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終焉への反抗者《レジスタンス》Ⅱ  作者: 獅子王将
おてんば娘な後輩
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第5話『星宮兄妹の戦慄』

「悔しい〜……!」

「ま、まあいいじゃねーか。かなりいいところまでいったんだからさ」

「僕は我ながらいい成績で満足だよ」


歯ぎしりする空を慰めながら、陸と海は、顔を見合わせて苦笑した。

確かに、足を掠めているところは確認出来なかったので、急に空が敗北判定を受けた時は驚いたが、そういう事ならば仕方がない。

それに、あくまで一般的な基準に照らし合わせると、ではあるが、空たちの成績は非常にいいのだ。

空たちは、去年の遥樹たちと比べていたが、そもそも1年生の時点で学園序列入りすらしている彼らと比べてもどうしようもない。レベルが違う。


足早に、3人は観戦席に戻り、それを確認した綾が、次の生徒を募り始めていた。


「よし、次は誰が行く? 名乗り出なければ、勝手に指名していくぞ?」

「__じゃあ、私」

「俺も行くぜ!」

「わ、私行きます!」


声を上げたのは、またも3人。だが、空たちと違い、仲良し3人組というわけでもなく、そもそも進級組ですらない。

最初に名乗り出た紫闇、そして次に晃、最後に真尋。3人とも、編入組の生徒だった。

試験を受ける3人を確認すると、綾は観戦席に下がり、紫闇たちはそれぞれ位置についた。


その間に、紫闇が2人に何かを耳打ちしていたが、外野で見ているだけの生徒達には当然、何を話しているのかはわからなかった。


カウントダウンが進み、試験開始の合図が鳴り響く。

機械人形オートマタが出現したのと同時に、紫闇が真っ先に動き出す。

そして、出現したばかりの機械人形オートマタの、人でいうならば心臓部分を一瞬で抉り抜いた。


「げっ……」

「躊躇ねぇ……」


思わず呻き声をあげる空と陸。海も珍しく顔を顰めていたが、そんな事はお構い無しに、紫闇は次々と機械人形オートマタの心臓部を貫き続ける。


「要は、当たらなきゃいいんでしょ」


とても編入組とは思えないほどの速度で、紫闇は機械人形オートマタを撃破していく。

晃と真尋は、それについて行くほどの実力はない。

地道に、自分のペースで倒していく。

1番遅いのは真尋だが__


「えいっ!」


〈火球〉を生成して、それを両手で投げ飛ばす。〈火球〉はしっかりと機械人形オートマタを捉えて焼き尽くした。

多少は猛を中心とした先輩達に、魔導を教わっている真尋は、編入組の中では優秀なほうだ。

確実に撃退したことを確認すると、次に現れた機械人形オートマタと、丁度いい距離を保ちながら、動きを観察しつつ、自分の攻撃を当てていく。


「真尋ちゃんも、思った以上にやるわね」

「晃は……、お前みたいなやつだな。相当な膂力があるようだ」


そう言って晃の方に視線を移す綾。つられて柚葉もそちらを見ると、機械人形オートマタの顔面に、晃の拳が刺さっていた。


「__ふんぬっ!」


そして機械人形オートマタは、顔面をひしゃげさせると、凄い勢いで吹き飛び、轟音をあげて壁に激突した。


確かに、膂力だけなら柚葉といい勝負かもしれない。将来的には、互角に戦える可能性もないではない。


だが、やはり紫闇は、その2人と比べても抜きん出た実力を持っているようだった。


「凄まじい勢いで倒していくわね……」

「しかも、確実に人体急所ばかりを潰している。勢いだけなら星宮兄妹よりも速いな」


紫闇はもう、レベル50を目前にしていた。

例年の事だが、レベル50を超えると、編入組の成績は一気に下がる。理由は、機械人形オートマタが空を飛ぶようになるからだ。

普通に生きていただけの一般人や、戦いに縁のなかった子供達。そんな彼らは、空を飛ぶ相手に慣れていない。

これだけの実力を持つ紫闇が、どう切り抜けるのかは、柚葉たちの期待するところである。


そして、晃たちがレベル30台を地道に攻略している途中で、紫闇が容易くレベル50に到達した。

