第13話 シショー現る
~交易都市 勇士協会~
クラウスとレニが依頼を終えて勇士協会へ戻ると、何やら賑わっている。ホールの中央には人だかりができ、誰かに対して質問を行っているようだ。
「どうしたんだろ、有名な人でも来たのかな? 」
「ちょっと待てレニ……聞き覚えのある声じゃないか? 」
レニは少し間を置いてだが耳を澄ませて声を聴くとクラウスと顔を見合わせる。
人をかき分けながら進むと二人には馴染みのある人物が椅子に座っていた。
「サイクロプスの剛腕から繰り出される打撃の嵐……隙間を縫うように近づいて懐に到着した私は拳を―――」
「し、シショー、此処で何やってんだ? 」
「……あら? クラウスじゃない! ようやく帰ってきたのね~、依頼お疲れ様」
「来るなら連絡くらい―――」
「別に良いじゃないの、それよりせっかく会いに来たんだから組手しましょ。貴方達の成長を見たくてウズウズしてるのよ~」
シショーはクラウスの言葉を遮ると彼とレニの腕を引っ張りながら勇士協会の裏にあるもう一つの訓練場へ出ていってしまう。すると周りにいた勇士たちは次々と彼女の後を追っていく。
「組手だってよ、行こうぜっ! 」
「あの”紅の拳聖”の組手……それにあの新人達、一体何者なんだ? 」
「おい早くしろよ、終わっちまうぞ」
紅の拳聖……かつて勇士でありシショーと名乗る前に付いていた二つ名である。当時の名はルナ・ビルガー。この世界で彼女の名を知らないモノはいないだろう。
十数年前に起きた魔物王都襲撃事件を解決した英雄の一人でもある。
※※※
~勇士協会 外部訓練場~
天気は曇り、シショーの訓練が始まって約30分が過ぎたあたりの事……内容は2対1の模擬戦となっていた。
「行くよクラウス! 」
「分かったッ! オオオッ!! 」
「ッ!? 」
レニの技に動き合わせるクラウス……シショーは避ける事が間に合わず、続けざまに攻撃を受けその場に膝を着いてしまう。しかし、少し間を置くとすぐに立ち上がりニカリと笑って二人に声を掛ける。
どうやら攻撃を受け流し、ダメージを最小限に抑えたらしい
「嘘だろ?! まともに受けたはずじゃ……」
「うんうん、二人とも動きも輝力の練り方も村を出た時よりも良くなってる。話に出ていたザッコス君……だっけ? 彼には感謝しないとね」
「ふぅ……ふぅ……ちょ、ちょっと休憩したい」
「ん~レニは基礎体力の向上が課題ね。”輝功”に関しては一度解放しるみたいだし……クラウスはまだ半分か、チャチャッと開けちゃおう」
輝功という聞きなれない単語に二人はポカンとしていた。その様子を見たシショーは説明を始める。
特技や輝術を扱う為に人体には血液と同じように輝力が流れている。使用量を多くすれば威力は大きく強化されるが、無理に行えば拳でクラウスのように自身を傷つける事になる。※防具による軽減効果だけでは補えない程負担が掛かる。
そこで身体に存在する”輝功”を解放する事で輝力の流れを活性化し、一時的に身体能力が大きく強化される。これにより強力な特技や輝術の使用が可能となる。
「……まぁ簡単にまとめるとこんな感じ。ちょっとクラウス、私の前に立ちなさい」
「良いけど、何をするんだ? 」
「よぉ~し、動いちゃ駄目よ。……フンッ! 」
「ウッ?! カハッ……ハァッ、ハァッ! 」
シショーはクラウスの腹部付近へ手を当てる。そして輝功を見つけた瞬間、その場所へ人差し指を深々と突く。突然の痛みに彼はその場に蹲り、荒れる呼吸を整えようとする。
「う……クッ、いきなり何しやがる! 」
ゴォッ!
