第10話 ジークとの別れ
~勇士協会~
場所は勇士協会の地下に造られた訓練場。
様々なトレーニング器具が揃えられており、訓練用人形を使った模擬戦なども行える。一般人も賃金を払う事で一部施設を使う事が出来るらしい。
一人の助士が人形と対峙していた。
「でやぁぁぁッ! 」
ビュンッ
クラウスの振るった剣から風刃が放たれる。
しかし放たれたのは蒼い輝力の刃……ジャックとの模擬戦で使ったのと同じモノらしい。あの依頼以降、輝力の扱い方を掴んだからか技のキレが増していた。
「ほぉ……」
ジークもその様子を見学していた。
風刃が木製の人形を通過すると、眼から光が失われる。胴体部に斜めの亀裂が入ると半身が徐々にズレていき、地面へと落ちた。
切断面は無理やり裂かれたようなモノではなく、ほぼ凹凸はない。抵抗なく刃物が入ったようにまっ平であった。
「あッ……」
「木製とはいえ人形を破壊する威力か、ええ仕上がりやな」
「やっちまったぁ……コレって一体辺りの値段っていくらだっけ? 」
「たしか木製なら30000G……まぁ核は壊れとらんようやし、本体の修理だけなら半額やろな。まぁ俺が払ったる、最後に良いモンを見せてくれた礼や」
「ん……? ”最後”ってどうゆうことだよ」
ジークは慌てた様子で口を塞ぐ。
しかしクラウスの眼を見て諦めがついたからか、”最後”について話を始めた。どうやら昼頃の飛行船の便で交易都市を発つらしい。
行き先は王都カシオペア、フリードの護送に当事者として同行するとの事。
「言い方が悪かったな、此処での最後って意味や」
「なんだよ紛らわしい、また会えるんだろ? 」
「お前が勇士になる事を諦めなければな。せやなぁ……各都市で実績を積んでくことを考えると、会えるとしたら冬頃や」
助士から勇士へなる為にはジークの言うように4つの都市で実績を積まなければならない。
1つはこの島国、エデン島にあり世界中から様々な商人の集まる交易都市 セクタス。そこから船で海を渡りブリデン大陸の入り口ともいえる貿易や漁業が盛んな海港都市 ピクシス、山に囲まれた工業都市 ファーナック、勇士協会と星騎士の本部のある王都 カシオペア。
「ま、長い道のりや。焦らずマイペースに進むとええ」
「なんか寂しくなるなぁ……ランテさんには言わなくていいのか? 」
「あ、アイツには言わんでええ! 目の前で大泣きされたらかなわんわ」
「……分かった。2週間色々とありがとう、ジークさん」
多少療養期間もあったが勇士の基礎的な事は全てジークから教えられていた。
短い期間ではあったが彼の中では兄貴分のような存在となっていたらしい。
「……せや! まだ出発まで時間があるさかい、組手でもしよか。盗賊団の一件からどの程度成長したか、楽しみやで」
「グ……あ、あの時よりはマシになってるさ! 負けても言い訳すんなよ」
「よう言った! ジークさんも本気で行くでぇっ! 」
2人は訓練用の武器へ持ち替えると中央付近にある決闘スペースへ移動する。
今回使用する武器は星騎士との模擬戦でも用いられたカバーと同じ技術が扱われており、攻撃を受けた際は相応の衝撃が身体に伝達するモノである。
もう一つ特殊な機能があり、武器に輝力が伝達しない。風刃などの放出系の特技は発動しなくなる。
「―――まぁ周りに人もいるから勘弁な、輝術も同じや。いつもの癖で放出系の特技を使うと隙だらけになるで」
「それはお互い様だろ、じゃぁ始めようぜ」
武器を構えると、場の空気が変わった。
間合いをはかりながら互いの出方を探り合う。
「……ムンッ! 」
「ッ! 」
先に動いたのはジークであった。
棍のリーチを活かし連続突きを繰り出してくる……クラウスも相手が腕を引く瞬間に接近しようと試みるも、その瞬間に棍を振るうような攻撃方法へ替え、懐へ近づけさせない
「ウグッ……やっぱやりにくい! 」
「そらそら! こんなもんか!? 」
「このヤロ……! 」
「ッ、俊足か! 」
再度接近するクラウス、ジークは顎を狙って棍を振るうが攻撃はそのまま空を切った。目の前にいた相手の姿が消えた事に一瞬戸惑ったが、気配を読み取り次の攻撃へ備える。
武器による技の制限もあり、迎撃方法は限られている……微かに感じ取った気配を信じ、左へ棍を突き出した。
「アカン外したか?! 」
「いいや……当たりだよ」