すると、運がいいのか悪いのか、空を飛ぶ機械人形オートマタが早くも出現した。

柚葉だけでなく、綾も、他の生徒たちも、紫闇の対応に注目する。


果たして紫闇の対応は__


「とっ……」

『跳んだぁ〜〜〜っ!?』


機械人形オートマタが空に出現したことを確認するや否や、その場でぐっと膝を曲げて屈み、跳躍した。

その高さは、特に大した魔術も魔法も使っていないのに、空を飛んでいる機械人形オートマタの上を、悠々と超えるほどだ。


「フッ__!」


そして紫闇は、空中で回転すると、そのまま機械人形オートマタの背に踵を落として撃墜させる。

地面をバウンドして機械人形オートマタが消滅する頃に紫闇も着地。

すると休むことなく、機械人形オートマタが墜落して飛び散った瓦礫をひとつ掴むと、次に出現した機械人形オートマタを目視にて確認。

ぐるっと体を回転させると、その勢いで掴んでいた瓦礫を投石した。

それは見事に、機械人形オートマタの顔面を直撃してバラバラに粉砕した。


その次に出現した機械人形オートマタは、紫闇のすぐそばに立っていた。

そして機械人形オートマタは、拳を勢いよく振り抜いてくる。

だが、紫闇はまるで動揺した様子を見せなかった。

拳を紙一重で躱すと、肘を打ち下ろして、機械人形オートマタの腕をへし折ったのだ。

動きが硬直した機械人形オートマタの頭を、紫闇の回し蹴りが直撃。頭が飛ぶことは無かったが、代わりに体ごと吹き飛んで、地面を何度か跳ねたあと、機能を停止した。


「……ちょ、ちょっと何よこれ……」

「ほ、ホントにあいつ、編入組の生徒なのか?」

「……同い年とは思えないね。僕らと比べても、かなり戦闘経験があるような動きだよ」


空たちの驚愕はもっともだ。そして何より、空たちよりも速く、ほかの生徒達は紫闇の強さに驚いていた。

正直な話、魔術を伴わない純粋な戦闘能力だけなら、空よりも陸や海の方が少し上だ。だが、今紫闇がやった動きを再現しろと言われたらどうだろうか。


無理である。


あまり驚きを表に出さなかった海だが、内心では酷く動揺していた。

それは、紫闇の実力が想像を遥かに超えるものだったから__ではない。

問題は、編入組の生徒である彼女が。魔導とはまるで縁がなく、何も知らずに平和に生きてきたはずの、〈表世界〉の住人が。常に危険に身を置いている〈裏世界〉の魔導師たちですら驚くほどの実力を有している事だった。


(一体、何があったら、こんなとんでもない力をつけるんだろう……?)


未だ学生魔導師の身分ではあるが、海は勿論、空も陸も、見ていてはっきりとわかった。

明らかに、学生魔導師の戦闘能力を逸脱していると。

すると、空はふと思った。


(あいつの強さの秘密、学園長なら何か知ってるかも?)


そして周囲に視線を巡らせると……、やはりいた。

学園長は、毎年学生達の実力を直接見るために、こうしてよく試験会場の様子を覗きに来ている。

それは主に高等部だったりするのだが、時折中等部を覗きに来ることもあった。


空は立ち上がり、学園長の元に向かおうとする。

そして空の動きに気がついた陸と海も、立ち上がって空のあとについて行く。


「__学園長」

「ん? ……あら、空じゃない。どうかしたの?」

「……あいつ、おかしいでしょう? 編入組が何でこんなに強いんですか?」

「そういう事もあるわよ」

「……学園長、あいつがここに来る前、どういう生活してたか、聞いてもいいですか?」

「聞かない方がいいとは思うけどねぇ」


適当に流そうとする学園長に、だが空は、憤りを覚えることはなかった。

個人の情報だ。紫闇が知られたくないものがあるのかもしれない。それでも、自身のプライドもあってか、空は聞かずにいられなかった。

ちょうどその時、事件が起きた。


フィールドでは、3人が順調なペースで記録を伸ばし続けて、50レベル台に乗っていた。


問題が起きたのは、真尋だった。

今まで順調に倒していたが、空を飛ぶ機械人形オートマタが出てくると、やはりペースが落ちてきている。その上、動きもあまり良くない。単に空の敵に慣れていないためだろうが、焦りを覚えた真尋は、少し大技を放とうとしていた。

