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四星剣  作者: KUMA
勇士を目指す少年、記憶を求める少女
15/22

過去話2 地下深くでの共闘


「アタタ……ど、どれくらい落ちたのかしら? 」


 ルナは落ちてくる石を足場にしながら移動し、衝撃を緩和してたらしい。

 着地後は他の落石を避けながら移動し、壁に空いていた穴へと転がり込む事に成功。

 足も着地の際に痛めていたが幸いにも捻挫や骨にヒビが入るまではいかなかったらしく、ポーションを使う事で行動に支障が出ない範囲まで治療が出来た。


「っと、ねぇ大丈夫? 」

「ん、う~ん……」


 ルナの腕の中には少年が眠っている。突然発生した爆発と落下の恐怖に耐え切れず、意識を失ってしまったようだ。

 出来る範囲での安否確認をした後、彼女は周囲を見渡し始めた。


灯結晶(ともしびけっしょう)……灯りがあるのはありがたいわね」


 壁に光を放つ結晶がある、結晶の内部では紫色の光球が輝いていた。この結晶は気中の輝力を吸収して光を放つ特殊な結晶、属性によって色が変化する。

 現在はほのかな紫色の輝き……闇属性の光を放っていた、周囲には同様の輝きを放つ結晶が点々と存在している為視界の確保は問題ない様だ。


 ルナは適当な大きさの結晶を採取すると布を用いて腰辺りへと巻き付けた。どうやらランタンとして使うらしい。


「……道は1つ、か。外に繋がってると良いんだけど」


 後方を確認するも落石の影響で道は塞がれている。目の前に続く道を進むしかないようだ。


『う、うわぁぁぁぁ……』『く、来るんじゃねぇッ! 』


 ……道の先から男の悲鳴が聞こえてくる、そして金属がぶつかる音。

 恐らく一緒に堕ちた誘拐犯たちが何かと戦っているらしい。


「さっさと行かないと危なそうね、ヨッと……」


 背負った少年を落とさないようにしっかりと身体に縛り付ける。

 足早に道を進むと、再び広い空間に出た……その中央付近に人が集まっている事を確認。人数は5人、どうやら硬い甲殻を持つ魔物から囲われているらしい。


「ちくしょう! 武器が通じねぇッ」

「手を休めるなッ! コイツ等を近づけさせるんじゃない!! 」


 相手は甲殻だけでなく、背に結晶を含む鉱石を背負い腕部に大きな鋏を持つ魔物。

 図鑑では”ロックイーター”と名称されている蟹に似た魔物だ。主食は鉱石や結晶。泡状の消化液で鉱石等を柔らかくして鋏でちぎりながら食べるらしい。摂取した鉱石や結晶は体内で混じって背中に出てくる為”動く鉱石”とも呼ばれている。


 彼らはかなり臆病で人前には中々現れない、しかし目の前にいるのは明らかに敵意を持ち襲い掛かろうとしていた。そして今その結晶は妙な光を放っている……鈍い赤色、血の色に近い。

 自身の鋏をカチカチ鳴らしながら徐々に距離を詰めていた。


「来るなって言ってるだろ! 」


ガキンッ


「ひぃっ?! うわぁぁぁぁっ!! 」


 槍を突き出すも背中の鉱石で防がれ、攻撃した下っ端は大きく体勢を崩してしまう。魔物は鋏で槍を掴むと、自身の体格の倍以上の大きさを持つ人間を軽々と持ち上げた。


 宙に持ち上げられた下っ端は武器を手放さない……しかし、それも長く続かず左右に揺らされると地面へと落ちてしまった。そして魔物達は落ちてきた獲物を囲い、一斉に襲い掛かる。


「イギッ?! ぎゃぁぁぁぁぁ……」


 下っ端の悲鳴と肉を引きちぎる不快な音が周囲へ響き渡った。

 一瞬にして骸と化した仲間を見た誘拐犯達は血の気が引き、萎縮してしまう。


 魔物達は次の獲物を求め、彼らとの距離をジリジリと詰めていく。


「しょうがないわね……てぇいッ!」


 ルナは助走をつけてその場から勢いよく飛び出すと、魔物と誘拐犯達の間へ割って入った。

 回し蹴りを魔物へ当て、距離を無理やり開けると彼らへ喝を入れる。


「しっかりしなさい、攻撃するなら足の関節を狙って! 機動力を削ぐのよ! 」

「お、お前は……! 」

「争ってる場合じゃないでしょ? サッサと動く! あとはアタシが止めを刺すから」

「あ、ああッ! やるよアンタ達! 親分を守るんだ!! 」


 思いもよらぬ増援に彼らも戸惑うが、勢いを取り戻す。

 ルナの指示通りに攻撃を行うと、魔物は次々と体勢を崩していく……その隙を狙って彼女は脚を使う特技で止めを刺していった。戦闘は数十分ほどで終わり、その後は互いに現状を確認する事となった。