クラウスが怒鳴った瞬間周囲に風が吹き荒れる、彼の輝功が解放され輝力の流れが活性している証拠だ。この様に主となる輝力の属性が反映され周囲に特殊な影響を及ぼす、火は熱気で敵を焼き、水は傷を癒す、風は身を軽くし、土は鋼のように固くなる……光と闇に関しては例が少ない為効果が判明していない。
徐々に風は収束し、身体全体へ宿り始めた。
「お? おおお? なんか身体が軽いぞ」
「輝功を解放したおかげね、一定時間だけど身体能力が強化されてるのよ。その状態なら拳やあの時放った技もちゃんと使えるんじゃないかしら? 」
シショーは準備していた訓練用人形(鉄)を起動させ、レニと共に場外へと移動する。
どうやら外野から指示を出すらしい。人形の目に光が灯り、鉄球の様な拳をガチガチと鳴らし戦闘態勢へと移行する。
「さ、クラウス。ここからが本番よ、この人形を貴方の最大の攻撃で破壊しなさい」
「……はぁッ?! いくら強化されてるからって鉄を―――」
「いいからやる、全力でやれば鉄くらい斬れるわよ。……多分」
シショーへの文句を言う前に、人形から攻撃が繰り出される。やや不意打ちに近い形ではあったが反応は間に合い、クラウスは脚に力を込めた。
すると彼の想像以上の速度が出ていたらしく、回避は出来たモノの着地には失敗してしまう。
「イッ、勝手が違い過ぎる」
「ほら早く立たないと次の攻撃が来るわよ」
クラウスは即座に立ち上がり人形の方へ向き直ると、その巨体に似合わない速度で移動してくる姿が見えた。間合いに入ると拳を振りかぶり、クラウスへと突き出してくる。
拳の周囲には輝力で形成された障壁が発生しており、パンチの威力を底上げしているらしい。
「し、シショー、やり過ぎじゃ―――」
「これで良いのよ、レニ。今のアイツなら大丈夫だから」
追い込まれるクラウスを見て不安になるレニであった……しかしそれと反対にシショーは彼を信じていた。拳が目の前に迫った時再びクラウスはその場から姿を消す。
「こっちだ! 」
『!!? 』
人形の真後ろ出現したクラウスは回し蹴りを打ち込む。本来の状態であればビクともしない相手でも大きく身体を揺らす事に成功する。だが姿勢保持機能が働き、倒れる事は避けられたようだ。
人形はそのまま攻撃へと移行する……弓のように反った身体を利用して孤を描くように右腕を振り下ろしてきた。
クラウスはその正面から武器で受ける、やや地面へ沈んだがそれ以上は動かない。握られた武器の剣身は蒼く光り輝いていた。
「もっと速く、もっと鋭く……風よ! 吹き荒れろォッ! 」
腕に力を込めると人形の拳に刃が沈んでいき、真っ二つに斬り裂いてしまう。
クラウスは姿勢を崩した相手へ一気に攻め込む。
斬撃と刺突を織り交ぜた連撃……一撃ごとに徐々に剣の輝きは増していく。
5回目の斬り上げを行おうとする時には輝きが限界まで達していた。
「これで、決める! 」
止めは真下からの自身も飛び上がるように相手を斬り上げる。同時に剣身から溜められた輝力が放出され光の柱を生み出した。
空を覆っていた雲に大きな穴が開き、青空が見える……温かな日差しが都市を照らし始める。人形は胴体の一部を残し、機能停止していた。
「天をも斬り裂く蒼き刃……名付けるなら【蒼刃天衝波】ってところね」
「そ、蒼刃? なんだってシショー? 」
「アンタの奥儀名よ、蒼刃天衝波。良い技が出来たわね」
シショーはその場から立ち上がり、街の方角へ歩みを進める。
「お、おい……何処行くんだよ? 」
「ん? ウラサ村に帰るのよ。アンタたちの成長も見れたしね」
そう言うと彼女は手をヒラヒラと振りながら敷地内から出ていく。
後日クラウスの元へ1通の手紙が届く、差出人はシショー……内容は組手での駄目出しと輝功を解放する方法に関するモノだったという。そして勇士協会へレニと供に顔を出すと他の勇士たちから質問やチームへの勧誘を多く受けたらしい。