〈火球〉の上のランクに位置する、〈炎球〉。それに、更に速度を増して放つ〈炎弾〉。

これを真尋に教えた莉緒が、得意とする魔術だった。

だが、練習では未完成で終わっていたものを、両手で支えることによって撃ちやすくしようと試みる。

魔力が炎の塊へと変化するところまではよかったのだが、次の瞬間、突然炎の塊がボヒュッと消滅してしまう。


失敗かと思いきや、事態はもっと深刻だった。

突然、真尋が胸を抑えて苦しそうに膝を地面につけると、そのまま勢いよく吐血して、地面に倒れる。


「え……?」

「お、おい、何が起きた?」

「学園長、まさか魔族が侵入してきたとかじゃないですよね!?」


動揺する空たちを横目に、柚葉は少し焦るような表情を浮かべていた。


「まさかあの子、完治してなかったの……?」

「……彼女、何処か体が悪いところあるんですか?」

「ええ、まあ……。それも治ったものだと思っていたのだけれど」


そして、柚葉と空たちがそんな会話をしているうちに、状況を理解した他生徒達が悲鳴を上げ始める。

すると、誰よりも早く迅速に、空が動き出していた。

今たっていた地面を蹴って跳躍すると、空の得意な魔術〈クリティカル・レイ〉を準備する。

いつもより一際強い輝きを放つ小さな球体が、空を囲むように6つ、生成された。

空はそれを、高速で撃ち出す。

すると、驚くべきことに、結界が壊れた。

容易く壊せるものではないというのに。


生徒たちが呆気に取られている間に、空は真尋の隣に着地する。そして、攻撃を仕掛けてこようとした機械人形オートマタに、風属性の魔術〈竜巻〉で動きを封じた。

倒しさえしなければ、新たに湧いて来ることもない。


空は、真尋の身体を起こして、軽く揺すりながら呼びかけてみる。


「ねぇちょっと、大丈夫?」

「……ぁ、ぅ……?」


空の顔を見上げる真尋の目は虚ろな状態で、ヒュー、ヒューと、か細い呼吸を繰り返すだけだ。

少し焦ったように舌打ちすると、真尋の胸元あたりに手を当てて魔力を集中させる。


「応急処置くらいにはなると思うけど……、何とかもちなさいよ」

「あの子……、いつの間に治癒魔法なんて使えるようになったのね」

「まだ拙いが、確かにこれなら、ちゃんとした処置を施すまではもちそうだな」


柚葉は少し意外そうな表情をしていたが、綾も含めて全員、安心したように息をついた。

応急処置が終わると、空は真尋を抱えて観戦席に跳び戻る。

それを確認すると、柚葉が壊された結界を修復する。


「あの、学園長。私、このままついて行ってもいいですか?」

「……貴女、思ってたよりもずっとお人好しだったのね」

「そんなんじゃないですけど……」

「まてよ、俺もついてくぜ」


柚葉の言葉を否定する空のあとを、陸がついて行こうとする。そして海はというと。


「それじゃあ、僕は残っていくよ。あの2人がどこまで行くか、誰かが見ておいた方がいいでしょ?」

「……そうね。じゃあこっちは任せるわ」

「んじゃ行ってくるぜ」

「うん、行ってらっしゃい」


柚葉のあとに続く空と陸を、軽く手を振って見送ると、海はその視線をすぐにフィールドに戻す。

先程、真尋にあんな事が起きて、間違いなく気を取られていたにも拘らず、2人は何事も無かったかのように、その後も順調に記録を伸ばし続けていくのだった。

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