過去話1 師と弟子の出会い
ん~、クラウス達も成長していたようで何より。
良い好敵手とも巡り合えたみたいだし、これからが楽しみねぇ。
ホント、あの頃ビービー泣いてたのが信じられなくらいよ。
……少し昔話をしましょうか。
~12年前 ~
此処は産業都市の近くにある坑道……とはいっても今は都市へ入るための通路として使われてる所なんだけどね、その途中に左右に別れた分岐点があるの。私は都市の方角から来たから……左に行けば港、右に行けば封鎖された採石場がある。
「さぁて……人助けに行きましょうか」
シショーこと、当時の私の名前はルナ・ビルガーは採石場へと歩みを進めた。依頼は産業都市随一の企業、ドラゴル財団から。
飛空艇等の大型機械をはじめ、都市間を繋ぐ輝力通信、小型通信機の開発等々……最近は軍事兵器にも手を出し始めたらしいわ。
依頼の内容は人質の救出……財団の息子さんが拐われたのよ。
"息子は預かった、五体満足で戻してほしかったら金を用意しろ"
……なんてテンプレな脅迫状が送られてきたんだって。
何で依頼を受けたのかって? 分からないんだけど財団が名指しで指名してきたのよ。あとはそうねぇ、断る理由が無いって位かしら。
「……なんか妙に重いのよね、このトランク。紙幣だけでこんなに重くなるのかしら? 」
私の手には銀色のトランクケースが握られていた。中には結構な額が入ってるんじゃない? 財団からは絶対に開けない様にと言われてるから確認はできなかったけど……まぁ大丈夫でしょ。
そろそろ着きそうよ、交渉の場所は採石場の入り口付近で行われるの。
岩陰にはならず者達が潜んでいる……殺気みたいなのがビンビン伝わって来るわ。
途中いくつか道も分岐してたけど犯行グループのメンバーが立ってて、ご丁寧にも進むべき道を教えてくれた。
交渉場所に到着した時、私の後方にはならず者たちがズラッと列をなして付いてきてた。
到着したのはやや広い空間……周囲に何カ所か入り口の様な穴がある所から、各採掘場所へ繋がっている中継地点。 その中央には大き目の木樽が置かれ、その後ろには恰幅の良い男が立っている……このグループのボスね。
「金は、持ってきたか? 」
「えぇ……コレね。それより人質は何処に? 」
木樽の上にトランクケースを置くと、男は手を伸ばしてきた。まぁ触られる前に確保はしたけどね……相手は苛立っていたわねぇ。
「なんのつもりだ? 」
「コッチが先、まずは人質を解放しなさい」
「……状況を理解していないようだな、オイお前等! 」
「ヘイッ!」「ヒャッハー!! 」「やっちまえぇーー! 」
男の合図と同時に後ろからならず者たちが襲い掛かってきた。
飛び掛かってきたのは小柄なフードを被った者、細身で口元を部ので隠した者と金属製の胸当てと骨材で作られた装飾を身に着けた者……それぞれに小、中、大と付きそうな盗賊達だった。
「分かり易いわねぇ、アンタ達。……ヨッと」
「は……? ヘブェ!? 」
一番近かったのは小盗賊。初撃をよけて振り向くと同時にトランクケースを横に振って顔を強打。怯んだところを追撃し、腹部へ左掌底を放つ。インパクトの瞬間に輝力を流し込み威力を底上げしたら勢いよく吹っ飛んでいった。
「や、やろぉ……! 」
ルナの動きを見て只者ではない事は理解できたらしい、しかし中盗賊の動きは止まらない。振りかぶったナイフを彼女に向けて振り下ろすが、拳の下を蹴り上げられ、ナイフを宙に飛ばされてしまう。上げた足はそのま頭部へと振り落とされ、中盗賊は地面へと叩きつけられた。
「むぉぉぉぉぉッ! 許さん!! 」