声は聞こえるが手ごたえはなかった。
視線を移すと姿勢を低くし、今にも飛び上がろうとするクラウスがいた。
「虚空―――」
ガキンッ
しかし剣が振り上げられることはなかった。
ジークは棍を振り下ろし、つっかえ棒のように当てて攻撃を封じていた。
「う、嘘だろ?! 」
「甘いッ! 」
「ゲハッ……! 」
そのままクラウスを蹴りつけて大きく後退させる。その際に武器も落としてしまい、より不利な状況へとなってしまう。
「さ、次はどないするんや? 同じ手は通じんで」
「い~や、まだまだ! 」
ジャックとの戦闘以降、俊歩による輝力の消費量が大きく軽減され使用回数も増えた。
名前も”俊足”へ改名したがまだシショーの技には届いていないらしい。
再びジークの前から姿を消し、高速移動を再開する。不規則に動く事で攻撃方向を読まれないようにしているようだ。
「成長しすぎやろッ?! だ、大丈夫なんか……? 」
ジークは心配するも目を閉じてクラウスの気配を読み始める。視覚を遮断する事で感覚を研ぎ澄まし、細かな輝力の動きを感じ取っているようだ。
クラウスの脚に若干だが輝力が集まり始めている事に気づく……どうやら仕掛けてくるらしい。
「ッ……(気配が、二つ?!)」
ジークも完全に読み切れておらず、クラウスの影は見えていない。
左右から輝力の塊が迫ってきているような感覚らしい。
自身の勘を信じ、より濃い左側へ棍を突き出した。
「硬ッ……」
たしかに手応えはあったが人を突いた感覚ではなかった。
何か筒に入った金属のようなモノ……目を開くと鞘に収まった1本の剣が飛んでいくのが見える。
組手の直前までクラウスが持っていた剣。どうやら彼は俊足での移動の際に回収し、囮として使ったのであった。ジークは武器に残っていた輝力の影響でクラウスが二人いると勘違いしてしまったようだ。
「って事は反対にぃ?! 」
「貰ったぁッ! 」
目の前には脚を突き出しながら飛び込んでくるクラウスがいた。
全力で迎撃しようとした事もあって先ほどのように棍を戻す様な動作は間に合わない。硬直した身体に彼の蹴りが深々と突き刺さりジークは吹き飛ばされる。
「どうだ! 」
「ォォォ……く、クラウス……腹は、脇腹はアカンて」
「悪ぃ、初めて連続で使ったから加減、がぁ―――」
ガッツポーズを決めていたクラウスの顔色が一瞬にして青くなった。
輝力の過剰消費による症状が出て来たようだ、ふらついた後そのまま地面へと伏せてしまう。
「あ、アホォ! せっかく勝ったのにそれは……アタタタ」
ジークは周りにいた勇士へクラウスの治療を頼んだ、自身も先ほどの攻撃の衝撃が残っているらしく動けないようだ。その後治療部屋へ運ばれ、二人はランテとレニから説教をされたとの事。
※※※
~空港 飛行船待合場~
「ほな、達者でな」
「ううう……ジ~クゥ、ホントに行っちゃうの? 」
ランテは涙目になりながらジークへ迫っていた。
服の袖を握り、絶対に離さないと言わんばかりの視線を送っている。
「行くに決まっとるやろ。兄貴の事もあるし、無理を言って盗賊団に潜入までさせてもらってたんやで? 」
「せ、せめてもう一週間……」
「ダァホォッ! 本部からも”ええ加減戻ってこい”って催促されとるんや、はよ帰らんと俺の首が飛んでまうで」
「そんな事をしたら本部に殴り込みに行く……絶対に許さない」
【ピンポンパンポン……王都行きの便が間もなく出発いたします、ご搭乗される方は―――】
設置されている拡声器からアナウンスが流れる。
ジークはランテを振りほどき、クラウス達へ向き直る。
「ああもぅ、時間やな。クラウス! レニ! お前たちには期待しとるで、裏切らんでくれよ? 」
「おう、ジークさんも達者でな」
「短い期間でしたけど、色々とお世話になりました」
二人の様子を見て満足したジークは軽く頷くと、再度ランテに捕まる前にゲートをくぐってしまう。
「じゃあなッ、王都で待っとるで!」
「ジィ~クゥ~! 」
「ら、ランテさん……他の人も見てま―――」
「レニ、駄目だ。身体押さえないとこのままゲートを壊してでも付いていこうとするぞ、この人」
クラウスとレニはランテを押さえる。
女性とは思えない力で振りほどこうとするが、さすがに二人掛かりでは分が悪いらしい。飛行場には彼女の声が空しく響き渡っていた……