウォォォッ!! 」
風の輝力は限界まで達しており、刃は蒼い光を放っていた。相手を宙に蹴り上げると剣を逆手に持ち、輝力を解放する。
「蒼刃、天衝波ーーーー!」
『おま……オオオッ?! 』
ゴーレムの身体に蒼い衝撃波が襲い掛かる。衝撃波は身体の半分ほどの所で止まり、内部の様子が見えた。
どうやら操縦者は無事の様だ……輝力反射装甲が功を奏したらしく、亀裂はギリギリのところで止まっていた。操縦者はポカンと口を開けて失神している。
「生きてる……よな? 」
「た、たぶん。血は出てないみたいだし、失神してるんじゃないかな」
クラウス達は亀裂を広げるために、レニが世話になった工房から工具を借りてきた。職人たちの協力もあって無事中の人物を取り出す事には成功した。
出て来たのは小学生ほどの身長の少女だった、金髪をツインテールにしており、服装は作業着の上に白衣を着ていた。耳は人とは若干形状が違っており、少し尖っている。
「この人、星詠族だ 」
「なんだそれ? レニ、知ってるのか? 」
レ二の話によるとこの世界に存在するもう一つの種族との事。
見た目は人と変わらないが大きな特徴は尖った耳、伝承では星々の声を聴くためにこのように発達したらしいが実際に聞こえているのかは本人たちしか分からない。
一度寝かせるためにゴーレムの出てきた家に入る事にした、しかし奇妙な光景が目の前に広がる。
「家具が、ない? 」
「どうやって生活してたんだろ、この人……」
クラウスの言う通りこの家には家具が一切ない。
他の部屋も見てみたが此処で生活しているような痕跡は見つからなかった。リビングやキッチン、寝室……暖炉もあったがどれも使われた形跡はない
見た目こそ古いが作りはしっかりしている、それ以外は空き家と変わらなかった。此処で寝かせる事は諦め、二人は彼女を背負いながら勇士協会へと戻る事にした。
※※※
~勇士協会 医務室~
時間が経ち、お昼時を過ぎた頃に彼女は目覚めた。
「此処は、何処じゃ? 」
「勇士協会の医務室です、アイリス・ツェータさん」
「む、ワシの名を何故知っている」
「所在を調べさせてもらいました、後は担当の者が話しますので」
コンコンコンッ
「失礼します」
医務室の職員と入れ替わりでクラウス達が入って来る。二人を見た瞬間にツェータと呼ばれた女性の表情は一変した。
「ッ!? お主らは……! 」
「怪我がなくて良かった、気分は大丈夫ですか? 」
「く、クラウス、まずは謝らないと……」
「謝罪はいい、それよりワシの乗っていた試作型輝導人形はどうなった? 」
「そ、それは……その」
ツェータの問いかけにレ二は口ごもり、クラウスは視線を逸らしてしまう。
「ま、まさか……壊したのか? 」
「はい……」
「すいません、あの状況で手加減は出来なくて」
二人の返答にツェータは黙り込んでしまう。少し間を開けて再び口を開いた。
「……まぁ暴走はこっちの不手際じゃ、仕方がない」
「そう言ってもらえると助かります、実は聞きたい事がありまして」
「あぁそっちも大体分っておる、隣のクーレムとかいうやつからじゃろ? 」
「え、知ってるんですか? 」
「何かとケチをつけてワシをあそこから追い出そうとしとる、いい迷惑じゃよ」
ツェータの話によると過去にも何度か嫌がらせ的な事はあったらしい。
程度の低い内容ばかりの為無視していたようだが、勇士協会が出て来たとならば話は別との事。今回の依頼に協力してくれるようだ。
「どうせ異音がどうこうとか言っておるのだろ? だとすれば此方に非はないぞ」
「なんで言い切れるんですか? その……造られたモノが原因と言う可能性も―――」
「無い、実際に起動したのはアレが初めてじゃ。お主らも家の中は見ただろう? 一切家具のない家を」
そう言われると反論もできない二人であった。異音が発生する原因はゴーレムと家そのものにしかないと考えていたが二つともあっさり否定されてしまう。実際に家を捜索した際にあの何かが軋むような異音は全く聞こえていなかった。
「だとしたら……あの音は一体どこから? 」
「そんなの簡単じゃ、アイツの家の中で聞こえて外では聞こえないなら? 」
「……クーレム婦人の家自体が原因? 」
「正解、では一緒に行ってみようかの」
ツェータはベットから立ち上がるとそのまま部屋から出ていってしまう。
慌てて二人も追いかける事にした。
~クーレム婦人邸~
「邪魔するぞ~」
「あ、貴女様は……? 」
「隣のツェータ・アイリスじゃ、勇士協会の奴らと一緒に来た」
遅れてクラウス達も入ってくる。執事にひと言謝り、事情を伝えると問題の部屋へと進んでいった。暫くして婦人もやってきた。
「いきなり何事ですの? 」
「奥様申し訳ありません、隣人のツェータ様が無実を証明にと……」
「ツェータ……? あぁあのボロ屋の方ですの? 」
「そうじゃ。異音について証明してやろうと思ってな」
部屋に入ると早速異音が聞こえてくる、その様子に婦人はツェータを責めるが彼女は聞く耳を持たない。一緒に持ってきた工具箱からガラス玉を取り出すと床に置く……するとガラス玉はコロコロと転がって行った。
「フム、傾いておるな。でもってこの音は……あの柱からか」
ツェータは部屋の隅にある柱の一本を手で押すと軋む音が大きくなった。クラウス達が見ても分るほど柱は揺れ、音を立てている……どうやら此処は欠陥住宅だったらしい。
「ツェータさん、もしかして此処は……」
「うむ、欠陥住宅というやつじゃな。クーレムよ、早急に直した方が良いぞ。」
「な―――」
「話は終わりじゃ、帰るぞクラウス」
ツェータは二人を引っ張ってそのまま部屋から出ていってしまう
~後日~
依頼について心配が残ったが、執事の男性が依頼の料金を支払いにやってきた。そして隣人に謝罪をしたいと言っていたが、その場に居たツェータは追い返したという。
「……で、なんで此処に居るんですか? ツェータさん」
「失礼なやつじゃのぅ、ワシは今回の依頼で犯人と疑われた……言うなら被害者みたいなものじゃ。勇士協会側から何か見返りがあってもいいだろう? 」
「む、その件に関しては謝罪したじゃないですか」
「なんじゃ勇士協会は犯人扱いをした相手に対して謝罪のみで良いと言うのか? 冷たいのぉ~」
ツェータはわざとらしく周囲に聞こえるように言う。
相手をしていた受付のシルバは困り果てていた……ちなみに彼女はかれこれ30分以上見返りを粘っている。周囲の勇士や他の職員は巻き込まれないように近寄らずにいた。
その中にクラウス達ももちろんいる、同じ室内にあるテーブルにてその様子を見ていた。
「あの人、粘ってるね」
「あぁ……嫌な予感がする。シルバさんには悪いけど、関わらないようにしよう」
その場から離れようとした時、ツェータは動き出した。
「見返りはそうじゃのぅ、……そこの二人を貸してくれんか? それが可能ならばこれ以上騒がん」
「え、それは―――」
「もちろん無償でじゃ、なぁに怪我はさせんよ。……多分」
「……分かりました、では特例として指名での依頼をお受けいたしましょう。クラウス、レ二、ちょっといいかい? 」
こうして無事彼らはツェータからの依頼に巻き込まれる事になったのであった。