「ん……さすがにアンタは厄介ね」
大盗賊は身の丈程ある大剣を振り回しながら突進してくる。体格差もあり、攻撃を受け流す事も困難と思ったルナは回避行動へ移る。
少し屈んだと思った矢先、彼女の姿がその場から消えた。
「ぬぅッ?! 何処へ行った! 」
「此処よ! 」
大盗賊の真上に出現したルナは重力を利用した一撃を相手の頭部に目がけて放つ。回避は間に合わない、大盗賊は武器で自身を隠すように構え防御を試みた。
「甘い! 破刃衝!! 」
ルナは捻りを加えながら拳を突き出す。
しかし、拳が接触する直前に分厚い剣身にヒビが入り大盗賊の武器は砕け散ってしまう。どうやら輝力を込められた拳に回転が加わった事で、拳の周囲へ特殊な力場が発生していたようだ。
「な、何ィっ?! 」
「これで終わりよ! 」
「ガ……フっ!? 」
大盗賊は着地と同時に回し蹴りで足元をすくわれ転倒してしまう。
そのまま追撃で鳩尾を踏みつけられ悶絶……大盗賊の意識は其処で途切れてしまった。
「……で、次はどうするの? 全員で来るのかしら? 」
優位な状況と高を括っていた盗賊達はざわつき始める。
「おいおいおい……」 「何なんだこの女は?! 」
「おい、お前が行けよ」 「じょ、冗談じゃねぇ……」
「仕方ねぇな……オイ、ガキを連れてこい」
……ようやく交渉ができるみたい。
トランクケースを少し乱暴に扱っちゃったけど、まぁ大丈夫でしょ。
数分後、グループの下っ端が子供を連れて通路の奥から出てきた。子供は目元が真っ赤……大分泣いたみたいね。
背中を押して私の元へ行くように指示を出してるわ。
「ッ」
「おっと……よしよし、もう大丈夫だからね」
「オイ、ガキは返した。さっさと金を―――」
「ハイハイ、ほら。これで良いんでしょ」
地面に置いていたトランクケースを適当な下っ端へと投げ渡す。
私の目的は人質の救出。せっかく無事確保できたんだし、さっきみたいに変に抵抗してこの子を危険な目に遭わせる訳にはいかない。財団にとってはこの程度ははした金でしょうし、渡しても問題はないでしょ。
「おい……なんだぁコイツは? 」
トランクケースを囲んでいたならず者たちが再びざわつき始める……なんか嫌な予感がするわね。
下っ端をかき分けてボスが私の前へ再度姿を現した、開けたトランクをこちらに向けている。
中にはたっぷりの紙幣……ではなく、機械が詰まっていた。
円筒状の銀筒が2本、その上には基盤がむき出しで乗せられ赤いランプが一定の間隔で点滅している。そしてその脇には大き目の画面……映し出されている数字は1秒ごとに減っていた。
既に時間は3分をきっている。
「ばッ……」
「ば? 」
「爆弾ッ?! ちょっと財団は何を考えてるの! 」
「ばばばば爆弾だとぉッ?! 」
トランクの正体を知ったボスは大慌て、下っ端へ投げ渡すと次々に別の人の手へと渡されていく。
そして私の元へ再び渡って来た時には10秒を切っていた。両手も子供を抱えるので塞がっており、使えるのは足のみ……一か八かの賭けに出た。
「前を開けなさい!! 」
掛け声で察してくれたからかならず者たちは左右へと別れ、道を開けてくれる。
視界の先には別の採掘場所へ繋がる通路……そこ目がけてトランクケースを蹴った。
結構乱暴に扱ってた事んだけど衝撃には強かったみたい。蹴ったり落ちた程度ではすぐに爆発はしなかったけど――――
ドドドドンッ……ゴゴゴゴゴゴ
通路の奥から大きな爆発音が聞こえた後、採石場全体が大きく揺れだす。
その場から脱出する暇もなく地面は崩落し、私は盗賊たちと一緒に下層へと落ちていった。