 どうやら誘拐犯側は数名はぐれた仲間がいるらしい、負傷者は彼らが親分と呼ぶ男性一名。

 落下した際に尖った石片が腹部へ刺さってしまったとの事……石片を抜き、衣服の一部を利用して止血処理までは行えたがこのままでは危険の様だ。


「う~ん……アタシも高度な治療輝術が使える訳じゃないし、早くここを抜けないと」

「でも出口がどこにあるか分かんねぇんだ、どうすればいいか俺達だけじゃ―――」


「ば、馬鹿野郎……! 」


 男は意識を取り戻したようだ、しかし呼吸が荒く長くはもたないだろう。目を薄っすらと空けながら仲間を見つめる。


「ぜぇ……動かなきゃ、ぜぇ……状況は、変わんねぇだろうがッ、ぜェ……ぜぇ……ウグ、諦めんじゃねぇ! 」


 男はやっとの思いで告げると再び意識を失ってしまう。

 その言葉を聞いた下っ端たちの目には光が戻る、たった一言ではあったが士気を取り戻すには十分のようだ。


「やるしかない」「そうだな、俺達がなんとかしねぇと! 」「うぉぉぉッ!! 」


「へぇ……中々やるじゃないあの人」


 ルナは彼の影響力へ関心を示していると、一人の女性が話しかけてくる。

 フードを脱ぐと白銀の髪が姿を現す。肌は白く、瞳の色は翡翠色……腰には短剣が交差するように2本差してある。話によると彼女はリーダーの右腕として動いていたらしい


「勇士の姐さん、恥を忍んで頼みがある」

「……全部言わなくても良いよ、この状況だし協力する。此処を拠点にして出口を探しましょ」

「助かる……外へ出たらちゃんと罪を償う、アタイの名はクロウ。よろしく頼む」


 話し合いの結果、今いる空洞を拠点として活動する事になった。

 手荷物を集めた結果手持ちの食料と水は十分にあり、飢えに関しては暫くは問題ない。しかし治療薬が不足している為、それを探しつつ出口を目指す様な行動方針が立てられた。


 目を覚ました少年はルナから離れたくなかったようだが、下っ端たちと残るように伝える。


「目を覚ましたばかりなのにゴメンね、でも一緒に行くともっと危ないから……」

「うぅ……わ、わかったぁ」

「よしっ偉いぞ。すぐに出口を見つけてくるから、この人達と仲良く待っててね」


 出発前にルナは自身の出て来た穴を岩で塞ぐように指示した。

 行き止まりとなっているが、そこから魔物が襲撃してこない様にするための対処らしい。

 現状でこの空洞に魔物の気配はないが油断はできない……先ほど現れた魔物への対処方法を再度伝えると、クロウと共に探索へ出発した。


             ※※※


「結構入り組んでるな……」

「行き止まりも多いし、目印はつけておきましょ」


 探索を初めて約一時間が経過した。

 最初の空洞から複数の分岐点が広がり、行き止まりに当たってはもう一方の道を進むという行動を繰り返している。迷わないように行き止まりに続く道には×、進める道には〇の傷を付けていた。どうやら上に進むほどアリの巣状に広がっているらしく、時には魔物との戦闘もあった。

 しかし収穫が無かったわけではない。崩落と一緒に上層の荷物も巻き込まれており、ピッケルやロープ、ランタン、少量ではあるが治療道具も入手する事が出来ていた。


「また行き止まり……一旦戻りましょうか」

「そうだな、親分の容態も気になる。」


 通路を戻り行き止まりの印を付けた時、後ろから敵意を感じ取る。

 ルナはすぐさま振り向き構えるがそこには何も存在していない、しかし不穏な空気は続いている。空洞の中央付近でクロウと背中を合わせながら周囲の警戒をした。


「何か、いる」

「でも姿は見えない……油断しないで」


 彼女たちに移動音は聞こえていない、やや薄暗い事もあって景色の揺らぎも認識は出来ていないようだ。壁をつたい、天井へ貼り付いた魔物は自身の尻尾を吸盤のように貼り付け彼女たちの真上にぶら下がる。


 爬虫類の様な瞳がクロウを補足し、口を開けると長い舌が垂れてくる。



ベタリ……



 クロウの頭部に魔物のよだれが落ちてくる。

 ようやく気配を感じ取り、上を向くも既に手遅れ……魔物の舌は勢いよく伸び、彼女の身体を絡めとる。


「キャッ?! 」

「く、クロウ?! いつの間に上を……! 」


 クロウを捕らえた舌は魔物の口へ戻って行き、そのまま飲み込んでしまう。しかしまだ口内で留めているらしく、獲物を弱らせる様に動かしていた。

 彼女も脱出を試みるも不規則に動く口内では武器を振るう事も出来ないようだ、例え突き立てられたとしても弾力のある肉に阻まれてしまう。


 ルナが灯結晶を掲げ、自身の輝力を送ると光が強くなり魔物の身体を照らしてくれる。


「ローグトード! しかもデカい!! 」


 ローグトードと呼ばれる魔物は、要するに巨大な蛙だ。

 雑食で動く者は何でも口に入れようとし、森林や洞窟に生息している魔物である。

 特徴としては皮の至る所にイボが付いており、常に細目。舌の先端は粘着力が強く、捕まった場合は剥がすのに一苦労する。


 通常は中型犬程の大きさなのだが、この個体は突然変異を起こした個体らしく、人も見上げるほど……玉転がしの球体程はあるだろう。そしてその皮は周囲の景色と同調する事で擬態を可能としているらしい。


『ムムムーーー! 』

「早くしないと飲み込まれて消化されそうね……すぐ助ける! 」


 ローグトードはもう一つの獲物に気づく、その瞳には明らかな敵意を感じ取れるだろう。

 ルナは再度武器を構え、魔物の元へと駆けだした。



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